部活Lメモ ―FILE NO.1 『学園の奇跡! 現存した食の楽園』― 投稿者:YF−19
「…そりゃわかった。んで、今度は後ろの集団が何なのか説明してくれ」
 シッポは追われていた。
 約4人程に。
「さ、さぁ? ちょっと私にもわかんないわね」
 志保も追われていた。
 シッポと共に。
「そんな訳ないだろう? アイツらはお前を追ってきてるんだから」
 シッポはにこやかに志保に問い掛ける。
「そ、そう? 私を追ってきてるなんて初耳ね」
 志保は汗ジトになりながら答える。
「ほう…なるほどね。そー言う事言わせるのはこの頭かぁぁっ!」
 すっぱぁぁぁんっ!
 シッポはそう叫ぶと志保の後頭部を思いっきりはたいた。
「たっ! なっ何すんのよ!」
 志保は目の端にちょっぴり涙の雫を溜めながら講義する。
 シッポは一瞬
(ちょっと強くはたきすぎたかな?)
と思ったが、
(いや、いいんだ。被害者はこっちなんだから)
と思い直した。
「お前が撒いた種だろうがっ! お前が始末しろっ」
 そう叫びながらシッポが後ろをちらりと振り返って見ると、早速
足の速い一人が頭一つ飛び出しているところだった。
「てめえらぁぁぁっ! そこで止まれやぁぁぁっ!!」
 YOSSYFLAMEだった。
 彼は人一倍足が速いのがウリだ。
 かと言って他のメンバーが遅いかと言うと、そうでもないのだが。
「そんな事言ったってアイツらに普通の話し合いが通じると思う!?」
 志保も一瞬後ろを振り返りながら、半分絶叫のような感じで答える。
「大体、お前がいっつもあんな記事ばっか書いてるから、こんなことに
なるんじゃないのか!?」
 彼らはすでにかなり近くまで追ってきていた。
「失礼ねっ! 志保ちゃん情報が悪いっての!?」
 志保はさも心外だといった感じでシッポに言った。
「その通りっ」
 シッポは自信を持って即答した。




部活Lメモ ―FILE NO.1 『学園の奇跡! 現存した食の楽園』―




「…ふむ。なかなかいけるじゃないか」
 悠朔はそう言って手に持ったたこ焼きをひょいぱくひょいぱくと口に
進めた。
「いやぁ。そう言ってもらえると嬉しいっすね」
 XY−MENも客に誉めてもらってちょっと照れている。
「うん。ホンマ結構イケてると思うよ」
 委員長こと保科智子も悠に相槌を打つ。

 二人はXY−MENが経営しているたこ焼き屋の前にいた。
 XY−MENは生活費を稼ぐ為にこの屋台をやっていると言う話を聞く。
 実に勤労学生。
 余談だが、L学園に主夫という職業が定着しつつあるこの現状。
勤労学生自体はあまり目立ったものではないと言うのが残念である。
 …閑話休題。

 店は至って普通のよく露店にでているようなタイプの屋台。
 そこでXY−MENが頭にねじりハチマキをつけながらせっせと商売し
ている。

 む。あー、そこそこ。そう、君だよ君。
 学園の許可を得ているのかとか、保健所に申請しているのか等という
突っ込み、聞こえてきそうで聞こえてこないこの学園ではどーでも
いいことなのです。決して口にしないよーに。

 たこ焼き一パック(ノーマル)の値段は10個300円と良心的。
 っていうか、絶対利割れしてるだろ? それ。
 ま、それはともかく、味の方はとっても美味いらしい。
 なぜなら、たこ焼きにはうるさい悠と智子が納得しているからだ。
 悠はなぜかたこ焼きについては辛口になるそーだ。
 好物がゆえのことなのだろうか? ちなみにこの話は後で初めて聞いた。
 智子の方はまた気合が入っていて、
『関西圏の人は自分で作った味より美味しくなければ買わない』
 という話があるほど、ことたこ焼きと関西弁に関しては厳しい。
 関西人が認める味と言う事は、そこのたこ焼き屋は合格点の味を持って
いると言う事になるのだ。
 全国のたこ焼き屋の皆さん。関西人のお客さんを頼りにしましょう。

 実際結構繁盛しているようで、最近では昼休み・放課後の営業時間に
なるといつも屋台前に誰か客がいると言う状況だ。
 んで、今はこの二人がそのお客。

「そうそう…悠さん、今度新製品考えたんですけど、一つ…どうです?」
 ふとXY−MENが、アイスピックで反面焼けた奴をひょいひょい
ひっくり返しながら悠に言った。
「ん? 新製品? いいねぇ。じゃあ、一つもらおうか」
 悠が手元のたこ焼きを一個口の中に放り込みながら言った。
「ヘイ、毎度〜♪」
 XY−MENは活き活きとした顔で、早速新製品とやらを作り出した。
「オーダーUPかぁ。いいねぇ…うん」
 オーダーUPとは注文を受けてから生産をはじめること。
 この場合焼きたてを食べれるので悠も喜ぶわけだ。
「ちょっと趣向を凝らしましてねぇ。今までにない奴を目指したんですよ」
 XY−MENがぽんぽんと具を放り込みながら言う。
「ほぉう。それは楽しみだな」
 悠も悠でちょっと期待していたりする。
「いや、ノーマルだけでもいけるって、ホンマ」
 智子はノーマルがお気に入りのようだ。
 じゅぅぅぅ。じゅっじゅっじゅ…。
 辺りにたこ焼きの焼けるいい匂いが立ち込め、それをアイスビックで
ひょいひょいとひっくり返す音が響く。
 XY−MEN必殺の『匂い落し』だ。
 ほら、よく鰻屋とかでやってるでしょ?
 店頭で実演調理して匂いをばら撒くって奴。
 あれですよ。あれ。
 匂いにつられてつい買っちゃったりするんですよねぇ。
 たまには鰻もいいか〜なんて言いながらね。
 …こほん。

