Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第37章 「広瀬の実力」 投稿者:YOSSYFLAME




第2ブロック2回戦第2試合、
川越たける、長瀬祐介組  vs  YOSSYFLAME、広瀬ゆかり組。

相性最悪の上即席チームのYOSSYとゆかりは、序盤から大自爆。
早くも3ゲームを先取され、傍目にも大勢は決まったかに思われた。
しかし、

「だって、所詮俺らは敵同士だしな。下手に取り繕ったって、上手くいくわけないし。」
「そうね。仲良く協力し合おうなんて、私達のガラじゃないしね。」

その言葉通りの完全フリーダブルスを展開し始めた途端、見違えるように息が合う二人。
あっという間に3ゲーム取り返し同点に追いついた。
そして、その勢いは――



『おっとぉ!  再びYOSSY選手、的確にリターンを返す!』
ゲームポイント3−3で迎えた第7ゲーム。
そこですら、YOSSY達の勢いはまったく止まることがなく、押せ押せで試合は進行していた。
「せえぇぇい!」
スパァァン!

「イン!  30−0!」
『いったぁ!  広瀬選手の強烈なスマッシュ!』

「よし!」
「なかなかやるじゃねえの、広瀬。」
「そりゃね、あなたとは違うから。」
「……そーゆーことを言うかお前は。」
圧倒的な押せ押せムードの展開のYOSSYとゆかり。
今や二人とも、こんな軽口をたたけるまでに自分を取り戻している。





「……何をやってるんだ、長瀬君は。」
「お兄ちゃん……」
観客席上段の手すりに寄りかかって試合を観戦している月島瑠璃子、と、もう一人、
この大会の主催者、暗躍生徒会会長にして、リーフ学園元$カ徒会長、月島拓也。
「場を読むことを少しは覚えた方がいいな、彼は。
この期に及んで出し惜しみしているようじゃ、手後れになる危険性すらある。」





「ちぇりゃぁ!」
バキャッ!
『なんと、YOSSY選手、あの距離からのバックアタックが炸裂!
たける、長瀬組のコートを真っ二つに切り裂く一撃で、このゲーム、リーチ!』





「大丈夫だよ、お兄ちゃん。」
静かな微笑みを浮かべ、瑠璃子が呟く。
「瑠璃子……」
「だって。」
コート下を見つめる瑠璃子の視線には、決意の表情を漂わせている祐介の姿があった。
「長瀬ちゃんは大丈夫。きっとみんなを幸せにしてくれるよ。」
「……そうだな。」
無垢な瑠璃子の笑みに、優しく微笑み返す拓也。





「長瀬先輩!」
「ごめん……、この試合こそ負担をかけさせまいと思ったのに……」
何かを訴えかけるたけるに、申し訳なさそうに謝る祐介。
「私は大丈夫だよ!  あと3ゲーム。……勝とうね!」
「……うん。」
たけるに頷き、精神を集中させる祐介。
「(彼女の耐久力からして、もうこれはそんなに使える技じゃない。
あと3ゲームで……)」
目つきの変わった祐介、ネット向こうのYOSSYとゆかりを睨み付ける。

「……よっしー。彼、やってくるわよ。」
「ああ。……もうちょっと勿体ぶってくれたら、勝負を決めさせてもらったんだけどな。」



「(……決める!    行くぞ!  精神電波・改!=j」






「くっ……、まさか、これほどのものなの!?」
「どうだあっ!」
たけるのストロークに、またもあっさり抜かれるゆかり。
先ほどとはまるで別人のたけるの運動能力に手も足も出ない。
「よっしー!」
「ラジャー!」
その瞬間、YOSSYの姿が掻き消えた。



――超機動=I



「ぐううっ……っしゃあ!」
たけるのストロークの球威に押されながらも、何とか返すYOSSY。
「(向こうがそうくるんだったら、こっちだって出し惜しみする義理はねえ!)」
自動車並みのスピードに、人間の小回りのよさが加わったYOSSYの必殺能力。
電波により、人間離れした運動能力で攻めまくるたけるの攻撃も、これをも簡単に突破するのは至難。





