Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第38章 「斜陽」 投稿者:YOSSYFLAME




「あと1ゲーム!  あと1ゲーム!」

風紀委員応援席から歓声が轟く。
第2ブロック2回戦第2試合、川越たける、長瀬祐介組  vs  YOSSYFLAME、広瀬ゆかり組の一戦、
洞察力≠ニ支配力≠併せ持った、風紀委員長・広瀬ゆかりの巧妙なゲームメイクにより、
ゲームポイント5−4とがけっぷちに追い込まれた、祐介とたける。
しかもここにきて、たけるのスタミナもかなり限界。
人体に強烈な副作用を与える祐介の精神電波のツケが重く彼女にのしかかる。
何もかもが追いつめられたこの状況で、祐介は考えている。

「(……広瀬さんだって、決して無敗で通してきたわけじゃない。彼女の力も、完璧足り得ない。
どこかに必ず隙があるはずだ。どこかに必ず……)」




「イン、0−15!」
歓声が響く。
並外れた洞察力を持つゆかりの、たけるの癖を読み切ったリターンで、また勝利へ一歩近づく。
「ああああぁぁぁぁぁ!」
たけるのショットがコートを越えようとするが、
「甘いっ!」
一足先に飛んでいたゆかりの空中ブロックに阻まれ、
「イン、0−30!」
尚もリードを広げられる。
「これなら………これならどうだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
どばきゃっ!
たけるのパワーサーブが炸裂!
電波で増強された人並みはずれたサーブに、今度はゆかりも手が出ない!
「やったあ!」
そのままボールはコートに突き刺さる!

「アウト!  0−40、マッチポイント!」

「ええっ!?」
思わず漏れる文句。
「どんなに強いショットを撃っても、ワクに入らなかったら、意味、ないわよ。」
ラケットで肩を叩きながら嘯くゆかりの前に、手も足も出ないたけると祐介。
「あと1球!  あと1球!  あと1球!  あと1球!」
「まだまだいける!  あきらめるな!」
観衆が真っ二つに分かれての大歓声が響く。



「くうううっ……」
「ルミラさん……」
葉を食いしばり、我が事のように悔しがるルミラ。
「……悔しいけど、広瀬ゆかりの力は認めざるを得ないわ……、……でも!」
ガタッ!
「たける!  私を破ったアンタの実力はそんなものじゃないでしょ!?」
「………ルミラさん………」
立ち上がり絶叫するルミラ、そのルミラを申し訳なさそうにみつめるたける。
「川越さん、あなたは広瀬さんに萎縮させられてるだけだ!
本気の貴女の実力は、そんなものじゃない!」
「神凪先輩……」
ダーク13使徒の同志、神凪遼刃も必死にたけるを奮起させようとするが……

「クスクス……、気合や根性なんかで私の支配≠ゥら逃れられると、本気で思ってるとしたら、
よっぽどおめでたい頭の構造してるとしか思えないけどね。」
すかさず飛ぶゆかりの揶揄。
「ホンットにどうしようもなく性格悪いよな、お前。」
「……うるさいわよ。」
とは言うものの、YOSSYまでもがせせら笑っているのがはっきりと見て取れる。

「くううっ……」
今や完全にゆかりの雰囲気に呑み込まれているたける。
もはやダメか、と思ったその時、



「たける!負けてんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



「梓先輩……」
刹那。
雷に撃たれたようにハッとして、その声の主、柏木梓を見上げるたける。
「お前はこんなところで負ける子じゃないだろう!
あんな性悪女、ぶっ飛ばしちまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「先輩……」
梓の本気の咆哮の前に、なにかが変わったたける。

「は……、このガサツ女が、よく言うわ、
今やそんな根性論でどうにかなる問題じゃないってことすら分からないんだから、
頭の栄養が全部胸に行ってるって噂、案外本当なのかもね。」
「なんだとこの野郎!」
「たけるっ!」
ゆかりの挑発にキレかかった梓だが、秋山の一喝で思わず踏みとどまる。

「真正面から思い切り当たって砕けろ!  結果は二の次だ!  お前の力を全部ぶつけろ!」
「たけるさん!  やるだけですよ!  思い切って撃つだけ!」
「……あっきー……、電芹………」

