Lメモ「銀のお犬と子供達」 投稿者:XY−MEN
時は夕暮れ時、場所はもうすぐ取り壊される旧体育館。

「いいかぁ? 見てろよ……うおりゃっ!!」

XY−MENが気合いと共に拳を振り下ろす。
がっしゃぁぁん!!
真下にあったブロック塀は、粉々に砕けた。

「わあっ!! すごいすごいすごいっ!!」
「すごいぞぅっ!!」

てぃーくんと雛山良太が歓声を上げる。
保護者の天神貴姫がぱちぱちと拍手をする。
はしゃぐ男の子達の後ろで、笛音、木神木風、きたみち靜も感嘆している様子だ。

「まーな。こんな位は朝飯前さ!」

照れて頭をかくXY−MEN。ただし、その姿は獣人、銀狼の物なのだが……。

「ねえねえ、じゃあ、やっぱり速く走ったり、高く飛んだりとかもできるの!?」

興奮した様子でてぃーくんが聞く。

「ああ。まあ、ちょっと見てな……ほっ!」

軽いかけ声と共に跳躍すると、XY−MENはバスケのゴールの上にひらりと飛び乗った。

「すごいすごいっ!」
「ダンクできるぞっ!」

「ほんとはもっと高く飛べるんだぜ?」

XY−MENは、そう言いながら、今度はひらりと床に降りる。
ちょびっと調子に乗って、胸を張ったりする。

「しっぽさわってみていい?」

三人の女の子の中で、一番活発そうな子……笛音が聞く。

「ああ、いいとも。木風ちゃんも靜ちゃんもいいよ。」

にっこり笑って(と言っても狼の顔だが)しっぽをふってみせるXY−MEN。

「わあ……きれい……ふかふかしてる……」

嬉しそうに銀色のしっぽをさわる笛音を見ると、木風と靜もにぱぁっと笑ってさわり始めた。
XY−MENは、そんな子供達の様子を微笑ましげ(やっぱり狼の顔だが)に見る。

『うんうん、子供ってのは素直で可愛いもんだ。』

ふと顔を上げれば、貴姫が微笑んでいる。
XY−MENは何となく照れて、視線を子供達の方へ下げた。
手をのばして、しっぽをさわるのに夢中な子供達の頭を撫でる。
ふう、と息をつきながら、そこでふと、

『何で子供達と遊んでたんだっけ? オレ…』

そう思った。

『本当なら、今頃は屋台をやってるはずだけどなあ。』

いつものこの時間なら、たこ焼き屋の屋台の中でたこ焼きを焼いて、お客の応対を
しているはずだった。

『なのに、何で子供達と遊んでるんだ?』

記憶をたどる。




六時限目。

XY−MENはもう限界だった。

『ちくしょう……あともうちょっとで授業も終わりなのに……』

拳を握り、歯を食いしばり、足を踏ん張って我慢してはいるが、もう耐えきれなかった。
……断っておくが、別に彼はトイレに行きたいのをを我慢しているわけではない。
血が騒ぎ、人狼の姿に変身しそうになるのを必死にこらえているのだ、実は。

『今日が満月の日だって事、忘れてた!』

満月の日は獣人の血が活発になるらしく、抑えが効かずに変身したりする事が、
これまでにも何度かあった。
狼男は満月を見て変身する、と言うのも、どうやらあながち迷信ではないらしい。
それはともかく、今日がその満月の日であることをさっぱり忘れていたのはまずかった。
が、後悔してももう遅い。

『変身がはじまっちまう!』

XY−MENは焦った。
今ここで変身をしようものなら大パニックを起こしてしまうのは目に見えている。
そして、その後、厄介事も色々起きる。

がたっ!!

XY−MENはいきなり席を立った。
クラスメート達の視線が集まる。

「先生! 調子が悪いので保健室行って来ます!」

とだけ言い残すと、XY−MENは調子が全然悪そうにない早足で、
教師の返答も聞かずにさっさと教室を出た。

がらがらがら……ぴしゃん!!

