Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第51章 「想いのチカラ」 投稿者:YOSSYFLAME




――学園男女混合テニス大会、第3ブロック代表決定戦。
XY−MEN、レディー・Y組 vs 東西、姫川琴音組の一戦は、まさに激闘。
琴音のチカラ≠ゥら繰り出されるサイキックサーブ≠ナ先手を打った東西ペア。
しかし、その琴音の超能力の残量が尽き果て、そこをつけこまれ逆転を許す。
絶体絶命、疲労困憊意識朦朧の琴音。
その時、琴音の想いに、
琴音を想う仲間の想いに呼び寄せられて集まってきた、琴音の友達=B

その想いによって、再び琴音は歩を進める。
パートナー・東西と共に。対戦相手・XY−MENとレディが待つコートへ。





『さあ!  治療時間ギリギリに復活してきた姫川選手!
果たして、3−4とひっくり返されたこの状況を、再び覆すことができるのか!?』
理奈の実況と共に湧きに湧く観衆。
そんな観衆をよそに、ひそやかな笑みを口元に浮かべるは、レディー・Y。
「……あの状況から復帰してきたその根性には、頭が下がります。しかし――」
パアアアンッ!
レディの鋭いサーブが、琴音目掛けて疾る!
「――!?」

タンッ!
「イン!  0−15!」
レディのキレのいいサーブが、さながら風を切るかの如く琴音の横をすり抜ける。
驚いたような表情を浮かべ、琴音はただ立ち尽くすのみ。
「琴音ちゃん……」
心配そうに琴音を見つめる東西。
しかしそんな彼の心配は見事に的中する。
「ゲーム!  XY−MEN、レディ組、5−3!」
このゲーム、まったく精彩を欠く琴音のプレイに完全に足を引っ張られ、
やすやすとリーチをかけられてしまったのである。

「琴音ちゃん……」
「やっぱり、限界だったの……?」
観客席から見守るOLHと斎藤勇希も、心配を隠せない。

「……どうやら、復活するのがやっとだったみたいですね。
可哀相ですが、次のゲームで楽にしてあげるのが、せめてもの優しさでしょうか」
「……………」
「XY−MENさん?」
XY−MENの緊張が走った佇まいに、疑問符を浮かべるレディ。
「………なんだ、あいつ………?」
「え……?」
ぼそり、と一言呟いたXY−MEN。
その彼の態度にレディは、なんとなく嫌な予感を覚え。

「琴音ちゃん、大丈夫ですか……?」
絶不調の琴音を気遣い声をかける東西。
しかし、その琴音は呆然としたまま、東西の声にも応えない。
「琴音ちゃん……?」
そんな琴音の様子に、さすがに心配になって再び声をかける。

「こんなこと……、……本当にあるんでしょうか?」

「え?」
全く不意の琴音の呟き。
「東西さん」
「え?  え?」
状況がわからず戸惑う東西に、琴音はニコッと微笑みを向け、そして言ったのだ。
「この試合、――わたし達の勝ちです」





「ゲーム!  東西、姫川組、4−5!」

その琴音の言葉を実証するかのように、
次のゲーム、あっという間に東西組が取り返してしまったのである。
しかもこのゲーム、あれほど押せ押せだったXY−MEN組をも全く寄せ付けず
ポイント奪取をあっさり成し遂げたのだから、驚くのも当然。

「琴音ちゃん、すごい……!  勝てる、これなら絶対に勝てますよ!」
「……私にも、どうしてこんなことが起こったのかわかりませんけど……」
驚きと嬉しさ溢れる東西に、はにかみながら応える琴音。

「……読まれてますね」
「レディ……」
「いえ、読まれているなどというレベルじゃないです。
むしろ、私達の行動を予測している≠ニ言った方が正確ですね」
「行動を予測してる?  んなバカな、超能力者じゃあるまい……し……」
「対戦相手の特徴を忘れないで下さい、XY−MENさん」
根本的な特徴を忘れていたXY−MENに、呆れた視線を向けるレディ。
しかし次の瞬間、その目つきに真剣さが彩られる。
「確か彼女、予知能力者でもありましたよね」
「ああ、だけど確か不幸の予知≠ノ限られるという、すっげえ不便な予知だったと思ったが」
「……その限定が、何かの拍子に解除されたとしたら?」
「何?」
レディの表情に陰が走る。この試合初めて見せる陰の表情。
「限定解除でなくとも、この試合の、私達の動きを事前に予知できていたとしたら?」
「な、なんだと……?」
レディの言葉に焦りを浮かべるXY−MEN。
もし彼女の言葉が真実だとしたら、この試合……
「とにかく、次のゲームで確認してみます」
そういったレディの言葉も、どこかぎこちなかった。