「へぇ……、弱点は克服したわけね。」
観客席で観戦していた東雲恋が呟く。
「(前までならあの速さで直線的に突っ込んでいって、ブレーキングの隙をつかれてたけど、
今回は円を描くように疾ってるから、余計な減速や急ブレーキはグンと少なくなる。
……ちょっとやそっとじゃ、アレは崩せない。)」





とはいうものの、
「ぐううう………っがっ!」
スピードはあるが、そんなに正確無比のショットが打てるわけでもないYOSSY。
結局、時間だけを引き延ばすものの、
「ゲーム!  川越、長瀬組、4−3!」
4連続ゲーム奪取はならず、再びリードを許してしまう。



「……ちいっ!  さすがに簡単には勝たせてくれねえか……」
舌打ちをしながらサイドチェンジするYOSSY。
「さて、どうする広瀬………って、どした?  やけに余裕があるじゃないの。」
妙に力が抜けているゆかりをみて、訝しむYOSSY。
「よっしー……」
「あ?」
「時間引き伸ばしてくれて、助かったわ。」
そのとき浮かべていたゆかりの表情は、YOSSYがいつも見ている、あの不敵な笑顔そのものだった。。





「……よし!」
「……貞本さん?」
ぐっと拳を握り、期待に満ちた表情でコートを、いや、その中のゆかりを見つめる貞本夏樹。
「見ててください、ここからですから。……ゆかりの本当の実力は!」

「(広瀬の本当の実力だと……?)」
遠くからの夏樹の声を聞いて、半信半疑ながらもコートに目を向けるディルクセン。





「プレイ!」
審判の声と同時に放たれる祐介のサーブ。
それを無難に返すYOSSY。
しかし、向こうがわには超人的な運動能力を電波によって得た少女、川越たけるがいる。
一瞬でYOSSYのストロークの弾道に立ちはだかり、
「ええいいっ!」
目にも止まらぬスイングスピードで、向こう側にボールを叩きこん――



すぱぁぁんっ!



「……え?」
そのたけるの足元に、逆にボールが叩き込まれた。

「え?え?」
何が起こったか分からずにうろたえるたける。
それは彼女のパートナーの祐介にしても同じ。
「なるほど、そーゆーわけか。」
ただ一人、YOSSYのみがニヤリと笑みを浮かべている。

「……これが、女優・広瀬ゆかり≠フ実力よ。」
その張本人、ゆかりがくすりと微笑を浮かべたと同時に、観衆から歓声と疑問のざわめきが巻き起こった。





「そ……そんな?
私達ですら押し切られた、あの状態のたけるの攻撃を、あんなにあっさり……?」
「……ルミラさん?」
それは神凪が、いや、仲間の雀鬼達ですら見たことが数少ないだろう、ルミラの狼狽。

「マグレ、ですよね……?」
「イエ、今のはマグレでもなんでもないデス。広瀬サンはカンペキにたけるさんの球に反応してまシタ。」
「そ、そんな……」
「……いや。俺にはよくわからねえが、今のがマグレでないことぐらいはわかる。」
「秋山さんまで…!」
ハイパーモードのたけるの球が、あんなにもあっさり撃ち砕かれたことに、動揺を隠せない電芹。

「あれが、貞本の言った、広瀬の本当の実力≠セっていうのか……?」
風紀委員席から少し離れて観戦していたXY−MENも、驚愕を隠せない。
「ええ、ただし、運動能力じゃない。
あれは、私とはまた別の分野の……それもかなりのレベルの洞察力=v
「レディー……」
仮面で顔は見えないものの、雰囲気でかなり面食らってる様子が伺える。

「洞察力≠ナすか……」
理由を究明しようと思っているとーるに、笑みさえ浮かべながら説明する夏樹。
「とーるさん、あなたならわかりますよね。
草%ェ領。それがゆかりのもう一つの顔……」
「ええ……」
「仮にも私達の上に立つんです。余程の人材でないと私達だって困ります。
なのに次の頭領と来たら、どこぞと知れぬ一人の小娘。私だって、あんな子で大丈夫なのかと思いました。
私がそう思うくらいですからね。他のタカ派連中なんか、完全に殺気立っちゃって……」
嬉々として、友達の自慢話をするような調子で続ける夏樹。
「で、新頭領のお目見えが済んだ後、タカ派数人がゆかりを闇討ちしたんです。
どうなったと思います?」
「どうなったって……、返り討ちにしたんじゃないんですか?」
とーるが当たり前のように答える。
話の展開上、そうとしか考えられない。
「その通りなんですけど、そのときゆかりが言った言葉が、

