Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第35章 「終幕」 投稿者:YOSSYFLAME




第6ブロック2回戦第2試合、悠朔、来栖川綾香組 vs セバスゥナガセ、阿部貴之組。
おそらく観客の大半が、悠、綾香組の圧勝を予想していただろうこの試合。
下馬評通り、5−1の圧倒的リードで悠組優勢のまま迎えた第7ゲームに、それは起こった。

来栖川綾香、敵の凶弾に倒れる。

なんとか復活はしたものの、根深いダメージが残っている綾香。
その直後、悠の復讐の凶弾により、阿部貴之が撃ち砕かれる。
そして――

「悪いな、パートナーを破壊してしまって。……ああ、でも事故だからな。よくあることだ。」
どうやら口、顎に球が直撃したらしく、口を押さえて悠の足元でのたうちまわっている貴之には見向きもせず、
皮肉屋特有の笑みを浮かべ、ネットの向こうのセバスゥを見据える。
「案ずることはない。少しばかり顎にダメージはあるが、試合続行に問題はない。
10分の治療でコートには立てるだろう。ロクにプレイできるかどうかは知らんが。」
口から多量の出血をしているこの状態が本当にその通りなのか疑問が残るが。
「今貴様等にリタイアしてもらっては、せっかくのもてなしが無駄になるからな。
だから阿部先生は軽い怪我で済ませておいた。



なにせ今回の主賓は貴様だからな、セバスゥナガセ。……………いや、ギャラ=v



セバスゥの表情が一瞬で強張る。
「貴様の道化芝居など、俺にはとっくにお見通しだ。
さあ、正体を現して俺と闘え。その上で綾香の仇、討たせてもらう。」

「……クッ、ククククク……」
「…何が可笑しい。」
「……いやはや、先刻お見通しでしたか、悠様。
いかにも私はセバスゥナガセではなく、薔薇部のギャラでございます。
大会当日に限って変身が出来なくてですね。前もって第二購買部から購入しておいた肉襦袢を着込んでいたのですが、いやはや……」
ビリビリビリィ!
肉襦袢が音を立てて引き裂かれてゆく。
その中から、本来のギャラが姿を現す。
「…………貴様…………」
意識せず呟く悠。
手の平に汗が滲んでいることなど、おそらく彼は認識していまい。
しかしながら悠の反応も無理のないこと。
なにせ、引き裂かれた肉襦袢の中にいる彼の笑顔から、信じがたいほどの殺気が迸っていたのだから。

「しかしですね……。
道化師として、幻術師として、タネをあかされるということ≠ェどういうことなのか……
お覚悟を召していただきますよ、悠様。」





「ゲームネクスト! 5−1、15−15、悠組サーブから!」

主審の宣言と共に、悠がサーブを打ち込んだ。
しかし、そのサーブたるや……

「なに?  打ち頃のサーブじゃねえか?」
ざわつく観衆。
しかし、選手席で観戦していたシッポは気がついていた。
これが、ただのサーブであろう筈がないということを。
いや、サーブ自体はなんの変哲もないが……

パキュッ!

そのサーブを何の造作もなく打ち返すギャラ。
そしてまた悠が打ち返す。
一対一での一進一退の攻防が続く。
しかし、マトモにテニスをやった場合の実力は、どちらが上であるか。
何度かのラリーの後、打ち返したギャラのボディバランスが崩れた。
その隙を突いて、悠のスマッシュが放たれた。

「(1発で楽になどさせるか。まずは胃液でも吐き出させてやる。)」



鈍い音がし、両者の動きが止まり――



「イン、15−30!」

ボールは逆に、悠のコートに叩き込まれていた。



「(………さすが、一筋縄ではいかんな。しかし、これはただの挨拶代わりだ。借りは返させてもらうぞ。)」

ネットを挟んで不敵な、そして冷徹な笑みをギャラに向ける悠。
ゲームポイントは5−1で圧倒的リード。
ただ勝つのなら訳はない。
目の前の男、ギャラには、払ってもらわなければならないものがある。
そう、自分のパートナー、来栖川綾香にした真似をそのまま、いや、きちんと利息まで返した上で。





