Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第47章 「刹那の双龍」 投稿者:YOSSYFLAME




グシャァァァァァッ!

「ゲホ……ッ!」
ハイドラントの鳩尾にまたも剛球、いや、殺人球がめりこむ。
第1ブロック代表決定戦、四季、柳川裕也組vsEDGE、ハイドラント組の試合は、
予想通り。いや、予想を遥かに越える凄惨な試合展開になっていた。
しかも、あのハイドラントが一方的に柳川に打ちのめされているという展開。

「いつまでも……いい気になってんじゃないわよ!!」
ドキャッ!
EDGE怒りのストロークが柳川陣営に迫るも……
「――プログラム四面楚歌=I!」
ぎゅんっ!
その彼女の前に立ちはだかるは、恐怖の暴走強化人間・四季。
彼女の放つ妙回転剛球の前に、さしものEDGEも大苦戦。
なんとかボールを返すものの、これではハイドラントの援護どころではない。
そして……
「シャアアアァァァッ!!!」
どぼぉっ!
恐怖という言葉すら生ぬるい、柳川の凶撃。
「ゲーム!  四季、柳川組、4−3!」
審判のコールが無情に響く。





「四季君、うまくやってくれているな」
「はい……」
「この試合、EDGE君の横槍だけが心配だったのだが、
君のおかげでどうやらその心配もないようだ」
「はい。あの……」
顔色一つ変えずコートチェンジをする柳川に、四季が訴えかける。
「この試合、もう終わりにしませんか……」
「……………」
「これ以上ハイドラントを嬲ることに、意味があるとは思えません……
私たちの目標は、あくまで優勝のはずです。
こんなところで遊んでいては、後の試合にも響き――」

「あくまで最終目標が優勝であるからこそ、早急にこの試合を終わらせたいのだね。
――ハイドラントが私に噛み付いてくる前に」
四季の提案に対し、薄笑いを浮かべながらそれに応える柳川。
「いえ、そんな心配など――」
「隠さなくていい。君の言うことは正論だ。
勝つべき時に勝つ。これが戦の常道だからな」
「じゃ、じゃあ!――」
「――だが、悪いがもう少し、私に付き合ってくれないか?」
「……先生……」
四季の提案を飲み込まない柳川。
その真の腹の内はわからない。だが……
「――わかりました。先生がそうおっしゃるなら」
「ありがとう……」
その時の柳川の表情は、何故か妙に透き通っているように四季には見えた。





「黒い牙ァッ!!」
ハイドラントの神威のショットが柳川に向かうも――
「――キサマの攻撃など全くの無力だ!!」

――ッシャアッ!!
「っが…っはっ!!」
ハイドラントの顔面に決まる柳川のカウンター凶球。
もんどりうって崩れ落ちるハイドラント。



「どうした。本当にそれが貴様の力か……?」
ネット際で氷のような視線を凍てつかせ、ハイドラントを見下ろす柳川。
その挑発にも答えることなく、ただ立ち上がらんとすハイドラント。
「――!?」
その膝の力が入らず、ガクンと崩れ落ちる。

「(柳川先生の剛球を何球も食らい続けてるんだもの、いくらハイドくんでも……)」
厳しい顔つきで愛弟子を見つめるEDGE。
自分達神威のSS、最強流派であるという自信が揺らいだことなど一度もない。
しかし、目の前にいる鬼=B
強すぎる。もし神威の全力を傾けても倒せないとしたら――

「――ハイドくんっ……」
ハイドラントは立っていた。EDGEの一瞬の逡巡の間に。
その瞳、その気、EDGEにはわかる。
「(そう。私がめげててどーすんのっ!  
私も、ハイドくんも、神威もまだ死んじゃいない――)」

その時、満身創痍ながらも立ち上がったハイドラントが、EDGEにゆっくりと近づいていった。





「もう我慢ならん!!  おのれ柳川ぁ!!  いつまでも図に乗ってんじゃねぇぜよ!!」
「我が導師を愚弄した罪、死をもって償わせてやる!!」
突如観客席の一端が騒ぎ出す。
ジャッジら警備部隊の最重要危険地帯、ダーク13使徒の応援席。
「柳川ぁ!!  そこを動くんじゃねぇぜよ!!」
平坂蛮次が咆哮と共に椅子を蹴って立ち上がる。
その横の氷上零も、無言で銃を構える。
「座れ13使徒!!  暴動を許すわけにはいかん!!」
「せがらしかジャッジ共!!  おんしらもまとめてブッ飛ばしちゃろかい!!?」
セリスがビームモップを構える。平坂が拳を固めて咆える。
一触即発――



