「嘘だろ……」 男子生徒が絶望の呟きを漏らす。 最強だと誰もが信じて疑わなかった、 リーフ学園の英雄だと、誰もがそう思っていた、 その、ジン・ジャザムが、誰とも知らない男の手によって、 完膚なきまでに打倒されたのである。 「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 誰からともなく、悪夢を振り払らわんと絶叫が響いた。 「嘘じゃねえさ」 その元凶≠ェ、不遜にも口を開いた。 「ま、学園最強という肩書きは伊達じゃなかったわ。 そうだな、この俺にして実力の7割くらい出さなきゃ、ちっとは危なかったかな?」 「7割だと……?」 あまりに傍若無人な数字に、周囲が絶望と怒りに染まる。 「ただ、ジン先輩の戦闘能力を2割以下に押さえることが出来れば、の話だけどね。 ジン先輩の2割と俺の7割だったら、いくらなんでもねえ…」 倒れているジンに一瞥もくれずに、周囲に聞こえるような澄んだ声で、淡々と話し続けるYOSSY。 「結局、俺の潰し方ってのは、いかに敵の力を出させないまま終わらせるか、ってことだからさ」 「調子に乗るのは結構だが、ここまでだYOSSYFLAME。 我々風紀委員会生徒指導部が、貴様を傷害の現行犯で連行する」 そう言った刹那、YOSSYの周りを数十人の指導部員が包囲する。 「……興ざめだな、ディルクセン先輩。」 いかにも面白くなさそうな顔で、生徒指導部部長・ディルクセンを睨み付けるYOSSY。 だが、その眼光にも彼は怯む様子はない。 「ジン・ジャザムとの決闘を傷害と認知する気はないさ。ここでは日常茶飯事だからな。 だがなぁ、故意に一般生徒を巻き込むとは……、ヘタやったな、YOSSYFLAME」 そう言っている間にも包囲網を縮めて行く指導部員ら。 「結局、貴様等がいかに蛮勇を振るったところで、最後に残るのは秩序と規範なんだよ。 そこから外れるものは、必然的に弾かれるんだよ。……捕らえろ」 その言葉を合図に、一斉にかかって行く指導部員達。 「(……あーあ、さすがにこの人数じゃなあ……)」 「……待てよ」 「……お、おいっ!」 一人の生徒が驚嘆の声をあげる。 その驚嘆の波動は、凄まじいスピードでグラウンド中全ての人間に伝播する。 「……何?」 一言だけ言葉を漏らし、驚きを隠せないYOSSY。 いかにあの男とて、あそこまで周到に追いつめて、そして狩って。 どう考えても立つことすら不可能なはずなのに。 「……そいつは俺が殺す。関係ないのは引っ込んでろ」 咆えたわけではない。 が、それは、強大な圧力と化し、指導部員を圧倒した。 「か、関係ないことはない! わ、我ら生徒指導部は……」 脅えながらも必死に踏みとどまらんとする指導部員を、 しかしながら制止するように目の前に立ちふさがる影。 「フン、満身創痍だな、ジン・ジャザム」 「ディルクセン、二度目はないぞ。関係ないのは引っ込んでろ」 数瞬の間、睨み合うジンとディルクセン。 「……いいだろう。とりあえず包囲を解いてやれ。」 「部長!?」 意外なほどあっさり引いたディルクセンの対応に、驚きを隠せない指導部員達。 「(フン。ここで無闇に抵抗しても、ジンに蹂躪され、生徒には舐められるだけだ。 この茶番を期待してる生徒の流れに無闇に反しても始まらぬ。 むしろ、漁夫の利を狙ったほうが……な)」 眼鏡の奥の眼光も鋭く、戦略的撤退をディルクセンは選んだ。 「……しっかし、往生際が悪いな、ジン先輩」 再びジンに相対するYOSSY。その眼はすでに戦闘形態に切り替わってることを示すように光る。 「期待してる奴等には悪いが、瞬殺させてもらうぜ!」 