 ま、それはいいとして、とにかく平和だった。
 学園の日常にしては珍しく平和な食事風景だった。
 彼らが来るまでは。



「あーっ! 悠っ! そこで何やってんのよ!?」
 この騒がしい声は副部長こと志保の声だなと思いつつ悠は面倒臭そうに
後ろを振り返った。
「何って…たこ焼き食べているのだが? おや、シッポも一緒か。
ご苦労さん」
 シッポは一瞬何がご苦労なのか考えてしまったが、志保の相手をすると
言うことだと思い当たると意外にあっさり納得いってしまった。
「えぇ、ホントに…って違う! 部員がこんなエライ目にあってるって
のにアンタ一体何してるんだ!?」
 シッポはうんうんと頷きかけながらはっとすると、平和にたこ焼きを
食べている悠に向かって叫んだ。
「だから、たこ焼きを食べているとさっきから言っているのだが…ひょっ
として、見て分からんのか?」
 悠はあくまでも平和を満喫しているようだ。
「あああっ! 違うっ! そーじゃなくて、普通部員が追われてたら何が
あったんだって助けるモンでしょ!?」
 シッポが半分絶叫するように悠に訴えかける。
 隣で志保もうんうんとうなずいている。
「ん? お前ら追われてるのか? そーか。大変だな」
 悠は何てことないような口ぶりで答えた。
「ま、頑張れや。後で報告ぐらいは聞いてやるから」
 助ける気もないようだ。
「ちょ、ちょっと! アンタそれでも部長なのっ!?」
 今度は志保が絶叫するように悠に言った。
「部長と言っても形だけだからな。実際今はお前が全て取り仕切っている
ハズだが?」
 悠は簡単に志保の追及をかわすと、逆に攻め入った。
 志保はうっとなりながら助け舟を求めるようにシッポの方を向いた。
 シッポはそんな志保を横目に見つつ、ふと後ろはどうなったのかと思い、
振り返ってみた。
「うわっ。こんな事してる場合じゃない! 奴らが来たっ!」
 シッポはそう言うと、再び逃走を開始した。
 志保も一瞬遅れながらも慌てて逃走を開始する。
「頑張れよ〜」
 悠の間の抜けた声が背後から聞こえたが、振り返っている余裕はない。
 二人は悠の励ましの声を無視してさっさと逃げ続ける。
 いつの間にか後続集団との差は一教室分程しかなくなっていた。
「情報特捜部ぅぅっ…くたばれ! 雹っ!」
 追う者の一人、ディアルトがそう叫びながら手首のスナップを効かせて
二人に何かを投げつけた。
 ひゅんっ!
 投げられた物体は二人の間を掠めて飛んでいった。
 投げられた何かが志保に当たろうとした瞬間、シッポが彼女の肩を突き
飛ばして助けたのだ。
「ちっ、外したか」
 後ろでディアルトが悔しがっている。
 飛んでいった物は…ぱっこぉぉんっ!
 誰かに当たった。
 あれは…「不死身の欲望」こと秋山登だ!
 二人はそれに気づくとその場で揃って右に曲がった。
「誰だっ? やったのは誰だっ? …もっとやってくれぇぇぇぇっ!!」
 秋山はむくりと起き上がると、周りで必死に首を振っている一般生徒に
は目もくれず、こちらに向かって走りこんでくるディアルト達の集団めが
けて思いっきりダッシュをかけた。
 ディアルト達にしてみれば別に秋山に向かって走っているのではない。
シッポ達を追っているのだ。
 こんなところで時間を潰したくもないし、何より相手をしたくない。
 そんな感じで少しもめたが、結局YOSSYFLAMEが
「お前が当てたんだからお前が相手をしろ」
 と言う言葉と共に秋山の方にディアルトを蹴り出し、一応決着がついた。
「ちくしょぉぉっ! このっ、このっ、…なぜ倒れないんだぁぁっ!?」
 一同はディアルトの悲痛な叫びを背に、シッポ達の後を追った。
 …合掌。


「ふっふっふ。よしよし…」
 そんな彼らを影から見ている二人組があった。
「これで成功なの?」
「いやいや…、もう少し暴れてもらわなければな」
 隣に立つ相方の質問に笑っていた方が答えると、二人は再び姿を消した。



 ところで、なんで彼らは追われているのだろうか?
 その原因を突き止める為、少し時間を戻してみよう。



「ふぁぁぁぁ…ねむ」
 情報特捜部の部室で、悠朔は暇を持て余していた。
「そこ、仕切り線入れといて」
 志保は校内新聞作りの真っ最中だった。
「了解」
 シッポも同じく作業中だった。

 今号の情報特捜部発刊である
「報道審判 judgment days」
 のテーマは、
『意外とおいしいXY−MENのたこ焼き屋』
という食べ物特集だった。
 情報特捜部にしては珍しいテーマだったが、読者のニーズを考えようと
言うシッポの提案に志保が屈した結果であった。
 会議の途中、
「たまにはマトモな記事がないとそのうち誰にも読まれなくなるぞ」
 などと言うシッポの爆弾発言によってかなり揺れたりもしたのだが、
結局は普通にXY−MENのたこ焼き屋を取材して普通に記事にして普通
に掲載することで話が落ちついた。
 志保はかなり渋ったのだが、他の部員も結局そう思っていた節があった
らしく、多数決でシッポが勝利を収めた。

「ここは切るのか?」
「その方がいいわね。後の文章が引き立つから」

 今、部室には珍しい事にシッポと志保と悠しかいない。
 今日はたまたまこのメンバーになったのだが、シッポと志保が二人で
いる事自体は珍しくない。
 むしろ悠がいることが珍しいのだ。
 なんせこの部長、やる気があるのかと思うくらい部活活動を全然しない。
 シッポが入部する前から既にそうだったらしく、部員達は何も言わない。
 まぁ別にだからどうこうと言うわけでもないので、シッポは深く追求し
ないことにしていた。

(それにしても…いつ見てもぐーたらしてるな。この人)
 シッポは今作業している新聞のレイアウトを考えながら横目で悠を見た。
 見たところ先程からずっと、奥にある休憩室の畳に寝転がってあくび
ばかりしている。
(そんなに暇なら帰るか作業でも手伝えばいいのに)
 シッポはそんな事を考えたが、やる気があるのなら初めからやっている
かと思い直すと、作業を再開した。

「あー、これコピーとって来なきゃ。…シッポ〜、行って来てくんない?」
 しばらく作業を続け、ようやっと完成まで後一歩というところまで来た
時、志保が手を止めて何かを気付いたようにシッポに言った。
「あ? コピー? んなモン自分で行けよ」
 志保は集中力が切れたように机に突っ伏すと、シッポの方にコピーが
必要らしい紙をちらつかせた。
「私、輪転機の方ちょっと行ってくるからさ〜」
 志保は机に突っ伏したまま気だるそうに言う。
「…はぁ、わかったよ。何部だ?」
「15部〜」
 シッポは一つ溜息をつくと、志保の手からその紙を受け取り、職員室へ
とコピーを取りに行った。

「さて…私も行かなきゃ」
 志保もしばらくだれると、ようやく机の上から体を起こして机の上を
簡単に片付けはじめた。
「あ、そーだ。悠、たまには仕事しなさいよ」
 そのまま奥の悠に向かって言う。
「…面倒くさい」
 悠は仰向けに寝転がったまま、一言そう言った。
「いーから。…そうね、占いのコーナー任せるから。やっといてよね」
 机の上を片付け終わった志保が、悠の脇に来た。
「…どーしてもか?」
 悠はごろんと身体の向きだけを変えて志保と向き会った。
「どーしてもよ。ここにあるくじ適当に引いて、それをまんま書けばいい
だけなんだから。それぐらいやんなさい」
 お前ら、そんなモンで占いのコーナーやってたんかい。
「ちっ…仕方ないな」
 悠は暇つぶしぐらいにはなるかなと言った感じで渋々引きうけた。
「じゃ、頼んだわよ〜」
 志保はそう言うと扉を開けて出ていった。

「めんどくせぇ…」
 悠はしばらくすると、眠い目をこすりながら渋々作業をはじめた。
 占いの為の紙は、よくスピードくじに使うような四角形の箱の中に
あらかじめ大体当たりそーな事を書いて入れてある。
 これを星座の分だけ12枚、適当に引いてそこに書いてある事をその
まま書く。
 週刊誌の編集部などでよく使われる手口である。
 悠はごそごそと適当に12枚引くと、次々と開封しだした。
 そして開封した紙に書いてあることを、機械的に記事記入欄に記入する。
 その作業が終わると先程志保がそうしていたように、テーブルの上に
突っ伏してそのまま寝てしまった。
 …がちゃり。
 しばらくした後、不意に扉を開ける音で悠は目を覚ました。
「部長、副部長が原稿はまだかって言ってますけど…?」
 一般部員が志保の言伝で部室にやってきたのだ。
「む…、出来ている。持って行け」
 悠は半分寝ぼけながら先程自分が仕上げた原稿を一般部員に手渡した。
「あ、ハイ、わかりました」
 一般部員は悠から原稿を受け取ると、志保の元へそれを持って走って
行った。
「ふぁぁぁ…少し出てくるか」
 悠はそう言うと部室を後にした。


「志保の奴…人を小間使いにしやがって。私はOLか?」
 シッポはぶつぶつ言いながらコピーを取っていた。
「いちにぃさんしぃご…よし、十五枚あるな」
 指定された枚数は十五枚。
「先生、終わりました〜」
 シッポは応接所で河島はるか教諭と紅茶を飲みながらくつろいでいる、
澤倉美咲教諭にコピーカウンターを返した。
「あ…シッポ君、ごくろうさま」
 美咲はシッポからカウンターを受け取ると、机の上のカセットホルダー
の中にそれを収めた。

