義母さん、風紀委員会は今日も元気です(前編)  投稿者:XY−MEN
 私こととーるは風紀委員です。
 広瀬ゆかり委員長に誘われ、また「同志」である彼女のいる場所に興味を
覚えて風紀委員会に入って以来、もうどれほど経つでしょうか?
 最近では、この風紀委員会──学園の風紀を取り締まる委員会──と言う
特殊な場にも大分慣れて来て、お仕事も順調にこなせるようになった
ように思います。
 ……でも、確かに慣れては来たのですが、それでもやっぱり慣れきらない
事というのはあるもので……。
 今日はちょっと、そんなお話を。


〜義母さん、風紀委員会は今日も元気です〜


 ここは風紀委員会本部。我々風紀委員の活動拠点です。
 放課後に入っていくらか時間が経ち、現在は多くの委員が見回りに出払い、
私を含めて数名の委員が雑務にあたっているばかりと言う様相です。
 ふと顔を上げると正面の机では、椅子に深く腰掛けて、一心不乱な様子で
熱心に報告書をまとめている男子生徒がいます。
 この方は、三年生のディルクセン先輩。
 このLeaf学園に入学以来、ずっと風紀委員を努めてらっしゃるという
筋金入りの風紀委員です。
 風紀委員の仕事に対する態度も実に誠実。
 常に率先して校則を守り、お仕事をする時(即ち遅刻者の取り締まりなど
ですね)も、自らが必ず先頭に立ちます。
 それどころか、校則という校則を全て暗記し、その場でそらんじる事すら
出来るというほどのその情熱、まさに風紀委員の鑑!……と自ら名乗るほどです。

 しかし、そんな尊敬すべきディルクセン先輩も、時々怖くなることがありまして……

 そう、例えば今日の午前の授業中、風紀委員全員に柏木千鶴校長より直々
に特別指令が下りました。
 その指令とは……「サボリ組一斉摘発作戦」。
 これはその名の通り、試立Leaf学園において横行する授業不参加を一斉に
摘発、反省房送りにしようという作戦でした。
 柏木千鶴校長の、

「サボリをする悪い子には、きっちりお仕置きしてあげなきゃね☆」

と言うお言葉を受けたこの作戦、女優のお仕事で忙しい広瀬委員長の代わりに
陣頭指揮を執ったのは、ディルクセン先輩でした。
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──その男、ディルクセンはその全身に喜びをみなぎらせていた。
 「サボリ組一斉摘発作戦」──柏木千鶴校長より承ったこの作戦の指揮を、
自らが執るのだ、と言う喜びにである。
 我こそは真なる風紀委員である!と自負する彼は、風紀委員ならではである
この作戦に、正に胸躍る心地を感じていたのである。
 更にその指揮を執れるとあれば、それはもう至上の喜びとするしかない!と
言う所であり、彼の言葉を借りるなら、

「このディルクセン! 風紀委員魂に賭け、サボリ者共を摘発してみせましょう!
 その為ならば、たとえ火の中水の中!
 剣の雨降ろうとも魔術の嵐が吹き荒れるとも、見ン事任務を遂行しましょうっ!
 ハイィィルッ・風紀ッッ!」

と、そう言う事らしかった。

 そして、その言葉そっくりそのままに、彼はサボリ摘発の鬼となった。

 まず手始めに、サボリ者達のメッカである屋上を、全風紀委員の半数の戦力を
投入して奇襲、数の論理で押しに押した。
 もとよりこの奇襲を全く予想していなかった生徒達は、ほとんど抵抗らしい抵抗も
出来ないまま射撃チームの一斉射撃(ゴム弾ではあるが)でまず大方が撃沈、その後、
抵抗力を失いつつある残りに捕縛チームが躍りかかり、そのほとんどを捕縛した。