吼えるとともに、YOSSYの姿が掻き消えた! 必殺パラノイア・リミックスが再びジンに襲いかかる! 「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」 バキャァッ! 「……がぁ…っ!?」 強烈な攻撃を食らい吹き飛ぶ一つの影、YOSSYFLAME。 「……パラノイアリミックスに、反応した…だと!?」 信じられぬとばかりのYOSSY。 「ケ! まぐれに決まってら! この状態で、このパラリミックスに反応なんざ出来る訳が――」 ぐしゃぁぁっ! 「ぐあぁぁぁぁっ!」 ジンのストレートパンチをカウンター気味に叩き込まれ、もろくも吹き飛ぶYOSSY。 「(……どうやら、目を覚ましちゃったみたいかな? さっきよりずっと戦闘カンが冴えて来てる)」 ――だが! 再びパラノイアリミックスを仕掛けるYOSSY。 「(折られた右腕に回り込めば、このスピードに手のうちようはあるま……なにぃぃっ!?)」 「おおおおおおおおおおおおおあああああああああああぁぁぁぁぁ!!」 バキャァァァァァッ! 「か……はぁっ…!」 『ああぁぁぁーーーっ! ジン選手、 折れた右腕でYOSSY選手に強烈な一撃をくらわせたぁぁぁぁっ!』 ジンの強烈無比の攻撃に沸き立つ観衆。 「………無茶苦茶だ、テメェ…っ!」 地に這いつくばったまま呪詛をあげるしかできないYOSSY。 信じられないものを見るかのように見上げるYOSSYの視線に入ったもの。 「うおりゃぁ!」 ごきぃっ! 観客の間からも、痛さを想像し小さい悲鳴を上げる生徒もいた。 当然であろう。なんとジンは、折れた右腕を無理矢理付け直したのであるから。 いや、実際は折れていたのではなく肘関節が外れていただけなのだろう。 それにしても、外れた肘関節を自力で付け直すとは、やはり並の精神力ではない。 「立てよ」 ジンの気迫に圧倒されていたYOSSYに挑発をしかける。 「くっ……」 さっきまでの余裕に満ちた態度はどこへやら、ふらふらと立ち上がるYOSSYに、 「かかってこいよ、テメェが何をやろうが、今更俺には通用しねえ」 ジンが静かに圧力をかける。 「上等だ。……テメェのその甘っちょろいところが弱点だって、未だに気づかないのかぁ!?」 弾かれたようにジンの目の前から掻き消えるYOSSY。 「そんなに嬲り殺しがお望みならやってやるぜ…… 喰らえ! 必殺 パラノイアリミックス・マキシマム=I!」 ダンッ! ダンッッ! ダンッッッッッ! グラウンドに跳ね上がる無数の土煙。 観客の大部分がその姿を確認することすらできない。それほどの高速かつ変幻自在の速さ! しかしながら、ジンは一歩たりとも動くことをしない。 ただその場に仁王立ちをするのみ。 無限の気迫を絶え間なく放出させながら。 「ジン……」 リーフ学園ではない、どこかの学校のグラウンド。 そこに寝転がる一人の男がいた。 身体中傷だらけの満身創痍で。 「ジン……、結局お前は今のままでいいんだ。 大切なものを手に入れたことでついた守る力。それが、今のお前の力なんだから……」 今日は学校は休みなのだろうか。 全然人気のないグラウンドで、その男、セリスは一人呟いた。 「気持ちのいい風だな……、もう少し寝てるとするか……」 ダンッ! ダンッッ! ダンッッッッッ! ますますスピードが乗ってきた、必殺パラノイアリミックス・マキシマム。 その包囲も段々狭まってきた。 しかしながらジンは一歩も動く気配はない。 仁王立ちのまま、ただ気迫を漲らせるだけ。 その周りを紫電のように疾走するYOSSY。 