 この学園では各部活ごとにコピーカウンターが用意されている。
 学期末にそのカウンターを見て使用諸経費を割り当てる為だ。
 こうすれば、使った分だけ払えばいいので余計な出費が押さえられる。
 しかも、カウンターの数字を見れば一発で額が計算できるので作業の
簡易化も期待できる。
 去年度から導入した制度だが、概ね好評である。

「…飲む?」
 はるかがティーサーバを右手に、ティーカップを左手にシッポに紅茶を
勧めてきた。
「あ、ありがとうございます。頂きます」
 シッポはティーカップを受け取ると、そのままはるかが傾けてきた
ティーサーバにカップの口を当てる。
 こぽこぽこぽこぽ…。
 はるかは容器の八文目まで紅茶が入ったのを見届けると、傾けるのを
止めてウォーマーの上にティーサーバを戻した。
「あー、いい香りですねぇ。これは…ダージリンですね」
 シッポはとりあえず香りを楽しむと、ミルクカップのミルクを小さじ一
杯だけ入れた。
「これがいいんですよねぇ」
 くるくるくるくる…。
 紅茶の中に入れられたミルクが、うずを巻いて紅茶に溶け込む。
「じゃ、早速…」
 ずずず…。
 おいしい。
 やはり葉から抽出した紅茶は美味い。
 今はティーパックに慣れてしまった人が多いが、やはりお茶系の飲み物
はコーヒーにせよ日本茶にせよ、葉や豆から直接出した方が美味しいのだ。
 シッポはついつい一息で全部飲み干してしまった。
「…はぁ、ちゃんと淹れると美味しいですね。やっぱり」
 シッポは美咲とはるかの方を向いて笑いかけた。
「そうだね。やっぱり、味が違うよね」
 美咲がそれに同意する。
「…ん」
 はるかも同じく同意する。
 そしてはるかは自分のカップにおかわりを注ぐと、
「…要る?」
 とシッポに動作と共に尋ね、空になったシッポのカップにおかわりを
注いだ。
「ところで…今日の紅茶はとびきり美味しいですけど、はるか先生が淹れ
られたんですか?」
 シッポがふと、何気なく二人に質問した。
「あ、今日はね、私が淹れたんだ」
 美咲が軽く片手を上げながら言った。
 はるかが隣でうんうんと頷いている。
「あっ、美咲先生が淹れたんですか? それじゃ、もう一杯!」
 シッポが笑いながら冗談を言うと、美咲は少し恥ずかしそうにはに
かんだ。
 はるかはまたも意味もなく、美咲の隣で頷きを繰り返していた。
 職員室も平和だった。ま、職員室まで戦場だったらそれはそれで嫌だが。


「…遅いっ!」
 志保はそう言うと手近な一般部員を捕まえて、悠の元へ様子を見に行か
せた。
 志保は苛立っていた。
 せっかく輪転機のスタンバイを終わらせて原稿を待っているのに、一向
に原稿が届けられる様子がないからだ。
 いくら機械を用意しても、肝心な原稿がなければ意味がない。
「シッポは何やってんのよ!」
 職員室で美咲先生やはるか先生と一緒に紅茶飲んでます。
 もっとも、今それを志保に伝えようものなら、モロにとばっちりを食ら
うだけなのだろうが。
「早く印刷しないと帰れないじゃない!」
 志保は本意でない今回の新聞作りに大した熱意を持っていなかった。
 だから、早く作業を終わらせてさっさと帰りたかったのだ。
 その事がさらに志保の苛立ちを加速させていた。
「うーっ」
 志保はイライラと第二印刷室の中を歩き回っている。
 他の部員は皆、とばっちりを受けないように室外に退避していた。
 たったった…。
 その時、外に出ていた部員が悠からの原稿を持つ仲間の姿を捉えた。
 一般部員たちは意を決すると、第二印刷室の扉をゆっくりと開いた。

「あのぅ…原稿受け取ってきたんで、チェックお願いします…」
 悠から原稿を預かってきた一般部員が、恐る恐る志保にそう言いながら
原稿を手渡した。
「そんなのいいのよっ! もうさっさと機械にかけちゃって!」
 やっぱり機嫌が悪い。一般部員たちは出来るだけてきぱきと、輪転機を
駆動させる準備をはじめる。
 くぉぉぉん…うぉぉぉぉ…。
 輪転機のモーターが待ちかねたといった様子で自らの体を動かし始めた。
 一般部員はホルダーに原稿をかけると、作動開始のボタンを押す。
 しゅしゅしゅしゅしゅ…きゅおぉぉぉぉん。
 輪転機が本格的に作動を開始し始めた。
 後は出来上がるのを待つのみである。
 一般部員は皆一様にほっとした表情を浮かべ、とばっちりを受けなかっ
たことを心から喜んだ。
 がしゅしゅしゅしゅしゅしゅ…。
 次々に新聞が刷られて行く。
 一分間にどれほどの新聞が刷られるのか、定かではないが相当な数にな
ることは間違いない。
 志保は出来上がった新聞をごそっと抜き出すと、それを学園の掲示板に
張り出すように一般部員に指示した。
 数十名程がそれぞれコンビを組みながら一人30部ずつ程度を持って、
第二印刷室を後にした。


「…なんですか? これは」
 T−star−reverseは怒っていた。
「喧嘩売ってるとしか思えませんね…」
 かなり怒っていた。
「あぁ。我々に対する挑戦だと判断する」
 その隣では佐藤昌斗も怒っていた。

 二人は一般掲示板に張られた新聞を見ていた。
 そう、先程情報特捜部の面々が作った新聞だ。
 志保が早速出来た新聞を掲示板に張るように一般生徒に指示したものだ。
 それを、たまたま通りかかった彼ら二人が発見した。

「…行きますか」
「そうしましょう」
 彼らは揃って歩き出した。


「おらぁぁぁっ!!」
 どこーん。
 突然、情報特捜部部室の扉が蹴破られた。
「責任者ぁぁっ、今すぐ出て来いっ!!」
 蹴破ったのはYOSSYFLAMEだった。
「今度と言う今度は許さん!!」
 彼もやはり怒っていた。
 が、自分が蹴破った扉の中にはどうやら人の気配はないようだ。
「ちっ…逃げたか」
 彼は中に誰もいないという事がわかると、小さく舌打ちしてそのまま
情報特捜部の部室を後にした。


「…先客がいたようですね」
「そうみたいだな」
 T−star−reverseと佐藤昌人が情報特捜部の部室を訪れた
時には、もう既に何者かの手によって扉が蹴破られていた。
 にも関わらず、部室の中は荒れていない。
「…探しますか」
「そうですね」
 二人は何があったのかを大体察すると、その場を後にした。


