Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第42章 「飛天御剣流vs正統庭球術!」 投稿者:YOSSYFLAME





テニス大会会場から少し離れた芝生から、空気をも斬り裂くほどの音が響く。
凄まじく速い、そして鋭いスイングを次々と繰り出す、その男。
「先輩、そろそろ時間ですっ!」
お下げ髪の少女の一声に、その旋風は止まる。
「……ああ。ありがとう、桂木さん。」
おそらくは美形の部類に入るであろう端正な顔立ちから生まれる笑みを、その彼女に向ける男。
「いよいよ、ですね。」
「……はい。」
そして二人は歩く。待ち受ける戦場へ。

「ちちうえっ!」
元気のいい少女の声が響く。
男は、その少女――と呼ぶにもまだ幼いかもしれない――を、無言のまま、
しかしながら優しい笑みを浮かべながら抱き上げる。
「ちちうえ、がんばってねっ!」
にぱっとした笑みを浮かべながら、その小さな掌をきゅっと握る少女。
「ああ、応援してくれな、靜。」
何者にも代え難い、愛しい娘に最上級の笑みを浮かべる男。
その隣で微笑ましい笑顔を見せる少女。
「大丈夫よ、靜ちゃん。先輩は必ず勝つから。」
少女が優しく笑いかけながら、その子、靜に話かける。
「うん!」
にぱりんっと、何の曇りもない満面の笑みを浮かべる靜。

「さあ、行きましょう、きたみち先輩っ!」
「……ええ!」
その少女、桂木美和子と共に戦場に赴く男、きたみちもどるが、
尋常ならぬ闘志を胸に、頷いた。





『お待たせしました!  第7ブロック2回戦第2試合!
既に、Hi−wait、月島瑠香両選手は準備万端!
さあ、入場してもらいましょう!  きたみちもどる、桂木美和子ペアの入場です!!』

キャアーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

『おおおっと、きたみち選手のファンの女の子の声援がっ!  いやあ、やるねえ、きたみっちゃん!』
「り、理奈姉……」
きたみちと浅からぬ縁をもつ緒方理奈の揶揄を受け、頭を抱えるきたみち。
「きたみちせんぱーーーい!  がんばってくださーーーーーい!」
「先輩、ファイトッ!」
「絶対に勝ってくださいねーーーーーーっ!!」
もお次から次へ絶え間なく舞い上がる黄色い声援。
観客席の一部を完全に占拠しているきたみちファンクラブ(多分非公認)の女の子達。
よくみれば【必勝!】だの【FIGHT!】だのの横断幕までちゃっかり用意しているありさま。
「ま、まいったな、あはは………ったっ!」
すっかり気が抜けて顔が緩んでいたきたみちの足を踏んづけるもの約一名。
「先輩、気合入れてください!!」
「あ、ああ、……すみません。」
何故か不機嫌な美和子の気迫に圧されるきたみち。

「全く、何をやってるんだか……
さてと、ウチの局長は、どんな試合を見せてくれることか楽しみだな。
……って九条先輩、血吐いたまま倒れないで欲しいんですが。」

「さて、見せてもらおやないか。
ゆき、柏木もしっかり見とかなあかんで!  この試合の勝ったほうとやるんやからな!」
「わかってるよ、夢幻くん。」

巡回班の八塚崇乃や九条和馬、
既に代表決定戦進出を決めているゆきと柏木初音。それに付き添う夢幻来夢。
その他様々な人間が観戦に来てる中、いよいよ――



『それでは、第7ブロック2回戦第2試合、きたみち、桂木組 vs Hi−wait、月島組、プレイッ!!』





すぱぁぁぁーーーーーーーーーん!