「――ゲーム!  ギャラ、阿部組、3−5!」

「(馬鹿な……!?)」
悠には俄かに信じられなかった。
何故目の前の男はピンピンしているのか。
何故目の前の男は、ああも自分のスマッシュに簡単に合わせられるのか。
相手はたかが薔薇部などという訳の分からぬ倶楽部の人間ではないか。
百戦錬磨、プロ≠フ自分が、例えテニスとはいえ、こうも手玉に取られるものか。
いや、テニスの腕にしたところで自分の方が上であることは間違いない。
それならば、何故――

「……いやはや、先程おっしゃったでしょう。私は、道化師≠ネのですから。」

目の前の男、ギャラが口元を歪める。
それを見ても悠の表情には別段変化は見られない。
しかし、その心中や焦りといらつきで一杯であろう。
「(……なるほど、この男が只者でないという事実はわかった。
それなら、それなりのもてなしをするまで。
より効率的に、敵を葬る最善の手段を――)」

ゲーム再開と同時に、見違えるような動きで攻撃を繰り出す悠。
しかし――

「ゲーム!  ギャラ、阿部組、4−5!」
それでもギャラを沈めることは叶わず。
逆にあと1ゲームと迫られ、復讐どころか逆転負けの可能性すら出てきた。



「あの子の攻撃は、素直だからねえ……」
「何?」
観客席で観戦していたルミラの呟きを聞きとがめるシッポ。
「部長の攻撃が単調だと……?」
さすがに情報のプロらしく、感情を表に出すことなく言葉短に、要点のみをついた質問をする。
「ええ、あなたも気がついているんでしょ?あの子の最後の狙いがどこであるかをね=B」

「………あ。」
はっとしたような目でコートを見直すシッポ。
そう、変幻自在の動きで相手を翻弄するものの、最後の最後で返されるその理由。

どんなに変幻自在でスピーディーでクレバーなショットを繰り出してきたところで、
最後は必ずギャラ目掛けてボールが飛んでくることが、彼自身は完全に分かっているから。



「……面白い男だな。あのギャラという男も。」
観戦しているハイドラントの口元が笑みで歪む。
「この勝負、悠さんがテニスとして闘っているのであれば、勝負はとうについています。
しかし悠さんには一つのこだわりがある。
あくまでテニスの土俵で、綾香さんを傷つけた者を葬る≠ニいう、妙なこだわりが。」
そのハイドラントの傍らで静かに佇んでいる神海が続ける。
「だから、一見変幻自在に見える攻撃が、実は凄く単調になってしまっていることに。
ギャラさんへの制裁ならば、試合後でも十分にできるはずなのに。
自分でその条件を限定してしまっているんですね………」
「それをさせたのが、あのギャラだな。」
「え?」
神海の表情がやや動く。
「そこまで読んだ上で、綾香を阿部に討たせたんだ。
計算高い悠に残っている、アナログな部分での*ュなこだわりをも計算に入れてな。」
「じゃあ……」
「この勝負、このままだと悠は負ける。」





そんな中ゲームが続き、悠の弾丸ショットが尚もいなされ続ける。
KOどころか、涼しい顔でラケットを弄んでいるギャラ。
「(……どうする。)」
悠は考えていた。
確かに試合後でも、この男への落とし前はつけられる。
そう考え、目の前の綾香に視線を移す。
まだダメージからの回復は遠いようで、弱々しい笑みを悠に向けてくる。

――いや。

綾香を侮辱した罪は、ただ制裁を加えるだけでは生ぬるい。
このこと自体もギャラの計画であるならば、それをもぶちこわして勝つのが本道。
相手の企みを崩壊させて、精神的にもズタズタにするのが報復。
ならば、もう迷うことはなかった。
敵がどうでようと、最終目標は敵の破壊。



「(……いやはや、意外と頑固なのですね、悠様は。)」
道化師の外見に凶凶しさを張り付けてほくそ笑むギャラ。
「武道でいえば、見切られている≠アとに未だに気づかないなど……
いえ、気づいていてなお志を変えないのでございましょうか……)」
ギャラの眼が鈍く光る。
「(いずれにしてもこのまま行けばアレですが、少し疲れてきましたし、
この度の公演も、そろそろ幕引きといきましょうか……)」



「プレイ!」

綾香から放たれる力のないサーブ。
ギャラ側の阿部貴之も使い物にならない今、実質悠とギャラの一騎打ち。
再び繰り広げられる殺気を含んだラリー。
しかし、今度は今までにない雰囲気が流れていた。そう、二人ともに。
しかしラリー自体は先ほどと変わらず、技術、体力面で勝る悠が終始ペースを握る展開。
そして、左右に振られてガタガタのギャラ。
空いているスペースにスマッシュを放てば、容易にポイントは決められる。
しかし悠の狙いはそんなところにはない。
彼の目的はただ一つ。
「討ったぁ!」
悠の殺人スマッシュが、ギャラの顔面を潰すべく放たれた。

「討ったとはこちらの台詞ですよ!悠様!」
悠のスマッシュに完璧に反応しているギャラ。
「ぐっすりお眠りなさいませ!!」

バキャッ!