「おおおおおお!!」
ドバキッ!
XY−MENが放つ強烈なサーブが琴音陣地に飛んでゆく。
そのボールをなんとか返す東西、しかし、
「真正面ですね」
そこに待っていたレディ、快音を響かせて撃ち込むボレー!
「あうっ!」
前衛に上がっていた琴音の脇を摺り抜けて、ボールは背後へ――
「え!?」

『っとお!?  東西選手、何時の間にか逆サイドで待ち構えてるっ!』
パアアアンッ!
まるで完全に読み切っているかのように、東西が逆サイドで構えている。
その彼から放たれたストロークは、XY−MENを急襲する!
「ち!」
そのボールを返すXY−MEN、さらにそのボールをボレーで迎撃する琴音!
「……取ります」
その琴音のボレーをも打ち返すレディ!  その技術はまさに圧巻!
「!?」

「せやああああっ!!」
ドキュッ!

「イン!  0−15!」
XY−MEN組のコート後ろに転がるボール。
東西のリターンボレーがまたも綺麗に炸裂し、レディの後ろを抜いていった。
「……………」
互いに顔を見合わせて喜ぶ東西と琴音を見ながら、レディは自分の推論の的中を確信した。
まるで推し量ったような彼女たちのポジショニング。
完璧に抜き去ったと思った拍子の、完璧すぎる東西のフォロー。
あのボレー返しを完璧に読み切ったとしか思えない東西のリターンボレー。
そしてその瞬間、まるでわかってたかのように口元に僅かな笑みを漏らした琴音。
「(間違いない。間違いなく姫川さんの予知能力は、この試合で発動されている)」





「ゲーム!  東西、姫川組、5−5!」
まるで全ての手の内を読み切っているかのような東西と琴音のプレイ。
その圧倒的なプレイでもって、ついに同点に追いついた二人。
そんな二人の猛反撃に、観衆も興奮を隠せない。
「(東西さん、あと2ゲームですね)」
「(ええ……)」
目を合わせ、口に出さぬ会話を行う琴音と東西。

レディー・Yの推測通り、この圧倒的優勢の原因は琴音の予知能力
琴音のその能力は、レディとXY−MEN、二人の数秒後の行動が手に取るように把握出来る。
そしてその行動のビジョンを、テレパシーで東西に読み取らせる。
感受性ということにかけて言えば、東西も並々ならぬ高いセンシビリティを持っている。
そんな高い感受性を持つ二人だからこそ、互いに共振し為し得るテレパシー。
そのテレパシーを最大限に活用し、XY−MENとレディを翻弄する琴音と東西。
「(それにしても、琴音ちゃんのチカラに何が起こったのか……)」
そんな中、ふと思う東西。
琴音の予知能力の存在については、東西が知らぬわけはない。
ただそんな彼とて、琴音の予知能力は不幸の予知≠ノ限定されているものだと思い込んでいた。
その限定付きの予知能力≠ェ、ここにきて何故開花したのか。
「(わたしにもわかりません……)」
「(あ、琴音ちゃん……)」
テレパシーで通じ合っていることを忘れ、つい考え込んでしまっていた東西。
慌てる東西を見て、くすくす笑う琴音。
「(あ、ごめんなさい。えっと、わたしにもわからないんです……)」
「(そうですか……)」
琴音本人すらわからない突然のチカラ≠フ進化。
後述することになるが、それにはちゃんとした理由がある。

「と、言うことでしょうね」
ついに同点にまで追いつかれたXY−MEN組。
レディが冷静に戦況分析をする。
「姫川さんがこちらの動きを予知している。これに間違いはないでしょう。
その予知のビジョンを東西さんにテレパシーで伝え、そしてフォーメーションを構築する。
私達の動きが予知でき、さらに互いの感受性の高さによるテレパシーでの意志の統率。
正直、このままではかなり危険な状況ですね」
「っくしょう………どうするよレディ。このままじゃヤベエぜマジで………」
「――大丈夫です」
「あ?」
絶望的な事実をつきつけられ焦るXY−MENに、レディが見せる不可解な笑みとその言葉。
「相手の能力さえ分かってしまえば、打つ手などいくらでもあります。
例えそれが、どんなに絶対無敵に見える能力だとしても――です」
「レディ……」
「ご心配には及びません」
仮面の奥からのレディの小さく冷たい、いつもの含み笑い。
「貴方に勝たせるのが今大会の私の仕事ですから。引き受けた仕事は完遂させます」