「え?」





誰も反応すら出来なかった。
それほどまでのスーパーサーブだったわけでは無論ない。
しかし、開始直後の盲点と、
錬達者のみが放てる匂い≠ェ、このサーブから感じ取れたから。
そして、それはあまりに意外な人物が放ったサーブであったから。

「って、俺がテニス経験者なのがそんなに違和感があるか貴様等。」





そう、その名はHi−wait=\―





「できれば最後の最後まで隠しておきたかったんだが――
あんまりギャーギャーうるさかったからな。ちょっと正義の鉄槌ってヤツか?」
不敵な笑みを、コート向こうのきたみちにぶつけるHi−wait。
「……まさか、経験者だったとはね。」
「……見たか、正義の鉄槌を。」
冷や汗を浮かべるきたみちに、誇らしげにふんぞり返るHi−wait。
「でも、君の正義の鉄槌って、……世間一般ではやっかみ≠チていうのを知ってた?」
「じゃかましいっ!!」
立場逆転。



「ふ……ふざけんなや!」
「夢幻くん!」
「じゃあ何か!  俺らは1回戦、手抜かれてたっていうんか!!
俺らの試合の時にあんなサーブ、出さなかったやろが!!」
「ち、ちょっと落ち着いて……」
「なめくさりやがって!  そこ動くな、今すぐブチのめしたる!!」
サーブを出さなかったことにナメられたと感じ、怒りを覚えた来夢が今にも殴り掛かろうと、
「出さなかったのには理由があるんだよ。」
「なんやと!?」
そんな来夢の後ろから声をかけたのは、暗躍生徒会・健やか。
「君ら、いや、君の性格から、自分達をナメてもらったまま試合をしてもらったほうが楽だと、
彼らがそう思ったからさ。
1回戦はそれが最善の手段だったから、ただそれを実行しただけさ。」
「なんやと……」
「1回戦は1回戦の闘い方がある。2回戦は2回戦のね。
相手に応じて技をいくらでも繰り出せるから、だからこそ本職の実力者なんだよ、彼らは。」
「……………」
健やかの暗躍生徒会らしからぬ毒のない穏便な言葉に、来夢の腹立ちも次第に収まりかけていた。
「更に言えば、1回戦も彼らは立派に技を繰り出していた。君らがそれに気づかなかっただけでね。
覚えがあるだろ?  1回戦の試合を思い出してみなよ。」



「ゲーム!  Hi−wait、月島組、1−0!」



「なんやて!」
来夢と健やかの口論の間にも、早くも1ゲーム奪った暗躍代表チーム。
「ほら、あれさ。」
口元を緩め、健やかがコートを指差す。



「ショッ!」
Hi−waitの気合と共に放たれたボールは、なんの変哲もない軌道を描き、きたみちの前へ。
「ハッ!」
鋭い気迫を込めて打つものの……
――ガシャッ!
「アウト!  0−15!」
「くっ!」
まるで見当違いのところへボールが飛んでいってしまうのである。



「あれは……!」
何かを思い出したかのような来夢。
そう、ほとんど自滅といってもよかった1回戦の逆転負け。
まさかその試合にそんな裏があったとは。
「やられた……」
額に手をやり天を仰ぐ来夢。そんな彼を健やかは尚も穏やかに見つめながら。
「夢幻くん。」
「……なんでっか?」
「それともう一つ。
何故彼らが君らにテニス経験者であることを隠したまま闘ったか。」
「………………」
「もうじきわかるよ。」



「ゲーム!  Hi−wait、月島組、2−0!」

「先輩……」
なす術もなくポイントを取られゆく現状に、さすがに美和子は焦りの色を隠せない。
しかし、そんな中きたみちは、
「先輩?」
笑っていた。
それも自棄などのそれではなく、確固とした笑みを。
「大丈夫。なんとかあの球の正体が見切れたから。」



「プレイッ!」

試合再開と共に撃ち込まれるHi−waitの妙回転ショット。
しかし、きたみちに動揺は露程も見られない。
徐々に迫ってくるボール。しかし、ピクリとも動かないきたみち。
「先輩っ!?」
さすがに驚く美和子。しかし未だに動かぬきたみち。
そしてそのままボールが彼の横を――





