Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第48章 「One Shot One Hit!」 投稿者:YOSSYFLAME




長瀬祐介は佇んでいた。

控室から少しばかり距離のある、学園内のロビーで。
椅子に座りながら、彼は一人考えていた。

自分が勝たなくてはならない理由

始めは特に関心も興味も持たなかったテニス大会。
どういう運命のいたずらか、テニスパートナーを捜していた川越たけるの罠に
引っ掛かったのが、きっかけの始まり。

好きな人を自分の手で振りかえらせる

彼女は、そういって笑っていた。
その元気な後輩、川越たけるとはそれほど面識があったわけではない。
普通なら、他を当たってくれとばかりに断っていただろう。
しかし、彼女の笑みに何か引かれた。
俗な感情ではない、何かに。

気がつけば、大会エントリーをして、気がつけば、遅くまで練習を重ねてしまっていた。

1回戦、対神凪遼刃、ルミラ・ディ・デュラル組戦。
2回戦、対YOSSYFLAME、広瀬ゆかり組戦。
とても勝てるとは思えなかった試合。
普段なら、勝てないだろう≠サう思って、最初から諦めていただろう。
しかし、自分は今、ここにいる。
未だ勝ち残って、今ここに。

何故、勝つことができた?

無論、大会までの猛練習と柄にもない努力の賜物……もあるかもしれない。
必死に応援してくれた、新城沙織、藍原瑞穂、月島瑠璃子などの友人の存在。
真っ向から、自分達に勝つ為に向かってきたライバルたちの存在。
それと、小さいながらも死力を尽くし、自分を引っ張ってくれた、たけるの存在。

最初は、できればやってみようか、くらいの気持ちだった。
しかし、今は違う。
沙織達の応援に応える為に、
自分らと闘い、散って行ったライバル達のプライドの為に、
ブロック最後にして最強の相手と全力でぶつかり合いたいといった感情の為に。
健気で優しく、過剰なほど頑張り屋の川越たけるの悲願成就の為に。
そして、勝つ≠ニいう、ただそれだけの為に。
「……よし」





「……代表決定戦の対戦相手、川越、長瀬組については、何もいうことはありません。
2回戦、お二人が御覧になった、それが彼らの全てです」

風紀委員会代表チーム・とーる、宮内レミィ組の控室。
貞本夏樹の声が、控室に静かに響く。
その説明を、静かに聞いているとーるとレミィ。
彼らの他にも、風紀委員が何人かこの控室に集まっている。
「委員長、何かありませんか?」
「……辛い記憶が甦るわ……」
冗談交じりの口調を笑いながら響かせる広瀬ゆかり。
2回戦、直に川越組の強さを感じ取っている彼女。
顔色を変えることなく、とーるとレミィに言ってのけた。

「案ずる必要はなにもないわ。あなたたちなら間違いなく勝てる相手よ。
ただ、油断大敵。それだけを頭に叩き込んでおけばいいわ」
「ワカッタネ、ユカリ!」
レミィが張りのある声で応える。対して未だに黙っているとーる。
彼の脳裏には、先程の祐介との会話がよぎっている。
「……どうしたネ、トール?」
「え、いえ、別に……」
レミィの声で我に返り取り繕う彼。
「まあ、気持ちはわかるけどね。私達だって絶対勝てると思って、それで負けたんだから。
確かに彼らの底力は、相当侮れないものがあるわ」
「……そうですね」
とーるが考えていたこととは全く違うゆかりの言葉。
しかし、この際だからと合わせておくとーる。

「でも、普通にやれば、あなたたちなら勝てる相手であることは間違いないわ。
彼らが底力を発揮する前に、――勝負をつけてしまいなさい!」
ゆかりの檄に、とーるもレミィも力強く頷いた。





「川越さん、準備はいい?」

「どこ行ってたのよ?  たけるはとっくにスタンバイしてるわよ?」
「え……ルミラ、さん……?」
控室に戻ってきた祐介の目に飛び込んできた光景。
何故かそこにいるルミラと神凪の姿。
「いい?  あんた達は私達に勝ったんだからね!  絶対に勝ちなさいよ〜〜〜!」
「く、苦し………わかりました、わかりまひ……」
「ルミラさんルミラさん、試合前に長瀬君を殺す気ですか」
「あらごめんね。つい」
試合前に絞殺されかかり顔面が紫の祐介をあっけらと見つめるルミラ。
「(や、やっぱり魔族の人は普通の人と感覚が……)」