「あ、YOSSYじゃないか。どうしたんだ? そんな怖い顔して」
 ディアルトは怖い顔をしたYOSSYFLAMEがこちらに向かって
やって来るのを発見した。
「…これを見てみろ」
 YOSSYFLAMEが不機嫌そうに、小脇に抱えていた新聞をディア
ルトに手渡した。
「新聞? 珍しいな。お前がこんな物読むなんて」
 ディアルトは冗談半分に半分に折り畳められていた新聞を開いた。
「…」
 YOSSYFLAMEはただ黙って見ている。
「一体どうしたんだよ。新聞程度で…」
 そう言いながら新聞名を見たディアルトの動きが止まった。
「情報審判!? ま、まさかこれは…」
 ディアルトはそう呟きながらYOSSYFLAMEの方を見た。
 こく。
 YOSSYFLAMEは一つ頷くと、内容を見るように視線で促す。
 …こく。
 ディアルトも一つ頷くと、とりあえずTOPニュースから目を通した。
『学園の奇跡! 現存した食の楽園』
 TOPニュースにはそう書かれていた。
「…? 特捜部にしては珍しい記事だけど…これがどうかしたのか?」
 ディアルトは訝しげな表情を浮かべながらYOSSYFLAMEに問い
掛けた。
「そこはいい…問題なのはここだ」
 YOSSYFLAMEはディアルトの持つ新聞を覗き込むと、問題個所
と思われる場所を人差し指で指摘した。
「…!?」
 その時、YOSSYFLAMEが指摘した個所へ目線を追っていった
ディアルトの表情が変わった。
「なるほど…。じゃ、行こうか?」
 ディアルトはYOSSYFLAMEと同じく不機嫌そうな顔になると、
YOSSYFLAMEと共に学園の廊下を歩き出した。



「じゃ、失礼しま〜す」
 がらがら…とん。
 シッポは上機嫌で職員室を後にしていた。
(今日は美咲さんの淹れた紅茶が飲めたし、はるか先生も一緒だったから
楽しかったなぁ)
 そんな事を考えながら部室への道を歩く。
 と、職員室を出て少しした辺りで後姿の志保と出くわした。
「おーい、志保。こんなところで何やってるんだ?」
 シッポはにこやかに志保に問い掛けた。
「…アンタこそ今まで何してたのよ」
 しかし、返ってきた答えは怒りの感情さえ感じるような応答だった。
「ど、どこって…お前に頼まれたコピーをしに職員室にいってたんだけど」
 シッポはなんとなく引きながら志保に答えた。
「コピー? アンタコピー一つするだけでこんなに時間かかるわけ?」
 志保はさらにシッポを責める。
「う、まぁ…って大体、お前が人に行かせたんだろうが!」
 シッポは責められている自分に気付くと、逆に志保に抗議した。
「それにしたって時間かけ過ぎ。もっと早く出来るでしょ?」
 志保はそれに取り合う気もないらしく、さっさと廊下を進む。
「そー言う事言うんだったら次からは自分で行け」
 シッポは文句を言いながら仕方なく志保の後についてゆく。
 二人とも部室が目的地なのだ。

「いたっ! あそこだっ!」
 二人が廊下の角を一つ曲がると、誰かが叫んでいるのが聞こえた。
「見つけたぞ情報特捜部!!」
 二人が何事かと思って振り返ると、YOSSYFLAMEが愛用の喧嘩
刀を引っさげつつ、こちらに向かって指を突き刺していた。
「ん?」
「?」
 二人は歩みを止めてお互いに見合った。
「見つけましたよ! 長岡さん!!」
 今度はT−star−reverseが彼らの背後に現れた。
「…覚悟はいいか?」
 佐藤昌人もいる。
 二組はそれぞれシッポ達の方を睨み付け、すでに態度が喧嘩腰だった。
「な、何だ!?」
「ちょっと…どういう事よ?」
 志保がシッポに事態の説明を求めるような問いかけをする。
「し、知るかよ…大体お前の名前言ってたぞ。あいつ」
 シッポはそう言いながらT−star−reverseの方を指差す。
「そ、そりゃあアンタと私じゃ物事の優先順位が違うのよ」
 志保は訳の分からない言い訳をする。
 二人は軽いパニックに陥っていた。
 無理もない。
 いきなり指名されて喧嘩腰な態度をされたら誰だって驚く。
「今度こそけじめ…つけてもらおうか」
 YOSSYFLAMEが一歩前に出る。
 その後ろでは、ディアルトが戦闘体制を取っている。
「今度の件は私達に対する挑戦と判断します…」
 T−star−reverseも一歩前に出る。
 佐藤昌人は後ろで様子を見守っている。
「あ、あの〜…一体どういうこと?」
 シッポがやや引きながら二組に向かって問い掛ける。
 志保は二組を交互に見ている。
「ここまでしといて…まだとぼける気か?」
「いい加減おふざけはやめにしてもらいましょうか…」
 YOSSYFLAMEとT−star−reverseが答える。
「…えーと、ちょっと話が見えないんだけど…?」
 シッポはなおも二人に事情説明を求める。
 志保は後ろにいる二人を交互に見て、あははと愛想笑いをしている。
 額には冷汗が浮かんでたりするが。
「いい加減にしろ!!」
「こんな茶番はもうお終いにしましょう!!」
 二人の怒りは頂点に達したようだ。
 二人はこちらに向かって走り出す。
「う、うわぁっ、なんだかわからんが…逃げろ!」
「ちょっ、一体何なのよ〜っ!」
 シッポは慌てて志保の手を取ると、曲がりかけたTの字角を逆方向に
曲がって逃げ出した。
 二人には何が何だかわからなかった。
 とりあえずは身に覚えのない事だった為だ。
 逃げる。
 ただ、ひたすらに逃げる。
 後ろで何か騒いでいるが無視して逃げる。
 そして、右手に渡り廊下があるのを見つけると、志保を促して曲がった。



