ミスコン推薦L 「ひとりはみんなのため」 投稿者:山浦

 暖かく降り注ぐ麗らかな春の日差し。
 漂う風も、暖かな南の空気が混じる。
 上空を覆っていた冬将軍も、いつしか北の彼方に撤退していたらしい。

―――そして、降り積もるスギ花粉。
「へーっくしょん!!」
 鼻水と涙を流しながら江藤結花は盛大にくしゃみした。
「花粉症ですか? 結花さん」
「……そーなのよ。これだから春は憂鬱なのよね〜」
 メシを待つ連中に答えながら鼻をかむ結花。っていうか、料理しながら思い
っきりくしゃみってのもアレな気がするが。
「そーいや、ジブンも前は酷かったッスわ。花粉症」
 しみじみと、山浦は言う。
「へぇ、治ったんだ?」
「はい、秋山さんと同室になってからは綺麗さっぱり」
「…………花粉如きに免疫使ってる余裕は無いからなぁ…………」

  ミスコン推薦L
      「ひとりはみんなのため」

「まぁ、花粉やなんやゆうてもやっぱ過ごしやすいわな、春は」
「たしかに。夏冬に比べて命に関わらないからな」
「気合いがたらんな。たかが40℃後半程度でだれるとは!!」
「ふつー死にますって……」
 男子学生寮の夕食時。珍しく静かな歓談のひとときである。
「つーか、夏までに冷房器具が欲しいッス〜」
「できれば、次の冬までにストーブとか…………」
 寮生の生活はきつい。っていうか、どーも寮に納めている金の過多で待遇が
恐ろしいほどに違うらしい。
「私は関係無いがな」
 とか抜かす悠”ぶるじょわじ〜”朔もいれば、秋山&山浦のように、完全に
デッドラインを超越した環境での生活を余儀なくされている連中もいる。
「それがそーも行かないのよ〜」
 曖昧に笑って応える結花。顔の引きつり具合が状況を物語っている。
「と、言うと?」
「コレの関係でね〜。設備投資にまで手が回らないのよ」
 ¥マークを手で作りつつ、結花が答える。一斉に、寮生全員の顔が引きつっ
た。
「そんなにお金がないんですか?」
「格安って言っても家賃は払ってますよ」
「食費に全部消えるってわけでもねーだろ? 何に使ってるんですか?」
 続いて起こる非難の声。が、結花の一発の蹴りが、それらを正しく一蹴する。
「毎日毎日、アンタ達が寮ブッ壊すからでしょうが!!」

「「「「「「「う”」」」」」」」

「大体、今の賄い料でも正直キツいわよ。下手すりゃ料金値上げってコトもあ
るわよ」
「マジっすか!?」
 全員の絶望の声。例えば……
「今値上げされたら私の生活は成り立ちませんよ!!」
 頭を抱える神海や
「ウチの仕送りピンチなのにっ!!」
 泣きが入る真藤。
「仕送りある分いいじゃないかよ! 俺なんてタコ焼き屋で生計立ててるんだ
ぞ!!」
 XY−MENに至っては、完全に切羽詰まった叫び声だ。
 寮生全員金に困っていると言う点では共通しているが。
「何とかならんのですか?」
「う〜ん。学校側の問題だからねぇ……アタシがなんとか出来るコトじゃ無い
のよ」
 困惑は結花も同じだった。寮生が減れば彼女の手間は減るが、その分給料も
減る。世の中甘くは出来ていないのである。
「……となると、何か金策が必要ですか」
 寮の破壊を止めようとかいう意見は無いらしい。
「全員でバイトするとか……」
「現在、職を持ってるやつもいるから、時間的に無理があるだろ」
「組織入ってる奴で、持ち出しできそうなのっていないか?」
「我々十三使徒に期待しても無駄ですよ」
「そんな金あったら、茶道部に冷暖房完備させとるわい」
「ジャッジでそんな事やった日には、焼き殺されるのがオチです」
「SOSの場合、ちょっとでも理由があったら焼き殺されかねないしな」
「部活は? 柔道部とか」
「同好会扱いだからな。金なんて貰ってねえよ」
「……厳しいなぁ。どこも…………」
 八方ふさがりでしばし黙る一同。しかし、その中で思いついたように声を上
げた男がいる。YOSSYFLAMEだ。
「そうだ! 今度のミスコン!!」
「おお、優勝者には生徒会長のイスって奴か!!」
「学校の予算を横流したぁ、さすがはYOSSY! やることがこすいっ!!」
 やんややんやとはやし立てる一同。…………が。

「……で、誰が出るのよ」

 結花の一言で全員が止まった。
「…………来夢! お前、女装して出ろ!!」
「ざけんなやぁ!」
「というか、アレは綾香が優勝するものとすでに決まっていてだな……」
「あああああ〜! いい考えだと思ったのに〜〜〜〜っ!!」
「あきらめるのは早いです、YOSSY!! まだ何か……女の子を立てて…
…寮の……女…………」
 きゅぴーん、と霜月の視線が結花に向く。
「ちょ、ちょっと……」
「結花さん!! 可愛い我々のために一肌脱いでください!!」
「結花さんだったらトップは確実ッスよ〜!!」
「我ら男子寮一同も積極的に協力しますとも!!」
「そうと決まったら罠の準備……」
「あ、真藤さん手伝いますよ」
 ずざざざざざざっ!! 寮生全員が結花の周囲に殺到する。全員目が真剣だ
ったりもする。やはり、金が絡むと人間団結すると言うことか。
「待ってよ! そんな学生じゃないアタシが出ても……」
「大丈夫、飛び入りアリです!!」
 逃がす気は無い。血走った目の連中が結花を取り囲み、囃し立てつつ脅迫す
る。
「大体、制服剥がしレースなんて、負けたらどーすんのよ!?」
「その点は大丈夫じゃぁ。このワシが責任をもって脱が……もとい守っちゃる
わい!!」
 鼻息荒く、平坂蛮次が承る。
「……信用……出来るかぁ!!」
…………のを、結花はティ・カウ・コーン(回し膝蹴り)で一蹴した。
「思いっきり逆効果やん」
「だから、平坂押さえとけっつといただろうがよ!!」
「最初に突破された山浦さんが言いますか!?」
 後悔あとに立つ。結花はきっぱりとした態度で寮生どもに向き直ると。
「とにかく、アタシは出ないからね!!」
 そう、宣言した。多分、その決意が翻ることは無い……と、思われる。
「……どーすんだよ……」
「いいアイデアだったんだがなぁ……」
「やっぱり、来夢が女装を……」
「ええかげんにしとけやコラ」
 意気下がる一同。大体、ミスコンに男子寮の連中が参加すること自体……。
「ふー、やっと八割方終わりましたか……ってあれ? 今日は暗いですね、皆」
 と、その時である。2、3日前から部屋に籠もっていた隼魔樹が降りてきた
のは。
「…………」
 一同、思わず黙って見入る。隼の……ゆたかなバストに。
「な、なんですか?」

「「「「「「お前がいたか!!」」」」」」

 かくして、隼魔樹は男子寮代表として、彼らの生活を賭けた戦いに狩り出さ
れる事を余儀なくされた。
「まー、楽しいからいいんですけどね」
 ま、本人もやる気十分だし、いいか(笑)