「先輩、準備終わったよっ!」
そんな中響くたけるの声。
しかし彼女は隠しているが、その声にいつもの元気が欠けていることは、祐介にはわかる。
「……よし、行こうか」
それでも、それにあえて気づかない素振りで祐介は応じる。
無意味に彼女の気力を殺ぐことはない。しかし。
「(この試合、僕が引っ張って……………勝つ)」
そう、密かに誓い。










「えっとぉ……を、いたいたっ」
手に焼きイカなどを持って、観客席を物色している男、YOSSYFLAME。
目当ての人影を発見し、小走りで駆け寄る。
「よっ、やっぱり見にきてたかあんたらも」
「――どうも」
「それはそうですよ。第2ブロックの総決算ですからね」
YOSSYの声に反応するは、ディアルトとDマルチの二人。
2回戦、とーる組に惜敗した異色チームである。
「で、どっちが勝つと思う?  
ちなみに第二購買部のトトカルチョでは、とーる組の8:2だったそうだが」
焼きイカを頬張りながら、軽く話を振る。
「ま、順当に行った場合、とーるさん組の勝ちでしょうね」
合いの手を打つディアルト。
「ま、そうくるか……、……Dマルチは?」
「――彼我の実力、体調、心理状態、全ての要素をインプットした私の分析では、
とーる、宮内組の勝利確率――95%と予想されます」
「きゅ、95ぱーせんと…………また随分大きく出たなあ……」
冷静そのもののDマルチの表情に合わぬその数値を見て、俄かに驚くYOSSY。

「まあ、普通に考えればそれくらいの数値にはなるんじゃないか?」
「あ………お前……」
後ろからの声に振り返ると、そこにはこれまた第2ブロックの選手・シッポの姿が。
「なにせ川越組は、あんたらとルミラ組との死闘で既にボロボロ。
対してとーる組のほうは、ディアルト組との闘いで試合勘を完全に取り戻した。
元々の資質の上に、これだけのハンデがついたんじゃな……」
空いてる席に座りながらそう言ってのけるシッポ。
確かにとーる組は、2回戦苦戦はしたものの、後に引くようなダメージは皆無。
むしろ、ようやく本格的にエンジンがかかったといっていいだろう。
対して川越、長瀬組のほうは……
結論として、とーる組の絶対有利は動かない。

「って言われていながらも、俺らもルミラさんたちも薙ぎ倒されたんだよな、あいつらに」
「YOSSY……」
「ことあいつらに関して言えば、確率なんざ当てにはならない。
よく言うだろ?  二度あることは三度ある≠チてさ」
第二購買部から裏で買ったトトカルチョ券を胸ポケットに潜ませ、
YOSSYはイタズラっぽく笑みを漏らした。





『さあ!  みなさま大変長らくお待たせいたしました!
第2ブロック代表決定戦、選手入場です!!』

緒方理奈の声が高らかに響くと共に、歓声が一気に沸き起こる。
『まずは、とーる、宮内レミィ両選手の入場です!』
アナウンスと共に姿を現すとーるとレミィの風紀委員会代表チーム。
淡々と歩くとーるに対し、自分にかけられた声援にニコニコ笑いながら手を振るレミィ。

『続きまして、川越たける、長瀬祐介両選手の入場です!!』
一転、二人が入って来たと同時にざわめきが起こる。
二人とも、傍から見てもわかるほどのダメージを背負っての入場。
たけるに至っては、足を引きずりながらゆっくりと時間をかけて入ってくる始末。
雰囲気的にも、既に闘う前から満身創痍。
あれだけの死闘を2試合立て続けに行ったのだ。無理もない。
痛々しく思いながら、二人を見る観衆。

「……ふふっ……ま、傍目にはそう見えるでしょうね……」
神凪遼刃を伴い観客席に座って観戦しているルミラは、意外にも平然としたもの。
「一見バテてるようだけど、気の充実ぶりは目をみはるものがあるのよ、今のあのコたち」
「そうみたいね、それこそ望むところだわ」

