Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第44章 「邪悪ふたたび」 投稿者:YOSSYFLAME




『ただいま行われました、第7ブロック2回戦第2試合、
きたみち、桂木組  対  Hi−wait、月島組の試合結果は、きたみち選手の試合続行不能により――』



「おお、やーみぃ勝ちましたね。」
「ええ、相手がきたみちさんでしたから、かなりキツイとは思ってたんですが。」
コート脇の控え場所でウォーミングアップを丹念にこなす、風見ひなたと赤十字美加香。
コンビでいえば知名度はダントツ。テニスの腕とは関係なく優勝候補に位置されているほどなのだから。
そして、そんな二人だけあって、試合前の雰囲気も至って変わらず。
「さて、それでは秋山さんのところに陣中見舞いにでも行きましょうか。」



「次の相手もちょっと手強そうね……」
ポツリと呟く日吉かおり。
1回戦では、デコイ、長岡志保組を相手にして、彼らの底力に苦しめられながらも辛くも勝利。
しかし2回戦の相手は、誰もが認める名コンビが相手。
しかし、かおりには勝たなければならない理由があった。
「そう……あたしは勝たなきゃいけないの……
勝って、梓先輩との愛の日々を取り戻すのよっ!!」

コンコン……

「はぁいっ。」
作ったぶりっ子声で応対するかおり。
しかし、その一瞬後、その顔が訝しいものに変わる。
「……何の用よ。」
不審げな眼差しを、客・風見と美加香に向けるかおり。
それももっともな話。2回戦の対戦相手が何しにこんなところに来るのか。
「いやぁ、実は日吉先輩と健闘を誓い合おうと思いまして、差し入れを持ってきたんですよ〜〜」
「……差し入れ?」
「ほら、美加香。」
「あ、はいっ。」
風見に促され風呂敷きの中から美加香が取り出したものは……

「うわぁ……」
ごくっ……
思わず唾を飲むかおり。
なんといかにも彼女の好きそうな、甘そうなケーキ群が陳列していたのであったから。
「試合の疲れは甘いものが一番だっていいますからね。ささ、遠慮なく。」
「……じゃあ、あんたが先に食べなさいよ。」
かぶりつきたい衝動を必死に押さえ、風見に無造作に一つのショートケーキを手渡す。
これが普通の対戦相手だったら、かおりとて喜んでご馳走になるところではあるが、
相手はL学では知らぬもの無しの鬼畜外道。罠という可能性は限りなく高い。
「ううっ……、可愛い後輩の先輩を敬う心が信じられないだなんて……」
「誰が可愛い後輩よ。いいからさっさと食べなさい。」
「いいですよもお……」
尚もジト目のかおりにイジケながらもショートケーキに無造作にかぶりつく風見。
そしてそのまま無造作に胃に押し込んでゆく。その仕草に作為的なものは見られない。
「じゃあこれとこれ。」
しかし安心はできない。
そう思い、また自分で二つほどみつくろって風見に手渡すかおり。
しかし、それでも平気で食べてゆく風見。
「……どうです?  これでもまだ、僕らの誠意を疑いますか?」
にっこり笑いながら、舌で口元のクリームを舐めとる風見。
「ごめんね…、あたし、あなたたちを疑ってしまって……」
しおらしく謝るかおり。
「このケーキ、ありがたくご馳走になるわねっ、本当にありがとう!」
そう言って、嬉しそうにケーキにパクつくかおり。
「いえ、誤解が解けて嬉しいですよ、僕も。
……まぁ、まんざら誤解ともいえないんですがね……」
「え?」

かおりは知らなかった。
風見が平気だったのは、ただ単にある程度の免疫がついているにすぎなかったことを。
そう、赤十字美加香名物――殺人料理の。










『お待たせいたしました!  ついに2回戦最後の試合、
秋山登、日吉かおり組  対  風見ひなた、赤十字美加香組の、エルクゥ同盟同士の試合を――
始めたいんですが、いましばらくお待ちください〜〜』

ざわつく観衆。
それも当然のこと。
準備万端の風見組に対し、秋山組は秋山登一人しかコートに来ていないのだから。
「日吉の奴、何やってやがるんだ!!」
いらだち怒声をあげる秋山。
そんな彼をニヤつきながら見ている風見と、やや申し訳ないような顔の美加香。

「おいおい、風見の不戦勝か?」
「このままだとそうなりますよね……、日吉先輩、どうしたんでしょう……」
エルクゥ同盟のジン・ジャザムとゆきの二人も、拍子抜けたように眺めている。
「ちえっ、せっかく面白い試合が見られると思ったのによ。」
つまらなさそうに呟くジン。その時、アナウンスが会場に響いた。
『えー、速報です、速報です!
第8ブロック2回戦第2試合に出場予定の日吉かおり選手ですが、
強烈な腹痛と吐き気に見舞われており、とても試合をできるコンディションではないとの発表が――』