「……ま、また?」
5−5のタイスコアでゲームが再会されて後、コート内では異様な光景が繰り広げられていた。
『まただまただ!  どうしたことか一体?
レディ選手、先程から姫川選手の正面にばかりボールを打ち込んでますが……?』
実況の言葉通り、ゲームが始まってからずっと、レディが放つショットは何の変哲もない、
ただひたすら琴音の正面をつくノーマルストローク一本のみ。
琴音が返すショットも平凡なストローク一本のみ。
そんなこんなでしばらく続いていたストロークのラリーであったが、
「あっ!」
琴音の返したボールは、ラインを外れたアウトになるイージーミスショット。
「イン!  15−0!」
審判が宣告する中、不可解そうにレディを見据える琴音。
そんな琴音に表情一つ変えることなく、レディは言い放つ。
「姫川さん、これからはすべて貴女の真正面にしか打ちませんので」

「え……?」
唐突なレディの言葉に戸惑う琴音。
ゲームが再開されても、その言葉の真意が読み取れず、さらに戸惑ってしまう。
なにせ本当に言葉通り、レディのショットは自分の真正面にしか飛んでこないのだから。



「なるほどね……」
観戦していた広瀬ゆかりが納得したように呟く。
「篠塚先生の指針のことですか?」
「ええ」
とーるの問いにあっさり頷くゆかり。
「私がやられたあのテと一緒よ。要するに指令塔潰し≠ヒ。
ゲームの指令塔にバカ正直なボールを集めることによって、相手の行動を読みやすくする」
「なるほど……」
「ただ……」
ゆかりの表情に疑問符が走る。
「なんでそれで姫川さんなのかが、私にはよくわからないんだけど……」

「簡単ネ。コトネの予知能力封じネ」
「レミィ?」
意外と言えばあまりに意外なところからの指摘に驚くゆかりととーる。
「コトネにボールを集めれば、オフェンスの幅も限定されるネ。ヤヨイの狙いはおそらくそれヨ」
「なるほど………予知の意味を全く無くすわけね……」
「……そーゆーコトね」
ゆかりの言葉に頷くレミィ。
「でも、確か姫川さんって不幸の予知∴ネ外の予知ってできないんじゃなかった?」
「そのコトなんだケド、タブン……」
ゆかりの疑問に対し、あくまでワタシの推測だけどネ、という前置きを置いて語り出すレミィ。


琴音が不幸の予知しか使えなかったその原因。
おそらくは彼女自身の思い込みの強さ≠ゥら起因するものと推測される。
自分のチカラが忌むべきものだと思い込んでいた昔、その思い込みが悪い方へと働き、
本来無限の可能性を秘めていた琴音の能力を限定させてしまっていたと思われる。
しかし、それはすでに昔の話。
今や多くの友達や理解者に囲まれ、楽しい学生生活を存分に満喫している琴音。
そんな彼女が、今強烈に思うこと。

この試合に勝ちたい――

その、想いの強さ。
その想いが、一時的にとはいえ発動させた。
テニスの試合に限っての、敵の動きを読み取る予知能力≠。
今や琴音には全てが見える。
XY−MENの、レディー・Yの、全ての試合の流れが事前に。


「……と、いうコトだと思うネ」
「ふーん……」
レミィの口から語られた琴音の秘密。
話を聞きながらもゆかりは、話している時のレミィのいつになく真剣な面持ちが、
妙に気になっていた。
「ねえ、レミィ」
「ン?」
「どうして姫川さんのことをそこまで知ってるの?」
そんな問いにゆっくりと答えるレミィ。少しだけ微妙な笑みを浮かべながら。
「コトネはワタシのライバルだから、ネ……」