刻一刻と迫る、仕留めの時に向かい、ただただ駆け続ける。 しかし、それも終焉が近づいてきた。 目標は定めた! 狙いは―― 「喰らいやがえええええええぇぇっ!」 ――ドンッッッ! 必殺・修羅旋風刺突がジンに襲いかかる。 まさに疾風のようなスピードで。 「この攻撃、かわせるものならかわしてみぃやぁっ!」 ジンの背後には柏木4姉妹の姿がある。 下手にかわして誤爆させたりしたら……? 下手に迎え撃って、その勢いで背後に誤爆したら……? しかし、その逡巡こそがまさしくYOSSYの狙い。 一瞬とはいえその迷いほど、敵にしてみれば絶好の好機! グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! しかし、今のジン・ジャザムには、僅かの迷いもなかった。 一瞬。 ほんの一瞬で閃光は切り裂かれた。 疾風の凶刃は、一瞬で掻き消された。 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 観衆が震撼した。 ジンのカウンターパンチが、完璧にYOSSYFLAMEを捕らえ、撃ち砕いたのである。 あの一瞬。 一つのミスも許されなかったあの状況で、完璧にカウンターを叩き込んだジン。 漲る闘志を完璧にコントロールし、全ての熱を右腕に溜め、 一気に放った右正拳が、凶刃を弾き返した。 「………っ………っ……」 自らの最大の必殺技を破られ、返り討ちにあい、鋒鋩の体のYOSSYFLAME。 必死で立とうとしているものの、立とうと心が命ずるものの、 致命的とも言える一撃を食らい、体が言うことを聞きやしない。 「………くっそ……が…っ…!」 痙攣する両脚を精神で鼓舞し、満身創痍で立ち上がるYOSSY。 もはや完全に形勢逆転。 片や闘気充満状態で完全復活。片や自身の技すら破れ、支えるものさえない状態。 「来いよ」 全身が思い通りに機能すらしないYOSSYに対し、ジンが挑発する。 「そう言えば、前ん時は俺の弱点とやらを綿々と語ってくれたよな。 かかって来いよ。今度はテメェの弱点を教えてやる」 余裕たっぷりで仁王立ちのジン。不敵な表情で繰り出す挑発に、観衆も沸きに湧いている。 「どうした? ……まさか怖いとかじゃないよなぁ?」 「……くっ…!」 体中をガクガクと震わせながら、それでも眼だけは死んでいない。 「……上等だぁ! 教えてもらおうじゃねえかぁぁっ!」 吼えると同時に襲いかかるYOSSY! 「ずあぁっ!」 得意の面を撃ちかまそうとするが、その前にジンの足払いをくらいよろけるYOSSY。 その隙を見逃さず追撃に出るジンの肩に木刀を当て、動きを止めようとするが、 「小賢しい!」 そんなものでジンを止められるわけはない! あっという間にマウントポジションをとられるYOSSY! 「おおおオラオラぁ!」 拳の弾幕がYOSSYに連続ヒット! しかし! 「……そんな馬鹿の一つ覚えのマウントパンチが通用するか!」 上体を僅かに起き上がらせたYOSSYの右手がジンの髪をしっかと掴み、そして、 「らあぁっっ!」 ジンの顔面に頭突きをくらわせる! 「もひとつホラ!」 追撃の蹴りがジンの顔面にヒット! その隙をついてマウントポジションから離れ、距離をとるYOSSY。が、 「おおおお!」 そうはさせまいとジンも追走する! 「あぁっ!」 「梓?」 「ジンの奴、ゴーグルが外れてる!」 「!」 「(これを待ってた!)」 YOSSYの思惑通り突進してくるジン・ジャザム! ゴーグルを外したのも計算通り! 猪突猛進の如く突っ込んでくるジンに対するはこの一手のみ! 「悪いなジン先輩! その光いただくぜ!」 