愛趣味レーション暴走編異聞  「風に舞え」 投稿者:山浦

――ひゅうううううううううううう――
 Leaf学園に疾風(かぜ)が吹く。

「……な、なんやの?  今のやらしい風………」
 そしてはためく少女のスカート。
「大・成・功!」
――風向自在ドライヤー――
 最高のアイテムを手に入れたYOSSY&霜月は、ちょおご機嫌にお互いの手を叩き
合う。それを、遠くで眺める影があるなど想像だにせず。

恋愛趣味レーション暴走編異聞
    「風に舞え」


「……ぬぅ……」
 平坂蛮次は腕を組んで呻いた。
「どーしたんス? アニキ?」
 かつて無い平坂の行動に、伴って歩いていた軍畑鋼が尋ねる。ちなみにアニキといっ
ても薔薇でもさぶでもない。もちろん、本当に兄弟とかいうオチでもない。いや、違う
兄弟かもしれないが。まー、この話題については、筆者の品性が疑われるのでこの辺で
やめておこう。
 ともあれ、平坂蛮次と軍畑鋼は舎弟であった。設定どころか、当人同士も認知してい
ないことだが、とりあえず舎弟だった。以後、そのつもりで読むように。
「…………風に舞うスカートを恥ずかしげにおさえるちゅるぺた……これもまた萌え…
………。ぐはははは、バタ子! アレを手に入れるぞ」
「アレって……例のドライヤーッスか!? 無茶ッスよ!!」
 軍畑が驚愕するのも無理からぬ事。YOSSYは数いるSS使いの中でも屈指の使い手。
勝利のためには、一切の手段を選ばぬその戦い方は、敵に回せばこれ以上ない驚異とな
る。そして、霜月もまたSS使いとしては新参の部類に入るものの、超一流のゴーストス
イーパーであり、その戦闘力は侮っていいものではない。ダーク十三使徒においてトッ
プクラスの格闘能力を有する平坂とて、この二人を同時に相手して、勝利は難しい。も
ちろん、一般生徒と大差ない戦闘能力しかない軍畑に何が出来る訳でもない。
「ふん、別に奪い取るわけではないわい。頭を使え、頭をなぁ!!」
 そう言って平坂は物騒なほほえみを浮かべたのだった。


「…………ちゅーことなんじゃがのう」
「Ohooooooo! イッツァヴェェェェェリィナァイスアイディアっ! My頭
脳のエキセントリックインスパイアー回路も萌え萌えヨ〜! Hey! Mr.バンジ!!
 汝の左脇腹は浪漫でローリングネぇっ!」
「…………何スか、この生物…………」
 奇声を上げてヘッドローリングをしつつ、謎の手順で機械を組み上げる高橋を見下ろ
しつつ、困ったように軍畑が言う。いい加減この学園に慣れたつもりだったが、上には
上がいることを、今彼は思い知らされていた。
(……っていうか、どうリアクションしていいかすらわかんねーッス!!)
 それがこの学園の恐ろしさだろうなぁ(しみじみ)。
「高橋どん、組上がりはいつになるかのう?」
 テンションの高さでは負けていない平坂は、軍畑の困惑など問題にせず、泰然自若の
風である。流石は十三使徒と言うところか。いや、こんなものに慣れるのが条件なら十
三使徒なんかになりたいとは思わないけど。
「バ〜ンジ! パーフェクトミラクゥルなワ・タ・シに『いつ』とはナニゴトデ〜スか。
トゥルーな天災科学者にタイム&マニーは無意味! 無意味! 無意味ィィィィ! 時
空間をTake outしてこその天災、天才、ミラコゥなジーニアスの証明なのデ〜ッス!!
 サア、バンジぃ! この『北風&TheSunトラベラーズのコールド心もこれでウッドボ
ール! 一号』で、存分に秘密のガーデンを覗いてくるのデ〜ッス!」
…………完全にまるで分からないが、すでに完成しているらしい。組み上げた謎の機材
を差し出しつつ、高橋は謎の踊りを狂おしく踊る。完成の踊り……なんだろうか?
「……さすが高橋どん。して、性能の方なんじゃがのう…………」
「No〜フィアー! 天才タカハシに不可能はあ〜りません。『トラベラーズのコール
ド心もToo Hot! コートもナチュラルtake down一号』なら冷血、冷徹、冷酷のスピリ
ッツなマシン超人もHotなウォーズマンにエボリューション! バラクーダ氏も絶賛ネ
〜!」
 謎の保証を言い出す高橋。っていうか、既に名前違うし。
「フォ〜エグザンポゥ! この『太陽SUNSUN七拍子隣の柿はよく客食う牡蠣だ初
号機』をMiss弥生に当てますと! 萌え萌え〜な、プリティガールにぃ――――」
 ザクッ!! ザクザクザク!
「――なにか?」
 篠塚弥生は、黒き乙女を従えてなお、無表情に尋ね、
「「な、何でも無いッス!!」」
 平坂と軍畑はダッシュで逃げだした。


「なんにせよ、手に入れたッスね」
 疲れ切ったように軍畑は言う。
「おおともよ。では早速やるかのぅ」
 こっちはまだまだ元気な平坂。嬉しげに目標を物色する。
「……風量調節ってツマミがあるんスけど……」
「大は小を兼ねるっちゅーじゃろ。最大にしとけ」
「…………狙いとかは……」
「そんなもん、てきとーでええんじゃ…………おおぅ! 居たぞ!!」
 爛々と鈍い光を放つ平坂の視線(番長EYES)に一人の少女が収まった。黒い髪を
頭頂部でひっつめた特徴的な髪型。間違いなく、彼女は軍畑の想い人の…………。
「理緒ちゃん!? だめッス! 理緒ちゃんだけはだめッスぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「ええぃ! わしに刃向かうと言うのか!? バタ子の癖に生意気だぞ! さっさとそ
いつをよこせぇ!」
 抵抗する軍畑から、力ずくで例の怪しい機械を取り上げようとする平坂。しかし、軍
畑も全身全霊をもってそれに抵抗する。
「だめッス! いくらアニキでも理緒ちゃんだけはだめッス〜!」
「きさんとも雛山のスカートめくりたいと思っちょるだろ! 素直にならんかい!!」
「そうっすけど……あぁっ!!」
 一瞬の逡巡。その隙に、平坂は機械をとりあげ、風力を最大にし、(おもいっきりて
きとーに)狙いを定めた。
「ぬはははははははっ! ちゅるぺた、萌ええええええええええええええええ!!」
「理緒ちゃん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 スイッチを押す瞬間、軍畑は平坂の手にしがみついた。せめて、狙いをはずそうと、
そう願ってのことだ。
 はたして、軍畑の願いは叶えられ、熱と奇妙なエネルギーを伴った烈風は雛山理緒か
ら狙いをはずし、あさっての方向に飛び…………。
「また風か? 今日は風がつよ…………」
 とある三年生に直撃し。


…………頭髪が、飛んだ…………
                            ――どっとはらい――