「必殺・鬼畜ストライクっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!」 「みゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 ぐしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 今日も鋭い気合が響く試立リーフ学園。 もう何度ともなく対戦しているカードの一つ、YOSSYFLAME 対 風見ひなたの因縁の対決。 1ラウンド6分43秒。 風見必殺・鬼畜ストライクが美加香もろとも炸裂し、見事YOSSYに完勝し、 すっごく気分よくパンを召し上がっている風見(と、ようやく気絶から回復した美加香)であるが、 彼は知らない。 この平穏な昼休みが、よもや修羅の時間になろうとは。 ギキャラキャラキャラキャラ……ッ! 「な、何ですか……!?」 昼食を満喫していた風見の前に現れたのは、一台の宅配トラック。 がちゃ。 そこから、中性的な顔つきのボーイッシュな女性が降りて来て、開口一番こう叫んだ。 「ひなたちゃん……生きてたんですねっ!!」 「……は?」 「ひなたさん……?」 あっけにとられる風見と美加香。 それはそうだろう。 突然宅配トラックが目の前に現れたと思ったら、かっこよさげな宅配ねーちゃんが降りて来て、 こともあろうに「ひなたちゃん生きてたんですね」ときたもんだ。 「あの……貴女、どなたですか……?」 あっけにとられたそのまんま、なんとか質問を絞り出す風見。 「……ふふっ……♪」 深くかぶった帽子の奥から、いかにもイタズラっぽい笑みを浮かべる女性。 「まあ、最後に別れたのが十数年前だから、覚えてないのも無理ないですね。 私の名前は風見鈴香。 風見ひなたちゃん。あなたの生き別れの姉です」 「な……なっ……」 「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」」 衝撃の告白に声も出ない風見。 一気にざわめくまわりの野次馬。 「風見! お前にこんな綺麗な姉がいたのか!?」 「ひなたさん、初耳ですよっ!!」 「ひなた! 俺も知らなかったぞ!」 「そうですよ、私も知りませんでした!!」 さっきまで地に伏せてたYOSSY。 パートナーのあまりに意外な事実にうろたえる美加香。 昔馴染みでありながらその事実すら知らなかったHi−wait。 知ってるわけないのにいっちょまえに驚く月島瑠香。 「鈴香さんとおっしゃいましたね! 本当にひなたさんのお姉さんなんですか?」 「俺もそこのところを知りたい!」 「本当にそうなんですか!?」 「んなのどーでもいいけど住所と電話番号教えてくれませんお姉さんっ!!」 「あはは、困りましたね……」 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!! うるさいっ!!!」 ごしゃあ! ついに堪忍袋の緒が切れたのか、不埒な質問してる一人を薙ぎ倒しながら一喝する風見ひなた。 ちなみにややこしいので、風見鈴香を以降は鈴香≠ニ呼ぶことにする。 「貴様、何者ですか」 「うっ」 座った目つきのまま、アイスピックを鈴香の喉元に軽く当てる風見。 「今の僕は天涯孤独。以前にも姉などいなかった。貴様、狙いは何ですか」 ぐしゃぁぁぁぁぁぁぁ!! 殺気走る風見の後頭部を思い切り喧嘩刀でどつき倒すYOSSY。 「何考えてんだテメェは。女の人にこんなもん突きつけやがって」 ぱんっ。 刹那、YOSSYの頬に鈴香の平手打ちが入る。 「ひなたちゃんに何するんですか」 涼しげな顔つきに静かな怒りを表す鈴香。 その鈴香の態度に、YOSSYも、Hi−waitも瑠香も、美加香でさえも、疑惑を疑惑ですまされなくなってきた。 「(なあ、本当に姉弟なんじゃねえのか?)」 「(うーん……)」 「(あの態度、嘘にしてはちょっと緊迫感がありすぎですよね……)」 「(だろ? 瑠香ちゃんもそう思うだろ?)」 「(しかし、ひなたに姉なんて聞いたこと……)」 「鈴香さん、なにかひなたさんと姉弟であるという証拠とか持ってますか?」 こういうときには一番胆が据わる赤十字美加香。 「かなり古い写真なんですが」 無造作に宅配の制服の胸ポケットから取り出す一枚の写真。 それを見て息を呑む一同。 「似てるよこれ……」 「ええ、風見先生そっくりな男の子ですよね……」 「で、このお姉さんの方が鈴香さんと……」 「本当にひなたさんにそっくり……」 その写真の子と風見があまりに似ている事実に驚く一同。 美加香すら肯定しているという事実が、疑惑を確信へと姿を変えさせようとして―― 「いいかげんにしてくださいっ!!」 何時の間にか気絶から覚めた風見が怒りの面持ちでこちらを睨む。 「僕に姉なんているわけないじゃないですか!! 馬鹿話もいい加減に――」 「でも他人とは思えんぞ、これ」 「他人です」 「似てるよな……」 「やーみぃまで言いますか」 「風見先生……」 「似てません」 「ひなたさん、本当にお姉さんがいなかったんですか? 鈴香さんの話だと、ひなたさんが物心つく前に生き別れになったという話ですし……」 「だったら僕の親が知ってるでしょう」 「……何か事情があったとしたら?」 「うぐ……」 風見ひなた、形勢不利。 「ひなたちゃん、信じられないのも無理ないけど……」 「うるさい!! 僕の名を慣れ慣れしく呼ぶな!!」 さしのべてくる鈴香の手を強くはねのける風見。 「姉ですって? ハッ!! 今まで音信不通で連絡すらくれなかった女が何を今更!!」 「ひなたさんっ!!」 あまりの風見の物言いに慌てる美加香。 「ちゃんと話を聞いてあげてもいいんじゃないですか!? 本当なら、本当ならひなたさんの本当のっ……!!」 「うるさい!!」 感極まる美加香にさえぶつけるように捨て台詞を吐き、その場から走り去る風見。 「ひなたちゃん!!」 荒れる風見を追おうとする鈴香だが、 「よお風見どうした? これからフェネックの車に乗ってドライブと洒落込むんだが、お前もどうだ?」 事情をカケラも知らないジン・ジャザムが気楽に声をかける。 これ幸いとばかりにジンに返事をする前に、FENNEKの車に乗り込む風見。 「めいっぱいぶっ飛ばしてくださいフェネック先輩!! もう、どこまでも!!」 その時の風見の形相には、さすがのFENNEKもジンも黙り込む。 瞬間、風見の指示通りものすごい音響を奏で、FENNEK車形態が学園から走り去った。 「あっちゃあ……、あの野郎、行っちゃったか……」 「何ボケっとしてるんだよっしー! 早くひなたを追いかけ――」 「無駄だよ。もう追いつけねえ……」 がちゃ。 バタン。 ブルルルルル…… 「え?」 宅配トラックが唸りをあげる。 「みなさん、ありがとうございます!! でも後は、風見鈴香は自分の力でひなたちゃんを追いかけますからっ!!」 「鈴香さんっ! 私も行きます!! 私は、ひなたさんのパートナーですから……」 真摯な瞳で見つめる美加香に、鈴香は助手席のドアを開けてあげた。 「美加香さん、ありがとうございます!!」 ギュロロロロロロ……!! 美加香を乗せた鈴香のトラックは、凄まじい音を奏で、 次の瞬間、もう見えなくなっていた。