 …と、まぁ今までの経緯は大体こんなところである。
 それでは現実時空に話を戻して見よう…。



「Hi! お元気デスカ〜?」
「うわぁっ!?」
「なっ何!?」
 二人は驚いていた。
 横合いから突然飛び出してきたアフロに。
 …もとい、TaSに。
「今日も青空サンシャイン! 皆様イカガお過ごしデスカ?」
「こっこのイキモノは何だっ!?」
「たぶん新種の地球外生命体よっ!」
 先程から必死に逃げ回っている結果、追っ手達との距離がまた開いた。
 その為少し油断していたようだ。
 この事でもう二人は完全なパニック状態に陥った。
「HAHAHAHAHAHAHAHA!」
「こっ、こー言う時こそアンタの出番でしょ!?」
「ちょっ、ちょっと待て! なんで私なんだ!?」
「なんでって…まさかアタシにやらせる気!?」
「必殺の志保ちゃんキックはどーした!?」
「あんな当たりにくいモノ、出せるわけないでしょっ!」
「いつも私には気軽にかますくせにっ」
「避けないアンタが悪いんじゃないっ」
 TaSが一回笑う間に二人はこれだけ会話できた。
 TaSの笑いが長いのか、二人の口論が早いのか。
 判断のつきかねるところである。
「今日の天気はハレ! 午後カラハ若干雨が降るデショウ!」
「うるさいっ」
「やかましいっ」
 二人はTaSに向かって揃って叫んだ。
「ソレハそーと、ココで何シテるんデスカ?」
 しかし、TaSは全然聞いていなかったらしく、へーぜんとしながら
逆に二人に問い掛ける。
「そうだよ! 大体お前がこっちに逃げようなんて言うからこんなのと
遭遇することになるんじゃないか!」
「何よっ! アンタだって賛成したでしょ!?」
「はぁ? それはお前が勝手にどんどん行っちまうからだろ!?」
「そっちこそ、大体こっちの方向に逃げようって言ったのアンタなの
よ!?」
「なぬぅ!?」
「何よ!!」
「HAHAHAHA! 愉快ナ人達デスネ〜」
 TaSはなんだか面白そうな物を見るような目をして二人を見ていた。
 二人は得体の知れないモノ…もとい、TaSにいつの間にか笑われて
いるという事にとてつもなく納得いかないものを覚えると、TaSの方へ
詰め寄ろうとした。
 が、その瞬間いやぁな予感が二人を包んだ。
「なぁ…私達、ここにどれくらい居た?」
「さぁ? …でも、逃げてる相手に追いつくぐらいの間は十分あったわね」
 二人はジト汗をかきながら顔を動かさずに会話を交わした。
 振り返りたくなかったが、そうもいかない。
 仕方なく二人は背後を振り返った…。
「ご名答ぅぅぅぅ!!」
 やっぱりそこにはYOSSYFLAME達追っ手三人組がいた。
 …ディアルトの姿が見えない。
 やっぱり秋山登からは逃れられなかったのだろう。
 御愁傷様である。
「…なぁ? なんであんたらに追われなきゃならないんだ?」
 シッポは最早逃げ切るのは無理と判断すると、改めて彼らに問い掛ける
ことにした。
「…なぜだと? いいだろう…ならばこれを見ろっ!」
 ばさっ。
 そう言ってYOSSYFLAMEは先程ディアルトに見せた新聞を
シッポ達へと投げつけた。
「…? これはさっき刷ったばかりの部誌じゃないか…」
「そうよ、さっき配らせたばかりよ」
「これなら見るまでもない。今回はこいつの手が一切入っていないからな」
 シッポはそう言うと志保の方をあごで示しながら、新聞をたたみだした。
「ちょっと。それ、どー言う意味よ?」
「意味? 言葉道理だよ。お前が作るといつももめるってこと」
「なんですってぇ!? 聞き捨てならないわね。それは」
「だってそーだろ? こないだだってYOSSYとレミィ勝手にくっつけ
て一騒動あったばかりだし。…言われてとーぜんだと思うぞ?」
「ぐっ、アレは違うのよ。そう…なんて言うか…」
「ふぅん。じゃあどう違うのかちゃあんと説明してもらおうか?」
「う、うるさいわね! 今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」
 志保はそう言うと、なんとなく二人の掛け合いを見ていた追っ手一堂を
指差した。
 志保が指した指の先では、佐藤昌人を中心に皆呆れたような表情で
シッポ達を見ていた。
「…ま、もう一度見てみるんだな。その自信、どっから出てくるのか知ら
んが…」
 その中の一人、YOSSYFLAMEもやはり呆れたような口調で
シッポに再び新聞を読むように促す。
「別に普通の記事じゃないか…」
 シッポにはまだどこが問題なのか分からない。
「そこじゃない、もっと下だ」
 YOSSYFLAMEがイライラと新聞の一番下の方を指差す。
「ん? ここは単なる占いコーナーじゃ…ってなんだこりゃ!?」
 シッポは驚きながら改めて新聞を近づけて内容を良く読んでみた。
 占いの欄にはこんな事が書かれていた。
「一月生まれの人 青い人は不審人物に注意 変な髪形に追われるで
しょう」
「二月生まれの人 青い人は痴漢に注意 身近な先輩が怪しいでしょう」
「三月生まれの人 青い人は盗撮に注意 着替えの時など特に注意」
「四月生まれの人 青い人は嫉妬に注意 楽しくお話してるだけで、
仲良くしていると勘違いされるかもしれません」
「五月生まれの人…」
「もういい!!」
 シッポと志保が交互に今週の運勢を読み上げていると、
YOSSYFLAMEが耐えかねたように読み上げるのを止めさせた。
「さぁ、この件に間しての弁明…一応聞こうか?」
 YOSSYFLAME達の目が一様に怪しく光るのを志保とシッポは
確かに見た。


「知らんっ! 断じて知らんっ」
「まだ言うか貴様ぁぁぁっ!!」
「恥を知りなさい。恥を!!」
「よくもまぁここまでしてくれたな!!」
「HAHAHAHA! ハロゥイン!」
 がぃんっ! どごんっ! どがっ!
 シッポは彼らの攻撃を防ぐので手一杯だった。
 右斜め上から振り下ろされる斬撃。
 右脇腹を狙って放たれた突き。
 背後から飛びかかろうとする飛び蹴り。
 …約一名、ただ踊っているだけのもいるがそれは無視していいだろう。
 それはともかく、彼ら三人の攻撃はどれもフルパワーに近かった。
「ぐっ…これじゃもたない!?」
 シッポは多勢に無勢と判断すると、狭いところへ狭いところへと彼らを
誘い込むことにした。
 近くにちょうど体育倉庫と校舎の壁に囲まれたところがある。
 シッポは彼らに押されているようなフリをしながらじりじりとそこへ後
退して行った。

「ふっふっふ…ついに追い詰めたぞ」
「年貢の納め時って奴ですか…」
「ま、観念するんだな」
「ソンナにヘンな髪形デスかねぇ…? コレ」
(くくく…言ってるがいいさ。もう少し固まれ…「ゴルン・ノヴァ」の
 直撃確定射程まで後一歩ぉぉっ!!)
 彼らは決して油断はせずに、少しずつシッポの方に近づいて行った。
 シッポは止めを刺そう近づいてくる三人をじっと見据えて動かない。
 その態度が彼らには投降するという意思の現れに見えたのだろう。
「…諦めたようだな」
 佐藤昌人はシッポが投降の意思ありと判断し、警戒を解いて近づこう
とした。
(主! 依然危険な状態に変わりはありません!!)
 佐藤の愛刀「運命」が佐藤に警告を発したが、既に手遅れだった。
「今だっ! 食らぇぇぇっ!! ファイナルアタック・リリース!!
本当の力を見せろ…―ゴルン・ノヴァ!!―」
 ぐぉぉぉぉっ…! ごっ…ぐわぁぁぁぁんっ!!
 ソウル・ハッカーズ最大級の攻撃であるMAP兵器「ゴルン・ノヴァ」
が発動され、大質量ビーム発射時のシールド発光とあいまって辺りは
一瞬純白の世界に包まれた。
 シールド表面全てから発射された超極太のビームは佐藤達を光の渦の
中へと飲み込んでもなお、その姿をしばらく止めていた。

「油断したのが運の尽きだったな…」
 シッポは粉塵が大体収まるのを見計らうと、十分警戒しながら彼らの
様子を確認しに近づいて行った。
「…なにっ!? 二人…佐藤とティーだけだと!?」
 そう。
 彼らが倒れていると思われていた地点には佐藤昌人ともう一人、
 T−star−reverseの姿しかなかった。
「そんなバカな! あれを避けただと!?」
 シッポの驚愕は尋常な物ではない。
 ファイナル・アタックを避けられたのである。
 当然と言えば当然なのかもしれない。
「ナルホド…、ソーイウ事でシタか」
「!?」
 シッポが軽く呆然としていると、突然背後から怪しい日本語が聞こえた。
「コレはチョットおイタが過ぎマシタね〜」
 シッポが素早く振り返ると、TaSがまわりを囲っていた体育倉庫の
屋根の上に立って、例の新聞をひらひらと掲げているのが見えた。
「あれを避けたと言うのか…面白いところだな。ここは…」
 シッポは見方によっては不敵とも取れなくもないような表情を浮かべる
と、屋根の上で佇んでいるTaSと少しの間見つめあった。