「……平坂君、氷上君。座りなさい……」

「く、葛田師兄!?  コイツらを見過ごせと!?」
「導師の顔に泥を塗ったままにさせておくのですか!?」
筆頭師兄の葛田に対し、猛然と噛み付く平坂と氷上。
「……いいから。座ってください……」
殺気を込めるでもなく、ただ二人の顔をじっと眺めるのみの葛田。
「……………」
しかしながらそれが功を奏したのか、大人しく着座する平坂と氷上。
「……どぉも、お騒がせいたしました……」
そして、いかにも人のよさそうな笑みをセリスに向ける葛田。
とにかく静まったということで、セリスもこの場から離れる。

「……心配無用ですよ、二人とも……」
穏やかな笑みを浮かべたまま、葛田は呟く。
「……むしろここからが面白いところです。それをあえて壊すこともないでしょう……」
葛田の笑みに、不可解なものとなんとなくわかる期待感を抱き、
平坂と氷上も、試合のほうに目を向けた。



「しっかし強ええな、柳川の奴。まさかこれほどとは……」
偵察観戦のXY−MENが、恐れ入ったように呟く。
「このぶんだとどうやら、勝ち上がってくるのは柳川組か……って、レディ?」
仮面に隠されたその奥は、何を語っているのだろう。
レディー・Yは黙って見ていた。ただ、見ていた。
この試合を。そして、ハイドラントを。





「ゲーム!  四季、柳川組、5−3!!」
審判の声が響く。
ついにゲームカウント5−3。
これまで徹底的に時間を延ばしてきた柳川組が一転、勝利にリーチをかけてきた。
「(ハイドくん……、……できるの?そんなことが……)」
あと1ゲームに迫られながらも、EDGEの脳裏は全く違うことを考えていた。



「悪いけど……これで終わらせてもらうわ、EDGE!!――プログラム疾風怒濤=I!」
四季のサーブが、唸りを上げてEDGEに迫る!
「あんたの球くらいなら、私だってどうにでもできるのよ!!
――神威のSS・黒破雷神槍っ!!!」
ッガキャアッ!!!
EDGEの黒破雷神槍が、柳川の真正面に強襲!
「フン……計算内だ!!  死ね!!!」

ドンッッッッ!!
柳川のダブルカウンターが、ハイドラントを屠るべく迫る!
「っあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハイドラントが咆える!  ラケットを振りきる!










グシャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!










今までとは桁違いの鈍い音が、会場中に響き渡る。
ハイドラントの体が宙に浮き、もんどりうって倒れ落ちる。

「ハイドくんっ!!」
彼女らしくもなく悲鳴をあげてしまうEDGE。しかしながらそれも無理なきこと。
なにせこのショットの正体たるや、
疾風怒濤={黒破雷神槍={鬼腕≠フトリプルカウンターショットなのであるから。
「ハイドくん、大丈夫っ!?」
もんどりうって倒れたまま、EDGEの呼びかけにも応えないハイドラント。
「ハイドくん、ハイドくんっ!!」
肩をゆするも声をかけるも気を入れるも、一向に反応する素振りすら見せない。
「ハイドくんっ……!」
ハイドラントを抱えたまま、EDGEが漏らす初めての声色。
審判が近づいてくる。しかしEDGEは首を振ろうとはしない。
神威のSSはこんなところで負けない。
ハイドラントはこんなところで負けるはずがないのだから。

しかし、そんな彼女の想いをよそに、審判の手が高く上がり――










「……まだだ」

ゆらりと幽鬼のように、ハイドラントは立ち上がった。
「師匠……」
側にいたEDGEに声をかける。
「もう一度………」
そう言って、再びラケットを構える。
「(ハイドくん……)」
EDGEもまた、定位置に戻る。
彼女の表情に浮かぶ、微かな希望。