必殺の二本貫手がジンの瞳孔目がけて突き刺さる!! 「ジンくんっ!!」 千鶴の悲鳴ももはや届かず―― YOSSYの二本貫手から繰り出される指が、ジンの瞳孔をえぐりとった。 「!!」 かに見えた一瞬前。ジンの右正拳が再びYOSSYを吹き飛ばしていた。 「……テメェの弱点を教えてやるよ」 吹き飛ばされそのダメージは尋常ではなく、呻き声しか出せないYOSSYに言い放つ。 「千鶴さん達を巻き添えにするだと? 俺の目を潰すだと? ――出来もしねぇコトを、さも出来るように見せかけるんじゃねぇよ」 「……な…っ!」 「気づけばなんてことはねぇ。わかったんだよ。テメェの正体はただの小心者……」 「な、んだと……」 「勝ちに対する執念だと?笑わせるぜ。結局テメェは何も奪えねぇ臆病者なんだってなぁ!」 「ナメンなこの野郎ぉぁっ!」 ここまで言われて黙ってるわけはない。ダメージも忘れ、逆上して殴り掛かるYOSSY。 しかしながら迎撃もせず後方に下がって、攻撃を捌きに回るジン。 「うおあああああああああああ!!」 まるで何かに憑かれたようにめくらめっぽうな攻撃を続けるYOSSY。 その攻撃を難なく捌きながら、後方に待避するジン。 「何逃げてやがんだ! とっととかかってこいこの野郎ぁ!」 吼えるというより叫びながら喧嘩刀を大きく振りかぶるYOSSY! その瞬間、ジンが大きく左に移動し攻撃を回避! その時YOSSYの眼前に見えたもの、 「(千鶴さん――!)」 バキャアアアアアァァッ! 一瞬後、派手に吹き飛ばされるYOSSY。 造作もないジンの大振りパンチをモロに食らってしまう。 柏木4姉妹の存在でジンに精神的威圧を与えていたYOSSYが、 逆に彼女らの存在に動揺させられている。 なおもジンの猛攻は続く。 ジンの繰り出す全ての攻撃をガードすることすら出来ず、ただただ殴られ続けるYOSSY。 「……いやはや、幻術もペテンも根本は同じ。 敵の”虚”をつくことが何よりも肝要なのですが……」 厳しい目で戦況を見ている、薔薇部のギャラ。 「よっしーさんの手ぬるさが致命的になりましたね。もはやジンさんに彼の策は通じない……」 あの一瞬、ギャラは確かにそれを見、そしてこの勝負に見切りをつけた。 ジンの瞳孔をえぐるべく放たれた二本の指。 ジンの突きより先に届くはずだったその指が、何故か後ろに引かれたのを。 それを見越していたかのように、一瞬の躊躇なくYOSSYを殴り飛ばしたジンの拳を。 そして、今までのYOSSYの行為が全て、最初からただの恫喝に過ぎなかったことを。 「……ネタがばれた手品には、一銭の価値すらなくなるんですよ」 「おぉらぁ!」 バキィッ! ジンのコンビネーションブローを全弾余すところなく食らい、倒れ伏すYOSSY。 そのいでたちは、まるでボロ雑巾のよう。 「……て…テメェ……いい気になってんじゃねえっ!」 それでも鋒鋩の体で反撃に出ようとするが、 ぐきいっ! 「……な!?」 体すら自由に動かない。 パラノイアリミックスを打ち出そうとするも、発動の気配すら見せない。 「……まさか、タイムリミット…っ…?」 バキャッ! 逡巡の間に繰り出されたジンの攻撃をまともに食らうYOSSY。 そして、倒れ伏すYOSSYにまたも無情に言い放つ。 「どうやらガス欠のようだな。これがテメェの弱点その2にして、致命的な差なんだよ。 確かに俺もオーバーヒートするかもしれないが、 マトモに闘った場合、テメェのほうが遥かに息切れしやすい。 そんなことにすら気づかなかったのか、貴様?」 「……く…っ…!」 当然の話である。 