「イン!  30−0!」
そんなレミィの想いをよそに、レディに押されている琴音。
ラリー合戦でまたも出し抜かれ、これで30−0。
対して平然とプレイしているレディー・Y。それもそのはず。
レミィの推測通り、レディー・Yが琴音を狙い続けるのは、予知能力の無効化を狙ってのこと。
自分の攻撃が全て事前に予知されるのならば、何も隠すことはない。
事前に全て教えてやれば、予知能力の存在自体の意味がなくなる。
それにそうすることによって、逆に琴音の動きを自分がコントロールでき、読むことさえ可能。
単純なテニスの腕だけでいえば、琴音のそれはレディに及ぶものではない。
レディが少し球の回転などに細工をしてやるだけで、逆に琴音を自在に操れる。
そう、一対一のラリー勝負へ持ち込むこと、さえも。
「ゲーム!  XY−MEN、レディ組、6−5!」
予知能力はあくまで行動を予知する≠烽フであり人の心を読めるもの≠ナはない。
レディの行動は予測できても、その腹の内までは予測できなかった琴音。一転して大ピンチ。

「さて………これで終わってもらいます」
琴音からのサーブをレディ、再び軽く琴音に返す必勝ラリーに持ち込みにかかる――



「そうはいくかぁっ!」
パアアアンッ!
ものすごい気迫と共に返ってきたボールが、レディの足元をも抜き去る。




「……東西さん……」
「琴音ちゃん、ここは僕に任せて下さい……」
「でも……」
「大丈夫です。きっとなんとかしてみせますから……」
無言で相手を睨みつけ、ラケットを構える東西。
(そう、タイブレークにまで持ち込めば、まだこっちにも勝機がある。
ここまで頑張ってくれた琴音ちゃんのためにも……絶対に負けられない!!)」

「っしゃあ!  なら俺が相手になってやらあ!!」
東西の気迫に触発されるかのように、前に立ちはだかるXY−MEN。
「さて始めようかい!  決着をつけになあ!!」
ッパアアンッ!
決着をつけるべく咆えながら放たれたXY−MENのサーブは、唸りを上げて東西を襲う!
「くうっ!」
バシイッ!
その豪球を辛くも返すが、二重三重のXY−MENの猛攻が立て続けに襲いかかる!
「あああああ!!」
それでもその波状攻撃を耐え続ける東西。
豪腕を誇ってるわけでもない、外見上ひ弱な部類にしか取られない彼が、
何故にL学屈指の豪腕・XY−MENの猛攻にここまで耐えることができるのか……

「なめてんじゃねえぜ!  剣道部の東西の実力をよ!!」
「……よっしー先輩?」
「どこから出てきたんですか、貴方は」
琴音の応援の為観客席から観戦していた松原葵とT-star-reverseの間に
割り込むように歓声をぶつけるのは、誰あろう剣道部の先輩、YOSSYFLAME。
「あれでも日々ガーネットやティリアの重撃を毎日食らい続けてる男だぜ、あいつは!
手首の強さとしなやかさは相当なもの!  そんな力任せの攻撃なんぞに屈するかっての!」
同じ部の後輩の奮迅ぶりに痺れたか、普段より一層ハイテンションなYOSSY。
「それは、どうかな?」
「なに?」
そんなYOSSYに反論するは、オカルト研究会・神無月りーず。
「彼の豪腕が力任せだなんて………剣を少しでもかじってる人間の言葉とも思えませんね。
ちょっとやそっとのリストの強さくらいじゃ、あの豪腕は止められませんよ……」
「神無月、テメェ……」
背後で皮肉ぶった笑みを浮かべるりーずを睨み付けるYOSSY。
「よ、よっしー先輩、落ち着いてください……」
「あ………」
「ん?」
「え?」
仲裁に入ろうとする葵の声を妨げるかのようなティーの呟き、
何事かとコートに目を移すYOSSYとりーずの目に映ったものは……



「ゲーム!  東西、姫川組、6−6!  タイブレーク!!」

「ば……馬鹿な……」
「だろ?  だから言ったじゃん、あいつをナメんなって!
剣道部で鍛えられた手首の強さとしなやかさ。柔と剛の融合は、そう簡単には倒せないぜ?」
「んー、でも本当の原因は、単純な物理的原因じゃないと思うわよ?」
勝手な盛り上がりを見せる観客席に、さらにもう一人闖入者が。
「勇希先生?」
「どうも、こんにちは。
それで、東西くんの大活躍の原因は、きっと琴音ちゃんへの想いが起因してるのよ。
あれだけ頑張ってくれた彼女に報いたい。絶対に一緒に決勝トーナメントに行きたい、ってね。
ね?  OLHくん?」
「……うるせえやい」
何故か面白くなさそうな表情でそっぽを向いているOLHに笑いかける勇希。
そんな光景がYOSSYには妙に面白そうに映っていたり。
そして、勇希の言葉の真意。それもなんとなくだがわかるような気がしていた。