ダッシュ!
もう一刻の猶予もなかった。
と言うより、既に変身が始まりかけている。
帽子とジーンズに隠れて外から見えないが、「耳」と「しっぽ」が今のXY−MEN
にはあるのだ。

「やっばぁぁぁぁぁいっ!!」

廊下を駆け抜け、取りあえずトイレに駆け込む、と、ほぼ同時に
体により具体的な変化が現れ始めた。
体が加熱し、震える。
骨格が変形する。筋肉が膨張していく。銀の体毛が伸びる。
全身のシルエットが変わる。
ほんの三十秒ほどが過ぎた頃には、XY−MENは銀の人狼への変身を終えていた。

「あああっ! とうとうやっちまった!!」

おもわず叫んで、それから慌てて口を塞ぐ。
全くそそっかしい。
XY−MENは、そんな自分に腹を立てたが、
「後悔するのは後だ。とりあえず、変身を解かなくちゃまずい……」
と頭を切り替えた。

変身を解くこと自体は満月の日でも、特別問題ない。
今は、この姿を人に見られる前に、元に戻らなくてはならない。

一つ息をついて、元の姿に戻ろうと目を閉じる。
その時、XY−MENは初めて自分の後ろ、トイレの入り口の方から視線が
注がれているのに気づいて、慌てて振り返った。

「……XY−MENさん……」
「か、楓ちゃん……?」

そう、その視線の主は、柏木楓だった。呆然とするXY−MEN。
しかも……

「に、西山まで……」

そう、その横からぬっと表れたのは、西山英志だった。
西山は人狼──XY−MENを一瞥すると言った。

「貴様……まさか犬人間だったとはな……」
「犬じゃないっ! 狼だっ!」

すかさず反論はしたが、問題はそこじゃない、とXY−MENは思いなおした。

「……見てたんだな?」

その問いに二人は頷く。
XY−MENは、面倒なことになったとため息をつき、それから言った。

「じゃ、しょうがない。……このことは、誰にも言わないでくれないか?
 人に知られると、色々厄介なんでな…。頼む…。」

「…………はい、わかりました。」

楓はあっさりと首を縦に振る。それは期待どおりだった。あとは西山だ。
一応、頼みはしたが、西山に関しては期待していなかった。
頼みを断られた時のことを既に覚悟していた。
が、

「ふん、いいだろう。」

「英志さん……」

「は?」

あまりにあっさりと聞き入れられて、XY−MENはあっけにとられた。

「何を間抜けな顔をしている? 俺は了承した、と言っている。」
「……どうしてだ? お前にとっちゃ、オレは邪魔だろう?」

その問いに、西山はぷいと視線をそらしたまま、こう答えた。

「俺は人の弱みにつけ込むような真似は好かん。それだけだ。」

その西山の答えを聞いて、XY−MENはしばらく黙ったが、
その後ふっと笑った。

「……一応、礼を言っとくぜ。……それだけだけどな。」

「ふん……」

西山はそっぽを向いたまま、それでもほんの少しこちらに視線を向けた。
そんな二人のやりとりを、微笑みながら見守る楓。
……事は、平和裡に解決しそうだった、が……

「ふんふんふん……♪ あら?」

鼻歌を歌いながらやってきたのは、授業を早めに終わらせた森川由綺だった。

「あら、西山君に柏木さん、どうしたの?」

「あ……」

彼女は楓が止める間もなく、ふと男子トイレの中を覗きこんでしまった。

「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」

きっかり3秒間、四人は固まる。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! お、狼男っ!!」

その沈黙を破り、歌手として鍛えに鍛えた声量をMAXにして、
由綺はその叫びを学校中に響きわたらせた。

『やっばぁぁぁぁぁいっ!! まだ変身解いてなかったじゃないかよっ!!』

強烈な叫びを聞かされて慌てたXY−MENは、次の瞬間、トイレの窓から
脱出を図っていた。

ばっ!