「川越さん……、僕も全力でバックアップするから……、頑張ろう!」
「……長瀬先輩。」
軽く、温かく、たけるの肩を叩く祐介。
「みんな……」



「川越、長瀬組、サーブ急いで!」
主審の注意に、たけるは空が揺れるほどに頷いた。
「はいっ!!!」



「それでは、YOSSY組マッチポイントから………、プレイッ!」
祐介のサーブを無難に返すYOSSY。
ボールはたけるの真正面へ……



【あんな性悪女、ぶっ飛ばしちまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!】

【真正面から思い切り当たって砕けろ!  結果は二の次だ!  お前の力を全部ぶつけろ!】
【たけるさん!  やるだけですよ!  思い切って撃つだけ!】

【――僕も全力でバックアップするから……、頑張ろう!】



「(うんっ!!)」
たけるが思いきりラケットを振りかぶった。そして――

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



たける渾身の力で放たれたボールは、なんと――

「なんですって!?」
ゆかりの真正面に向かって一直線!
「そんなやぶれかぶれの戦法が!  私に通用すると思ってるの!?」
その弾丸ストレートをいなすように撃ち返すゆかり。
ボールは的確にたけるのウィークポイントへ、吸い込まれるように飛んでゆく。
ここはたけるのフォームからなる絶対的な弱点。
「くうううう………っ!」
撃ち返そうとするがままならず。
万事休す――



「そうはいかない!」
その咆哮と共に、再び広瀬側に飛んでゆくボール。
「……長瀬先輩!」
たけるが取れなかったウィークポイントに、祐介が食らいついて跳ね返したのだ。
安堵の表情を浮かべるたけるに、
「まだ終わってない!  来るよ!」
「う、うんっ!」
祐介の一喝で我を戻すたける、
時同じく、
「チ、惜しかったぁ……!」
スパアァン!
YOSSYのバックアタックがコート隅に叩き込まれ――

「はいいっ!」
たけるが間一髪回り込みリターンを返す、それがなんとまたも、
「わ、私を馬鹿にしてるわけ!?」
またもゆかりの真正面に飛んでゆくたけるのリターン。
「ナメるのもいい加減にしないと……可愛くないわよ!」
パアァァン!
ゆかりのフラットが、再びたけるの後ろ足元、ウィークポイントへ、
だが!
「もう通用しないよ、広瀬さん……」
またも祐介が食らいつき、リターンを返す。そしてそのリターンの先がまたも……
「……うっとおしいのよ!」
またもゆかりの真正面に来たボールを、今度はゆかり、祐介のウィークポイントに返す!
「これで決まりよ!」

「本末転倒だよ、広瀬先輩!」

「えっ!?」
この試合、初めて見せるゆかりの狼狽。
そう、そうなると当然たけるが祐介のフォローに回る。
「先輩、ボール返すねっ!」
たけるのリターンが、またもやゆかりの真正面に。
「しつこいのよ!」
たまりかねたゆかり、必殺のスマッシュをたけるの弱点に放つが、
「広瀬さん、無駄だっていってる……」
たけるをフォローする祐介のリターンが、再びゆかりの正面に。
「な、なんなのよ一体っ!?」



「……やっと気づきましたね。」
観客席から観戦していたレディー・Yが、仮面の奥から嬉しそうに呟く。
「川越さんの弱点は長瀬さんの弱点にあらず、長瀬さんの弱点は川越さんの弱点にあらず。
お互い弱点をフォローし合うことにより、鉄壁の守備を保つことが可能なんです。
お互いのフォロー。考えてみればダブルスの基本なんですけどね。」
「でもよ、レディ。あれだと、コートの大部分ががら空きじゃないのか?」
「……川越さんは、電波によって身体能力が強化されてるじゃないですか。
例え、彼女らの弱点以外のコート隅を狙ったとて、川越さんに拾われるのがオチです。
よほど強烈なスマッシュを撃てればまた違うのでしょうけど、広瀬さんにそこまでの力はない。」
「なるほどねえ……」
感心したように頷くXY−MEN。そんな彼に顔を向け、決定的なセリフを吐くレディ。
「それ以上にこの作戦は、とんでもない副産物を生み出しているんです。」



「はあ!  はあ!  はあ!  ……しつこいわねっ!」
たける、祐介組による、執拗なまでのゆかり狙いは続いていた。
とにかく、どこに何を打っても自分に返される。
「広瀬!  前後衛交代だ!」
「……そうね。悪いけど任せるわ!」
たまりかねたYOSSYが前衛に出て、ゆかりが後衛に下がる。
「かかったね。」

「何!?」
「ええっ!?」
なんと、二人の前後衛交代の隙を突いて、祐介のロブがコートに着弾する。
「イン!  15−40!」

「やったあ、先輩!」
「やったね……」
久しぶりのポイントに、嬉しそうに両手を打ち合うたける達。

「……俺達には、選択肢はないとでも言いたいのか、まったく……」
忌々しげに呟くYOSSY。
完全フリーダブルスを展開しているYOSSYとゆかり。
しかし、適正を言えば、雑だが守備範囲が広いYOSSYは後衛、精密で正確性が高いゆかりは前衛向きなのである。
その二人が前後衛交代をする。
やってできないことではないが、必然的に隙が多くなる。
今のような、YOSSYの頭上を越え、ゆかりの守備範囲外にボールを落とされたら、どうしようもできない。
かといって、祐介とたけるのように二人で共有しようにも、YOSSYとゆかりにそれが出来る訳もなし、
必然的に、ゆかりが前衛に引っ張り出される羽目になってしまう。
「仕方ねえか、受けて立つしかないな、広瀬。………って、おい、どした?」
「……え?」
「まあ、疲れてボケっとするのもわからんじゃねえけど、頑張れや。」
ニヤニヤ笑いながらポンとゆかりの肩を叩くYOSSY。
「……………」
一瞬顔をしかめ、かといって文句を言うでもなく前衛に上がってゆくゆかり。

