「…何を書いてるんです?」 シャロンはテーブルに向かって何かを書いている彼―YF−19― を見て言った。 「ん? …んん…入学手続き」 そう言うと、彼はペンを走らせる手を止めてシャロンの方を振り返った。 振り返った彼の視線の先には、紅茶一式をトレイに載せたシャロンの 姿があった。 「お、紅茶か。いいねぇ」 そう言って彼は、顔をほころばせた。 「ええ。もうすぐ三時ですし」 シャロンもそんな彼の表情に満足したらしく、ティーポットから紅茶を 注ぎだした。 「そうそう、シャロンが私を呼ぶ時の―シッポ―だけど…」 しばし香りと味を楽しんでいた彼が、ふと何かに気付いたかのように シャロンに話しかけた。 「はい? どうしました?」 シャロンも微笑みながら返事をした。 「うん…これ、借りても…いいかな?」 彼は少し言いにくそうにシャロンに言った。 「え? …どうしてです?」 シャロンはちょっと意外そうに彼に聞き返した。 「普通の学校の生徒が…YF−19だと、なんか…ヘンじゃない?」 彼は少し考えながらシャロンに言った。 「そうですか?そんな事ないと思いますけど?」 彼女は、小首を傾げながら答えた。 「そうかな? …でも、やっぱりシッポの方がいいと思うんだよ」 「それでしたら…ぜひ使ってください。私以外の人にそう呼ばれるのは… あんまり嬉しくないですけど…」 シャロンはYF−19の方を向いて、ちょっとはにかみながら言った。 「そっか…。じゃあ、新しい呼び方…考えるか?」 彼はシャロンの右手を取って、弄びながら言った。 「いいえ。私にとってシッポさんはシッポさんです。…例え他の方にそう 呼ばれようとも…私にとってはシッポさんなんです」 シャロンはそんな彼を見て少し安心したように言った。 「そっか…」 今度はYF−19が微笑んで答えた。 「さて、必要書類は全て送ったな。後は…直接出向いて提出する書類と手続き が少し残ってるな」 YF−19はテーブルに向かいながら一人つぶやいた。 シャロンは紅茶セットの片付けに行った後だった。 「えーと、あれが出来上がるのは…明日か。じゃあその足で行っちゃおうかな」 彼はそう言いながら脇に置いてあるベッドに仰向けになって倒れ込んだ。 ぽふっと言う音を立てて、彼の体が柔らかいベッドの中に少し沈む。 「ふぁぁぁ。ねむ…ちょっと一休み…」 時間は三時半を回ったところ。 まだ寝るには早すぎる時間だが、昼下がりの陽気が彼を眠りへと誘った。 眠りに落ちる寸前、うつらうつらしている時、彼は微笑んでいるシャロン を見たような気がした。 「エアコンつけたまま寝ると風邪引いちゃいますよ…」 という声と共に。 そして、目覚めた時、彼には毛布がかけられていた。 Lメモ自伝 シリーズ第一話 「木漏れ日」 第一章 出発 「ふぁぁぁぁ…あふ」 朝、YF−19は目覚めるとまず、大きなあくびをした。 彼はあくびをしないと起きた気がしない。これも一種のクセなのだろう。 「んー…ん」 そして伸びをする。朝起きたての伸びは、健康にも発育にもよい。 その頃になるとシャロンが彼の目覚めを感知して現れる。 「おはようございます。シッポさん」 出現場所はいつも通り、ちょうどベッドの脇辺り。 「んー…おはよ…」 彼は眠そうに目をこすりながら挨拶を返した。 そのままゆっくりと立ち上がって洗面所へ。 シャロンの方は、その間に彼の着替えなどを用意する。 顔を洗い、用を足すと戻ってきて着替え始める。 シャロンは彼が洗面所から出てくると、消えてしまう。 シャロンも女の子だと言う事だ。 「ええと…まずクリスのところへ受け取りに行って…」 着替えを終えると、その日一日の大体の計画を立てる。 そして、部屋を出て食堂へ向かう。 時間は七時半。ちょうどいいくらいだろう。 彼は、廊下に出てエレベーターの下りのボタンを押した。 「クリスー、出来てる?」 彼は朝食の後、技術部のラボに来ていた。今日は彼愛用の盾 ―ソウル・ハッカーズ―のオーバーホールが終わる日なのだ。 