「トラトラトラ。ワレ奇襲に成功セリ。ニイタカヤマノボレ」

 その後、残りの半数の部隊と合流、数斑に別れて図書室、体育用具室、
クラブ棟、各階のトイレ等々、各個撃破を旨として行動させた。
 その速やかなるは風の如し。それは、「風紀委員、サボリ狩りす」と言う情報が
学内に広がるスピードに、決して劣ってはいなかった。
 間違いなく、ディルクセン自身の常日頃からのサボリチェックがあっての
ものであるに違いない、なんて「ぴー」な人だ、と他の委員は言ったものである。
 一番最後に、おそらくは姫川琴音を追っていたと思われる藤田浩之を、自宅
近くの公園で捕縛に成功、作戦を終了した。
 授業不参加者総勢24人捕獲、反省房送り。
 その異常に鮮やかな手口に、とーるは舌を巻き、そして敬した。
 だがしかし……、

「サボリ者の身柄を確実に確保せよ! 生死は問わないっ!
 ははははは! サボリ者に人権無しっ!」

 ……彼が作戦中に口走った言葉である。
 ひとしきり腕を組んで考え込んで、漫才で言うところのツッコミが
必要な発言にあたるのだろうか?と思った(それは、実はそうであって欲しい
という彼の願望であったが)とーるは、

「えーっと…………こ、殺してどうするんですかっ、もうっ!」

と、彼にすれば清水の舞台から飛び降りるような心境で、必死ににこやかな
笑顔でツッコんでみたが、ディルクセンは、

「ふふ、いやだなとーる君、ただの冗談に決まってるだろう?
 当然ただの冗談さ……ふっふっふ……」

ニヤリと不気味に笑い返してくれただけだった。

 とーるはその時のディルクセンの、徹マンをしているかの如き血走りに
血走っていながら、それでも水を得た魚のような、あるいは獲物を
見つけたエルクゥのような、もしくはタマダンスを踊るときのTaSの
ような、異常に生き生きとして子供が見たら泣き出して引きつけを起こす
と断言出来る目──簡単に言えば狂気半歩手前と形容できる目を、
メモリに焼き付けた。

 ともあれ、ディルクセンの、やや強引ながらも卓抜した手腕により、
風紀委員会は大戦果を挙げたのであった。
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 ……ともかく、あの時のディルクセン先輩の恐ろしさと言ったら……。
 もしかして、この任務を心の底から楽しんでいるのではないかと疑いましたが、
まさかそんな事はないでしょう……ないと思います……そう思います……
思えたらいいな……きっとそうだと思いますが……多分……。

 そ、それに何分にも、ディルクセン先輩も気苦労の多い方ですし、ああいう
場面でちょっと気持ちが荒むのも仕方のない事かもしれません……。
と、そんな事を考えていると、

がらがらがらっ

 そんなごくごく当たり前の音を立てて、風紀委員会室の扉が開きました。

「あっれ〜? なんだ、まだ広瀬は来てないのかよ」

 そんな声を上げて、きょろきょろと委員会室の中を見回したのは、ぼさぼさの
銀髪の男子生徒です。
 ふと思い立ってその逆方向に目を転じると、その瞳に明らかな敵愾心を燃やし、
出来ることならその視線で呪いとか掛けてやりたい、メデューサの如く、とばかりに
その男子生徒を睨み付けているディルクセン先輩の姿が映ります。
 そう、彼こそがつい最近増えたディルクセン先輩の気苦労の種……いや正確
には、ただ単にディルクセン先輩と反りが合わないだけ……である、
XY−MENさんです。

「ま、いーか。なら、ちょっと待たせてもらうぜ」

 XY−MENさんは、ディルクセン先輩の剣呑な視線に全く気付かない様子で、
気安く委員会室に足を踏み入れようとしました。が、

「待てぇぇぇいっ!!」

大声一喝、だんっと左手で机を叩きつつ勢い良く立ち上がり、なおかつ残った
右手でXY−MENさんを押しとどめるポーズ、言うまでもなくやっぱりその人
ディルクセン先輩。