宙に身を躍らせてその場から消える。

キーンコーンカーンコーン……

授業終了の鐘が鳴る。
後には、やれやれ、と言う表情の西山と、心配げに窓の外を見やる楓と、
おびえて立ちすくんでいる由綺が残された。


ずだんっ!
二階分の落差を落下し、XY−MENはコンクリートの地面に飛び降りる。
そして次の行動の為、素早く辺りを見回す……そこで最悪の事態を知った。

「──不審者発見。排除に移ります。」

Dセリオだ。
巡回中にちょうど上手い具合に遭遇してしまったのだ。

「ま、待て! 話せばわかる……」

XY−MENは後ずさりしつつそう言いながらも、絶対分かっちゃくれないだろう
とも分かっていた。
案の定、彼女はニヤリと一笑いすると、

「サウザンドミサイルッ!!」

いきなりペンシルミサイルを乱射した。

「無茶苦茶すんなあぁぁぁぁっ!!」

迫り来るミサイルを障害物(即ち校舎)を利用して何とかかわす。

ちゅどーん!

爆発があちこちで起こる。
XY−MENは、その爆煙に紛れて何とかその場から逃走することに成功した、
が、それからが大変だった。
Dセリオの攻撃が契機になり、騒ぎが広がって、XY−MENは追っかけ回される
ハメになったのだ。



例えば……

「どうしたっ!!」
「風よ、すべてを切り裂く刃となれ!」

「うひゃあぁぁぁっ!!」

ジャッジの使い人コンビ、岩下信と冬月俊範に狩られそうになったり、

「フフフ……こんなところで獣人に出逢うとは……
 是非、解剖してみたい……(ニヤリ)」

「いやだぁっ!!」

葛田玖逗夜に追いかけ回されたり、

「風紀委員会出動! 獣人を捕獲します! 女優の名に賭けて!」
「イエッサーっ! 委員長!」

「なんでこうなるぅっ!?」

広瀬ゆかり率いる風紀委員会の包囲網を突破したり、
エルクゥ同盟に……

「ジン先輩、僕らは出動しないんですか?」
「パスだ。俺は今忙しい……。プライマルレイジをやらなければならないからな!」

エルクゥ同盟は沈黙を守った。


ともかく、XY−MENはあっちこっちを変身を解く間もなく、
逃げ回らなければならなかったのだ。
そして、ようやく逃げ延びてたどり着いたのが旧体育館。
がらんとしたその体育館の真ん中で、やっと一息をついた。

「はあ……はあ……こ、ここなら大丈夫か。」

どうやら、追っ手をまくことに成功したらしい。

「よし! んじゃ、変身を解くか!」

XY−MENは全身を弛緩させ、「人間」のイメージを浮かべる。
それが体中に伝わり、変化が始まる。
体中の骨格が再び人のそれへと戻り、そのシルエットもまた、人の物へと戻っていった。
人狼に変身したのとちょうど同じくらい……三十秒後には、XY−MENは人の姿に
戻っていた。

「これで一件落着、だな。」

そう安心したその時、

がたっ

体育倉庫の方から物音が聞こえた。

「誰だっ!?」

思わず叫ぶ。
しばらくの静寂の後、がらがら、という音と共に扉が開く。
そして、中から出てきたのが……



『この子供達と貴姫先輩、ってわけだ……って』

「痛い痛い! こら、耳引っ張っちゃ駄目って! ああっ!
 シッポも引っ張るなってば!」

物思いに耽っている間に、XY−MENは子供達にいいようにいじくられていたらしい。

「ご、ごめんなさい、いぬさん……」
「いたかったの? いぬさん?」
「ごめんね、犬のお兄ちゃん。」

すまなそうに謝る子供達。
XY−MENは思わず狼狽してしまう。

「ああ! いやいや、別に痛くはなかったから大丈夫!」

慌ててそう言うと、子供達も安心して笑顔を見せた。

「よかったぁ……」
「ほんとにごめんね、いぬさん……」

「ああ、いや、いいんだよ。でも、犬じゃなくて狼なんだけど……」

実は、XY−MENはこの通り子供に弱かった。
笑顔を見せられればついつい笑顔で返してしまうし、悲しそうな顔をされると
どうにも出来なくなる。
そんな塩梅だから、「秘密にしてあげるから、そのかわりあそぼ!」とか、
「ねえねえ、もう一度変身してみてよ!」とか言われても、「いいとも!」と
つい言ってしまって、今の今まで来てしまったのだ。

『言うことを聞いてあげたくなるのは、きっとこの子達がオレの獣人としての姿を、
 怖がらないでくれるのが嬉しいからだ。うん、そうに違いない。』

自分に都合のいい解釈をするXY−MEN。

『だったら、心ゆくまで遊んでしまおう! それが正しい!』

そう心の中で結論づけた時だった。

がらがらがらっ!!

