なんとなくLメモっぽいやつ−1 初登校(中編) 投稿者:Yin
◎(誰も覚えてないであろう)前編のあらすじ
  Leaf学園に転入してきた、Yinとアイラナステア(&ちび)。
  が、初日から酷い目に合うYin。別行動をとっていたアイラナは、自分のマスター
であるYinの危機を察知し、Yinのもとへと急ぐ!

  という所で、後編その1、というか中編どうぞ。
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  アイラナステアは飛んでいた。
  一心不乱に。
  呼吸が、苦しい。
  高速飛行の能力を使用しているせいだ。
  風のシールドで全身を包む事によって、翼の持つ飛行能力(揚力だけでは流石に飛べ
ない)を最大限に引き出す事が可能だが、その間シールド内の空気の循環が滞る。
  長時間は使える能力ではない。
  しかし、今の彼女に周りなど目に入ってはいなかった。
  マスターである、Yinの安否。
  それ以外は頭から抜け落ちていた。

  という訳で、初等部上空。
「・・・・・・・・・・・・ここ、どこ?」
「・・・・・・ぴきゃー・・・」
  ちびが鳴く。

  き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

  校舎から一時間目の終わりの鐘が聞こえてくる。

  迷った。



なんとなくLメモっぽいやつ−1  初登校(中編)



  時を少し遡って十分程前。
  レッドテイルは校内を走っていた。
  理由は簡単。
  追いかけているからである。
  何を?
  何か。
  ふざけている訳ではない。
  追いかけているものの正体がわからないのだ。

  ここ数日、レッドテイルは来栖川芹香に召喚魔法を習っていた。
  今日もいつものように、授業中にも関わらずオカルト研究会に足を運び、一人で練習
を続けていた(芹香には、エーデルハイドをお目付け役として残してもらう事で部室の
使用許可をもらった)のだが、呪文詠唱中にくしゃみをして召喚に失敗。
  召喚の失敗には、意図せぬ物を呼び出してしまう可能性があるという、大きなリスク
が付きまとう(という事にしておく)。
  で、今回、ばっちりビンゴ。
  失敗の時の為のプロテクトである魔法陣も何故か機能せず、呼び出された何かは逃亡。

  という訳で、こうして走っているのである。

  余談として、魔法陣が壊れていたのは実は退屈したエーデルハイドの悪戯のせいで、
それが後に芹香にばれて謎の儀式の実験台。小猫は心で血涙号泣なんて話もあるが、未
来の事などレッドテイルの知ったっこっちゃなかった。

(う〜〜ん。もうそろそろ見つかってもいいと思うんだけどなあ)
  そんなレッドテイルの心中の声に応えたかのように、前方で騒ぎが起きる。
(あそこかな?)
  そこは、食堂。
  まだ本来の営業時間には程遠いが、準備をしているおばちゃんなんかは当然の如くい
たりする。
(そろそろ準備しておくか)
「こぉぉぉぉい!ガァァァァンブレェェェェェドッ!」
  叫びながら、指を鳴らしてみたりする。

ぱちぃーーーーん!

  いい音だ。
  それに応えるように空の彼方から、リボルバーの銃口に剣をくっつけたような珍妙な
武器――ガンブレードがやってきて。
  レッドテイルの手に収まった。
  ガラス窓を突き破って。
「・・・・・・・・・」
「誰ですかぁ!朝っぱらから窓ガラス割ったのは!?」
  遠くから学園巡回班班長(他に構成員はいるのか?)きたみちもどるの声が聞こえる。
  ちょっとだけ逡巡するレッドテイル。
  こんな所で捕まってる暇はない。ただ、このまま逃げるのもなんか後味悪いし。
  という訳で、ちょうどそこを歩いていた生徒Aに足を引っかけて窓に向かって無理矢
理こけさせて頭から別のガラスに突っ込ませた。
  がしゃーーん♪、と楽しげな音を立てて割れるガラス。
  これでばっちり(何がだ)。
「お、俺は藤田、ひろ、ゆ・・・・ガク」
  なんて言葉は聞こえなかったような気がするので、レッドテイルは先を急ぐ事にした。
  額から血がどくどく流れてるが、大抵額の傷は大袈裟に見える物なのでやっぱり気に
しない事にする。
  首のは見えなかった。多分。
「さて、いきますか」
  呟き、レッドテイルは騒ぎの中心――食堂に向かって再び走り出した。
「生徒A!君ですか、ガラスを割ったのは!」
「・・・・・・」
  後ろからそんな声も聞こえてくるが、聞こえない事にしてレッドテイルはただ走った。

