Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第46章 「悪鬼」 投稿者:YOSSYFLAME




四季は、ただ黙っていた。
この静寂を破ることは、彼女にはできなかった。
向かいに座りし一人の男、その男から漂う恐るべき殺意。そして――歓喜。

「一度はやってみたいと思っていた……」
静寂を破る男の声。
「SS使い――と、およそ呼ばれる奴等の中でも、な――」
男は震えていた。
恐怖ではなく、歓喜の為に。
「……その為に、阿部先生をけしかけたんですか?
彼≠本気にさせるその為――――ぐっ!」

ダンッ!!
四季が最後まで言い終わる間もなく、その爪は彼女の喉を掴み、壁に叩き付ける。
四季の顔が恐怖に彩られる。
恐怖の暴走強化人間≠スる、彼女が。
「――済まない」
間を置き、男の手が彼女の喉から離される。
「……すみません。先生のお気持ちも考えずに……」
「……いや」
四季の謝罪を、男は制す。
「結果的には、君の言う通りになったからな。そして――」
男――柳川裕也の口が歪む。
「そうなることを。あの男の本気を期待していた自分を――」
押さえることはもう、出来ない。

「行こう、四季君」
控室から出て行く柳川。その後を静かに追う四季。





「ハイドくん」
静寂漂うもう一つの控室。
EDGEの声が、それを破る。
「勝とうね」
自分に言い聞かせるようにも聞こえる響きで、彼女は呟く。
いつになく真剣な表情のEDGE。しかしながらそれももっともな話。
普段こそ「エルクゥユウヤ☆」だの「科学部メカニックの尻敷かれ」だの言われているが、
次の対戦相手は、まさしく最凶最悪、柳川裕也とそのパートナー四季。
勝利しか考えずに闘う彼女のビジョンにも、暗い影が射しかねない相手。
「師匠……」
そんな彼女に響く声。
「俺の闘いは、勝つ為の闘いではないです」

「ハイドくん……」
その言葉の意味は、彼女には十二分に理解できていた。
そしてそれを裏付けるかのようなハイドラントの佇まい。
殺気、いや、気すら感じられない。
まったくの、――無。

「行きましょう」
そして彼≠轤ヘ舞台に向かう――










『さあ!  いよいよ始まります!  第1ブロック代表決定戦!!』

ブロック代表決定戦だけあって、観客の入りは相当なもの。
それに加え、この組み合わせ。
大歓声が飛び交うのも当然のこと。
「何が起こっても何の不思議もない!  厳重に警備を頼む!!」
そして、あちらこちらで厳戒態勢をとる、ジャッジ、来栖川警備保障、校内巡回班の面々。
「いい!?  常に緊張感を保っていて!」
風紀委員長・広瀬ゆかりも体調不良を押して指示を出す。

『出てきました!  四季、柳川裕也両選手の入場です!!』
緒方理奈のアナウンスと共に湧き上がる観衆。
だが次の瞬間、水を打ったように静まり返る。
それほどに凄まじい殺気を漲らせ入場してくる柳川と四季。

「さて、どんな試合を見せてくれるかな、柳川先生……」
興味津々とした表情で、榊宗一がコートを眺めている。

「皇さん……」
「ん?」
皇日輪が声に気がつき振り向いた先には、不安な表情のエリアの姿。
「私、なんだが嫌な予感がするんです。
この試合、無事に終わるでしょうか……?」
エリアの不安の声に、皇は何も言えなかった。
彼自身感じてる不吉の予兆。
彼らに出来ることは、ただこの試合を見守ることしか出来ないのであるから。



『そしてぇ!  対するはEDGE、ハイドラント両選手!!  今、入場です!!』

柳川組の入場で静まり返った観衆は、さらに場内の温度が下がったかのような錯覚に襲われる。
淡々と歩を進めるハイドラントとEDGEの二人。
会場には、この2人の足音が響くのみ。

「(師匠……師兄……)」
固唾を飲み込み二人を見つめる夢幻来夢。
彼にしてこれほどの二人、いや、これほどのハイドラントは見たことがあるかどうか。
無≠ゥら漂う凄まじい威圧感。
これから起こるだろう出来事に、彼は震えを禁じ得なかった。





ついに同じコートに立つ4人。
ネット際に来ても、開始の握手すらせず、ただ互いを睨み据えるのみ。
「両選手! 開始前の握手をするように!!」
臨時審判の柏木耕一の指示すら無視し、互いを無言で睨む柳川とハイドラント。

