Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第41章 「納得、できた?」 投稿者:YOSSYFLAME






「……はっ!!」

がばっ!
ベットに寝かされていた少女が、急に跳ねるように飛び起きた。
「……たけるさんっ……!」
瞬間、その少女に感極まって抱きつくポニーテールのメイドロボ。
「で、電芹、苦しいよ……っ……」
「よかった……本当によかった……」
暖まる抱擁に苦しがりながらも、電芹の温かさに触れ照れるたける。
「おっ、起きたなたける!」
「情けない、この程度で気絶とは。一から鍛え直す必要があるな、うん。」
「……お前と一緒にするなよ。」
ずっ付き添っていた柏木梓と秋山登も、たけるの側でホッと一息をつく。
「梓先輩……あっきー……」
電芹に抱き着かれながら二人を見るたける。信頼できる二人の姿に、あらためてホッとする。
「よかった。目が覚めたんだね、川越さん。」
「長瀬先輩……」
大会のパートナーの祐介も、当然というべきかちゃんと付き添っていた。
まわりの人達の温かい視線が、なんとなくたけるには嬉しかった。



「……………試合……そうだ、試合は!?」
祐介の顔を見て、不意に思い出すたける。
そう、自分が途中で気絶してしまい、その後の記憶がぷっつりと途絶えてしまっているたける。
「ねえ、電芹!……梓先輩、あっきー!……長瀬先輩っ!」
いったい試合はどうなったのか。
自分が倒れたその後はどうなったのか。
たけるの胸に不安がよぎる。
「……………」
そして、そんな彼女の不安を裏打ちするように、電芹も、梓も秋山も、そして祐介も、弱々しい笑みを浮かべるのみ。
「………そうだよね………」
だいたい予想ができたことだ。
自分が倒れたその後のことなど。
しかし、たけるの胸になんともいえない想いが去来する。
祐介に迷惑をかけてしまった。電芹や、梓や秋山の期待を裏切ってしまった。
そんな感情に胸を締め付けられ、そして――
「ご……ごめんね……ごめんねっ……!」
肩を震わせるたける。
瞬間、秋山がたけるの口をふさぐ。
「泣くな!  結果を最後まで聞き届けてからなくなりなんなりしろ!  ――それが選手としての意地だ。」
真剣な視線でたけるを射抜く秋山。
泣きそうになったたけるだが、間一髪歯を食い縛る。
「よし!」
秋山がポンとたけるの頭をたたく。

「たける……」
梓の口が開く。息を呑むたける。





「よくやったな、おめでとう!  勝ったんだよ!  たけるっ!」





「え………?」

「たけるさん、3回戦進出おめでとうございます!」
「ああ、すごい根性だったぞ!」
電芹や秋山も、口々にたけるを誉める。
しかし、たけるには信じられない。自分達が勝っただなんて。
「うそ………どうして?」
「川越さん、ほんとに君にはまいった……」
祐介も苦笑と喜びの入り交じった表情でたけるを見つめている。
「長瀬先輩、教えてっ!  その後一体どうなったの!?」
気持ち急くたけるに、クスリと笑みを浮かべる祐介。
「うん、実はあれから――」
祐介は、順を追ってたけるに話した。
彼女が倒れた後、YOSSYとの一騎打ちのラリーのこと。
そのラリーを制したこと。
そして――





『いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!  広瀬選手、渾身のストローーーーーーーーーーーーーーックっ!!』

最後の力を振り絞った、広瀬ゆかり必殺のストロークが、祐介陣内に迫る。
完璧に不意をついた一撃に、一歩も動くことができない祐介。
「(これは………決まる!!)」
YOSSYの確信。
ゆかりの放ったラストストロークは、綺麗な曲線を描き突き進む。
それがこの死闘に終止符を打つべく、ネットを越え――





ガシャ……ッ……!




鈍い音がした。
その音がコート上に響いた瞬間、まるで時が止まったのかのような錯覚に、皆、襲われた。
そして――
長いラリーの果てに、ボールはネットを越えることなく、コートに落ちた。



誰もが息を呑んでいた。
目の前に起こったことに、皆、完全に呑まれていた。

梓の口が震えながら動いた。
「たける………」と。



完全に気絶していたはずの川越たけるが、その瞬間起き上がり、ゆかり渾身のショットを打ち落としたのである。
全く無意識化の状態で。
スイートスポットも何もない。ただ、ボールにラケットを合わせただけであったが。

今は再び倒れ、眠りについているたける。
しかし、完全に意識を失った状態からの最後の反攻、驚愕すべき勝利への執念が、
YOSSYとゆかりの勝利を阻止したのである。
「たける……さんっ……!」
こらえきれず涙を流す電芹。
梓も懸命に込み上げてくるものをこらえている。
「………川越さん。」
意識なく倒れているたける。
そんな彼女を見つめながら、祐介は、ただ、肩を震わせていた。