  それはさておき、どうして授業中に校内を巡回なんかしてたのだ、きたみち?
「校内の平和を守るのに、授業中も放課後もないんですよ」
  はあ、そうですか。

                                  ☆☆★

  さて、アイラナステアが初等部上空についてちょっとした頃。

「・・・うう、俺、どうなってたんだ・・・?」
  ボロボロの身体を確かめるように首を振りながら、Yinが身を起こした。
「寝てたんだよな。そしたらなんかに巻き込まれて・・・」
  そこまで言って、何かが足りないような感覚に気付く。
  五感と変わらない、当然のように受け入れていたモノが欠けている。
「・・・まいったな。アイラナも呼べないのか」
  溜め息を一つ。
  一度アイラナステアに接触しない事には、精神連結の再構築は不可能だ。
「せめてもの救いはちびを巻き込まずに済んだ事か。・・・とりあえず保健室でも探す
かな・・・」
  痛む傷に顔をしかめながら、何とか立ち上がったYinを。
  それは襲った。

「いきますよ、美加香!」
「はひいぃぃぃ、ひなたさぁぁん・・・」
「外道メテオ!」
「うわああぁぁぁ!!」
「また僕達かぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!??」
「でもなんか久しぶりな気もするぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「・・・・・・また?」

  なんかゆきだったり健やかだったりRuneだったりする悲鳴に埋もれるように、踏
みしだかれてぼろぼろの身体に砥石だの鉄アレイだのすえた臭いのする靴下だのの流れ
弾をくらい、その辺の名もなき一般生徒として生を終えちゃうのかな俺このままだと、
ってな感じで、Yinはまた地に転がった。

                                  ★★☆

  所変わって、初等部。

「へ〜、あいらなさんっててんしなんだ」
「でもしっぽと角があるよ、どーして?」
「ちょっと前にこの子のお母さんに助けてもらった事があって、その時に生えちゃった
の」
「ふーん」
「あんまりそんな事は訊かないの。すいません」
「いいの、気にしないで。別に対した事じゃないんだから」
「ちび〜。こっちおいで〜」
「ぴきゃーっ」

  そんなこんなで、アイラナステア。
  迷って初等部に着いてしまいどうしようと右往左往、そうだ誰かに道を訊ねようと校
庭に降りてみた所でマール、ルーティ、ティーナ、笛音、何故かハムスターのきぐるみ
を着たきたみち静などなどの幼児軍団に遭遇。
  で、いつのまにか和みモード突入で今に至る、と。

  き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

「あ、二時間目始まっちゃった!」
「ごめんね引き止めちゃって」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん!」
「あいらなさん、またこんどあおうね」
「うん、また今度」
「ばいばーい!」
「ちびも、また遊ぼうね〜!」
「きゃーす!」
「ばいばーい」

  騒がしい子供たちの背を見送って微笑むアイラナステアの頬を、何かがつんっと押す。
「?  ちび、どうしたの?」
  ・・・・・・・・・
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!マスターの事忘れてたぁぁぁぁ!!??」
  慌てて翼を広げて、また気付く。
「・・・高等部の場所訊くの、忘れた・・・」
「ぴきゃ・・・」
  ちびの呆れたような声だけが、その場に残った。

                                  ★☆★

「確か今日は、Yinが転入してくる日だという話でしたが・・・」
  退屈な授業を聞き流しながら、冬月俊範は独りごちる。
「無事ですかねぇ・・・」
  Yinをこの学園に招いた男は、一応は友人らしく気遣うような台詞を吐きながら、
窓の外に目を向けた。
  その口元には、うっすら笑みが浮かんでいた。

                                  ★★★

  夢。
  夢だろうきっと。
  じゃなければ、酷すぎる。
  なんだってこんな目にあっている?
  爆音。爆風。
  圧倒的な、暴走する力。
  迫り来る、いくつもの凶器。
  眠り続ける少女。
  欠けた心。
  存在。
  禁忌。
  半身。
  血。

  死の、ビジョン……


  倒れ伏すYinの身体が、突如痙攣を始めた。
  傷付き、ぼろぼろに成り果てた体表面が蠢動を始め、何かにその姿を変えようとして
いる。
  わずかずつ、だが確実に・・・
  変貌しつつあるYinの眼に、光―理性という物をどこかに置き忘れてはいたが―が
戻った。
  既に、人の物ではない腕で身体を支えながら、ゆっくりと身を起こす。
  立ち上がり、歩き出そうと地を踏みしめた時。
  新たな爆発がその姿を飲み込んでいった・・・