「貴様のような奴を、この風紀委員会の聖域には踏み入れさせはせんっ!
 余人が許そうとも、このディルクセンの目が黒いうちは一歩たりともだっ!」

 昂然と言い放つディルクセン先輩。
ですが、当の言われたXY−MENさんも、その程度の啖呵でどうこうすると
言う人でもありません。
それに…………

「なんだとぉ? ふざけるなよっ!
 これでもオレは風紀委員だろうがっ!
 風紀委員が風紀委員会室に入るのの何が悪いってんだっ!」

「ふざけてるのはどっちだっ!
 ”特別風紀委員”だとぉ?
 そんなふざけた風紀委員、この俺は絶対認めないっ!
 未来永劫・子々孫々・末代に至るまで認めないっ!」

「んなコトはオレの知ったことかよっ!
 そういう文句はお前らのボスの広瀬に言えっ!」

「や、やかましいっ!
 第一、貴様のその格好はなんだっ?
 まがりなりにも風紀委員なら、私服なんぞ着てないで、学徒たる者の誇り
 である学生服にピッチリパッチリ身を包まんかっ!」

「この学校は私服OKだろうがっ!何よりそんな金はねぇんだよっ!
 しかもなんだ、ピッチリパッチリってっ!気色悪い表現すんなっ!」

「余計な揚げ足取りをするなっ!
 しかもだっ!その乱れた頭髪はなんだっ?!
 学徒たる者、ましてや風紀委員たる者、古よりの黄金律である
 ”オン・ザ・眉毛”を遵守せんかっ!」

「オレたちゃ中坊かっ!頭髪だって基本的に自由だろうがっ!
 風紀だからって関係ないだろうがっ!」

「我々風紀委員はっ!一般生徒に対する示しなのだっ!
 全校生徒の模範たるべき風紀委員は、貴様のようにあってはならないのだっ!
 そもそも貴様はなんだっ!上級生に向かって敬語も使わないとはっ!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「ーーーーーーーーーーーーーーー!!」

それに、こういう口喧嘩は、もはやここ数日で恒例イベントと化していたのでした。

「こういうのを、『飛んで火にいる夏の虫』というのよネ」

「少し違うと思いますが……」

あの凄まじい応酬を全く気にする様子もなくニコニコと話しかけてきた
レミィさんに返しながら、言うならば「呉越同舟」とか「不倶戴天」とか
だろうか?と私は考えました。

 彼ら二人は、いわゆる犬猿の仲と言うやつで……いえ、別にXY−MEN
さんが犬でディルクセン先輩が猿とかそう言う事じゃないんですが……
ともかく顔を突き合わせれば必ずいがみあってしまうという相性であるようです。
 まぁ、その辺りには、さっきディルクセン先輩の口から出た”特別風紀委員”
と言うXY−MENさんの妙な待遇と、彼の風紀委員会入りに関する事情の
特別さも関連しているわけではありますが……。
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──その男、XY−MENは少々落ち着かない様子で、その頭をかいた。

「と、そういうわけで、彼が今度、”特別風紀委員”として仲間に加わることに
 なった、XY−MEN君よ」

 風紀委員長、広瀬ゆかりはそう彼を紹介してくれたが、だからと言って周りの
風紀委員達の妙な目……代弁するなら「なんじゃそりゃ」と言う視線がどうなる
わけでもなかった。
 とりわけ、そのうちの一人……髪をオールバックにまとめた神経質そうな
男子生徒などは、さっきからずっとこめかみをぴくぴくとひきつらせて、
XY−MENを睨み付けている。
 だが、広瀬ゆかりはそれらの視線に全く動じることなく、平静な笑顔と平静な
声音で続ける。

