テニスエントリーLメモ 「ぎりぎりせ〜ふ」  投稿者:シッポ
「テニス・・・」
「えぇ、テニスですね」

 ここは情報特捜部部室。
 そして、在室者は二人。

「・・・んー、何故、テニス?」
「いえ、私に聞かれても・・・」

 長い黒髪を後ろで簡単にまとめてある男。
 そして、同じく黒髪をゆるやかに伸ばしている女性。

「そりゃそーだよな。わりぃ」
「いえ、それよりも・・・」

 男の髪は、俗に言う『馬シッポ』状態なのに対して、女性の方は見事な
ロングで対比もばっちり。
 いや、別に男と女の対比をしても仕方ないが。

「ん?」
「参加、するんですか?」

 男の名はシッポ。
 女の名はシャロン。

「んーむ、それなんだよなぁ・・・」
「はぁ・・・結局、まだ決めかねてるんですね・・・」

 シッポは事務用の椅子に背を持たれかけさせると、きぃと音を鳴らした。
 シャロンは、手にした急須でお茶を二つ、淹れていた。


 男は国連裏組織である−eden−に属する特殊隠密破壊工作員。
 女はそれをあらゆる面からバックアップし、作戦を成功に導くバックアップ。

 二人の関係は、パートナー同士。
 やや男の方が上か。
 が、お互いそんなことはあまり気にしていないようで、長年のつき合いもあって
仲の良い男女にしか傍目からは見えない。
 いつも馬鹿ばっかやってる彼らが今も現役の破壊工作のプロだと聞いたら、あの
志保がどんな顔をするか・・・一度見てみたいモノではあるが、機密の漏洩は自ら
の破滅をもたらす。常に彼らは細心の注意を払っていた。


「んー、何が決まらないって、まずルールだよ」
「はぁ、それぐらい知ってるでしょう? テニスのルールぐらい」

 シャロンはお茶の入った湯飲みをシッポの方にことんと置く。

「いや、種目としてのルールじゃない」
「? それじゃ、何です?」

 シッポは軽くさんきゅと言いつつ、湯飲みを手にする。

「この大会のルールだよ」
「あぁ、この『男女混合』って奴ですね」

 そして、一口、口を付ける。

「そ。適当なその辺の男共と組めないとなると・・・正直考えるモノがある」
「なるほど。要するにシッポさんは、『女性と組むのに抵抗がある』と、
そー言いたいわけですね」