「笛音ぇぇ〜!!」
「靜ぁぁ〜!!」
「木風ちゃ〜ん!!」

いきなり扉を開けて、OLH、きたみちもどる、榊宗一の三人が
躍り込んできたのだった。

「げっ!?」
「OLH様にきたみち様、それに榊様?」

いきなりの乱入者に、XY−MEN達は狼狽した。

「ああっ!! 貴様っ! 笛音から離れろっ!!」
「靜を返せぇぇぇっ!! この犬っ!!」
「木風ちゃ〜ん!!」

三人はじりじりとXY−MENに迫ってくる。
そして、三人は三人ともかなりアブなく目が血走っているのだった。

『やっばぁ……』

子供達を巻き込むわけには行かない。ついでに勘違いされても困る。
そう思ったXY−MENは、さっと身を翻して子供達から離れた。

「笛音ぇぇぇ!! 大丈夫かあっ!?」
「靜っ!! 何もされてませんねっ!?」
「木風ちゃぁぁんっ!! 怪我はないっ!?」

三人はそれぞれ女の子達に駆け寄り、その無事を確認すると、次にくるりと狼男
……XY−MENの方に向き直った。

「さて、こんな化け物は退治しないとなあ? きたみち君?」
「全くです。そうですよねぇ? 榊さん?」
「……禍根は断つべし!」

怪しい笑みを浮かべ、三人の男は迫り来る。

「ちょっと待てっ!? オレはこの子達と遊んでただけだぞっ!?」

「榊お兄ちゃん! そのいぬさんは悪くないよ!」
「ちちうえ、おねがい、やめて!」
「そうだぞそうだぞ!」
「まっておにいちゃん! そのいぬさんはき…むぐ…」
「OLH様、きたみち様、榊様、その人…いえ、犬…でもなくて狼は、けっして
 悪い狼ではありません。やめてあげてください。」

懸命に三人を止める子供達と貴姫。だが、
三人は既にまったく完璧に聞く耳を持ってはいない状態なのだった。

「だまれぃ! 笛音に手を出すやつはゆるさんっ!!」
「覚悟するんですね……」
「まっててね木風ちゃん。俺が悪い犬を退治するからね〜。」

「お前らちょっとは人の話を聞けっ!!」

聞けと言ってもやっぱり聞いてはくれない。
三人に追いつめられ、じりじりと後ずさりするXY−MEN。
下手に戦うわけにも行かないし、なにより、流石に三人を相手に勝つことは難しい。
貴姫は貴姫でどうしようか迷ってる様子だ。

『えーい! どうしたらいいってんだ!』

XY−MENの背中に壁が当たる。
ああだこうだ迷っているうちに、いつの間にか壁際に追い込まれてしまったらしい。

『やべっ!!』

「「「いくぞぉぉぉぉっ!!」」」

今だとばかり、きたみちと榊は突っ込み、OLHは闇を操ろうとした。
が、その時、

「ドルミナッ!」

ひょうきんな声が三人の後ろから響く。そして、

「な、なんだ?」
「ぐ、ね、眠気が……」
「う、そ、そんな……ぐう……」

全く警戒していない方向からの「ドルミナー(催眠魔法)」を食らい、
三人はほとんど同時に眠りに落ちていった。

「やれやれ、あなたと言う人は……どうにも騒動を起こしてしまうんですねぇ。」

入り口の方からその声は響いてくる。

「りーず君か!」

その言葉に応えて扉の影から表れたのは、仲魔のジャックランタンを引き連れた
神無月りーずだった。

「全く、あなたは不用心です。その銀狼の力はおおっぴらに使っちゃまずいと
 十分分かっているでしょう? この二年間つけ狙われて……」

呆れた口調で話すりーず。

「すまんすまん。恩に着るよ、りーず君。」

「その台詞も、何度聞きましたかねぇ?」

「いや、ほんとにすまん。」

XY−MENは、頭をきながらそう言うしかなかった。

「まあ、それよりここはさっさと変身を解いて、立ち去った方がいいでしょう。」

「そうだな、じゃあ……。」

XY−MENは素直にその意見に従って、変身を解きにかかった。
この日二度目の獣化解除。
やっぱり約三十秒ほどで人の姿に戻ると、XY−MENは貴姫の方を向きなおった。