「飛天御剣流・龍巻閃!!」





「なっ!?」
消えた。
きたみちのスイングも、腕も、そしてボールも。





タン……ッ。





コートに土埃が立った。
刹那。背後の壁に衝撃音が響いた。
それではじめて、Hi−waitも、瑠香も、
自分達がやられた≠ニいうことを認識できた。





「イ、イン!  0−15!」
静まり返ったコートに、我を戻した審判のコールが響く。
その瞬間、

キャアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

飽きもせず湧きに湧くきたみち親衛隊(多分自称)の女の子らの黄色い声援。
しかし、そんな声など耳に入ってすらこない連中もいた。



「相変わらずの切れ味だな。局長の飛天御剣流は。」
「……ああ、さすがL学きっての斬撃速度を誇る局長だけのことはある。」
観客席の手すりに寄りかかりながら観戦している、校内巡回班の八塚と九条。
ようやく面白くなってきたとばかりに、口元に笑みを浮かべながら。



「……なるほど、そういうことかい。」
納得顔の夢幻来夢。
自分が引っかかった、Hi−waitが繰り出すあの妙回転ショットの弱点。
回転をものともしない打撃速度、もしくは打撃力でカバーすればいい。ただそれだけのこと。
だからこそ彼らは、テニス熟練者の腕を隠し、自分らを欺いた。
来夢の力なら破ることは、論理的には決して不可能ではないから。
しかし、
「たった2ゲームでアレの正体を見破るとは。さすが巡回班局長といったところかな?」
「ああ、せやな……」

「闘いたい……」
「……ゆき?」
ゆきの呟きに気づき目を向ける来夢。
「闘いたい……、……あの人ともう一度……」
眼を輝かせ拳を握り締めたまま、武者震いに震えるゆき。
校内エクストリーム大会1回戦の敗北が、
いや、それ以上にあの時味わった興奮が、彼の脳裏に甦る。
あれほどの実力を誇る剣士・きたみちもどる。
例えテニスという畑違いの舞台でもいい。
闘いたい。きたみちもどるともう一度。
「ゆきちゃん……」
そんな彼を、初音は彼女らしく、ただ、見つめていた。



「ちちうえ〜〜っ!」
観客席から響く、愛娘・靜の元気な応援。
そんな彼女に誇らしげに腕を上げ、声援に答えるきたみち。
「先輩。」
そんな彼に勇気づけられたのか、美和子が生き返ったような表情で見上げる。
「勝ちましょう、絶対に。先輩っ!」
美和子の気迫に、きたみちはしっかと頷いた。



「ハイウェイトさん。」
月島瑠香が笑っている。
一気に流れを持っていかれたこの状況で。
「負けたくないですよね、絶対!」
ぐっと拳を握り、奮う瑠香。
「当然だ。俺達は暗躍生徒会、最後の砦なんだからな。」
この状況でも、なおも余裕を失っていないHi−wait。
不敵に唇を歪め、コート向こうを睨みすえる。

「勝負はこれからだぜ。……校内巡回班・局長。」







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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:よ、お疲れお疲れ。

げしいっ!

よっし:な、何すんだテメェ!
ゆかり:何すんだじゃないわよっ、どうして私達が出た途端負けなきゃならないのよっ!
よっし:い、いやな、それは……
ゆかり:長々と待ったまさに35話……やっと出番がきたと思ったら緒戦敗退ってどーゆーことよーーーーっ!!
よっし:……しゃーねーだろ。たけるさんと長瀬が強かったんだから。
ゆかり;……ま、それはそうだけど。
よっし:よかったじゃん。これで心置きなくあとがきの解説に専念できるぞ♪
ゆかり:……嬉しくない。

よっし:さて、2回戦も残り2試合。
        そのうちの一つ、きたみちもどる、桂木美和子組 vs Hi−wait、月島瑠香組の試合です!
ゆかり:また、めったに対戦しないだろう組み合わせを……
よっし:こういうのも結構面白いだろ?
ゆかり:ま、そうだけどね。
        さあ、全く個性の違う2組の対決、果たして制するのはどちらか!?
よっし:次回は決着編!  楽しみにしていただけたら嬉しいです!



きたみちもどるさん、今大会へのご参加、誠にありがとうございました。