 シャロンが自分の湯飲みをテーブルの上に置くと、ジロ目でシッポをなぶる。
 シッポは湯飲みを手にしたまま多少冷や汗を流しながら続ける。

「いや、もちろんシャロンとも・・・って考えたけどな。でも・・・」
「・・・でも、何です?」

 シッポは手の中の湯のみを弄んでいる。

「せっかくだし・・・今回は別の・・・」
「せっかくだから・・・の後が聞こえませんよ?」

 シッポは言いづらそうに語尾を濁すが、シャロンはわざとらしく耳に手を当て、
『聞こえないけど?』のポーズでシッポに聞き返す。

「いや・・・あの・・・別の人と・・・組みたいかな・・・って・・・」
「・・・ははぁ、なるほど。シッポさんは、『私と組むのが嫌』なんですね」

 シャロンはシッポの小声を遮って、更にその上から嫌と言うところを強調して
かぶせる。

「い、いや、別に嫌ってわけじゃ・・・」
「こんな楽しそうなこと、参加できる人はいいですよねぇ」

 シャロンはつんと顔を逸らせながら半眼でシッポを見ている。

「う、そ、それは・・・って、何で私がシャロンに卑屈にならないかんのだ」
「あ、開き直った。・・・せっかく面白かったのに」

 シャロンのぼそっと言うつぶやきは無視して、シッポはがばっと座っていた椅子
から立ち上がる。

「うむ。これは千載一隅のチャンスである。有効利用せずしてどーする?」
「いや、ですから私に言われても・・・」

 シッポは右拳をぐっと胸の辺りで握り締めると、気合を入れるかのように
そう宣言した。




「それで、誰を誘うかもう決まったんですか?」
「うーん。それなんだよな。希望はあることにはあるんだが・・・」

 とりあえず、シッポをいぢめるのは止めにしたシャロンではあったが、すっかり
話が別の方向にそれてしまった。
 その辺も考えて、シャロンは話を元に戻した。

「なら、その人に直接お願いしに行けばいいじゃないですか」
「それがなぁ・・・そう簡単に頷いてくれるかどうかわからんのだ」

 シャロンの問いに対して、シッポの返答はイマイチ煮えきらない。

「そうなんですか? でも、何事もやってみなくちゃわからないじゃないですか」
「んー、まぁ、そりゃそーだけどさ」

 シャロンはそんなシッポを見て、ふとこのままどんどん話を進めたら面白そう
などと思いついてしまった。 

「そうですよ。それじゃ、今から早速お願いに行きましょう」
「え? 今から? すぐ? ちょ、ちょっと待てよまだ心の準備が・・・」

 そうなれば話は早い。下手に考える時間を与えてどたきゃんされるのを防ぐため、
シャロンは容赦無く話を進めて行く。

「はいはい。そーいうのは歩いてるうちに済ませてくださいね」
「ひぇぇ、なんか今日はやけに強引になってないか〜?」

 これは面白いことになりそうだ。
 シャロンの勘がそう告げる声が聞こえた気がした。

「気のせい気のせい〜」
「嘘だぁぁぁぁ〜」

 シッポは無情にもシャロンに引きずられながら、部室を出ていった。






 テニスエントリーLメモ 「ぎりぎりせーふ」






「美咲先生・・・私とテニス大会出てくれませんか?」

 がらっ!!

 お昼時の賑やかさが支配する職員室のドアを開けて、つかつかつかと情報特捜部
顧問でもある沢倉美咲教諭の席に来るなり、開口一番にシッポはそう言った。

「シ、シッポ君・・・?」

 その時澤倉美咲教諭はちょうど前の授業の後片付けも終わって、手製のお弁当を
食べようと机の上にお弁当箱を置いたところであった。

「え、えと、シッポ君、どういうことなのかな・・・?」

 美咲は無言で自分の脇に立つシッポに、困ったような表情をしながら問いかける。

「えぇ、ですから今言った通り、暗躍生徒会主催のテニス大会に一緒に出場して
欲しいんです・・・駄目ですか?」

 シッポはその場で軽くテニスのラケットを振るような素振りをすると、再び美咲に
問い掛けた。

「え? で、でも、シッポ君は長岡さんと出るんじゃなかったの・・・?」

 さっきシッポは思いっきり扉を開け放って入ってきたので、周りの先生達や生徒が
ちらちらとこちらを見ている。

「・・・は? そんな話はまったく聞いてませんけど?」

 シッポはそんな無遠慮な視線はものともしていないが、美咲のほうはかなり
恥ずかしいようで、ちょっとそわそわしている。

「私はずっとそうだとばかり・・・違うの?」
「違います」

 シッポは即答する。

「で、でも、私なんかじゃシッポ君の足を引っ張るだけだと思うし・・・」
「問題ありません」
「でも、出るからには当然上を目指すんだよね・・・?」
「こういうのは参加することに意義があるとオリンピックでも言っています」
「あれは・・・厳しい世界だし」
「あー、いーんですって。私は美咲先生と出場できればそれでいいんですから」
「でも・・・」

