Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第49章 「不完全燃焼という名の暗雲」 投稿者:YOSSYFLAME




会場は、静まり返っていた。
目の前で行われている試合を、ただ見据えていた。



「ゲーム!  とーる、宮内組、4−0!」

圧倒的。
敵をまったく寄せ付けないとーる、レミィ組の二人の実力。
と、スコアだけ見れば、そう言いきれるのかもしれない。
しかし、
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、はぁ…」
息も切らしてコートチェンジのため歩く、対戦相手の少女・川越たける。
そのいでたちは、既にボロボロ。
「……あっ……」
足がもつれて、コートに膝をつく。
「川越さん……」
「先輩……ありがと……」
パートナーの長瀬祐介の肩を借り、ようやく立ち上がりコートを移るたける。
そんな、あまりに痛々しい光景。



「気力があっても体は既に限界……だったのかもね、やっぱり」
観客席のルミラが、小さく呟く。
「頑張ってるのにね……」
そんなルミラの呟きにも、広瀬ゆかりは耳を貸さない。
ただ、厳しい表情でコートを見据えているのみ。

第2ブロック代表決定戦。
この試合、最初からとーる組ペースで試合が進んでいった。
精密で隙が見当たらないとーるのゲームメイクから生み出される、
レミィの豪放華麗なハイパースマッシュ。

それを、たけるも祐介も、ただ拾い続けていた。
いや、拾い続けることしか出来なかった。

「アレは、普段のポテンシャル以上の力を無理矢理引き出す、ある意味禁断の技。
いくら電波に相性がいいたけるといえども、元々の体の限界というものがある……」
ルミラの呟き通り、既にたけるのボロボロの体には、精神電波のパワーアップなどは
到底出来るはずもなく、
ただ、満身創痍の、己の力だけで闘い続けているたける。
圧倒的戦力差を、覆す術もなく。



「っくしょう……、……なんとかなんねーのか……」
悔しげな顔を隠そうともせず、拳を握り締めるYOSSYFLAME。
「この状況をひっくり返すには、もはやとーる組の崩れを期待するしかない。
だが、今の奴等が崩れる要素など皆無……確率的に言っても、相当分が悪いな」
「わーってるよ、んなこたぁ!」
シッポの指摘に思わず声を荒げるYOSSY。
「……悪い、つい当たっちまった」
明らかな八つ当たりに気づき詫びながらも、YOSSYの心中は穏やかではなかった。
本来、どちらのチームにしても、YOSSYと親しいもの同士。
彼の本音からしてみれば、どちらが勝っても別に構わなかったりする。
ただ一つだけ、お互いいい試合をして欲しい≠ニ。

「(なのにテメェ……こんな終わりかたでいいのか?
こんな終わりかたで、本当に満足なのか?  悔いが残らねえのか!?)」
歯を噛み締めながら思い、そして小さく、されど強く呟く。
「仮にも俺らを倒した、俺を圧倒した男だろ、お前は。
……なんとかしてみせろ、長瀬!!」



「……今回ばかりは、どうにも出来ないよ」
「そんなっ!」
月島拓也の無情な呟きに、藍原瑞穂が激しく反応する。
「そんなこと!  ……長瀬さんはこのまま――」
「藍原君」
「――!」
「君なら既に気づいているだろう。
もう既に川越君の体は壊れかかっている。
この上電波で能力の引き出しなど行えば、間違いなく木っ端微塵――」
「……………」
冷静な、冷徹とも思える拓也の指摘に声もない瑞穂。
「あまりに状況が悪すぎた。もはやどうにもならない――」

「そんなことないよっ!!」
「新城さんっ!」
怒りに満ちた瞳で拓也を睨み、その胸倉を掴み咆える沙織。
「祐クンは、祐クンは絶対このまま終わらないよっ!  知ったような口聞かないでよぉっ!!」
「新城さん、落ち着いてくださいっ!」
「この試合は、このまま終わっちゃいけない試合なんだよ!!!」
拓也の胸倉を掴みながら絶叫する沙織。
顔を涙でクシャクシャにしながらの鬼気迫る叫びに、皆声をなくしていた。

「……手は残っている」
「え!?」
沙織の絶叫を真正面から受け止め、そして、小さく呟く拓也。
「おそらく長瀬君も気づいている。要は使うか使わないかだ」
「……その手って一体……」
瑞穂が問うが、拓也はそれは言わなかった。
「とにかく!!  祐クンはまだ勝てる可能性があるってこと!?」
「勝てる可能性どころじゃない。ほぼ間違いなく勝利できる。……それさえ使えばな」