――

「嘘みたいだね……」
自分の為したことを信じられずに苦笑いのたける。
そんな彼女を笑顔で見つめる者達。
「(まったく、たいしたコだ。)」という感慨をあらわに。

「でも先輩、それから一体どうなったの?」






――

『イン!  40−40、デュース!』
審判の声が無情に響く。
そう、勝利のリーチをかけていたのはYOSSY組であり、
祐介達は事実上、1ポイント延命処置をしたにすぎないのだから。
「……ふう。」
祐介はため息をついた。
たけるが倒れている現状、もはや試合続行は不可能。
しかし、祐介のため息は、後悔なきため息。
ここまでやれたんだ、悔いはない。
納得いく試合ができたんだ。もう、思い残すことはない。
祐介は、ゆっくりと審判に向かって手を――





「審判!  YOSSY、広瀬組………、………棄権します。」





「な……っ!?」
驚き、コートに座っているYOSSYを見据える祐介。
「ちょ……っ!」
「ん?」
「ちょっと待ってよ!  何故君達が棄権しなければならないの!?」
形相を変えYOSSYに食って掛かる祐介。
「試合続行不能だからだけど……」
「君達はあと1ポイントで勝ちだろ!!」
「あと1ポイントだろうがなんだろうが、できないものは仕方あんめー?」
「ぐ……!!」
そのときの祐介の形相は、観戦していた沙織や瑞穂すら見たことのない、険しい表情を漂わせていた。

「同情の……つもりかい?」

目の前の男を殴り倒したい衝動を必死に押し殺し、祐介は問う。
「……答えてよ。同情かい、それとも哀れみかい?  川越さんと僕に対する……!!」
「…………ぶっ殺すぞ、テメェ。」
「!!」
一瞬たじろく祐介。
言葉に殺気すら漂わせ、祐介を睨み付けるYOSSY。
「俺をあまりナメるな。勝負の場の同情が敵に対する最大の侮辱だってことぐらい、把握できてるつもりだが?」
「……………」
息を呑みながら、それでもYOSSYを睨みつける祐介に対し、一息ついて殺気を解くYOSSY。
「……最初から決めてたんだ。いけるところまではやろうって、な。」
苦笑いを浮かべながら祐介を見上げるYOSSY。
「広瀬さんの……ことかい?」
コート内でとーるや夏樹に付き添われ、今尚苦しそうな面持ちのゆかりを一瞬見つめ、祐介が問う。
「広瀬のことも……な。それで決心した。」
「ことも……?」
「なあ長瀬。これを見ても、まだ俺にやれって言うか?」
ため息をつきながらジャケットを脱ぎ捨てるYOSSY。そこには――
「こ、これは……!」
腕に巻かれた包帯から滲む多量の血。
こんな状態でやってたのか。思わずたじろく祐介だが、
「勘違いするなよ。この試合の俺の動きは、全快時と遜色はないからな。
この程度の傷でプレイに影響が出る程度の鍛え方はしてねえからさ。
ただ、やっぱり時間制限ってのがあってな、もう腕が震えてテニスどころじゃない。」
確かに血で真っ赤のYOSSYの腕は、細かく痙攣しているのが傍目からでもわかる。
「ホントは俺だって、できることなら棄権なんかしたくねえ。広瀬だってそうだ。
もひとつ言えば、予選ブロックぐらいまではもつと思ってたんだ、俺は。
けど、あんたらの強さと粘りが予想以上だった。だからやられた。――それだけだ。」
「YOSSY君……」
「だから、変な引け目をもつな。あんたらは実力で俺らに勝ったんだから。」





――

「そうなんだ、そんなことが……」
さすがに敵の棄権で勝ったことに、若干表情が曇るたける。
「たける。」
「あっきー?」
「よっしーも広瀬も、お前にそんな顔はしてほしくないと思ってるんじゃないのか?」
「……あっきー……」
「お前が為すべきことは、3回戦、風紀代表チームを完膚なきまでに叩き潰して、
マトモに闘っても俺達は負けていた≠ニ、あいつらに思わせることだと思うぞ。」
「……あっきー……、……うん。」
何かを呑み込み、頷くたける。
「そうそう、川越さん。広瀬さんからの伝言。

『――私達を倒したことは誉めてあげるわ。
でも、あなたたちもここまでよ。
3回戦であなた達があたる風紀委員会代表チーム。はっきり言って、私達とはケタが違うからね。
手加減なんかさせる気、これっぽっちもないから。――ま、せいぜい頑張ることね。』