今までの悠の弾道を見極めていたギャラだから為し得るスマッシュ返し≠ェ逆に悠に襲いかかる!





「馬鹿が。」

驚くべきは尋常ならぬ悠の反射神経。
ギャラのスマッシュ返しに完璧にラケットを合わせていたのだ。
「な、何ですと!?」
驚愕に目を見開くギャラ。
完全にバランスを崩している彼。もはや打ち返すことなど不可能!
「死ね。」



――処刑、完了。









それは、信じられない光景だった。
全てを読み切ったギャラのスマッシュ返し
それすらも凌駕した悠の驚くべき戦闘性能。
そう、終わったはずだった。
今度こそ、完璧に。

しかし、それらの全てが幻術≠セったとしたら。



「何ぃっ!?」
信じられない、といった面持ちの悠。
スマッシュで完璧に振り切ったはずのギャラの右腕が、再び振りかぶられていたのである。
運動神経とかそういったレベルの問題ではない。
有り得ない。不可能。
ただ一つ。それを可能にするものがあるとしたら。



――幻術――



自分の最強の武器を最後の最後の最後に。
いや、それすらも彼にとっては最終兵器たりえないのかもしれない。
しかし、今この場に限って言えば、この切り札≠ヘ、決定的だった。

全身全霊の力をこめて放たれる悠の、とどめであるはずだった<Xマッシュ。
今度こそギャラの本当の右腕が、それを屠る為に振り下ろされる。
そして、道化師≠ェ客にネタをばらすことは、道化≠サのものの終焉を意味する。
ネタをバラしてしまった道化師のとるべき道はただ一つ。

――悠様。これで当公演は終幕でございます。






グシャァァァァァァァァァァァ………ッ…









会場が静寂に包まれた。
なんともいえない結末に、皆声がない。
葵も、好恵も、シッポや志保、ルミラでさえも。
それは、当事者達でさえも例外ではなかった。
呆然とそれを見ているしかできない、阿部貴之。………そして、悠朔。
眼前に繰り広げられていたその光景。
完璧に撃ち砕かれ大の字で悶絶しているギャラの姿と、スマッシュの体勢のまま息を切らせている、

――来栖川綾香の姿があった。





「やられたままで引き下がるほど、エクストリームチャンプの、いえ、
――来栖川綾香のプライドは安くないのよ!!」





しんと静まり返った会場に一喝が響き渡ったと同時に、
ものすごい歓声が響き渡った。
そして、審判の声が歓声を割って響く。

「ギャラ選手試合続行不能により、悠、来栖川組の勝利といたします!」

「綾香さんっ!」
葵も、尊敬する先輩の、苦しみぬいた上の勝利に、興奮を隠せない。
いや、葵だけではない。
よもやまさかの綾香の復活劇に、会場は沸きに沸いている。
そんな会場の歓声に手を振って応える綾香。

その一方で、担架に乗せられ退場して行くギャラ。
敗者は何も語らず、ただ消え去るのみ。



「……策士、策に溺れる、ね。」
「ルミラさま?」
「ギャラは、あそこで自分の勝利を確信してやまなかった。
普段なら当然注意してしかるべき来栖川綾香の存在を、完璧に頭から抜け落としたままにね。」
「でもでも……」
ルミラの物言いに一言ありそうなアレイが続ける。
「綾香さん卑怯ですぅ。
ギャラさん達は一騎打ちで勝負していたのに、いきなり横槍を入れるなんて……
仮にもチャンピオンなら正々堂々と……」
「それは違うわよ、アレイ。」
不平募るアレイの物言いを、ルミラはピシャリとはねつけた。
「これは最初から2対2の勝負。あれを横槍とは呼ばないわね。
百歩譲っても、この試合はお互いの知略戦だった。
策謀優れる悠朔のみを対象と思い込み、綾香の存在を頭から抜け落としていたギャラに敗因はあるわ。」
「ルミラさま……」
「でも、ギャラにも同情の余地は有るわね。
まさか正統実力派格闘技チャンピオンが、最後の最後まで死んだフリ≠オて欺いてくるとはね……
まあ、それくらいの執念がないと、トップにはなれないのかもしれないけどね……」
見上げてくるアレイをよそに、ルミラは一人可笑しげに笑っていた。」