「四季君、アレでいい。……決着をつける」
「……はい」
柳川も四季も、冷徹な表情を表に出す。
「(ここまで俺の攻撃に持ちこたえるとは……特にアレをしのぐとはな………
だが………そろそろ終わりにしよう……)」



「15−40!  四季組、マッチポイント!!」

会場が静まり返る。
この凄惨な試合もついにマッチポイントを迎え、会場は水を打ったかのよう。
「(ハイドラント……)」
観客席の階段の壁に寄りかかり、試合を見据える悠朔。
ゲームポイント5−3の決定的リードを許している、
それ以上に肉体が既に壊れかかっているこの状況を知ってなお、彼は思う。

「(このまま終わるのか貴様は。……こんなところで負けるのか、貴様は。
見せてみろ、柳川相手に貴様の力を。俺に、そして――)」





「――プログラム疾風怒濤=I!」

四季の凄まじきサーブがまたも炸裂!
「(向こうは既にマッチポイント………、………ふんっ!  それがどうしたの!?)」
気≠フ篭ったEDGEの腕が、しなやかに滑る――










「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!  
黒破雷神槍ぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」










ポイントならくれてあげる!  要は倒せばいいんだから!
――ハイドくん、頼んだよ!!

EDGEの気迫≠乗せた剛球が、彼女の計算通り、柳川に向かって唸りを上げる!
それを真っ向から迎え撃つ柳川!
百獣の頂点に君臨すべき鬼≠フ咆哮を轟かせ!
「これで終わりにしてやる……見るがいい!!  これが真の狩猟者の力だ!!!










――見せてもらうぞ!!  貴様の生命の炎を!!!!!」









『いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
柳川選手、渾身のフィニッシュスマァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッシュ!!!』

まさに鬼の咆哮。
ハイドラントの喉を噛み砕くべく撃ち放たれた、柳川のフィニッシュスマッシュ。
その悪鬼の凶牙が、ハイドラントの首を、その全てを――



















会場に、無残な陥没音が響いた。
鮮血が霧のように迸り、コートに降りそそぐ。
その肉体は、無造作にコートに叩き付けられ、
ピクピクと蟲動を繰り返した後、――動かなくなった。




















――悪鬼≠ニ呼ばれた男、柳川裕也が。









あまりの出来事に、会場からは声もない。
静まり返ったそこ≠ナ。
ハイドラントは、ただ、立ち尽くす。

「ハイドくん………」
愛弟子にかけるいつもの呼び声。
ただそれだけの言葉が、呟きというものに変質し、EDGEの口から漏れて出る。





神威のSS――双龍黒破雷神槍





四季の疾風怒濤≠、黒破雷神槍≠ナ撃ち返すEDGE。
その黒破雷神槍を、鬼の破壊力≠ノまかせて跳ね返す柳川。
柳川が放つそのカウンターはまさに、
疾風怒濤={黒破雷神槍={鬼腕≠フ
兇悪トリプルカウンタースマッシュとして、ハイドラントを屠るべく撃ち放たれる。
だが、
そのトリプルカウンターのただ一つの要素≠ェ、勝敗を決した。

EDGEが放った黒破雷神槍。
それに含まれている気の流れ≠、ハイドラントは見逃さなかった。
神威のSSは、己の感情を気として操り、敵を屠る武術。
その全ての構成要素に気≠ェ絡んでいること。これが決定的な勝因になった。

いかに柳川裕也の鬼腕が強力無比であろうとも、
いかにそれがカウンターで二重三重に増幅されようとも、
EDGEがボールに込めた気≠ヘ、消えようがない。
さすれば、その気≠操ること、ひいては超剛球を弾き返すことが可能となる。

しかしそれには、媒介のEDGEの尋常ならざる気の操作と、
ハイドラント自身の気の操作、あの剛球の中での希少な一点を撃ちぬく技量。
そして、EDGEとハイドラント、二人の波長の同期。
それらの一つが欠けたとしても柳川の剛球に粉砕されてしまっていた、分の悪すぎるギャンブル。
しかしそれを、最後の最後の土壇場で――