「で、それじゃあ貴姫先輩、」

「なんでしょう? XY−MEN様……」

「悪いけど、後のこと何とか頼むわ。その代わり、今度オレの屋台に来たらさ、
 半額サービスしとくから。」

両手を合わせて軽く頭を下げ、お願いする。

「仕方がありませんね。上手く言いくるめておきます。」

貴姫は苦笑してそう答えた。

「ありがとう。そんじゃ、オレはこれで!」
「失礼しますね。」

手をさっと挙げて、XY−MENとりーずはその場を立ち去る。
子供達もそれに応えて手を振った。

「いぬのおにいちゃん、ばいばい。」
「またあそんでね。」
「いぬさん、じゃあね〜」
「まただぞ〜」
「ばいばい、お兄ちゃん。」

XY−MENは、子供達の方に振り返ってもう一言だけ言った。

「だから犬じゃないってば……じゃあなっ!」




数日後……

「はあ……客が来ない…」

XY−MENは、たこ焼き屋台の中でため息をついていた。
客足は全くと言っていいほど無く、閑古鳥に住み着かれた感じだ。

「なんでこう、客が来ないのかねえ? 味には自信あるのに…」

ぼやくXY−MENをりーずがなだめる。

「まあ、味がいいのならゆっくりじっくりやればいいじゃありませんか。
 ……それより、これ読みません?」

「こっちは生活かかってんだぞ? 悠長なことを……なんだこりゃ?」

XY−MENが手渡されたのは、情報特捜部発行の新聞だった。

「『戦慄! Leaf学園に狼男現る!!』だと?」

「これですっかり全校に知れ渡ってしまったわけです。これからは
 十分気を付けることですね。」

「へいへい、よくよくわかったよ。」

おざなりな返事をしながら、ざっと記事に目を通す。
その中には、子供達の証言も、小さいながらに扱われていた。

「まあ、一応悪イメージが付くことだけは避けられたのか?」

とはいえ、記事は志保の手腕のたまもので、見事にゴシップ風にまとまっていて、
信憑性が薄そうに見えるのも確かだった。

「あーあ、客は来ないし『銀狼』の事は知れ渡るし、踏んだり蹴ったりだぜ。」

ぼんやりと何もない斜め上の方にに視線を浮かせて、ため息をもう一度ついた。

「やれやれ……ま、でも、なんとかなるか。」

ぼーっとしながら頭をかく。

「たこ焼き三箱くださいな。」

突然(と感じられた)注文の声が耳に届いて、XY−MENは慌てた。

「はいっ!? いらっしゃいっ!! ……て、貴姫先輩?! それにみんな…」

「おにいちゃん、こんにちわ〜」
「あそびにきたよ〜」

慌てて視線を元に戻してみると、そこには貴姫と子供達が揃っていた。

「確か、半額でいいんですよね?」

貴姫がにっこりと微笑む。

「え? あ、三箱で900円だから、半額で450円…」

XY−MENは気を取り直して、急いでたこ焼きを焼いて箱に詰めた。

「ありがとうございます。」

近くのベンチに腰を下ろし、その箱を開ける貴姫。
箱の中から立ち上る湯気とたこ焼きのかおりに群がる子供達。

「さあ、いただきましょう。」

「わあ…おいしい…。」
「うまいぞっ」
「はぐはぐはぐ……」
「あ、ずるい。そんなに食べて……」

夢中になってたこ焼きを食べる子供達。
そんな様子を見ていたら、XY−MENはなんだか笑みがこぼれていた。

くいくい

袖を引っ張られて振り向くと、そこにはたこ焼きをほおばって
嬉しそうに笑顔を浮かべたてぃーくんがいた。

「また遊んでね、犬のお兄ちゃん。」

「ああ、いいとも。 けど、オレは犬じゃなくって狼だってば…」

XY−MENは苦笑した。


(おしまい)