第一印象という物は、非常に重要である。 最初に受けた印象を覆すことは難しく、それ如何によって、 その人に対する周りの評価、扱いすら固定されかねない。 究極的にはその人物の行く末を左右すると言っても過言ではあるまい。 それ故に、初対面の人間に対するときは、誰もが気を使うものである。 が、それも往々にして失敗したりするものだ。 例えばこのように…… 「えー、彼が今度我がクラスに加わることになった、ワイーメン君だ。」 ずべしゃっ! その男は、突然盛大にこけた。 「ちょ、ちょっと待て、先生っ! 誰がワイーメンだっ!!」 凄い剣幕で教師にくってかかる。 一方の教師は、その剣幕に押されつつも、 「え?……だ、だって、ここにちゃんとここにちゃんと……ほら。」 そう言って、名簿を差し出した。 名簿をのぞき込むと、どういう経緯を経たのやら、彼の名前は 「Y−MEN」と記載されていた。 彼は……針の穴を通すような不運の累積の結果をそこに見た……。 「ちがうっ! Xが…Xが足りないっ!」 「じゃあ、エックスワイメン君?」 「違ぁうっ! オレはXY−MEN……キシメン、だ!」 屋内なのに、何故かキャップをかぶったその転校生は、 えー加減にせい、とばかりに喚いた。 クラス中に笑いの波が広がる。 来て早々、こんな漫才をすれば、そうなるのも当然と言えば当然であろう。 そして悲しいかな、彼のあだ名はこの時点で確定してしまった。 そう、「わいーめん」である。 XY−MENの印象その1……「わいーめん」 「む……せ、先生。で、オレの席は?」 その転校生……XY−MENは、照れ隠しに教師にそう聞いた。 「わ…でなくてキシメン君、君の席は窓際の…ほれ、そこだから。」 教師が言い終わる前に、キャップを目深にかぶり、 XY−MENはそそくさと歩き出していた。 その目つきのキツい顔に似合わず、照れ屋らしい。 『ちぇ、来て早々こうかよ…』 取りあえずさっさと席に着いてしまおう、そう思って早足で歩く。 が、その中途で彼を呼び止める者があった。 「XY−MENさん……」 思わず立ち止まる。 『この声…?』 そして、キャップのつばをあげる。 そこには彼の知っている……恋い焦がれた少女の顔があった。 「楓ちゃん……?」 「お久しぶりです。XY−MENさん…。」 柏木楓はにっこりと笑った。 自己紹介Lメモ 「ファーストインプレッションはどうだ?」 「ほんとに久しぶりだね。二年ぶりだな…。」 「ええ……。」 楓とXY−MENは微笑みあった。 一時間目の放課、XY−MENは早速、楓に話しかけていた。 「君がこの学園にいるなんて、思いもしなかったぜ。」 そう、友人の神無月りーずに紹介されたこの学園に楓がいることなど、 本当に知らなかったのだ。だから、 『くううっ!なんて幸運なんだ!オレは!』 などと心の中で滝のように感涙を流し、今日だけは神様を信じて感謝してたりするが、 懸命にポーカーフェイスで耐えていたりする。 「二年前、突然いなくなってから音沙汰無かったから心配しましたけど…、 安心しました…。」 楓が目を細めて笑う。 「ああ、心配掛けてごめんね。この通り元気だからさ!」 XY−MENが腕をまくってみせると、楓は「くすり…」と笑みを漏らす。 『うう…幸せだぜっ!』 XY−MENは心底そう思った。 が、しかし…… 『しかし、それにしても、だ……』 ふと、冷静になってみる。 周りのクラスメート達は、自分達を見てひそひそとなにやら囁きあっているのである。 『なんなんだ?一体……。』 どうやら彼らの視線には哀れみがこもっているようである。 養豚場の豚を見て、 『ああ、可哀想だけど、明日には肉屋の店先に置かれるのね。(by JoJo)』 と言うような……。 『どーやら、あいつが原因か?』 XY−MENの視線の先には一人の男がいた。 『ゴゴゴゴゴ……』という効果音を背後に背負った、お下げ髪に道着の男が……。 その男は、「ついてこい」と言うように、顎でXY−MENに合図を送った。 「あ、楓ちゃん、オレちょっとトイレ行って来るから。」 「あ、はい。」 席を立ち、廊下へと向かうXY−MEN。 クラスメート達は、心の中で、死地に赴くその後ろ姿に敬礼を送りつつ、見送った。 XY−MENの印象その2……「哀れな男」 「貴様……楓のなんだ?」 お下げ髪に道着の男……西山英志はぶしつけにXY−MENに質問をぶつけた。 と同時にメンチを切るのも忘れない。 しかし、XY−MENもその程度では怯まない。 「なんだって……昔のクラスメートで友達だが……それがなんだよ?」 が、次の瞬間、西山はかのセバスチャンの「かぁぁぁぁぁぁぁっっつ!!」 とタメをはれる勢いで叫んだ。 「楓には手を出すなぁっ!!」 もちろん、この時の西山の顔は画面に寄ってアップであり、 やたらと線の太い、濃い作画だ。