「師匠……、………行きましょう」
「……うん、そうだね」
未だに静まり返っている会場から、
柳川が倒れ伏しているコートから、
何も言わず、ハイドラントとEDGEは立ち去る。

黒破雷神槍≠ヘ、大会では明らかな反則行為。
今までは、それが自分らに利をなさなかったからこそ、審判も流してくれた。
しかし、その反則技で相手を試合続行不能にしてしまった二人。
もはや酌量の余地などない。
しかし、EDGEにもハイドラントにも後悔など寸毫もない。
自分らの神威のSS≠ェ、あの悪鬼≠ノ通じたこと。
二人にとっては、それだけで十分だった。

会場のゲートから出んとせん二人の背に、今、決着の宣言が――










「柏木先生。柳川裕也、四季組。――棄権します」










「え………?」
あまりにも意外なところからの声に、思わず振り返るEDGE。
「き、棄権って……、……君らの反則勝ちなんだけど……」
四季の言葉の真意が掴めず、戸惑いながらも説明する耕一。
しかし、耕一の説明にも顔色を変えることなく、キッパリと四季は言い放った。
「でも柏木先生。反則負けのコールはまだしてませんよ?」
「いや、それは今から……」
「コールの前に私達は棄権しました。ですからこの試合、私達の棄権負けです」

「ち、ちょっと!  どういうコト!?」
何が何やらよく分からず、たまらずEDGEが問いただす。
そんな彼女に薄く笑みを投げかけながら、話し始める四季。

「この試合、負けたのは私達だからよ。テニスのルールなんて、この際関係ない」
「四季さん……」
「柳川先生も楽しかったと思う。これだけの試合ができたんだから。
それに反則勝ちだなんて、先生のプライドが許すと思う?」
「……………」
四季の言葉、EDGEはなんとなくわかるような気がした。
この試合、柳川は異様な程にハイドラントに対し敵意を向け攻撃した。
それはとりもなおさず、狩猟者としての純粋な興味≠ナはなかっただろうか?
自分の弟子であるジンとはまた別の強さ≠持つ男、ハイドラント。
純粋にただ闘ってみたかった。彼のようなタイプの男と。
自分とどこか似た雰囲気を漂わせる男、ハイドラントと掛け値なしの潰し合いを。

「だから、反則であろうと何であろうと、負けは負け。
私達とあなた達の勝負≠ヘ、あなた達の勝ち」
そう四季は言い切った。
「四季君、本当にいいんだね?」
「――はい」
四季が頷くと同時に、耕一が右手を上げ宣言した。

「柳川、四季組試合放棄により、EDGE、ハイドラント組の勝利とします!!」





担架など借りず、柳川を背に背負って、一人コートを去る四季。
試合終了の握手も、結局しないままに。
彼ら四人が行ったのは、試合≠ナはなく、潰し合い≠セったのだから。
「今度闘るときは、私達が勝つからねっ!」
柳川を背負った四季の声が背に響く。嬉しそうな旋律を響かせて。
「いつでも来なさいっ!!」
EDGEの上げた右手が、眩しい陽光に照らされていた。






      EDGE×ハイドラント組――決勝トーナメント第1ブロック代表決定!















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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さて、第1ブロック覇者が決定しました!!
ゆかり:……なんか、テニスじゃなかったんだけど。  
よっし:この試合にテニスを期待するほうが間違ってると思うが。
ゆかり:(いいの?  本当にいいのそれでっ?)
よっし:でも、四季さんとかEDGEさんとかは結構書いたからな。
ゆかり:みなさまには、どうお映りになったでしょうか?
よっし:第1ブロックもいろいろ面白い組み合わせがあって、楽しませていただきました!
ゆかり:さあ!  決勝トーナメントへの椅子は残り7つ!
よっし:次回!  我々因縁の第2ブロック代表決定戦!
ゆかり:とーる、宮内レミィ組vs川越たける、長瀬祐介組っ!!
よっし:みなさま、楽しみにお待ちいただければ嬉しいです!!

ゆかり:vsジン先輩とLメモシャッフルも、ちゃんと書きなさいね。
よっし:今書かせていただいてます〜〜m(_)m  並行してがんばります〜m(_)m
ゆかり:よろしくお願いしてやってください。