「両者、試合開始!!  サーバー・EDGE組!!」
どこからか聞こえた声に、散らばる選手達。
「月島君っ……!」
「どのみち試合進行が遅れるだけですよ。
それに、下手にガチガチに制約しない方針ですから。今大会は」
月島の話に、ふぅとため息をつく耕一。

「それでは、第1ブロック代表決定戦・四季、柳川組  対  EDGE、ハイドラント組――
――始めぇっ!!」





「(本当は緒戦から使うつもりだったが………好都合だ!!)」
ドキュッ!!
試合開始の号令と共に放たれたハイドラントのサーブ!
「なっ!?」
絶句する四季。それも当然。
ハイドラントのサーブは、レシーバーの四季など見向きもせずに――





ガシイィッ!!
――ハイドラントの真正面、前衛の柳川の顔面に炸裂した。





「貴様………」
ハイドラントの口から漏れる呟き。
明らかに柳川を狙ったブラッシングボール。
それを柳川は首一つ捻ることすらせず、マトモにボールを受け弾いた。
しかも今の一撃、確実に柳川の片目を狙った……はずだった。
それが前頭部横に当たるにとどまったという事実。
ハイドラントの実力からして、外すはずはない。……だとすれば。
「(気圧された………この俺が?)」

「……つまらんな」
ボソリと呟く柳川。
「何を気取っている。
そんな程度の炎で俺を焼き尽くせると、本気で思っているのか?」
「何……?」
「本気で、来い」
顔色一つ変えることなく言ってのける柳川に、ハイドラントの口元が歪む。
「……後悔、するぞ」












「……そろそろ、ハイドの試合じゃない?」
医務室。
2回戦のダメージのためにベットに横になっていた来栖川綾香が、ふと呟く。
「……そうだな」
そんな彼女にずっと付き添っていた悠朔が、合槌を打つ。

「見に行こうか、ゆーさく?」
「……ダメだ」
観戦に意気込む綾香を制する悠。
「お前の2回戦のダメージは、お前が思っているよりずっと深い。まだ安静にしているんだ」
「なんともないわよこれくら………ったたっ…!」
「言わんこっちゃない。
せめて3回戦に出場したいのならば、ここで安静にしているんだな」

「だったらゆーさく行ってきてよ」
「私が?」
「せめて結果だけは教えて欲しいのよ。ね、お願いっ」
両手を合わせておどけながら頼み込む綾香に、ため息をつく悠。
「……わかった、見に行って来てやる。
だからそこで大人しく寝てること。わかったな」
「はーいっ♪」
「(……やれやれ)」
手間のかかる妹を看病しているような錯覚に頭を抱えながら、悠は医務室を出た。












「(ハイドラントの試合か……確か次は柳川との一戦だったはず……)」
会場に向かいながら、考えを巡らせる悠。
柳川の強さは悠とて十分に認識している。
しかしながら、ハイドラントが負けるほどの相手とまでは思えない。
「(そうさ……アイツが負けるなど……)」
自分が終生の宿敵とまで定めたその相手が、自分以外の人間に負けるなど――

「YOSSYFLAME?」
コートについた悠が見つけた人影は、彼がよく知る男のものだった。
「おい、YOSSYFLAME。ハイドラントの試合は――」

「は、ははは、ははははっ……」
YOSSYの笑い声に生気がない。
右腕で前髪をしゃくりあげながら、蒼白の表情を笑いに歪める。
「どうしたんだ!?  YOSSYFLAME!!」
YOSSYの肩を後ろから強く掴みながら咆える悠。
「見てみろよ、悠。
信じられるか?  あの強さが……」












「!!………ハイドラント…っ………!…?」
悠は、自分の眼前の光景が信じられなかった。
自分の眼前にある光景を、ビジョンしたことすら彼にはなかった。

地に膝をつけ、ボロボロにされている満身創痍のハイドラントの姿など。




「どうした、これで終いか?」
それに対してコートの向こうで、顔色一つ変える様子すらない柳川裕也。
その佇まいは、なんら普段と変わるものではなかった。
「く……っ!  ナメるなよ、俺を………!!」
満身創痍のいでたちで、なおも立ち上がるハイドラント。

「喰らえぇぇ!!!  黒破雷神槍ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
唸りをあげて柳川に襲いかかる、神威のSS・黒破雷神槍!
「ほう、さっきより激しいな……………だが!!」
柳川の右腕が、消える……
「グオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!!!!」




ドキャオンッ!!