Gガン風味と言っておこう。 「何だと?」 流石のXY−MENも、多少ひるむ。 「楓に手を出すつもりなら……この俺が叩き潰す!」 ぐっと拳を握る西山。そのバックには炎が燃え上がる。 「ふ、ふざけるな! 大体、お前こそ楓ちゃんの何なんだ? 彼氏だってのか?」 「い、いや……彼氏なんてものでは……」 ぽっと頬を赤く染める西山。そのバックにはお花が咲き乱れる。 ……XY−MENは少し呆れて脱力しつつも、何とか気を取り直した。 「……違うんだな。なら、そんな事、聞き入れる気はないぜ! オレは楓ちゃんが好きだからなぁっ!!」 そう叫び、取りあえず対抗してバックに炎を燃やしてみた。 「ほう……いい度胸だ。なら、望み通りにしてやる! ……今日の昼、グランドに来い。そこでケリを付けてやる!!」 「望むところだ!!」 倶に天を戴かぬ二人の男は、100万ボルトの火花を散らしあった。 二人の発する火炎と放電を避けながら、生徒達は思った。 あの転校生は、なんて無謀な奴だ、と。 XY−MENの印象その3……「無謀な奴」 「あの西山英志に挑戦者現る! こりゃビッグニュースだわ!早速みんなに知らせないと!」 「ふん。師匠に挑むなど、何処のバカだ?」 「ククク……面白くなってきたな……」 「うふふ……学園を破壊する物は排除します…。」 「……目が恐いよ、Dセリオさん……。」 「Dセリオっ!! 男同士の間に入るなぁっ!!」 「HAHAHA! いっつ、show timeネ!!」 そんなわけで昼休み。 グランドのど真ん中で、XY−MENと西山は対峙していた。 そして、それを遠巻きに観戦するギャラリー多数。 例によって、志保がぺらぺらぺらりと喋りまくった為である。 「はあ、こうなると、XY−MENさんを止めることは出来ないですからねえ……」 神無月りーずはため息をついた。 一応、りーずは友人として忠告はした。西山は強すぎる、と。 が、そんなことを聞き入れるXY−MENではない事も分かっていた。 「まあ、あの人ならそうそう死にませんよねぇ……」 それにリーフ学園だしね、とか思うりーずだった。 「よく逃げなかったな……」 先に口を開いたのは西山だった。 「ふん、バカ言うなよ。誰が逃げるか。」 XY−MENは不敵に笑った。 一方、それを端から見ている……いや、取材している情報特捜部の面々。 志保、デコイ、シッポの三人組。 「シッポ! 集音マイクの方はどう?」 「任せておけ。ばっちり録れてるよ。」 親指を立てるシッポ。 「デコイ! ”絵”の方は頼むわよ!」 「おう、シャッターチャンスは逃さないっ!」 こんもりと繁ったアフロから、マイキャメラを取り出し構えるデコイ。 「しかし、楓さんがいないな? 『一人の少女を巡り、死を賭して戦う男と男! 止めることができず、ただ見守ることしかできない少女。その頬を一筋の涙が伝う…』 てな”絵”を是非撮りたいんだが……。」 デコイがそう呟いた。 「おかしいわねえ、いくら何でもほっとかないわよねえ、あの子なら…」 「もしかして、知らないんじゃ?」 「まさか…」 「そんな事って……これだけ大騒ぎしてるのに?」 その頃…… 何にも知らない楓は、教室でのんびりとお弁当の時間だった。 「シッポ! 柏木さんを連れてきなさい!」 「ええ? 集音マイクはどうするんだよ?」 「あたしが何とかするっ! さあ、早く行きなさいっ! 副部長命令よっ!」 「ちぇっ!」 シッポは、 『もしかして、私ってパシリ? そう言えば、時々バルキリーでお出迎えとかしてるし。 ……何か腹が立ってきた。おのれ志保め…いつかイワしてやる!』 とか思いつつも、校舎に向かって走り出していた。 「もう一度聞いてやる……。楓には手を出すな!」 鋭く光る、西山の眼光。だがXY−MENは、それを正面から受けながらも、 逆に睨み返した。 「なら、こっちももう一度言ってやるぜ。ふざけるなっ!! お前が何と言おうと、何をやろうと、オレは楓ちゃんが好きだっ! 手を引くだとか、諦めるだとか、そんな事絶対するものかよっ!」 しばしの沈黙。 そして西山は言った。 「言うだけ無駄だったようだな。」 「ごたくなんざぁ、元々必要ない。さあ、やろうぜ。」 二人は静かにファイティングポーズをとった。 「いよいよ始まりますね。」 赤十字美加香が呟く。 西山の弟子達、流派SS不敗の面々…風見ひなた&赤十字美加香・結城光・悠朔 …も師匠の戦いを見守っていた。 「西山先生に挑むとは……大した愚か者だな。」 悠朔が冷然と言う。 「でも、相手の人がどれくらい強いかはまだ分かりませんけど……」 これは結城光だ。 「たとえ、どんな強い相手でも、師匠が負けるわけはありませんよ。 なぜなら……”アレ”がありますからね。」 風見ひなたがそう言ったちょうどその時、 「楓ぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇえええぇぇええぇぇえぇぇぇええ!!!」 