「(……あいつ……)」
呆然とゆかりの背を見つめ、次いで自分の手のひらを見つめるYOSSY。
さっきゆかりの肩に触った手のひらを。
「(………汗、えらく冷えてる………)」



「ククク、策士、策に溺れるって奴だな。なんだあの広瀬のザマは、なあおい貞本?」
「……………」
「おい、聞いてるのか貞本?」
「………黙ってて。」
はね付けるような夏樹の物言い。
何を生意気な、と思ったディルクセンであるが、ただならぬ夏樹の態度に、とりあえず今のことは保留しておいた。
その夏樹は、今までで一番険しい顔をして、コート下のゆかりを見つめている。



「……くっ!」
なおも続くゆかり一点集中攻撃。
たけると祐介による執拗な攻撃を、それでも正確に打ち返すゆかり。
その身体からは、目に見えて汗が浮かんで来ている。
それでもゆかりの牙城は崩れない。
「(………本気で、しつこいわねえ…っ!)」
的確にウィークポイントを狙っても、フォローフォローの積み重ねによって阻まれる。
「(あぁ、うっとうしい…………、……!?)」

見えた。
新たなウィークポイントが。

抜群の洞察力を持つゆかりの眼は、無意識にでもその隙を見逃さなかった。
相も変わらずたけるは、自分めがけて球を打ち返してくる。
しかし、今度という今度は、それが完璧に絶好球になった。

今度こそ、今度こそ、決める!

「せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
全てを振り払うように、ゆかりは狙った。
彼女が狙った、その先は――



たけると祐介のど真ん中。
限りなく狭くはあったが、ゆかりのショットは、針に糸を通すが如く、その間を突き破ろうと突き進んだ。
そのとき!



「阿ーーーーーーーーっ!」
「吽ーーーーーーーーーーーーーっ!」

スパァァァ……………ン……ッ…





――阿吽戦法……?

先程YOSSYとゆかりが失敗し、その失敗が反撃のきっかけとなった戦法。
その戦法を、ここにきて繰り出した祐介とたける。
皮肉にも、反撃のきっかけとなったその戦法の完成形によって――



――ゆかりの牙城は崩れ落ちた。



「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
梓が叫んだ。
秋山も電芹も、ルミラも神凪も、そして彼女を応援していた観衆も。
まだゲームはリードされている。
しかし、これによって、ゆかりの支配≠ヘ、意味を成さなくなった。
だとすれば、次から千載一遇のチャンス。
怒涛の反撃が、まさにこれから――





「広瀬一人抜いたからって、勝った気になってんじゃねえ!」



しまった。
誰もがそう思った。
さっきまで全然目立たなかったYOSSYFLAMEが、何時の間にか、ゆかりのフォローにまわっていたのである。
その右腕が、全ての決着をつけるべく振り出される。

「楽しかったぜ!  だが、これで終わりだ!!」

そして、YOSSYの腕が振り切られた。



「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
たけると祐介の全てを葬るべく撃ち出されたYOSSYのラストストローク。
全ての力を振り絞り、レシーブに走るたける。
「とどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」



しかし、そのたけるの力、一歩及ばず。
ラストストロークは、埃を立てコートに突き刺さった。










「アウト!  30−40!」

判定はアウト。
YOSSY最後の一撃は、たけるのガードをも越えた一撃は、僅かにラインを外れていた。
俄かにため息と呻き声が錯綜する観衆。
そんな中、首がつながったことに心からの安堵のため息をつく、祐介とたける。



「惜しかったですね……あと数センチ内側だったら……」
風紀委員応援席で、いかにも惜しいと残念がるとーる。
「でも、よっしーさんがこの調子なら、広瀬さんの壁が破られても…………って、貞本さん、どこに?」



「くっそお………っ!」
天を仰いで悔しがるYOSSY。
「悪い、広瀬!  次こそはきっ――」
悔しい態度そのままにゆかりのほうを向き、申し訳なさそうに詫びるYOSSY。
そのセリフを言い終わる前に、

駆け出していた。彼女≠フもとに。






「……おい、広瀬っ!?」









                                                                            …To Be Continued!