「か………っ!!」
ハイドラントの鳩尾に、煙を噴いたボールがめり込む。
しかし今度は膝をつかずに耐える。
「ちっ……!」
それでも眼だけは死なず、殺気を帯びた視線をぶつける。





「ゲーム!  四季、柳川組!  ゲームポイント3−3!」
耕一の宣告がコートに響く。
確かにスコアでは3−3と、タイスコアのいい勝負。
しかし、実情は……

「……いいようにされてるんだよ。四季と…そしてあの柳川にな………」
「なんだと……?
あのハイドラントが………遊ばれてるだとぉっ!!!」
YOSSYの胸倉を強く掴み、語調荒げる悠。
そんな悠にYOSSYは、力なく答えた。
「ハイドラントに限った話じゃない………おそらく誰がやっても同じ結果だよ」

「信さん……」
呆然と、傍らの岩下信を見つめる藍原瑞穂。
岩下は震えていた。
いや、震えているのはジャッジリーダー岩下信≠ナはなく、その彼に内在する魔王オロチ=B
破壊と殺戮の魔王が脅え震えている。
鬼*川裕也の全身から放たれる圧倒的な恐怖≠ノ。

「これがセンセの……本当の実力だよ」
「はー……、それにしてもつくづくすごいですねっ」
周囲が驚愕と恐怖に包まれる中、平然としている二人。
エルクゥ同盟、ジン・ジャザムに、柳川の科学部での弟子・ひめろく。
「だいたいどいつもこいつも、センセをナメすぎよ。
ちょっと本気になれば、あのハイドラントを相手にしてさえあの通りよ」
柳川の本当の姿を知るジンだからこそ言える台詞。
「でもでもっ」
「なんだ?  ひめろく」
「どうして師匠はハイドラントさんに限って、そのベールを脱いだんでしょうかぁ……」

ひめろくの問いにぶっきらぼうに答えるジン。
「俺が知るかよ、そんな事」














――ドシャッ……

執念で対抗していたハイドラントも、ついに崩れ落ちる。
「ハイドくんっ!!」
彼の惨状にたまらず駆け寄るEDGE。
「ハイドくん、大丈夫――」

「………触るな」
「え……?」
師匠の手をも拒絶し、独力で再び立ち上がる。
「すみません、師匠。ですが……」
それ以上は何も言わず、全く衰えない殺意の視線で柳川を睨み据える。
鬼が何だ。
柳川裕也がどうした。

俺の前に立ち塞がる奴は皆…………永久の安息を呉れてやる。








「――まだだ」
地に這いつくばり、かつ起き上がるハイドラントを見据える柳川。
「こんなものが貴様の炎か?  いいや――」
柳川の口が狂喜に歪む。

楽しませてくれよ、――ハイドラント。

















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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さて、3回戦です!
        先陣を切るは、四季、柳川組  vs  EDGE、ハイドラント組!
ゆかり:で、今作のコンセプトはなんでしょう?
よっし:『悪鬼・柳川裕也』です!
ゆかり:それはわかるけど、強すぎない?
よっし:強すぎない。
        むしろ今までのみなさまのイメージの柳川先生が弱すぎたという話も。
ゆかり:まあ、「痕」のラスボスだしねえ……
よっし:やっぱり柳川先生は強くて怖くてナンボだと思うのですが、みなさまはどうでしょうか?

ゆかり:ところでさ。
よっし:なに?
ゆかり:反則じゃないの?  黒破雷神槍。
よっし:えっとな。サッカーと同じで反則を流すことがあるんだよ。
        つまり、ハイドさんの雷神槍で柳川先生、特に制限受けなかったろ?
ゆかり:ふむふむ。
よっし:そーゆーこと。
        その反則によってプレイの流れを妨げられないと判断した場合、
        審判の裁量で反則流すこともあるんだよ。
        ……でないと試合進行しないだろ、なかなか。
ゆかり:なるほどねえ……
よっし:と、暗躍のルールブックに書いてあった。

ゆかり:で、次回はもちろん?
よっし:決着編っ!!
ゆかり:4者4様の思惑が絡み……
よっし:EDGEさんも四季さんも大活躍予定!
ゆかり:そういうことなので、次回も楽しみにしていただければ嬉しいですっ!