「パートナーへの想い。これ無しではタッグという闘いには勝つことはできん」
「英志さん……」
「XY−MENには、今はまだそれほどパートナーへの思い入れは少ない。
姫川の想いをも背負って立つ東西には、今のままでは苦戦もやむなしといったところか……」
「じゃあ……」
XY−MENに助言でも、と言おうとした楓の一言を遮る西山。
「これは俺が喝を入れてどうなるものでもない。
もしそれに最後まで気づかずに負けてしまうのであれば………」
一瞬躊躇いを見せるが、次の瞬間既に平常に戻り、
「それまでの男だったということだな……」



「琴音ちゃんのために、僕自身のために………この試合、絶対に勝つ!!」
タイブレークに入っても、東西の勢いは止まる様子を見せない。
豪球を次々と放つXY−MENに対し、それをことごとく受け返す東西。
勇希の言う通り、剣道部で鍛えた手首の強さだけでは、
決して力任せではないXY−MENの豪球を受け返すことなど、できなかったであろう。
今の東西を支えるもの。
意識朦朧になりながら、それでも勝つ為に立ち上がった。勝ちたいと最後まで願った琴音。
そんな彼女の想いを無駄にしない為。その為に東西は奮戦する。
「くっ……!」
その東西に終始押されてるXY−MEN。
無論彼にも勝たなくてはならない理由はある。
しかしその想いすらも、今の東西と、そして琴音。二人の勢いに圧されつつある。

「イン!  東西組、6−3!」
「あと1球!  あと1球!  あと1球!  あと1球!」
あと1球≠フコールがコート一杯に響き渡る。
そんな中、XY−MENは必死に打開策を考えていたが、それも徒労に終わる。
「(確かに東西の想いは認める。東西と姫川の二人の想い、その重さは認めるさ。
けどな………俺だって、ハイそうですか、って負けるわけにはいかねえんだよ。
見てやがれ………絶対に引っくり返してやらあっ!!)」

「よく頑張ってくれました、XY−MENさん」
「って、待てよレディ!  俺はまだ諦めてねえぞ!  勝手に諦めてんじゃねえ!!」
突然の労いの言葉の裏に敗北宣言を感じ、憤るXY−MEN。
「貴方のおかげでここまでこれました。あとは私に任せてください」
「え?  あ?」
と思ったらなにか違う。そんなレディの言葉に戸惑う。
「勝利への伏線は引き終わりました。この試合、いただきます」

「今度は篠塚……いえ、レディ選手自ら出てきますか?
しかしですね、例えレディ選手でも、そうやすやすと負けるわけにはいかないんです……!」
ついにXY−MENを一線から引きずり降ろした東西。ますます気迫に拍車がかかる。
「東西さん」
「……………」
「申し訳ありません。勝たせて頂きます」
そう宣告し放ったレディのショットはなんと、蝿が止まりそうな超スローボール。
「ば、馬鹿にしてるんですかあなたはっ!
いくらなんでもこんな球、打ち返せないはずがないでしょう!」
愚弄しているとしか思えないレディのボールを砕かんとばかりに、大きく大きく振りかぶる!
「では打ち返してみて下さい。――今の貴方にできるものなら」










「ゲーーーーーーーーームっ!  アンド、マッチウォンバイ……
XY−MEN、レディー・Y組!  ゲームポイント7−6!  タイブレークポイント8−6!!」

『ぎゃ、逆転!  圧巻の逆転勝ちですっ!  なんと最後は東西選手の大自滅!』
実況の緒方理奈も驚きを隠せない。
勝利を決めたレディの最後の4ポイントは、全て東西のアウトポイントだったのであるから。



「ぐ………ううっ………」
「東西さん、東西さんっ!!」
自分らの敗北が宣告された途端、蹲り痙攣した腕を押さえる東西。
慌てて琴音やYOSSY達知り会いもコートに降りて様子を伺う。
「攣ってるわね……」
保険医の相田響子が腕を見て呟く。
「あれほどのラリーをずっと続けてきたんだから、こうなるのも無理ないわ……」
「東西さん……」
心配そうな眼差しを東西に向ける琴音。そんな琴音から何故か目を逸らす東西。
「東西さん……?」
「……すみません、琴音ちゃん。君の想いを全て無駄にしてしまって………」
「とう、ざいさん……?」
「なんでっ……なんでこの腕が最後まで持たなかったんだっ……!
琴音ちゃんの精一杯の努力を無駄にしないと、そう思ってやってきたつもりだったのに……」
悔しそうに歪む表情。やるせない悔しさを隠そうともせず。
「所詮………僕の想いなんて、この程度だったのでしょうか……」



パンッ!