 シッポはぱたぱたと手を振りながら、気楽そうに言うのだが、美咲の方は
自分の運動能力をかなり気にしているようだ。

「ふむ・・・美咲さんっ!!」
「えっ!? は、はいっ!?」

 シッポはすぅっと息を吸うと、突然大声で美咲に呼びかけた。

「・・・失礼しました。美咲先生、楽しくやればいーんですよ。こーいうのは」
「・・・うん、そう・・・だね」

 初めこそびっくりとした表情と共にきょとんとしていた美咲だったが、シッポ
の気遣いに気付くと、にっこりと微笑みながら頷いた。

「さーて、そうと決まったら放課後にでも登録に付き合ってもらえますか?」
「うん、それじゃ、放課後にね」
「はい、よろしくお願いしますねー」
「待ってるね」

 シッポはにっこり微笑みながら見送ってくれている美咲に一礼すると、入って
きた時とは打って変わって足取りも軽く職員室を出ていった。





「・・・あれ? ・・・誰も居ないの?」

 がちゃり。

 特捜部の部室を明けるなり、志保は意外そうな声で、そうつぶやいた。

「っかしいわねぇ・・・確かシッポが戻ってたはずなんだけど・・・」

 事実、先程までシッポとシャロンはそこに居た。テーブルの上に置き去りに
された二つの湯飲みと急須がそれを物語っている。

「あ、なんだ、やっぱ居たんじゃない・・・今は居ないけど」

 志保はその湯飲みに気付くと、自分も戸棚から自分専用のマグカップを取り
出して、コーヒーサイフォンのスイッチを入れた。


 この部には何故か紅茶・お茶・コーヒーをいれる道具一式が揃っている。
 元々は悠が紅茶セットを持ち込んだのが最初だが、その後はいつの間にか誰かが
何かを持ってきて、その内ついに喫茶店にも引けを取らないような設備が整った。
 あれば使うモノで、部員それぞれがまぁ飲める程度には入れられるようになった。


「んー、テニス大会盛り上がってるわねぇ。ここは一つこの志保ちゃんも出張って
内部からの取材を敢行するしかないわね」

 志保はコーヒーサイフォンから吹き出す蒸気を眺めながら、楽しみそうに
カップをくるくると手の平の上で回している。


「よし、帰ってきたら早速強制連行ね。今回はやるわよ〜〜♪」

 一人で勝手にシッポと出ると決めてかかっているのである。

 こぽこぽこぽっ!

「あ、はいはい出来た出来たっと・・・」

 こここここここ・・・。

 志保は彼女専用の−あかりから貰った熊のマークがついた−マグカップへ
サイフォンの中身であるコーヒーを移した。

「ん〜。やっぱコーヒーはこーでなくっちゃね!」

 豆、そしてドリップにまでこだわったコーヒーの香りはまた格別だった。
 志保はじっくり味わいながら再び手にした参加者リストを眺めていた。





「だから、こうも上手く行くなんて思わなかったんだってばよ」
「でも、良かったじゃないですか。上手く行って」

 がちゃり。

 ちょうどどの時、扉を明けて中に入ってきたのはたった今美咲とテニスへの
出場を決めてきたシッポとシャロンだった。

「ん? おぅ、来てたのか」
「居たわよ」

 いつもどおりの会話。実際こんなモンである。

「ふぅ。これでよーやっと私も一安心だな」
「そですね。後は練習あるのみです!」

 シッポはどかっと椅子に腰掛けた。
 シャロンも隣に腰掛ける。

「練習って・・・何のよ?」

 その会話を何となしに聞いていた志保は、ちょっとした興味心から聞いてみた。

「あぁ、テニス大会だよ」
「シッポさん、今美咲先生と出場を決めてきたとこなんですよ」

 二人がかわるがわる説明する。

「な、なんですって・・・?」

「何か不味い事でもあったか? どーせ取材はお前が一手に引き受けるんだろ?」

「・・・そうよ。そのつもりだったのよ・・・」

 と、それを聞いた志保の様子が少し変わった事に、二人はまだ気づかなかった。

「んじゃ、問題無いな。頑張れよ。私は美咲先生と楽しく出場させてもらうから」
「シッポさん嬉しそうですねぇ」
「・・・」
「うむ。楽しみだぞ。なんせ美咲先生と組めるんだからな」
「あ、そうだ。後で特訓しましょうね。美咲先生呼んで」
「・・・」
「ふむ。先生には楽しめればいいとは言ったけど、試合にならないのは問題だしな」
「そうですよ。せめて一度ぐらいは試しにやってみないと」
「・・・」
「うーし。んじゃ、早速今日やってみるか。服とかの用意は任せたぞ」
「了解です。とりあえず後で学校の備品を借りてきますね」
「・・・」

 と、その頃になってようやく、二人は志保の様子がおかしいのに気づいた。

「・・・どした?」
「何かあったんですか?」

 と、二人が聞くと、志保はゆらぁりとこちらの方へゆっくりと向き直った。

 ・・・はっきり言って、不気味だ。

「・・・今回のコンセプトはね・・・」

「ん、んん・・・」

「・・・大胆にも大会内部からの独占取材だったのよッ!! それをアンタが勝手
に他と組んじゃってどーすんのよっ!? パートナーいきなり消滅じゃないッ!!」

 ばぁん!!