「……月島先輩……?」
さすがに沙織も妙に感じた。
それほどの必勝の策があるにもかかわらず、何故祐介はそれを使わないのか。
そして、その策を口に出した時の拓也の表情は、勝利という言葉が生み出すビジョンからは
あまりにもかけ離れたものであったから。
「(長瀬ちゃん……)」
そして、月島瑠璃子はただ一人、何かを祈るような瞳でコートを見つめていた。





「ゲーム!  とーる、宮内組、5−0!」

拾って拾って、ただひたすら拾いまくるたけると祐介。
しかし、その気迫すらも敵のショットに圧され取られる。
体力も精神も疲弊しきっている二人。
そしてついにマッチポイント。ボロボロの二人にはもう活路は――

「主審、治療時間いただきます」
そんな中、祐介が治療タイムを申し出た。
見てみると、このゲームで足を捻ったか、たけるが蹲っている。
「川越組、治療の為試合中断!」
審判の声が高く響き、両チームそれぞれのベンチに戻る。



「宮内さん」
「……ン?」
「次で必ず終わらせましょう」
「……OK。ワカッタネ」
二人とも、考えは同じだった。
とーるほどの見識眼の持ち主なら、既に理解している。
祐介もたけるも、今出せる全力を出して、それでいてこの結果だということを。
だから、自分の望む勝負が出来なかったことを責める気など毛頭なかった。
「(惜しむらくは、ハンデ無しの状態で勝負したかったですね、長瀬さん……)」
しかし。
「(容赦はしません。それが対戦相手に対しての最低限の礼儀です)」
次のゲームで終わってもらいます、そう心中宣告して。



考える時間が欲しかったのかもしれない。
結論を出すのを一分一秒でも先送りにしたかっただけかもしれない。
たけるの足首をマッサージしながら、そんなことを考えていた。

実は、電波によるたけるの運動能力増加は、出来ないこともない。
それどころか、これを使えば今までの能力増幅など比べ物にならないほどの物。

その方法とは――毒電波による完全支配

精神も肉体も一体となり支配してしまえば、肉体にガタがくることもない。
すべてに矛盾のないこの方法なら、従来の比ではない増幅が望める。
「(……だけど、その代わり)」
どんな副作用が来るか、想像すらつかないという致命的な欠陥を抱え。

こんな方法、例えば藤田浩之ならば間違っても使わない。
彼は、あくまで強靭な精神、あくまで強靭な自己を信ずる、そして他者を信ずる心がある。
そしてそれは、決して揺らぐことはないだろう。

しかし祐介は、浩之とは違う。
無論彼にも、一線を踏み越えない@}制は働いている。
しかし、祐介の場合、突飛なところでそれを押しとどめる意志の力が
あまりにもあっさり崩れることがある。
すなわち、思いがけないところで精神面が脆いこと。



負けたくない。
この大会ここにきて、彼が今ほど強烈に思ったことはなかった。

観客席で応援してくれる沙織や瑞穂、瑠璃子達の想いに応えたい。
その隣で見据えている男、月島拓也に認めさせたい。
死闘の末自分達に敗れし、ルミラ、神凪組、そしてYOSSY、広瀬組。
彼らの想いも、自分達は背負っているという自覚。
そして、ここにきてもなお全力で自分達を叩き潰しに来てくれる、とーる、レミィ組。
ここまでの強敵に一泡吹かせたい。そして……

勝てる手段があるのに、闘える手段があるのに……
祐介の心を覆い尽くす、不完全燃焼感という暗雲。
その暗雲は、次第に心を覆い尽くす。

――確かに危険だけど、川越さんなら大丈夫だろう。……彼女は電波の耐性も強いし。

何の根拠もない確信が、祐介の脳裏をよぎる。
その眼光は、もはや勝利の妄執に囚われてしまっていた。
「(川越さん、……ゴメン……)」






「……先輩」

「えっ?」
まさにその瞬間、唐突に呼びかけられる。
「先輩、もしかして遠慮してませんか?」
疲弊していてもその本質は変わらない、周りを元気づけてくれるその笑顔。
「私に遠慮しないでください。いえ、遠慮してほしくないです」
そのあとのたけるの口から出た言葉を、祐介はおそらく忘れることはないだろう。

「私だって負けたくない。……勝ちたいですからねっ!」



祐介の頬に流れる雫。
「……先輩、どうしたんですか?」
たけるの呼びかけも、今は全くの逆効果。

「川越さん……、……ありがとう……」















「ゲーーーーーム!  
アンド、マッチウォンバイ、とーる、宮内組!  ゲームポイント、6−0!」








「……負け、ちゃった……」
なんとなく自覚できているような出来ていないようなたけるの呟き。
「負けちゃい、ましたね。……先輩」
いつもの笑顔で笑いかけてくるたける。
「川越さん、ありがとう。
ここまで戦えたのも、川越さんがいたからだよ。……本当にありがとう。