――だって。」


「なんだあいつ!  ムカツク女だな!」
梓が怒りを露にする。
「面白えじゃねえか!  たける!  長瀬!  
あいつら、グーの音もでないほどコテンパンに叩きのめせよ!!」
「うん!  ――広瀬さんの伝言、たしかに受け取ったよ!!」
「負けたからってケンカ売ってやがるのか!?  ホントにムカツク女だぜ!」
梓が怒る気持ちは十分わかる。
でも、たけるはなんとなく気づいていた、かもしれない。
憎まれ口の中のゆかりの気持ちが。
真剣勝負をしたもの同士だからこそ。





――同時刻・学園中庭。

「お前もホンットに素直じゃねえ女だよな。」
「……うるさいわね。」
気持ちのいい春風と暖かい陽射しに包まれて、だいぶ気分が楽になってきたゆかりを、呆れた視線で見つめるYOSSY。
「素直に励ます……ことは出来ないにしろ、勝利くらい称えてやればいいのによ。」
「フン……たまたま負けただけよ。次やれば――」

「――気、使わせたくなかったんだろ?」
「な……っ……」
意地悪そうな眼差しを向けるYOSSYに対し、顔を真っ赤にするゆかり。
「わかるって。お前、このテに関してはホントにバレバレだもん。」
「うるさいわねっ!  あなただって人のこと言えないでしょうっ!  あの最後のラリーなんか特にっ!」
「あれは作戦だ!  たまたま長瀬に見破られただけだ!」
「はっ!  たけるさんにそんなことできない〜≠ニか思ってたんじゃない?
ホントに女の子相手だと鼻の下伸ばしちゃって、いやらしい!」
「テメェ……ケンカ売ってんのか!?」
「どっちが先に売ってきたのよっ!!」
互いに大人げなく睨み合うゆかりとYOSSY。
「けっ!」
「フン!」
そして、お互いソッポを向き、しばらく沈黙が訪れる。



「――なあ、広瀬。」
「何よ。」
「今回は本当に悪かった。
無理矢理体調の悪いお前を引きずりまわした挙句、自ら幕引いちゃうんだものな。」
「……謝る必要なんかないわ。
私は私の思惑であなたと組んで、それでこうなったんだから。それだけよ。」
ゆかりの方を真正面に見つめるYOSSYに対し、ソッポをむいたまま、しかし、明らかに照れ隠しのゆかり。
「でも、一つだけ聞いていい?」
「なんだ?」

「……納得、できた?」

YOSSYの方に振り向き、真摯な瞳を向けるゆかり。
ゆかりの問いにYOSSYは、なんの躊躇もなく答えた。

「――当然!」



「……よかった。」
そう言って微笑んでくれるゆかり。その笑顔に不覚にも一瞬、魅かれてしまうYOSSY。
その笑顔の中、YOSSYはあることに気がついた。
「なあ、広瀬。」
「なに?」
「今回、髪を後ろで束ねてたんだな。」
ぽつりと呟くYOSSYに、完璧に呆れ果てるゆかり。
「あ、あなた……、今頃気づいたの?」
「いや、気づいてはいたんだけど。ほら、今初めて実感できたかな――って。」
「何よそれ。わけわからない。」
「でも、似合ってるぜ、うん。」
「え……?」
屈託のない笑みを浮かべるYOSSY。
「あ、あたり前よっ!  だって私、女優だものっ!」
「おーおー、照れちゃって、かぁいいこと♪」
「うるさいわね!  それよりも約束忘れてないでしょうね!
約束通り、大会期間中は手伝ってくれるんでしょうね、警備っ!」
「約束だからな、覚えてるさ。――どうしても話をそらしたいみたいだな、広瀬?」
ニヤニヤ笑いながら徹底的に照れるゆかりをイジメにかかるYOSSY。
しかし、思わぬ墓穴を掘ってしまったことに、彼は気づいてはいなかった。

「わかってると思うけど、大会期間中のノゾキやナンパは一切御法度だからね。」

「………はい?」
「当然でしょ。そういうのも含めての警備なんだから。
警備担当自らそんなことは、絶対に許さないからね。」
ニッコリ笑いながら、YOSSYにとっては死刑宣告にも等しい宣告をするゆかり。
「私との約束≠ソゃんと守るわよね。よっしー?」
夜叉の微笑みを浮かべるゆかり。
「うるさい常習犯一人を完全に大人しくさせるためだもの。大会参加なんて安いものね♪」
それが本心なのかどうか、そんなことはもはやYOSSYにとっては関係ない。
魅惑の時間を、目の前の小娘に見事に奪われた。それだけが全てだった。
してやられた。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

YOSSYの断末魔が、晴れた青空に虚しく響いた。






      川越たける×長瀬祐介組…3回戦進出!
      YOSSYFLAME×広瀬ゆかり組…2回戦敗退。