「…それで、今度は何をする気なんだ?」
 シッポは突然TaSの方を見上げたまま、聞かせる相手のいない台詞を
口にした。
「…おどろいたな。俺の接近に気付いてたってワケか…」
 シッポの背後には、YOSSYFLAMEが立ったままで驚いていた。
 彼には最大の機動力で近づけば、気付かれる事はないと言う自らの
機動力に対する自信があった。
 だが、それすらもある意味打ち破られたような気がしたのだ。
「…ま、ね」
 シッポはふっと笑うと、屋根の上のTaSから目を離すと背後の
YOSSYFLAMEの方に向き直った。
「…で、次はどうするんだい?」
「…一つ、決まった事がある」
 シッポが話の先を促すと、YOSSYFLAMEは人差し指を一本
目の前に立てながら話はじめた。
「なんでしょう?」
 シッポの返答はまるでおどけているようだ。
「…今回の件に対する責任者への処遇だ」
 YOSSYFLAMEはなんとか自分のペースを守る事に成功すると、
話の伝達にのみ神経を注ぎ込んだ。
「だから、私じゃないって言ってるのに…無実なんだってば」
 シッポは困ったなぁと言う感じで肩を竦めると、YOSSYFLAME
の話を否定した。
「…もはや誰がどうのと言う問題じゃない。これは特捜部の連帯責任だ」
 YOSSYFLAMEは実にもっともらしく、シッポ達を犯人に仕立て
上げた。
「連帯責任…ねぇ? 便利な言葉だよ。ホントに」
 シッポはYOSSYFLAMEの口からその言葉が出るのを聞くと、
その場で一笑に伏した。
「…で? その処遇とやらはなんなんだい?」
 シッポはもはやからかってるとしか思えないような態度で、こめかみを
押さえているYOSSYFLAMEに向かって言った。
「…ふふふ」
 YOSSYFLAMEは一呼吸置くと、突然軽く笑い出した。
 そして、そのままシッポに死刑宣告でもするような感じで、人差し指を
突き指しながらさらりと言った。
「アフロの刑だ」
「……は?」
 場の空気が一瞬止まった。
「…今、何と?」
 シッポはもう一度。YOSSYFLAMEに聞き直した。
「だから、アフロ」
 YOSSYFLAMEはにやりとしながらシッポに言い直した。
「アフロ…」
 シッポはジト汗をかきながらつぶやいた。
「そう、アフロ」
 YOSSYFLAMEは止めとなる三度目の宣告をシッポにした。
「あっ…あっあっあっアフロは嫌ぁぁぁっ!!」
 シッポは思いっきりダッシュをかけてこの場を離脱しようとした。
 が、YOSSYFLAMEもそうそう甘くはない。
「おっとぉ。逃がさないぜぇ」
「な、なんだ!? 体が動かない!?」
 YOSSYFLAMEはいつの間にかシッポを捕縛していた。
「い、いつの間に!?」
「お前が呆然としてる間だよ」
 YOSSYFLAMEはシッポがアフロの衝撃に晒されている間に
がっちりと背後から体を捕縛していたのだ。
「HAHAHAHAHA! 出番のよーデスネ」
 シッポの正面からとうとう恐怖の大王が現れた。
「でっ出たぁぁぁっ!!」
 うむ。幽霊だしな。
 その表現は間違っていないぞ。
「さぁっ、この不届き者にアフロの洗礼を!!」
 お〜い、YOSSYFLAMEさ〜ん?
 なんか、イっちゃってません?
 大丈夫かな? ホントに。

「ダイジョーブ! コレさえ着ければアナタにもアフロパワーが!」
「ちょっと待てぇぇぇっ! 何が大丈夫なんだぁぁぁっ!」
「アナタノショーライですよ」
「何の将来だっ! そもそもアフロパワーって何なんだぁぁぁっ!!」
「フフフ…ソレは秘密デス」
 TaSは妖しげな笑みを浮かべると、必死で抵抗しようとしている
シッポに向かって、アフロなヅラを近づけて行った。
「や、やだっ! 来るなっ! お願い来ないでぇぇぇっ!!」
「ジィィク・アフロォォォっ!!」
 おひ。ネタが違うぞ。それはこっちじゃないって。
 やっぱりYOSSYFLAMEさんもイっちゃってたのね…。
「サア、この特製レインボーアフロを授けマショウ…」
 TaSはどこからともなく取り出した七色に輝くアフロを手に、
シッポの目の前までやってきた。

 ちなみに、このTaS特製「レインボーアフロ」を装着すると、
いつでも好きな時に虹を出せるらしい。
 もっとも全く無駄な能力である事は間違いない。
 っていうか、そんな能力要らんて。

「あ、あああ…」
 もはや抵抗する気力もなくし、ただただ首を振る事しか出来ないシッポ。
 シッポ大ピィィンチ!
 このままアフロ同盟に強制入会させられてしまうのだろうか!?

「…魔皇剣っ!」
 ぶおんっ!
 衝撃波がTaSの手の上にあったカラフルアフロを吹っ飛ばした。
「何者デス!」
「部長っ!」
 二人は同時に叫びながら、先程TaSが立っていた体育倉庫の屋根を
見上げた。
「…全く。面白そうだから見に来てみれば…大ピンチじゃないか」
 そこには悠朔が下を見下ろす格好で立っていた。
「ゆーさくサン…邪魔シマスか?」
「さすが部長!! 助かった…」
「む…まぁそこはそれ。やはり社会的な体面というものがあるからな」
 悠朔はすこしそっぽを向きながらそう言うと、すたっとシッポ達の前に
飛び降りてきてTaSに告げた。
「とりあえず、ウチの部員。放してもらおうか」
 それを受けたTaSは、アメリカ人のようなオーバーアクションで
肩を竦めるとYOSSYFLAMEの方を見た。
「YOSSYサン、お願いシマスよ」
 更にそれを受けたYOSSYFLAMEが気合十分でTaSに答えた。
「任せとけっ! 悠…こないだのようには行かないからな!!」
「ふむ…実力差と言うものがまだ分かっていないようだな」
 そう言うと二人は臨戦体勢に移ってしまった。
「ちょ、ちょっと! 救助に来てくれたんじゃないの!?」
 シッポの悲痛な叫びは空しく響くだけだった。

「魔皇剣っ!」
「当たらんっ!」
 悠が斬撃による衝撃波を繰り出すと、YOSSYFLAMEはすんなり
それをかわし、次の攻撃を繰り出す為の体勢を作る。
「次はこっちの番だな!」
 YOSSYFLAMEはようやくこちらに向き直った悠に向けて宣言
すると、一瞬のタメを作って一気に駆け出した。
「かわたしたな? …かわしたか。くっくっく…」
「!?」
 YOSSYFLAMEが自分に向けて攻撃をしようとしている状況にも
関わらず、悠は突然笑い出した。
 YOSSYFLAMEは何か不気味な予感を覚えて立ち止まった。
「…何がおかしい?」
 そしてそのまま用心深く悠に問い掛ける。
「いやぁ、こんなに簡単に決着ついちゃっていいのかな?…って思ってね」
 悠がくっくっくと笑いながら言った。
「…寝ぼけるなよ? 闘いはまだ…始まったばかりだ!」
 YOSSYFLAMEはそう言うと再び悠に向かってダッシュをかけた。
「ふっ、終わってるさ…真・魔皇剣!!」
 ごぉうっ!
 先程の衝撃波を更に強化した斬撃波とでもいうようなものが
YOSSYFLAMEを襲う。
「見くびるなっ!! 避け切れないとでも思ったか!!」
「いいや…避けきれないね。二発目っ! 真・魔皇剣!」
 そう言うと悠は二度目の衝撃波をYOSSYFLAMEに向けて放った。
「何っ!?」
 YOSSYFLAMEはなぜかその衝撃波に向かって一直線に突き
進んで行く。
「…まわりをよく見てから挑むべきだったな」
 そう、YOSSYFLAMEは周囲を体育倉庫の壁に挟まれていたのだ。
 そこへ少し右寄りに衝撃波を打ち込む。
 当然逃げ場は左端しかないわけだ。
 そちらへ逃げる事は容易に予測できる。
 後はそこへ衝撃波を打ちこむ。
 こうなるともう当たりに行くしかないと言う状況になってしまう。
「ぐはぁっ!!」
 YOSSYFLAMEは思いっきり正面からのカウンターを受けて
吹っ飛んだ。
「残念だったな。再戦がこんなんで…正直がっかりだったよ」
 悠の表情は、そう言いながらも薄笑いからやがて勝利を確信した顔に
変わって行った。
「お別れだ…魔皇剣・絶奥義…天覇将星!!」
 ざんっ! ざんっ! ざんっ! ざんっ! ざんっ! ざんっ!
 二刀流から発せられる斬撃波が連続してYOSSYFLAMEを襲う。
「くそがぁぁぁぁっ!!」
 ファイナルガールもこの距離では届かない。
 写真が見えなければ意味がない。
 結局YOSSYFLAMEにはもう為す術はなかった。
 ただただ悠の攻撃を受け止める操り人形と化すと、悠の攻撃停止と共に
崩れ落ちた。