しかし、そんなルミラの予測は半分くらいは外れていた。



「……ふう。」
「……綾香、大丈夫か?」
悠の肩を借りて、ようやく医務室に着いた綾香。
顔色が真っ青になっていて、呼吸をも乱している。
「ごめんね、ゆーさく……」
弱々しく笑うそんな彼女を見ながら、悠は胸を締め付けられる思いだった。

そう、綾香は欺いてなどいなかった
最後の最後で、ギャラと悠の一騎打ちの時、ただ一人、幻術≠ノ気づいた綾香。
ただ一心不乱に悠のサポートをするべく駆けた。己が不調を気力で騙し。
ただ、それだけだった。

それだけに悠の心中は辛かった。
この試合、勝つ気になれば本当にあっさり終わらせられた試合だったのだから。
それを自分のエゴで思わぬ苦戦を強いられ、あげく怪我人の綾香に助けられる始末。
自分が不甲斐なくてたまらなかった。



「それは違うよ、ゆーさく……」
「!  ……綾香。」
悠の心中を察したのかどうか、ベットに横たわったまま呟く綾香。
「私だって、あそこまでされてただで終わらせる気はなかったもの……
むしろ、嬉しかったから……
苦戦したのは相手が強かったから、ただ、それだけ……」
真っ青な顔で声を振り絞る綾香。
「それに……あそこまでできたのは……、力を、温存させてくれた、あんたのおかげだし……
……ありがと、ゆーさく……」
「……綾香。」
綾香の手を力一杯握る悠。
互いの体温が、今はやけに温かく感じた。





「(……いやはや。)」
そんな二人の様子を、カーテン越しに聞いていた男、ギャラ。
「(……対戦相手の私が担架で運ばれてここにいることなんか、あの方々はお気づきになられていないのですね……)」
ちょっと寂しい気もしたがそれはそれ。
所詮自分は道化。
「(さてはて、しばらくはお休みさせていただきましょうか。起きた時には何かとあわただしくなるでしょうから……)」
そうしてギャラは静かに目を閉じた。
道化にも休息は必要だと。そう思いながら。






       悠朔×来栖川綾香組…3回戦進出!
       ギャラ×阿部貴之組…2回戦敗退。










「さてと、ようやく出番だな。……広瀬のヤツ、まさかまだ寝てたりはしねえだろうな?」
歓声さえも遠く響く場所、YOSSYFLAMEは一人呟いた。





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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:いやあ、久しぶりだなあ。
ゆかり:久しぶりじゃないでしょ全く。
よっし:いやな、いろいろあったんだよ。主にHPとかHPとかHPとか。
ゆかり:……殺すわよ。
よっし:まあ、それはともかく、お待たせしました。約2ヶ月ぶりのテニスLです!
ゆかり:ねえ……
よっし:なんだよ。
ゆかり:前回からの続きってことは……

       ギャラ先輩、2ヶ月もセバスゥナガセの着ぐるみに入ってたってコト?

よっし:………
ゆかり:………
よっし:………まあ冬だから。あったかくてよかったんじゃないのか?
よっし:それで済ますわけ、あなた?

よっし:ギャラさん、悠さん、申し訳ありませんでしたっ!
ゆかり:待っていてくれた方々も、本当に申し訳ありませんでした。
よっし:なるべく書けるように努力いたしますので。本当にすみませんでした。



よっし:で、次回だが……
ゆかり:お待たせしました!ついに私たちの出番です!
        YOSSYFLAME×広瀬ゆかり組  vs  川越たける×長瀬祐介組の闘いが始まります!
よっし:……誰も待ってねえ、なんて言われたらどうするよ、お前。
ゆかり:それはないわ。あなたならともかく、私は女優よ!
        女優がスポットライトを浴びるのは、必然なのよ!
よっし:はいはい。ま、実を言うと楽しくてたまらなかったりするんだけどな、俺も。
ゆかり:くれぐれも言っとくけど……
よっし:なんだよ。
ゆかり:テニス、やりなさいよ。
よっし:お前な……