「これからの活動には、彼も時折加わることになるから、みんなよろ……」

「納得いきませんっ!」

だんっ!と立ち上がったのは、やはりそのオールバックの風紀委員だった。

「なんでこんな形での委員の増強が必要なんですかっ!」

今にも掴みかからんという気勢でまくしたてるその委員に、広瀬ゆかりは
さらりと言い返す。

「あら、私たち風紀委員会の戦力が不足しているって言ったのは、
 あなただったと思うけれど?ディルクセン先輩」

「そういう問題じゃないっ!問題はっ!」

びしっとXY−MENを指さす。
その指さされたXY−MENは、なんだかなぁと言う顔でもう一度頭をかいた。

「この男が風紀委員として働くにあたって、報酬を受け取るなどということだっ!
 そんな風紀委員、見たことも聞いたこともないっ!」

断固許すまじ、とばかりに机を叩くそのディルクセン。

「前例がないからって何もしないんじゃ、このLeaf学園ではやっていけないわ。
 それに別にいいじゃない、報酬は私のポケットマネーから払うんだから」

「よくなぁぁいっ! 風紀委員は傭兵かっ?!」

「ま、そうね。彼は傭兵みたいなものよね」

ゆかりの口からあっさりとその言葉が出たことで、ディルクセンは思わず絶句した。

「報酬を受け取る代わり、彼には常に率先して最も危険な役割をこなしてもらう。
 つまり、その分の危険がみんなから減る…………みんなにとっても、
 そう悪い話じゃないと思うけど?」

 やはりさらりと言ってのけるゆかりに、今度は一同が絶句した。
 流石のディルクセンも、次の言葉を失い、しばらくは沈黙を保つばかりだった……
額に血管を今にも切れそうに浮き立たせつつも。
 幾ばくかの沈黙があった後、一人の風紀委員がふと質問した。

「あの、ちなみに……彼の給料はいくらなんでしょう?」

「ああ、彼の給料はね──時給……」

 人差し指を立てるゆかり。
 一同は固唾を飲む……。
 その時の彼らの中には、彼女・広瀬ゆかりの女優と言う立場と、”危険な役割”
と言う言葉から、余程の額を予想した者も少なくなかった。
だが、

「255円よ」

 ゆかりは、笑顔でその手をチョキ、パー、パーと動かした。
 そして一同はコケる。

「や、安い……」

「委員長って、実はセコいんじゃ……」

「て、ちょ、ちょっと待てぇぇっ!」

 慌てたのはXY−MENだ。

「オレの給料ってそんなに安かったのかっ?!」

 いきなり素っ頓狂な事を言い出すXY−MENに、は?とあっけに取られる一同。

「な、何を言ってるのよ、ほら、ちゃんと契約書にもそう書いてあるでしょ?」

 ゆかりがその面前に契約書を突きつける。
 XY−MENは、それをまじまじと見つめると、一言、

「知らなかった……」

 しみじみとそう言った。
 やはりコケる一同。
 そして、その一拍後に口論の口火が切られる。

「冗談じゃないっ! オレはどこぞのゴーストスイーパー見習いかっ!」

「冗談なんかじゃないわっ、ちゃんと契約書に書いてあるんだからっ!
 契約書をちゃんと読まずに判子を押すのがいけないのよっ!
 しかも血判でっ!」

「……なんで、わざわざ血判なんですか?」

「……血判の方がかっこいいと思ったんだよ。
 それはともかくっ!こんな横暴・暴虐を許しておけるかっ!」

「特別な事態を収拾するときだけが仕事で、通常の仕事はしないでいいんだから
 文句言わないのっ!」

「文句言わないでかっ!
 こんな細々とした時給じゃ、チキンラーメン3袋がせいぜいじゃないかっ!」

「それだけ食べられるんだからいいじゃないのっ!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「ーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「こういうのを『石橋を叩かずにひもなしバンジー』というのよネ」

「意味としては間違ってないですけど……」

 楽しそうに言うレミィに、とーるは何とはなしに嘆息する。
 その嘆息は、もうどうでもいいや、どうとでもしてくれ、と言う心情のそれだ。
 最初、金を受け取る風紀委員という奇妙な立場に抵抗を感じていた者も、
その余りの貧相な額に、文句を言う気力などとうになくしている。
 そして、ぎゃーぎゃーと口げんかを続ける二人をよそに、ほぼその場の全員
が同じ嘆息を吐いていた。

 ただ一人、未だ……いや、先程よりもさらに血管を切りそうに身を震わす
ディルクセンを除いて。
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 ともかくディルクセン先輩は、そんな特別な待遇のXY−MENさんを
心の底から気に入らないようで、