「ええ、出来てるわよ」 そう言ってひょいっと顔だけをこちらに覗かせたのは、彼担当の技術者 ―クリス・リート という―の眠そうな顔。彼女の歳は二十四。 驚くべきことに、彼女はこの若さでソウル・ハッカーズの初期設計段階から 関わっている。 天性のひらめきと、それをモノにする実行力を兼ね備えた頼もしい女性。 それがYF−19の感じた感想だった。 「よかったー、遅れたら困るからね」 彼は、そう言いながら彼女の席に近づいていった。 彼女は何かの調整をしている途中だったらしい。机の上にはパーツと おぼしき機械類が並べられていた。 「何してたの?」 彼は素直に疑問を彼女にぶつけた。 「これ? そうねぇ…―ペルソナ―の出力増強装置…とでも言っておこっかな」 彼の使っている盾―ソウル・ハッカーズ―の事を彼ら技術部の関係者たちは、 開発段階のコードネーム―ペルソナ―と呼ぶ。 ソウル・ハッカーズと言う名はYF−19がつけたのだ。 「増強ってことは、性能が全体的にアップするとか?」 彼はそれとおぼしき装置に触れながら言った。 「ま、そんなとこね。でもまだ完成段階じゃないのよね」 「あ、そうなんだ…」 彼は少し残念そうに言った。 「イマイチいい結果が出ないのよねぇ…」 彼女は彼の手からその装置を受け取ると、くるくると回転させながら言った。 「ふぅん。まだもうちょっとかかるの?」 「ま、ね。もう少し上限域での性能向上が見こめれば完成なんだけど…」 そしてそれを机の上に置くと、くるりと椅子を回転させて立ち上った。 「もうちょっと頑張ってみるつもり」 「そっか。でも、無理は駄目だよ?」 彼女はそう言った彼を見てふふっと笑った。 「ありがと。やさしいんだ」 「え? …ま、ね」 彼は先ほどの彼女の台詞を真似すると笑った。 彼女も笑っている。 普段は気丈な面もある彼女がこんな場面を見せると言う事はほとんどない。 特に、同僚達のいる前などではそれが顕著に表れる。 ほとんど笑わなくなるのだ。 態度もひどく事務的になる。 そんな事もあって、彼ら同僚達からは仕事の鬼とまで呼ばれている。 それは、彼らが彼女の本当の姿を知らないだけなのだが、古い付き合いで あるYF−19にとってはもったいないなと思っている事でもあった。 ただ、面と向かって言っても反発するだけ、と言う事は今までの事から わかっていたので、もう言葉では何も言わない。 その代わり、彼女が誰かを気にするようになったら、協力を惜しまない つもりだ。 YF−19は公私共に彼女にかなり世話になっている。 その恩返しの意味も込めてのことだった。 「ま、なんにせよこいつが戻ってきてよかったよ」 彼は彼女から受け取ったオーバーホール済みの盾―ソウル・ハッカーズ― を受け取った。 「そうね。私達も誰か他の人に使わせるかどうか協議するとこだったものね」 今回の一件で一番煽りを受けたのは他でもない、技術部なのだ。 「うん、それに関してはちょっと悪かったかなって思ってるんだけどね」 YF−19は少しすまなそうに彼女に言った。 「ううん。いいのよ。結局は現状維持かそれ以下の対応になったんだから。 私達としてはあんまり変わらないもの」 彼女は気にしてないと言うような素振りで言った。 「うん…ほんとに思いつきで言ったらかなっちゃったからね…」 彼は左腕に装着した盾を眺めながら言った。 「その方がよかったんだよ。君にも私達にも」 そんな彼を見ながら彼女は言った。 「そうだね。そう思ったほうが運命的だね」 彼女は自分の作った物に対しての愛着からか、それを大切にしてくれている 彼のことまで好意の対象にしていた。 彼はそんな彼女の様子に一向に気付いていないが、恐らくこの先も気づく 事は無いだろう。 「よし、じゃぁそろそろ行くね」 「うん。行ってらっしゃい」 彼は、彼女の心中を察する事も無く別れの挨拶を交わすと、機体格納庫へと 向かって歩いて行った。 後ではクリスが微笑みながら手を振っていた。 「あ、シッポさん。準備は済ませておきました!」 