 志保はそう叫ぶと目の前のテーブルを思いっきり叩いた。

「・・・は?」

「は? じゃないわよッ!! 美咲先生にもちゃんと話しておいたはずよっ!?」

「んじゃ、私とお前が組むとか美咲先生に言ったのはやっぱお前だったのかッ」

「そーよっ!! もう特捜部として出場することは決定済みだったのよっ」

「そこでなんで私だっ!? 城下のほうが運動できそうだろっ!?」

「一樹はさおりんと出たいって言って断られたのよっ!! そしたらアンタしか
居ないじゃないッ」

「だからって本人の了承も得ずに勝手に話を進めたお前が悪いんだろっ!?」

「だから今から言おうとしてたとこなんでしょ!?」

「そんなん私が知るかぁぁぁぁぁぁっ!? 今更遅いわッ! 私はもう美咲さんと
出ると決まったんだッ!!」

「だったら今すぐコンビ解消しなさいよっ! んで私と部の為に出るのよっ!!」

「お断りだぁぁぁぁぁぁっ!! テメェは勝手に誰かと組め!!」

「何よその言いぐさはっ!? 責任感というものがアンタには無いのッ!?」

「っていうか形式上何の役職にもついてない一般部員に責任が発生するかっ!!」

「今更何言ってんのよっ!! そんなの関係無いじゃないッ!!」

「先に持ち出したのはお前だろうがっ!!」

「それはそれ、これはこれよ!!」

「都合のいい寝言こいてんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!!」

「とにかく! 私達が出るのはもう決定事項なの! 美咲先生は諦めなさい!」

「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!! 絶対、私は美咲先生と出るからなッ!!」

「何よ!? この志保ちゃんとやろうっての!?」

「望むところだっ!! 私が勝ったらお前私のことは諦めろよ!!」



 ・・・ずずず。

「ふぅ。今日もお茶がおいしいですねぇ」

 シャロンはもう既に完全にこの特捜部名物口喧嘩に慣れてしまっていた。
 今日もあぁまたかといった感じでお茶をすすっている。
 暢気なものである。
 止めるとか言う考えは全く無いらしい。


 まぁ、別に誰が困るわけでもないからいーか。(いいのか)


 今日の大空は気持ちの良い五月晴れ。
 まばらな白い雲が、爽やかな初夏の風に吹かれて流れていた。



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その後1

 あ、そうそう、結局この勝負は放課後ゲーセン三本勝負でシッポの勝ちだった
らしい。
(内訳はD○R2(アナザー)がシッポの勝ち。子育てクイズマ○エンジェル3
が志保の勝ち。500円UF○キャッチャー勝負がシッポの勝ちだった。
ちなみにキャッチャーの戦利品はピングーぬいぐるみとビッグテディベア)


その後2

 結局、この日の放課後は志保との勝負に費やしたため、美咲とシャロンは待ち
ぼうけを食らったらしい。
 しかも、志保とゲーセンで遊んでたのがバレたらく、二人とも本気で怒った
ようだ。
 結局三日ほど口を利いてもらえなくてエラく難儀したらしい。
 みんな、約束はちゃんと守ろうね。
 (二人には戦利品のぬいぐるみを貢いで許してもらったらしい)


その後3

 タイトルの通り、結局エントリーが出来たのは締め切り最終日だったらしい。
 だからぎりぎりせ〜ふなのか(笑)



 とゆことで、シッポ×沢倉美咲ペア、エントリ〜させて頂きます〜(ぺこり)


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後書き〜

 ふぃ。投稿もぎりぎりせ〜ふなシッポでございます。(笑)
 なんか最近文が書けませんで、エラく苦労しております。
 読みにくかったり表現が変なところは平にご容赦を(ぺこり)



 ふぅむ、後書きと言っても大して書く事もなさげのような・・・。
 っと、おぉそうだ、このペアの特色を説明しましょう。

 シッポが美咲をカバーする。 以上(笑)

 ほとんどシッポが一人で処理するつもりで居ます。
 今のところあんまり美咲さんに無理はかけられないし。
 美咲さんが前衛。私が後衛の予定です。

 とゆーことで、参加することに意義がある私達は一回戦敗退で全然おっけっす。
 楽しくやれりゃそれでい〜のさ〜♪

 よっしーさん。そゆことでよろしくお願いしますです〜(ぺこり)