「ふぅ、追っては…来ないわね?」
 志保は追っ手の意識がシッポに向かっている間に上手く抜け出していた。
「どうやらシッポ、ちゃんと足止めしてるみたいね」
 志保は改めて辺りを見渡すと、安堵の溜息をついた。
 そして、気が抜けたように手近な壁に身を預けると、顔のすぐ横に
張ってある問題の新聞を恨めしげな目で睨んだ。
「ったく。こいつのせいでヒドイ目にあったわね…」
 しかし、そう言う志保の目は、なぜか状況を楽しんでるようにも見え
なくもない。
「ま、そーなのかもしれないわね…」
 志保はそんな自分に気付くと、苦笑しながら自分の考えを肯定した。
 そして目を閉じると、壁に背を預けながらずるずると地面に座り込んだ。
「…そう。一体どんな目にあったの?」
 声は自然と聞こえてきた。
 でも、自分の声じゃないような気もする。
 自分の声とは17年来付き合って来た。
 いくらなんでも自分と他人の区別ぐらいはつく。 
(何かヘンね?)
 志保がそう疑問に思うと、瞼の裏から感じていた日光の力強さが消えた。
「これじゃあ…よっぽどヒドイ目に会ってもらわないと割が合わないわね」
「…?」
 目を開けて見上げる。
 …そこには、松原葵当人と来栖川綾香の両名が顔をひきつらせながら
志保の頭の上に張ってある新聞を読んでいた。
「志保…ゆーさくのところに案内しなさい…」
 志保はいつもなら絶対にありえないような素直さで首を上下に揺らした。


「さて…残るは貴様だけだな」
 悠朔はたった今片付けたYOSSYFLAMEの方から向き直ると、
開口一番にそう言った。
「嫌デスねェ…倒しちゃっタラ面白くないジャないデスか」
 TaSは別に先程と変わった様子もなく悠に注文をつける。
「別にシャレでやってるわけじゃないんでな…」
 悠も付き合う気はないらしい。
「とにかく、シッポを放さなければ貴様も私の排除すべき敵になるのだが?」
 あっさりとTaSの兆発をかわすと、再三の警告をTaSに告げた。
「分かりマシタ。モウ少し楽しめると思ったんデスケドねぇ…」
 TaSはTaSで面白くないような表情を浮かべながらシッポを開放した。
 シッポはその場で拘束を解かれると、素早くTaSの側から離れた。
「ふぅ…助かった」
「それじゃあ話を聞かせてもらうか? 今回の騒動について、な」
 悠はそんなシッポを横目で見ながら、TaSに問い掛けた。
「ソレがデスねぇ…私にもヨクわカラないんデスよ」
 TaSは困ったような言い方で悠に答えた。
「貴様が当事者だろうが。自分の事さえもわからんというのか?」
「あ、部長。ちょっと違うんですよ。この人は最後に居合わせただけ
なんです」
 悠が訝しげにTaSに再び問い掛けるのをシッポが訂正した。
「じゃあ、当事者はどこに行った?」
「一人は行方不明。二人は私が。四人目はあそこに…」
 シッポはそう言って倒れているYOSSYFLAMEを指差した。
「しかもリーダーっぽかったのも彼なんですよねぇ…」
 シッポはどうしようかと言った感じで悠を見る。
「む、まぁ…やってしまったものは仕方ない」
「ですね」
 悠としてもそう言うしかない。
「すると…お前が唯一の当事者になるのか?」
「そうなりますね。でも、私だっていきなり追い掛け回されただけ
なんですから、良くは知りませんよ?」
 そう、当事者が全てを知っているとは限らない。
「まぁ…仕方ない。それでいいから話せ」
「はぁ、まぁ、それだったら…」
 シッポは今回の騒動の顛末を簡潔に悠に聞かせはじめた。
 そーいえばTaSの姿がいつの間にかなくなっている事に二人は全く
気付かなかった。


「…すると、新聞にあった占いの欄が原因じゃないかと言うんだな?」
「えぇ、恐らくは。でも、あれ私も志保も全く書いた覚えの無い記事だった
んですよねぇ…」
 シッポは腕組みをしながら小首をかしげた。
「いや、あれ…作業したのは私だ」
 悠はへーぜんと衝撃の事実をシッポに告げた。
「…へ?」
 シッポは首を45度傾けたまま固まった。
「だから、あの欄は私が書いたと言ったんだ」
 悠はそんなシッポにもう一度繰り返して言った。
「…ふぅん。ゆーさく、あれはあんたが書いたのね…」
 ざっ。
 そう言いながら悠の背後に誰かが現れた。
「そうそう。箱から引いた紙の内容をだな…って綾香?」
 そう。悠の背後に現れたのは紛れもなく悠の愛してやまない相手。
 来栖川綾香。
「あ! 葵ちゃん…」
 そして、当事者である松原葵。
 二人は突然の来訪者に驚いた。
「…もう一回聞くわよ? あの記事書いたのはアンタなのね?」
 綾香が拳を握りながら悠に問い掛ける。
「いや、確かに書いたのは私だがアレは…」
「…言い訳なんて見苦しいわよっ! この事で葵がどれだけ傷付いたと
思ってんの!!」
 綾香のハイキックが一閃し、悠は結構な距離を吹っ飛んた。
「ぐわぁっ! そ、そんな事知らんぞ! アレは書いてあった事をだな…」
「問答無用!!」
「待て綾香ぁぁぁぁっ!!」
 悠は綾香の攻撃を避けようとしない。
 フクロにされるのも時間の問題だろう。
 そんな悠たちを横目に見つつ、その横ではシッポと葵が気まずそうに
向き合っていた。
「…」
「…」
「あ、あの…葵ちゃん?」
「は、はいっ」
 コミニケーションを取ろうとするが、どうもぎこちない。
「その…ごめん。こっちに身に覚えが無い事でも、葵ちゃんには全然関係
ない事だからね…」
「はい…」
 シッポはこの気まずい雰囲気を打ち消すように明るく謝った。
 だが、葵はそれに少し元気のなさそうな顔をしながら答える。
「え、え〜と、それじゃお詫びのしるしに何か奢ろっか?」
「えっ? あ、あの…シッポ先輩」
 シッポはなんとか葵の沈んだ顔を戻そう思って葵を誘った。
 のだが、まだ葵は少し困ったような顔でこちらを見ている。
「ね? いこいこ。私に罪滅ぼしさせてくれよ〜」
 こうなったらとシッポは葵が断れないような言い方をし、葵を無理
にでも誘うことにした。
「あ、シッポ先輩…」
 葵はまだ困ったような表情をしているが、拒絶の意思は見せていない。
 シッポは素早く後ろから葵の両肩に手を置くと、そのまま前に進むように
促してその場を後にしようとした。
 …したのだが、なぜか前に足が進まない。
「…?」
 足元を見てみると左足首に絡まる誰かの手が見えた。
 そのまま首を後ろに曲げて行くと、うつ伏せになりながらもシッポの
足首を掴むYOSSYFLAMEの姿が見えた。
「うわぁっ! ゾンビかっ」
 シッポは驚いて足から手を振り解こうとする。
 が、YOSSYFLAMEの手は恐ろしい握力でシッポの足首に吸い
付いている。
「放せっ! こらっ!」
 そう言いつつ逆の足で手を蹴ると、ようやく足首から手が離れた。
「…させん。そうはさせん…」
 その代わり、YOSSYFLAMEはうつ伏せた姿勢のまま何やら
うごめきだした。
「ま、まだ動けるのか!?」
 シッポはそんなYOSSYFLAMEの気迫に押されて思わず後ずさり
した。
「…ここで倒れちゃぁ…ナンパ師失格…だぜ?」
 YOSSYFLAMEはふらふらと、それでもしっかりとした足取りで
立ち上がった。
「YOSSY先輩! だ、大丈夫ですか?」
 葵ちゃんが慌ててYOSSYFLAMEの元に駆け寄る。
「あんまり大丈夫じゃないなぁ…。葵ちゃん、看病してくれる?」
 YOSSYFLAMEは負傷しているのをいいことに葵の手厚い看病を
ねだる気だ。
「は、はい! もちろんです! …私の為にこんな怪我までされて…申し訳
ないです…」
 葵はYOSSYFLAMEの看病を快く引き受けると、今回の発端となった
自分の事について落ち込んでしまった。
「そんなことないさ…これは俺達が勝手にやった事だし…いつつ」
「あ、無理しないで下さい!」
 YOSSYFLAMEは葵の手助けを受けて壁に体をもたれかけさせた。