クス……、忍者集団ってのも、案外動きにクセがあるものね

……敵の動きの癖、特徴を掴んで反撃できる。
そもそも彼女の女優業にしても、人の、役の、わずかなクセや特徴を明確につかむ洞察力が必要です。
そのゆかりの能力の一つが――」



「……あの、素晴らしいほどの洞察力≠チてことだ。」
月島拓也が呟く。
「僕が彼女をスカウトした理由の一つだからね。
対象の癖を逃さずとらえ、場面に応じてそれを活用する。彼女が女優≠スりえる秘密の一つ……」





「(見える……、川越さんのショットの時の癖が。
こうして踏み込んできた時には、まず間違いなく――)」

ぱあぁぁん!
「ゲーム!  YOSSY、広瀬組、4−4!」

完璧に敵の主戦力、たけるのショットの癖を見抜いてカウンターを食らわせるゆかり。
ただ単に癖を見抜いているわけではない。
たけるのショットの後の体勢から、どこへ打ち返せば彼女がとれないかまで、ゆかりの頭に入っている。
ともあれ、ついに牙を剥いたゆかりの前に、またもポイントで並ばれてしまうたける達。
「つ……、強い……」
思わず言葉が漏れる祐介。
最初の3ゲームまでは、取るに足らないバカチームだと思っていたのに、
いざ我を取り戻させた途端、怒涛の猛反撃であっという間に追いつかれ、頼みの電波ハイパーモードでさえ……
「私が今までの7ゲーム、ただボケっとしてただけだと思った?
既にあなたたちのなにもかもが、私の前では丸裸。
悪いけど、……あなたたちにはここで終わってもらうわ!」



完璧にペースを握られていた。そう、最初から。
最初の3ゲームにしろ、あれはゆかりとYOSSYによる自爆劇。
逆に言えば、ポイントこそこちらが得られたものの、試合のペースは、あっちに握られていたとも取れる。
そして、3ゲーム奪われた反撃の幕でも、電波を出して闘った第7ゲームも。



「ようやく気づいたようね。ゆかりの本当の恐ろしさに。」
夏樹がクスリと笑いながら、コートを見下ろす。
「洞察力も彼女の必殺武器には違いないんだけど、
上に立つものにとっても、客を惹き付ける女優業にしても、もっとも重要な能力の一つ、

場を支配する力

それがあるからこそ、ゆかりは今も、私達の頂点に君臨してる。」
と、ここまで言って不意に振り返り、
「どうですか、楽しんでいただけてます?  ディルクセン先輩?」
にっこりと笑いながら尋ねる夏樹。
「……フン、まだ勝利したわけでもないのに、余裕ぶるとはな。」
「それくらいわかってますよ。勝負は何が起こるかわかりませんからね。」
不意に表情を引き締め、コートに視線を移す夏樹。
この優勢の状況でありながら、なにかの不安要素を抱え込んでいる。
彼女の瞳は、それを雄弁に語っていた。



「ゲーム!  YOSSY、広瀬組、5−4!」

次のゲームも、超機動を駆使したYOSSYの粘りと、弱点を的確に突くゆかりのショット、
そして、完璧にペースを握られた逆風での闘いに、
ハイパーモードも効を成さず、なす術も無くポイントを取られゆくたけると祐介。
そしてついに、この勝負にリーチがかかった。
「先輩、どうしよう…、このままじゃ、このままじゃ……」
あのルミラたちをも力で封じ込めた電波でのハイパーモード、それがこの二人の前にはまったく通用しない。
頼れる切り札を潰されただけに、たけるのショックもひときわ大きい。
すでに肉体的疲労と精神的疲労で、彼女のスタミナは限界に来ている。
何もかもが追いつめられた状態で、祐介は必死に考えた。

「(……広瀬さんだって、決して無敗で通してきたわけじゃない。彼女の力も、完璧足り得ない。
どこかに必ず隙があるはずだ。どこかに必ず……)」







                                                                     ……To  Be  Continued!


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『申し訳ありません。あともう少しだけ留守にします(笑)』