Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第40章 「主役の、長瀬祐介の意地」 投稿者:YOSSYFLAME




「長瀬……先輩……」
完全に負けたと思っていた状況からの巻き返し、およそ信じられない祐介のリターン。
「ごめん、なさい…………」
緊張の糸が切れたのか、その場に崩れ落ちるたける。
限界などとうに越えていたその身体が、静かにコートに崩れ落ちる。



「くっ……!」
祐介の弱々しいリターンが返ってくる。
相手コートに倒れているたけるの身体。
そのたけるに、仮に打球をぶつけることができたならば、その時点でYOSSY組の勝利が決定する。

傷つき倒れた女の子にボールをぶつけて勝って、そこまでして勝って嬉しいのか

おそらくそう言われることだろう。
別にそれ自体はどうでもいい。自分と広瀬、どうせ悪役同士のペアなのだ。
卑怯と呼ぶなら呼ぶがいい。とうにそんなの言われ慣れている。
蚊帳の外の雀共に何を囀られようが痛くも痒くも無い。
しかもこれは反則でもなんでもない、ルール的には胸を張って正当性を主張できる行為。
YOSSYの右手に力が篭る。
「(悪いなたけるさん、こんな土壇場で倒れたアンタが悪いんだ。)」
何の躊躇も無く、YOSSYのラケットが振りかぶられ、そして――





勝つんだぁっ!




1回戦、たけるはそう言って咆えていた。
明白な実力差と、絶望的なまでのキャパシティの差。
強豪・ルミラ、神凪組を向こうに回し、
自分の限界以上まで力を振り絞って、魂までも振り絞り、勝利をもぎとった試合を、YOSSYは見てしまった。
そしてそれは2回戦とて同じ。
並外れた洞察力と支配力で敵を圧倒する広瀬ゆかりと、超機動という俊足武器を駆使する自分との闘いにおいても。
それでさえ、まるで魂を削るかのように立ち向かってき、勝利への執念を剥き出しにし、
そして、倒れた。
そんな娘に対し、そんな勝ち方でいいのか?





ホントは出る予定なんかなかったんだから、私は……





YOSSY自身の我が侭それだけで、無理矢理大会に引きずりこまれたゆかり。
風紀委員からとーる、宮内レミィの精鋭代表チームを送り込み、自分自身は出場を見合わせていた彼女。
そんな彼女を無理矢理試合に引っ張り込んだ。
全く遠慮の無い関係だったから、それに関しては別にどうとも思わなかった。
自分が出たかった。だからゆかりを付き合わせた。ただそれだけだ。
しかし、
今にして思えば、ゆかりは、自分の体調が悪いことを、うすうす自分でも自覚していたのではないか?
そして。出場すれば、おそらく倒れるであろうことを、それほどのものであったことを、予想できていたのではないか?
だからこそ、選抜チームを送り込んだ一方、自分は高みの見物を決め込んだのではないか?

そのゆかりが、紆余曲折はあれど出場を受託してくれ、そして全力で闘ってくれた。
おそらく彼女自身、倒れるであろうことを覚悟した上で。

本来、自分とゆかりとの関係は、まごうことなき敵同士。
だから、ゆかりがどう思おうと、その結果どうなろうと、自分には関係のないこと、かもしれない。
ゆかりにしても、何か企みがあって自分と組んだ可能性も少なからずあるのだから。
しかし、
ゆかりが何を企んでようが、結果的には全力で戦ってくれたことには変わりない。
ならば、それに応えるのが自分が通すべき筋ではないか?
例え宿敵でも、いや、宿敵だからこそ。
そのためには、ゆかりの今までの頑張りを無駄にするわけには、絶対にいかないのではないか?
勝ち方になど拘っている場合ではないのではないか?
そう、自分は確かに誓ったはず。
例えどんなことをしてでも勝つと。
それが傷つき倒れたゆかりに対する、せめてもの筋。





YOSSYにとって、まさに絶好球ともいえる祐介のリターンが、今、射程に入った。
そんな彼の心理を読んだのか、祐介がダッシュをかけ前に出た!
「(………………)」
無駄なことだ。
いくら祐介がネットダッシュをしてこようとも、軽くボールにラケットを合わせ、
たけるに当ててしまえば、その時点で勝ちなのだから。

YOSSYは腹を決めた。
それを知ってか知らずか突っ込んでくる祐介。
だから無駄だといっているだろう。
祐介の、たけるの、全ての想いを撃ち砕くショートショットが、たけるの身体めがけ撃ち放たれ――





「かかったな、バーーーーーカッ!!」





しゅぱぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーん……

軽く当てるまさにその瞬間、腕を引き絞り、たけるの身体など飛び越えて、コート隅めがけて、
YOSSYのラストストロークが放たれた。
彼自身、祐介の行動を読んでいた。
おそらく卑怯者の自分のこと、たけるにボールを当てて安易な勝ちを拾うものと踏んだに違いない。
だが、YOSSYはあえてそうしなかった。
倒れたたけるには見向きもせず、ただ純粋にポイントを、勝ちをもぎ取りに。
絶対にそれが祐介の裏をかくと確信して。
「勝った!!」
絶対の確信のもと、ウィニングボールを見届け――





「――なにぃっ!?」





祐介は、追いついていた。
絶対の勝利を確信して放ったYOSSYのラストストロークに。
「嘘だろ!?」
驚愕のYOSSY。
確かに祐介はたけるのカバーに前衛に走って来たはず。
YOSSYのような超機動も無い祐介が、追いつくことなど不可能なはず。
「(……まさか……!)」
ラストショットを放つ瞬間、YOSSYの意識はボールに向いていた。
ショットの寸前、まさにその時まで。
その間に。
その間に祐介はバックし、ストロークに備えていた。
それ以外に考えられない。
しかし、何故祐介はそんなことを――