「上手くやってるよ…ホント」
 シッポはそんなYOSSYFLAMEの手際の良さに呆れるやら感心する
やらで苦笑していると、隣に志保がやってきた。
「今回の事はわからないことだらけね、ホント」
 志保の方は先程の綾香のプレッシャーもどこ吹く風で、もうすっかり
忘れてしまったようだ。
「結局犯人は分からずじまいだったし」
 志保は腕を組んで目をつぶりながらうんうんと自分の台詞に同意した。
「…あのな、今回の事で結局一つだけ確実にわかった事があるんだよな」
 シッポはそんな志保を見ながら必至で何かを堪えているかのように話
はじめた。「ん? 何よ?」
 志保はへーぜんとした顔でこちらに問い掛けている。
 シッポは頭の中で何か音がしたような気がした。
「…それはな、私は全く関係ないって事だぁぁぁっ!!」
 すっぱぁぁぁぁんっ!!
 シッポはそう言いながら再び思いっきり志保の頭をはたいた。



「ふふふ…今回のミッションも成功だな」
 屋上から一人の男が双眼鏡で悲劇の現場を覗き見している。
「そう言えばるーちゃん、今回は何でこんな事したの?」
 傍らにももう一人いたようだ。
「最近楓開放戦線などと言う物に押されて青い奴の出番が減ってたからな」
 双眼鏡の男は傍らの男にそう聞かれると、双眼鏡を下ろしながら答えた。
「あ、なるほど」
 質問を投げかけた男もそれに納得する。
「それにしても、今回は御苦労だったな。城下」
 先程中庭にもいた怪しい男。Runeは傍らに控えている…っていうか
ただ立っているだけの城下に労いの言葉をかけた。
「あ、はい。でも僕全然たいした事してないですよ? 特捜部の部室に
行って箱を取り替えただけですし…」
「いやいや。最も重要な部分をあっさりクリアできたからな。一応部員で
ある貴様の手柄だ」
「はぁ、そうですか」
 城下はそれで納得したようだ。
「そう言えば、Runeさんは何で葵ちゃんを青い奴って呼ぶんですか?」
「む? それはだな…」
「あ、もしかして…愛情の裏返しって奴ですか!?」
「違うわ。奴とは中学の頃からの付き合いでな…」
「なるほど。中学の頃からの胸に秘めた思いゆえの行動なんですね!」
「だから違うと言うてるだろうが」
「わかりました! 僕が取り持ってあげましょう!」
「…何がわかったんだ?」
「任しといて下さい! きっと成功させますよ!」
「おい! 城下! …何をする気だ?」
「いいの? るーちゃん。…ほっといて」
「…知らん」
「ふぅん…」
 Runeは健やかの生返事を聞き流しながら、
(この城下と言う生徒、使いようによっては諸刃の剣かもしれんな…)
と思っていた。



 今日も校庭はそろそろ夕暮れを迎える時間になってきた。
 部活動に励む運動部員達の声が校舎に響いて、秋の訪れを感じさせる
涼風と共に赤い紅葉を揺らした。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ども〜、この部活編今までの最長になってしまってなんだかなぁ
と思ってたりするYF−19です〜(^^;
いやぁ、長かったですねぇ、ホント。
簡単に計算しても一ヶ月はかかったかも(汗)
他のと平行作業だったとしてもかかりましたねぇ。
これ、今後の課題ですね。うん。

っと、今調べたら長編などの平均から見て実に四倍もの量を書いてる事が
判明しました(爆)
これじゃ時間かかって当たり前だ(^^;

それはともかく今回出演下さった皆様。
不快な部分があったらすみませんでした。(ぺこり)
特に結局全滅した葵親衛隊辺りが怖い…後ろから刺すのは勘弁しで
くださいね?(^^;
あ、でもYOSSYFLAMEさんだけは結局美味しい目見てるや(爆笑)


あ、そうそう…今日って志保の誕生日なんですって?
これも因縁か? とか思って大笑いしてしまいましたよ〜(^^)
まぁ、誕生日SSにはならないと思いますがなんもないよりマシだろう(笑)
別に一番萌えでもないのに因縁深い奴だなぁ…コイツは(笑)


さって、今回も後書きありますよっ!
私、本編と部活編だけは必ず書こうと思ってるんで…途中で挫折するかも
しれないけど(^^;


んじゃ、あとがきをどうぞ〜。


YF−19:はい、どうも。今回の後書き、出演者は一体誰なんですかね?
澤倉美咲 :私みたい…だね。シッポ君。
YF−19:あっ! 美咲先生じゃないですかっ! 嬉しいです〜♪
澤倉美咲 :ふふ…よろしくね。
YF−19:いえ! こちらこそよろしくお願いします!!
澤倉美咲 :うん…でもこのままだと挨拶だけで終わっちゃうよ?
YF−19:あ、そうでした。えーと、美咲先生は今回が発出ですよね?
澤倉美咲 :うん、そうだね。
YF−19:実を言うと、今回の部活Lメモ書く前までは先生ホントは顧問
      じゃなかったんですよね〜?
澤倉美咲 :うん、そうだね。前任ははるかちゃんだったみたい。
YF−19:そうなんですよー。部長と会議してる時に一度はそう
      決まったんですけどね。
澤倉美咲 :そうだったんだ…。じゃあ、なんで私になったのかな?
YF−19:それは…部長が私の無理を聞いてくださったからです。(^^)
澤倉美咲 :え? 無理?
YF−19:えぇ、私が美咲さんが好きだって言ったら、部長がじゃあ
      美咲さんする? って聞いてくださったんです。(ぽぽっ)
澤倉美咲 :あ…(赤)
YF−19:ははは…(赤)
澤倉美咲 :なんか…恥ずかしいね。
YF−19:そ、そうですね。(汗)
澤倉美咲 :えっと…。
YF−19:な、なんとなく恥ずかしくなってきたので今日はここまで
      にさせて頂きますっ!(汗)
澤倉美咲 :あ…シッポ君。
YF−19:大丈夫です!! 美咲さんのせいじゃありませんから!!
澤倉美咲 :う、うん…。
YF−19:すみません。だってこれくらい言わないと先生いつも御自分の
      せいになさろうとするものですから…。
澤倉美咲 :…ありがと。シッポ君。
YF−19:はは(照れ) と、とにかく、次回作は長編の方でタイトルは
      「潜入」になる予定です。
澤倉美咲 :皆さん、シッポ君をよろしくお願いします。
YF−19:美咲先生。今日はありがとうございましたっ。
澤倉美咲 :うん、こちらこそありがとうございました。
YF−19:ではっ。
澤倉美咲 :また。