……………川越さん?」




「あれ、おかしいな……、……なんでだろ……」
たけるの瞳から零れ落ちる小さな雫。
「あれ、あれ……」
二粒、三粒、それがやがて一筋の流れになった時、たけるの顔が両手で塞がれた。

「川越さん……」
「ごめんね、ごめんね先輩……、……わたしが、わたしが……」
駆られなくてもいい自責の念に駆られ、コート上で泣き続けるたける。
「川越さんのせいなんかじゃないよ。むしろ敗因があるとすれば僕の方。
君がいたからこそ、僕もここまでやれたんだから」
祐介が慰めるも、なおも泣き止まないたける。
「でも、でも……応援してくれた人や、私達に負けた人に、なんていえば……」
「川越さん……」
こんな小さい体に、ここまで重いものを背負ってたたける。
心底祐介は、この小さい後輩に対して尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
そして、そんな後輩の肩をポンと叩き、
「……川越さん、観客席を見てごらんよ」
「……え?」



「よくやったたける!  いい試合だったぞ!!」
「いい闘いっぷりだったぞ!  満点をやろう!!」
「あっきー……、梓先輩……」
自分の兄貴分と姉貴分、秋山登と柏木梓の笑顔がたけるの瞳に飛び込んでくる。

「そうそう!  それでこそこの私を破っただけのことはあるってものよ!!」
「川越さん、お疲れさまでした……」
「ルミラさん……、神凪先輩……」
1回戦、魂を切り裂かれるような死闘を演じた相手、ルミラと神凪遼刃からも声が飛ぶ。

「まいった、ここまでやるとは思わなかった。すごいよたけるさん!!」
「よっしーさん……」
2回戦の難敵、そして友人でもあるYOSSYからも声が。
「あっ……」
ふと目に入った一人の人影。
「広瀬先輩……」
最後まで敵であり続けた先輩、広瀬ゆかりまでもが、無言で敬礼をたけるに向ける。
そして……



「たけるさんっ!!」

「電芹……」
たけるに抱き着いてきた一体のメイドロボ、セリオ@電柱。
「たけるさん…………お疲れさまでした、お疲れさまでしたっ……!」
その瞳から涙を溢れさせ、強く強くたけるを抱きしめる電芹。
「で、電芹、苦しいよ……っ……、……電芹…っ……」
そう言いながら、泣き止んでいた涙を再び溢れさせるたける。





「第2ブロック代表、おめでとう」
「ありがとうございます……」
笑顔で握手を求める祐介と、それを複雑な表情で受けるとーる。
「せめて、お互いベストコンディションで――」
「その先は言うのは止めようよ」
とーるの言葉を制止する祐介。
「強かった。君達は本当にね」
一点の澱みのない笑みで、祐介が続ける。
「……ありがとうございます」
握られた祐介の手を、とーるはしっかり握り返した。


健闘を称える拍手の渦の中、たけるを伴いコートを去る祐介。
結局彼は最後の切り札、毒電波を使うことはなく、それが原因で試合に敗れた。
しかし彼の胸には、不完全燃焼と言う名の暗雲など、カケラすらもなかった。
彼の胸に残ったもの――
それは、最後の一線を踏み出すことなく、大切なものを捨てなかった満足感。
眩しい陽の下で闘ったもののみが知る、心地よい爽快感だけだった。






      とーる×宮内レミィ組――決勝トーナメント第2ブロック代表決定!














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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さて、ついに我が第2ブロック代表が決定いたしました!
ゆかり:そうね。
よっし:どしたん?  お前んとこの代表が見事ブロック優勝したというのに。
ゆかり:それは確かに狙い通りなんだけど、なんか複雑……
よっし:ま、気持ちはわからんでもないけどな。
ゆかり:で、今回のコンセプトは?
よっし:主人公の一人・長瀬祐介、最後の華。
ゆかり:はぁ?  いや、言いたいことはわかるけど。
よっし:勝負≠ニいうものに対する祐介の心境が、現れていれば幸いです。
        そして、パートナー・たけるさんに対する彼の想いをも、ですね。

ゆかり:で、次回は?
よっし:第3ブロック代表決定戦、
        XY−MEN、レディー・Y組 vs 東西、姫川琴音組の決戦!!
ゆかり:ところで東西さん、出られるの3回戦?
よっし:さぁ?
ゆかり:さぁって……
よっし:さあ!  代表決定戦も中盤、第3試合!
        これからもよろしくお願いいたします!