「え……?」
あまりにも唐突すぎて、誰もが何が起こったのかわからなかった。
東西の頬に一瞬、軽い電撃が走ったかのような衝撃。
「琴音、ちゃん……?」
「なんで……」
大きく見開いたその瞳からは、瞬く内に大粒の涙がぽろぽろと。
「なんで……そんなこというんですかっ……」
鳴咽交じりの声を振り絞りながら、それでも涙を拭おうともせずに東西を睨む琴音。
「あんなにがんばってくれたじゃないですかっ……!  そんな程度なんかじゃないです……っ!」
「琴音ちゃん……」
「だから……だからっ……!  そんなこと、言って欲しくない、です……っ!」
そこまで言いきったところで耐え切れず、両手を覆って鳴咽する琴音。
「――姫川さんの言う通りですよ」

「篠塚先生!?」
あまりに意外なところからの声の主に、皆驚き振り向く。
「……私は仮面のテニス美女、レディー・Yです」
リアクションが気に入らなかったのか、少々不機嫌そうに訂正するレディ。
「あれだけXY−MENさんの豪球をマトモに受け続けていたら、普通はああなって当然です。
すっかり豪球慣れしてしまった東西さんの腕は、私の柔の球についていけなかった。
それらも含めた私の伏線通りに試合が決着した。ただそれだけのことです。

――決して、貴方の想いが弱かったからなんてことはありません」




「随分親切じゃねえか。ちゃんとフォローしてやるとはな」
「……ほんの気まぐれです」
XY−MENと共に会場を去るレディ。
その彼女の面差しは、いつもの彼女に戻っていた。
「……まあ、それなりに楽しめましたから、お礼の意味も兼ねてです」
「ふーん…………実は意外に優しかった鉄面皮の篠塚先生ってのも、結構面白えけどな」
「ああ、そうそう」
ピタリとレディの足が止まる。
「決勝トーナメント進出も決まったことですし、じっくり反省会でもやりましょうか」
「は……反省会、ですか……」
「ええ。貴方を優勝させることが私に課せられた使命ですから」
ニコリともせず断言するレディ。
そんな彼女を見て、つくづくXY−MENは思うのだ。
「(これじゃ保護本能なんざ起こるわけねえよ………東西が羨ましい……)」

「言い忘れましたが、既に決勝トーナメント用の特訓メニューは完成してますから。
明日から一週間、それはもうビシビシと行いますので、XY−MENさん」
「しくしくしく………」






      XY−MEN×レディー・Y組――決勝トーナメント第3ブロック代表決定!
















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こんにちは、YOSSYFLAMEです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:そして、第3ブロック覇者も決定!
ゆかり:うふふふふ。
よっし:なんだよ気味悪い。
ゆかり:だって、これで風紀関係2チームが決勝トーナメントに進出したのよ!
        こんなにめでたいことはないわっ!
よっし:……ま、確かに2チーム進出だよな。
        レミィが暗躍の息がかかってたり、
        XY−MENさんのパートナーのレディー・Yがまんまダーク13使徒だったり、
        一体どこの所属なんだかわからん2チームではあるけどな。
ゆかり:うるさいわね!  風紀委員が入ってれば所属チームでいいの!
よっし:(いーのかそれで……)
ゆかり:で、今作のコンセプトは?
よっし:書ききれません。
        琴音ちゃんや東西さん、XY−MENさんやレディーY。
        あなたが感じてくれたそこが、あなたにとってのコンセプトなのです……
ゆかり:素直にまとめきれませんってどうして言えないのか……
よっし:うるさいな。
ゆかり:で、次回は?
よっし:血で血を洗う柏木姉妹対決!  そして工作部vs科学部の意地と誇りを賭けた一戦!
        第4ブロック代表決定戦!  菅生誠治、柏木梓組 vs ジン・ジャザム、柏木千鶴組!
ゆかり:ただではすまぬこの試合、楽しみにして下さると幸いです!!