「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!?」
さすがにド肝を抜かれる秋山。
「おい、本当かそりゃ!!?」
アナウンスの森川由綺に訴えかける秋山。
泣きそうになる由綺をひとまずなだめてから、あらためて問いただす。
「う、うん……、秋山くん、パートナーなのに知らなかったの……?」
「ぬ……、俺は別用があったからな、ここにくるよう言っただけでな。」
一瞬顔を顰める秋山であるが、
「あのアマ、拾い食いしたくらいで腹壊すとは、鍛え方が足らん!!」

「……ひなたのヤツ、やりやがったな。」
「ええ……、風見先生の仕業に間違いないですよね……」
呆れた顔で苦笑しながら、周囲に聞こえないような小声で囁く、Hi−waitと月島瑠香。

「おやおや、このまま負けてしまうんデスカ〜〜?  秋山サン?」
この試合の勝者と3回戦で激突するTaSも、複雑な(?)思いでコートを見つめていた。






「ふっふっふ。どーします秋山先輩?
このままだと試合になりませんねぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜♪」
すっごくイヤミったらしい口調でニタニタ笑いながら秋山の顔をねめまわす風見。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、咆えるだけしかできず頭を抱える秋山。
「こうなったら日吉のバカを連れてくる!!  吐かせてでもコートに立たせてやる!!」
「秋山くん無茶言わないでっ!!」
「何考えてるんだお前はっ!」
猛然と医務室に向かおうとする秋山を、由綺と耕一が押さえつける。
「く……くうぅぅぅぅぅ……」
ガクリとコートに膝をつく秋山。
しかし、それは仕方のないことなのかもしれない。
これも勝負。これも決着の一つなのだから。
例え風見組の工作によるモロ作為的な運命だったとしても。
ガクリと2メートルの巨体をうずくまらせる秋山を、主審が見つめる。
彼の心情を思いながらも、辛そうな表情を浮かべながら、それでも右腕を上げ、
「秋山、日吉組の試合開始不能により、風見、赤十字組の不戦勝と――」










ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!
ずだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!
パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ!!!!
Dooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooom!!!!!










突然風見組のコートが爆裂し、機銃と地雷と爆弾が続けざまに暴発し、










ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー………、ごんっ。









大岩が風見と美加香の頭上に落ちてきたりして、









「うわぁ〜〜〜い!  せいこうです〜〜〜〜〜〜〜☆  きゃるん☆ミ









純真無垢な喜びの声が、コート一杯にこだまして、










―――――――――――――――――――――――はっ」









犯人・水野響のまわりには、既に無数の風紀委員が取り囲んでいた。
【ひなたさんがかまってくれなくてさみしかったのです〜〜〜きゃるん☆ミ】
とは、後に供述した水野の弁。
【わなのつくりかたはおさかなさんがおしえてくれたのです〜〜☆】
風紀委きってのトラップマスターにして魚人・真藤誠二、後に事情聴取を受ける。
【小梅ちゃん、おいしいね。】
とは、呼びもしないのに取り調べで供述した月島瑠璃子の弁。



ともあれ、完全に押しつぶされたかと思った風見と美加香であったが――
ゴバァァァァァァァァァァァァァ!!!
次の瞬間、大岩は木っ端微塵に砕け散った。

「ふっふっふ、非道バリアは天下無敵ですよ。」
「きゅう………」
不敵な笑みを浮かべ、崩れた大岩の残骸から姿を現す無傷の風見。
爆撃と銃撃と大岩の盾にされ完全に失神した美加香の首根っこを掴み引きずりながら。
っていうか、これで無傷と失神で済むところが。
「しかし、これで両チームともパートナーが試合不能……」
「ってことは、どうなるんだ?」
「両チーム、失格か?」
観客が再びざわつく中、アナウンスが会場に響いた。
『大会本部より、裁定がでました!
両チームともパートナー不在の風見組と秋山組ですが、協議の結果――




――特別措置として、この試合のみシングルスマッチ。
つまり、一対一で決着をつけていただきます!!』





うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
一気に盛り上がる観衆。
「おうおう、粋な計らいじゃねえか暗躍!!」
「ひなたちゃんと秋山先輩、どっちが勝つんでしょうか……」
「HAHAHAHAHA!!  楽しみですネエ!!!」

「……どうしても、闘いは避けられないのですねえ……、……秋山先輩!!」
「……風見よ、果たして俺を倒せるか!?」
「秋山先輩なら知っているでしょう……、……僕が闘うときは、常に勝つときだと!!」



一対一の闘いの炎は、消しようもないほどに燃え上がっていた。










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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さぁ始まりました!  2回戦最後の試合が!!
ゆかり:やっとね。
よっし:おまえな。
ゆかり:シングルスマッチか……、いいなあ……
よっし:あ?
ゆかり:だって、私一人なら勝てたもの。
よっし:……ちょっと人気のない路地裏で話でもしようか。

ごんっ!!!

貞本夏樹(特別出演):委員長!  大丈夫ですか!?
ゆかり:ええ、大丈夫。ありがとう。
        さて、次回はいよいよ完結編です!  今大会初のシングルスマッチ、果たして!?
        楽しみにしていただいてくれると嬉しいです!!



風見ひなたさん、今大会へのご参加、本当にありがとうございました。