今更ながらVSジン・ジャザム(笑) 『ひとのわざ』 投稿者:山浦

VSジン・ジャザム
   『ひとのわざ』


「つまりだ、奥襟掴んだ柔道家の技ってのはお前が思っている以上に早いんだよ。どんな
格闘技の拳も、蹴りも、こいつ以上に早くて重い攻撃にはならねえ。ナイフより、拳銃よ
り……それどころか、魔法やらロケットパンチなんぞより早くて強ええ。そいつが柔道だ」
 自らの力を過信することは格闘家にはままある。だが、それを誇示することはすべきで
はない。自らに誇りを持つものは自分一人ではなく、また自らの言葉が届く先を望んで狭
めることは出来ないのだから。
「ほほぅ、言ってくれたな。…………で、そいつは俺がここにいるって分かってて言った
のか?」
 熱弁を奮う山浦の背後には、いつ現れたのかジン・ジャザムその人がいた。その表情は
意外なまでに冷静だ……普段のジン・ジャザムのそれと反して。
「あ、えっと……そのジン先輩。山浦先輩は別に悪気があって…………」
「ジン先輩がいるとは知りませんでした。が、ジブンは知っていても同じ事を言いました」
 何とか仲をなだめようと狼狽する松原葵を無視して、山浦はジンを睨み付けるようにし
て答える。完全に、喧嘩を売っていると言っていい。
「…………つまり、よ。俺の襟さえ掴めばお前は俺に勝てる。そう言いたいんだな?」
 きりきりと、ジンの表情がつり上がる。それが、怒りのためか、それとも戦いの歓びの
ためなのか、それは誰にも……ジン・ジャザム自身にすら……分からないことだが。
「そうッス。ジン先輩はいかに強かろうが、所詮は『強い素人』でしかありませんから。
ジブンにとっては」
「…………やってみな…………」
 低く、ジンが宣言する。さして大きい声ではない。しかし、その一言で周囲に沈黙が走
った。それほどまでの迫力を……”力”を……帯びた言葉だった。
「さぁ、どうした?」
 蜘蛛の糸の様な沈黙の中、ジンはただ一人声を上げ、軽く首を右に傾げる。襟を取って
見ろと言わんばかりに。

――呼――

――吸――

 ただ、息を吐いて吸う。ただ、それだけの時間が恐ろしく永い時間となってのしかかっ
てくる。

――呼――

――吸――

 戦いの始まりは、山浦がジンの奥襟を握った瞬間。周囲は固唾を呑んでその時を待った。

――呼――

――吸――

 彫像のように動かぬ両者。仕掛けるべき者……山浦……は何を待つのか。

――呼――

 瞬間、山浦の巨躯がジンを担ぎ上げていた!
 呼吸の狭間にある一瞬の意識の空白。その刹那に身を滑り込ませ、背負いを放っていた
のだ。通常の背負いに比べ、重心を低く取り、”投げる”と言うよりも”地面に引き込む”
と言った方が近い背負いである。イメージとしては引き込まれたジンが山浦の体に転ぶ
と表現すればいいだろうか? ジンの重量に対抗するためにこのような型を選んだのだろ
う。ジンの体がいかに重かろうとも、この型の投げならば関係はない。

――――勝った!――――
 山浦は確信する。この瞬間までにコンマ5秒とかかっていない。その後の時間は更に少
なく、足が地から離れた者に出来る抵抗は存在しない。
 地に足がつかない打撃では、人一人を倒すには至らない。
 ジャブすら満足に打つことの出来ぬ時間で、武器を取りだし、さらに攻撃するなど不可
能である。
 例えそれが、ジン・ジャザムであっても、だ。

 このまま投げつける。それだけでジン・ジャザムが倒れることはないだろう。しかし、
一拍、ともすれば二拍以上の時を着地に集中せねばならない。それは人間として生まれた
ものなら当然の反射行動である。ジンの自重を考えればそれ以上の効果があるかもしれな
い。そして、それだけの隙があれば確実に相手の首を取れる。実戦ならばそのまま喉笛を
握りつぶせる。柔道であっても送り襟締めを始めとした寝技のバリエーションがある。
 倒せずとも、ジンに。そして観衆に勝利を知らしめる事が出来る。

――そう、柔道と言う技術の勝利だ――
 サイボーグという機械化技術の粋に対する
    鬼……エルクゥ……に対する四百年前の借りを返す
        ジン・ジャザムという強力なSS使いに対する

――――『柔道』というひとのわざの勝利なのだ!!




「ゲッタービーム」






――教訓――
…………ゲッタービームは腹から出る…………。


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