「僕は、負けるわけにはいかないんだ……!」

シュパァァァン!
考える暇もあろうか、祐介のリターンが逆サイドに放たれる。
「ち!  さっさとくたばりやがれ!」
超機動で瞬時に移動し、ボレーの体勢に入るYOSSY。
「引導渡してやらあ!!」
YOSSYのボレーがこれまた逆サイドに――
「何ぃっ!?」
それにもキッチリ反応している祐介!
刹那、彼のロブが、高く高く、YOSSYの頭すら越えて飛んでゆく。
ネット際に出たものの再び引き戻されるYOSSY。
「(こいつ、偶然でも破れかぶれでもなんでもねえ……
こいつ……、……俺の動きを、俺のパターンを……!)」



「そう、読んでいるんだよ。」
「お兄ちゃん……」
口元を嬉しそうに歪める拓也。
「先程のYOSSY君と川越君のラリー、あれが結果的に勝因になったな。」
「……!……なるほど…!」
「なになに?  あたしにはさっぱりわからないよ!」
拓也の確信めいた口調。その言葉の真意に気づく瑞穂に今だ困惑気味の沙織。
「つまりこういうことさ。
このゲーム後半、広瀬君が完全に長瀬君らの動きを読みきって、試合を支配していたのはわかるね。
それと全く同じこと。
一見蚊帳の外に置かれていたかのような長瀬君だが、その実……」
「よっしーさんの動き、パターン、癖を読み取っていた。ですね。」
「そう。しかもYOSSY君は広瀬君が倒れたことで、確かに発奮したかもしれない。
しかし、その代わり――」



「(――攻撃が単調になっているんだ、今の君は。)」
ロブを放った後も落ち着いてYOSSYの行動を読みにかかる祐介。
「(だから――)」
刹那、祐介が動いた!
「(――だから、今の君には負ける気がしない……!)」



「――だからどうした……
例え、俺の攻撃を読んでいたとしても、それが直接勝ちにつながるか!!」
シュパァァァン!!
YOSSYの強烈なリターンが放たれ、向こう側に叩き込まれようとするが、祐介のボレーが待ち構える!

「(かかりやがったな!)」
内心ほくそ笑むYOSSY。
そう、先程たけるを完璧に圧倒した超機動からのカウンターボレー!
仮に祐介がどんな小細工を働かせようと、これだけは防ぐことは不可能!
「(いくぜ!  今度こそ終わりだ!)」
全身全霊の力を込めて、ネット際に猛進するYOSSY!



「(YOSSY君……)」
祐介は冷静だった。
この極限の場面にきてすら、いや、ここにきて信じられないほど、祐介は冷静になっていた。
「(確かに君のカウンターボレーはすごい。でも……)」
冷静な祐介。
しかし、冷めているわけでもなければ、投げやりになっているわけでも無論ない。
「(でも、何故だろう……)」
静かな闘志。凄まじい集中。
頭は冷静でいながら、胸のうちは煮えたぎっている。
「(何故だろう……、きっと……)」
浩之のようなストレートな炎でもなく、耕一のように圧倒的な存在感を持ってもいない祐介。
しかし、この土壇場にきての冷静さと、静かな、氷のような闘志。
「(きっと、なんとかなるような気がするんだ。)」
その曖昧な言葉とは裏腹な確固たる自信。
「(そして、川越さんのためにも……応援してくれたみんなのためにも……)」
自信と仲間から受け取った希望、それを為す力。それこそ――

「だから、負けるわけにはいかないんだ!!」





シュパァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……





今までで最大の集中力と気迫で放たれた祐介のショットは――





「くああああっ!!!」
ネット際寸前のYOSSYの頭上を越える、ループショット
目一杯ラケットを伸ばすが届かず。
しかも、超機動で加速中のため、後ろに回ることなど絶対不可能!
「く……くそぉぉぁっ!!」

完璧な祐介の勝利。
YOSSYの超機動≠フ弱点をついた、見事な。
彼の超機動は、確かに瞬時に間合いに入ることができ直ちに放てる優れもの。
しかし、超機動とて慣性には逆らうことはできない。
むしろ超機動の最大の弱点こそが慣性≠セということに。

車のようなスピード£エ機動の謳い文句。
しかしながらそれは皮肉にも車は急に止まれない
YOSSYのパターン、癖をこの状況で読み切り、そしてこの土壇場でこれほど柔らかいループを放てた祐介。
「(……負けた……っ……)」
YOSSYには、既にどうしようもない。
まごうことなき完全勝利。
一対一の闘いを、祐介は見事に制したのだ。
この崖っぷちの闘いを――





「――やっぱ、最後に決めるのは……女優って感じ!?」





「え……っ!?」
「広瀬!?」
信じられない光景。
今の今まで満身創痍そのものだった広瀬ゆかりが、祐介のループに反応している!
荒く息をつきながら、それでも渾身の力を引き絞り、ラケットを振りかぶるゆかり。
「しまっ……!」
YOSSYとの闘いに全集中力を使い果たした祐介に、ゆかりのショットに反応できる余裕など既に――

「おい、無茶だ広瀬!」
「ゆかりっ!」
XY−MENや夏樹の声が響くも、ゆかりのスイングは止まらない。
「広瀬っ!!」



「(あなたなんかに心配されるほど、私は落ちぶれた覚えはないけど……?)」
ゆかりのスイングが、綺麗な軌跡を描き、そして――
「(だって……)」
そして、振り下ろされた。

「(だって私、女優だもの……)」