「広瀬……」
「こんにちは、ルミラさん」
ルミラの横から、不敵な笑みを浮かべ挨拶してくる広瀬ゆかり。
「そうこなくっちゃね。……それでないと、叩き潰し甲斐がないわ」
「……随分な自信ね、貴女自身をすら破ったたける達相手に。
そんなに、貴女御自慢の風紀委員会代表チームは強いわけ?」
ゆかりの腹を探るようなルミラの言葉に、揺るぎ無い調子でゆかりは続ける。
「言っておくけど、彼らの実力を私達と一緒に考えていたとしたら、大火傷するわよ。
単純にテニスの技量なら、おそらく第2ブロック……いえ、大会屈指の実力者よ、彼らは」
「じゃあ、勝負はわからないわね」
ゆかりの自信満々の調子を、一瞬で斬って落とすルミラ。
「単純な実力なら、私達も貴女達も、あのコ達を圧倒していた。
だけど、今こうして代表戦に出てるのは、紛れもなくあのコ達。
それを奇跡やマグレの一言で片づけるほど、貴女は暗愚じゃないでしょ?」
「確かにあなたの言う通り。川越さん達がここまで来たのはマグレでもなんでもない。
でも、……それでも決勝トーナメント進出は、私達の代表がいただくわ」
ルミラの視線を受け止めて、ゆかりはハッキリ言い放った。





試合開始前の挨拶をしに、ネット際による四人。
「ハイ、タケル!  昨日ノ敵は今日ノ友<l!  全力でいくヨ!」
「えっと、多分、昨日の友は今日の敵≠フ間違いだと思うんだけど……」
「そーともいうネ。デモ、ま………お互い、フェアプレイでファイトネ!!」
「うん!  負けないよ!!」
カフェテリアの同僚の二人が敵となり戦う。
そんな妙な縁も気にせず、二人は固く握手を交わす。

「長瀬さん」
対していつになく不敵な表情で祐介を睨むとーる。
「最初から全力で来てください。でないと……」
祐介の掌を心持ちどころではない。明らかにきつく握る。
「でないと、何もできないうちに終わってしまうと思いますから。
悔いは残したくないですし。……お互いに」
とーるの凄まじい闘争心に、しかしながらそれを真っ向から受け止めて、
「試合が始まれば自ずとわかるよ。……お互いにね」
そう言って離れてゆく祐介。
その背中を、内在する闘気を燃やし、とーるは睨み据えていた。



「それでは、第2ブロック代表決定戦、プレイッ!」



シュパァァァーーン!
とーるのサーブにより、火蓋が切って落とされたこの試合!
そのサーブを堅実に返す祐介。
リターンをもしっかりととーるが取り、それもまたたけるがフォロー。
試合開始直後からの一進一退のラリー。
「(……そろそろ……行きますよ!)」
パンッ!
とーるのスイングが鋭く閃き、コーナーに飛んでゆくボール。
「ちっ!」
一段鋭いストロークに舌打ちしながらも、追いつきボールを打ち返す祐介!
「ハアァァァッ!」

「なっ!?」
「え……っ!?」
祐介のサイド隅移動により生まれた、僅か、ほんの僅かに空いたそのスペースを
その一瞬、レミィのスマッシュが祐介とたけるの間を切り裂きブチ破る!
「15−0!」

「Hey  Toll!」
「NiceShot!」
パチンッ!
レミィととーるのハイタッチがコートに高く響く。
まるで二人の調子を示しているかのように。
陽気で活発で積極的なレミィ。そしてその彼女をバックアップするとーる。
機械的で緻密なラリーから、一転魅せる野生的で豪放なアクティブテニス。
そのコンストラクションをここに来て、いかんなく発揮するとーるとレミィ。
祐介もたけるも、ここにきてようやく本気で実感できた。
「ハァイ!  タケル、ユースケ!――One Shot One Hit……Bang!」

――目の前にいるこの二人こそ、まぎれもなくブロック突破最後にして最強の壁だと。












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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:ついに始まりました!  我ら第2ブロック代表決定戦!
ゆかり:とーる、宮内レミィ組vs川越たける、長瀬祐介組!
        で、今作のコンセプトは?
よっし:決戦ムードモード万歳。
ゆかり:はぁ?
よっし:XY−MENさん、転載すみませんっ!
ゆかり:……それはさておき、調子がよくて何よりだわ、ウチの代表チーム。
よっし:だな、レミィをとーるさんが如何に乗せるか、これがカギだよな。
        調子に乗ったレミィは、ちーとやそっとじゃ止めらんないからな。
ゆかり:だけど、このまま終わってしまうのか……
よっし:終わるわけねーだろって。
        なにせ俺らを倒したチームだぞ、たけるさんと長瀬の二人は。
ゆかり:相当気合いれてかからないとね!
よっし:そういうわけで、次回決着!
ゆかり:果たして第2ブロック代表の座を奪い取るのはどちらか!      
よっし:ますますヒートアップするテニスL!  ヒートアップしてると幸いです!
ゆかり:……なんなんだか。
        そういうわけで、よろしくお願いします!