西山の”アレ”……暴走モードが発動した。 そして、二人の闘いが始まった。 「いくぜっ! ビーストキャノンッ!!」 「楓ぇぇぇぇぇっ!!」 「うおぉぉぉぉっ!!ムーンスラッシャーっ!!」 「楓ぇぇええぇぇええぇぇえええぇぇぇっ!!」 「な、なんのっ!オーラクラッシュっっ!!」 「楓ええぇぇぇぇえええぇええぇええええぇぇぇええぇええぇぇぇぇぇぇえええっ!!」 ……一分後、XY−MENぼろ雑巾のようになって、グランドに沈んでいた。 「そ、そんなアホな……」 そう言いたくなるのも無理はない。暴走した西山は、とにかく、常軌を逸してと言うか、 やったらめったらと言うか、でたらめに強かった。 XY−MENが常人離れした耐久力を持ってなければ、 十秒も持たずにけちょんけちょんにされていたかもしれない。 「随分とタフな人ですね。」 「暴走した西山さんの攻撃に一分間耐えるとはな……。」 「しかし、勝ち目がないことには代わりありませんがね。」 「素直に諦めて、楓から手を引くのだな。そうすれば、ギブアップで済ませてやる……。」 XY−MENを見下ろしつつ、西山は凄む。 だが、XY−MENは、ゆっくりと立ち上がった。 「断るぜ……。オレは楓ちゃんが大好きなんだ。それに……」 XY−MENは、そこでニッと笑った。 「諦めたらそこで負けって言うだろ? だったら……オレはまだ負けちゃいない!!」 西山は、その台詞を鼻で笑った。 「いい意気だ。……だが、それだけで勝てるものか!」 『できることなら”アレ”は使いたくない。が、しょーがないっ!』 XY−MENは覚悟を決めた。 「あ!XY−MENさん、まさかあれを使うつもりですか?」 XY−MENの意図に気づいた神無月りーずは、とっさに物陰に隠れた。 「いくぞぉぉぉぉっ!!」 叫ぶと共に、XY−MENは西山に向けてダッシュする。 「はぁぁっ!!」 気合いと共に、西山は拳を突き出し、そしてそれはXY−MENの顔面に突き刺さった。 いや、XY−MENはよけようともしなかった。 そしてその代わりに、両足を踏ん張り、西山の腕に組み付く。 「楓萌えの意地、見せてやるっ!! ……死なば……諸共ぉっ!!」 「な、なにぃ?!」 次の瞬間、XY−MENの体が赤く発光し………… ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!! 大爆発が起こった。 XY−MENの持ち技の一つ、エナジー・リバレート。 一言でいうなら自爆技である。 闘気を極限まで圧縮し、その後解放。爆発を起こす……。 その威力は絶大である。……本人もひじょーに痛いが。 XY−MENの印象その4……自爆した人 やがて、爆風が収まる。 グランドのど真ん中にできたクレーターの中心で、二人はのびていた。 「ど、どうだ……? 負けなかったぜ…………」 「あ、アホか、貴様………」 流石の西山もあきれていた。 と、そこへ…… 「英志さんっ! XY−MENさんっ!」 その声を聞いた瞬間、二人は同時にはっとなって振り向いた。 「楓……」 「楓ちゃん……」 そこには、瞳に涙をいっぱいためた楓がいた。 「か、楓! 俺はただ……その……」 「か、楓ちゃん! これには深ーい訳が……」 二人は同時に言い訳を始める。 だが、楓はただ、ゆっくりと首を横に振ると、一言だけ言った。 「二人とも、喧嘩をしないでください……」 次の瞬間、まるで図ったかのようなジャストタイミングで、 二人は同時に互いの手を握りあっていた。 「も、勿論だとも! 楓がそう言うならば!」 「当たり前じゃないか! ほら、この通り! 今日から二人は友達!」 握手を交わし、笑顔を見せる二人を見て、楓はようやく微笑んだ。 周囲のギャラリーからは拍手が沸き起こる。 「うーん、いい絵だ。」 満足げに写真を撮るデコイ。 「シッポ、ご苦労さん。」 「まあな……。」 ウィンクする志保と、頬をかくシッポ。 「暴走には自爆か……どうやら、筋金入りのバカのようだな。」 「ふん……」 去っていくSS不敗流の面々。 「やれやれ……。」 苦笑するりーず。 暖かい拍手に包まれ、西山とXY−MENは、ガッチリと握手をしたまま、 しばらくその場を動かなかった。 満面の笑顔に脂汗を浮かべ、握りあった手から『バキ』とか『メキョ』とか言う音を、 密かにさせながら………。 かくして、XY−MENは試立Leaf学園における波乱の生活をスタートさせたのだった。 結論として、転入第一日にして、彼が人々に与えた印象を総合するなら、 哀れ、無謀にも西山英志と戦った挙げ句自爆した男、わいーめん そんなところだろうか? 合掌及び愁傷……である。 ファーストインプレッションはどうだ? ----END-----