機体格納庫に入ったYF−19を誰よりも早く見つけたシャロンが、彼に 出発の為の準備が終わったと告げた。 「ありがと。じゃあ、すぐ出発しよっか」 にこにこと嬉しそうに笑うシャロンにそう言うと、彼は愛用機 ―バルキリーシリーズ試作機 YF−19(カスタム)―に乗り込んだ。 この機体名は彼のコードネーム―YF−19―と間違えそうでややこしい。 実は彼のコードネームは彼の愛用機でもあるこの機体名からつけられている。 混乱の無いよう、機体名の時にはそれなりの記述をするつもりなので、 どうかご容赦願いたい。 ぴっぴっぴ…ぐぅぉぉぉぉぉん…きゅぅぅぅぅうぅん…。 エンジンのスターターが作動し、眠っていた鋼鉄の鷲を震わせる。 最終チェックをしながら、ランウェイエンド(滑走路の端)まで機体を 移動させ、エンジンをふかす。 「…じゃあ、行くぞ!」 「はいっ」 彼は副座に座っているシャロンにそう言うと、滑走路を一気に加速させ、 飛び立って行った。 後には核熱バーストタービンの発した轟音だけが残った。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― …まずはお詫びを。 すいません。話、膨らみすぎました。(^^; 出演予定者の皆様、出番はもう少し先になリます。 でも、ただ話が長くなっただけで筋は変わりませんから必ず出させて頂きます。 で、一話完結の予定だったのを、一話の中で更に章ごとに分けました。 変更点は以上です。 お礼レス △佐藤さん こちらこそよろしくお願いしますっ。 気長にやってくつもりですけど見捨てないでくださいね。(汗) △u.gさん はやや〜、いきなり大きな役でシャロンを出して頂いて感謝ですっ。 こちらも勇希先生お借りさせて頂きます。(ぺこり) んでは、定番のキャラを交えてのあとがき(なかがき?)なぞを…。 YF−19:はー。眼が疲れる…。 クリス :お疲れ様。 YF−19:(びくっ)えっ? …あ、クリス? …なんでここに? クリス :なんかね、出番が増えたみたい。で、出演要請があったから。 YF−19:ははぁ、アレだな。その回で目立った奴と作者が雑談する奴。 クリス :…実も蓋もない言い方するわねぇ(汗) ま、そうなんだけど。 YF−19:細かいこと言うねぃ。面倒くさい。 クリス :…何で江戸弁なのよ。 YF−19:気にするな。それより、いきなり出てきたな。お前。 クリス :なっ、あんたが出したんでしょ? 予定になかったのに。 YF−19:ふふん。でもそのお陰で出番が来たんだろうが。感謝しろ。 クリス :…どうせその場の思いつきのクセに。(ぼそり) YF−19:(ぎっくぅ)・・・な なぜお前がそのことを知っている!? クリス :…あきれた。本当だったのね。 YF−19:だっ 騙したな!?僕の気持ちを裏切ったな!? 父さんと同じに裏切ったんだ!! クリス :何言ってんのよ。自爆したくせに。 YF−19:(ぐさっ)う………(汗) クリス :………… YF−19:…ま、まぁ その辺の事は置いておいて…。 クリス :置いとかないでよ。私の存在意義に関わるから。 YF−19:…(たりたり) と とにかく、次回ではやっとLeafキャラ が出ます。 クリス :そう言えばいなかったわね。今回も。 YF−19:…(たりたりたり) 志保です。志保が出ます。やっとです。 クリス :ほんと、やっとよねぇ。…で、私は何の為に生まれたわけ? YF−19:…(だらだら) んで、次回のサブタイトルは「出会い」です。 クリス :なんかいかにもって感じねぇ…。もっとヒネれなかったの? YF−19:うるさいっ。これはこれで味があっていいんだよっ。 クリス :やっとこっち見たわね。で、答えは? YF−19:んではまた、次回お会いましょう!!(強引) クリス :ちょっと、こんな終わり方していいと思ってんの? YF−19:さて、次の章に取りかかるか…。 クリス :待ちなさいよ!まだ私の事が説明されて…(フェードアウト)