「このっ!広瀬の犬がっ!犬が犬が犬が犬が犬がっっ!」

 XY−MENさんはXY−MENさんで、彼曰わく「ガチガチの石頭」な先輩を
どうしても好きになれない様子で……

「なんだとぉっ!この石頭石頭石頭石頭っっ!」

 ……あ、XY−MENさん、頭に犬……じゃなくて狼の耳が生えてる。
興奮すると変身しやすくなるって言ってましたけど、なるほどって思います。
 他の委員もくすくすと笑いながら見ています。本人は全く気付いてない
みたいですけど。
 ディルクセン先輩も気付いてないみたいです。気付いていたら、きっと
これ見よがしに言うでしょうからね。
「ほらみろ、やっぱり犬じゃないかっ!犬犬犬犬っ!!」とか。
 気付かないのは、おでこを付けそうなほど顔を近づけて、夢中になって
ののしりあってるからでしょうかね。

「犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬が犬がっ!!!」

「石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭石頭っ!!!」

 本来なら、こういう場合二人を止めに入るべきなんでしょうけど…………
ここ2,3日で私には到底無理だと思い知ったので、隣で二人を止められないのを
気に病んで、責任をとって首をくくろうとしている貞本さんは抑えるとして、
取りあえずぼんやりと外から眺めるだけにしています。
 ……みんなもう慣れましたし。

「あ〜っ、うるさいっ! 二人ともそこまでっ!」

 と、そこでやっと二人を止める事が出来て、止めようと言うつもりのある
貴重な人……つまりは広瀬ゆかり委員長が現れてくれました。
 二人の口げんかもぴたりと止まります。
 ディルクセン先輩は襟を正し、XY−MENさんは頭をかいて、それぞれ
ふてくされたような顔をしました。

「全く、あなたたちはほんの一日もケンカしないでいられないのかしら?」

 その言葉を受けると、二人はもう一度顔を合わせてから、まるでタイミング
を申し合わせたかのようにふんっと顔を背け合い、それから端と端に別れて
着席しました。

 広瀬ゆかり委員長……我々のトップである彼女の偉大さをかみしめるように、
私たちはほっと胸をなで下ろしました。
 結局のところ、あの二人のいがみ合いを止められるのは彼女だけですし、
だからと言う訳ないですが、やはりこの風紀委員会のトップとして相応しいのは、
広瀬委員長ではないかと思います……色々な意味で。

「ところでさ、XY−MEN君、犬耳生やしたままでいいの?」

「犬耳って言うなぁっ! これは狼の耳っ!」

「フゥ〜ン、やっぱりWolfなの。Dogじゃないのネ。
 だったら………………Huntingしてもいいのネ……」

「あああああっ?! ちょ、ちょっと待てレミィッ!」

「ちょ、ちょっとレミィっ!」

ドグッ!

 手刀一閃。
 狼狽するXY−MENさんと、おろおろする貞本さんをよそに、広瀬委員長は
レミィさんの首筋にひとかけらの容赦もない一撃を入れていました。

「まったくもう、レミィったら見境ないんだから……」

「……オレにはお前も見境ないように見える……」

「なぁに言ってるのっ! 絶対絶命のピンチから救われておいて礼の一つもないの?
 第一、放っておいたら最低でもこの部屋は半壊しかねなかったわよ」

 床の上でぴくぴくと悶絶するレミィさんを抱き起こしながら私は、「ああ、
やっぱり彼女にかなう人間など絶対いない。いる訳もない。いて欲しくもない」
などと思っていました。

 その時、教室内に残っていた委員の一人──彼女は言うなればオペレータ役
であり、校内の情報を逐一把握しているのですが──が、ヘッドホンを揺らし
ながらさっと振り返りました。
 その表情は、固く強ばっています。

「委員長、緊急事態です!」

「何事かしら?」

「……西山英志、暴走しました!」

その瞬間、その場にさっと緊張が走りました…………が、同時にまたか、
と言う諦念のにじむ空気も、どうしようもなく混じっていたようでした。
ですが、広瀬委員長はこう言い放ったのです。

「西山英志……今日こそは止めてみせるっ!」


(後編へ)