前回の闘いでジンがオーバーヒートという憂き目に遭ったのは、 絶対的に流れがYOSSYに傾いていたから。 余程のYOSSYペースで展開したとしても、それでもジンのスタミナの方が遥かに上なのである。 おまけにパラノイアリミックス、さらにはマキシマムの乱発で、芯から既にボロボロの状態。 「ちょっとはてこずったが、これで終わりだ!」 バキィ…………ッ! まるで風に飛ばされる道端のゴミのように、YOSSYFLAMEは吹き飛ばされ倒れた。 その瞬間、観衆から大歓声がまきおこった。 しかし、ジンは勝ち誇らない。 目の前に倒れている男が、再び立ち上がってくるかのように。 狸寝入りとばかりに、再び牙を剥いてくると確信しているかのように。 「……クク…ッ、後ろを向いて勝ち呆けてたが最後、 致命傷を与えてやろうと思ったん…だがな…っ…」 そして、立ち上がる。 吼えた言葉とは裏腹に、その体は既に限界を越えていた。 しかし、満身創痍の体を必死に鼓舞し、敵、すなわちジン・ジャザムに斬りかかるYOSSY。 滅多撃ち。 既に特異能力・超機動は発動せず、 ただの肉体で、格闘部と剣道部で身につけたその技のみで斬りかかる。 精神力のみで動いている肉体は、なかなか思い通りに動いてくれない。 ボロボロの攻撃は全て捌かれ、弾かれ、見切られ、そして、 拳の弾幕を食らう。 強烈無比の蹴りを食らう。 躱す術はおろか受ける術もなく、ただくらい続ける。 何度も何度も倒され、何度も何度も泥を噛む。 そして、何故か立ち上がる。 腫れ上がった瞼の奥の眼は、焦点が定まっているのかどうかも疑わしい。 すでに自慢の悪態すら、血塗れの口からは発せられない。 落ちた木刀を無言で拾い、斬りかかる。 傷だらけの体で、ほとんど全ての技が封じられ、ほとんど全ての技が発動せず、 その体すら言うことをきかない。 そして、斬りかかり、倒される。 倒されるたび、観衆からの野次が飛ぶ。 起き上がるたび、立ち上がるたび、更なる手ひどい野次が飛ぶ。 しかし、そんな口汚ない野次の数々も、この男の耳に入っているのかどうか。 そして、また、YOSSYFLAMEは立ち上がる―― 「いい加減くたばりやがれぇ!!」 バキィィッ! ドシャァッ! 「…………………」 ぐぐっ… 血に染まり、青く腫れ、泥に塗れた右腕を震わせ、上体を起こし、 思う様に固定しない膝で、幽鬼のように、再び立ち上がる。 「時間の無駄なんだコラァ!」 「さっさと帰れバァカ!!」 「とっととくたばっちまえ!」 剣道部で習得した突きが、何の苦もなく弾かれる。 格闘部で会得した蹴りと突きの上下のコンビネーションが、最初の下段蹴りすらまともに入らない。 しかし、今度は倒れない。 鉄拳の弾幕がマトモに入っても。 繰り出される超常級の蹴りを、受けることすら出来なくても。 足だけが地に付いたように動かない。 意識があるのかも疑わしい状態。 しかし、倒れることなく、ほとんど攻撃になってない攻撃を放ち続ける。 「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 ジンの咆哮とともに、烈弾のような攻撃の嵐が飛び交う。 その全弾を、ただただくらい続ける。 そして、もう何度目になるだろう、地面に叩き付けられるように倒れる姿。 傍目から見て余りに見苦しいこの闘い。 とっくについてる決着を、なおも惨めに引き伸ばしてるこの男に対する野次が最高潮に達したとき、 「……かかり…やがったな」 「――ぐあああっ!?」 突然血飛沫を顔面に浴びせ掛けられ、思わず顔面を押さえるジン。 切れまくり血で染まった口から肉片と共に血飛沫を、ゴーグル無しのジンの眼目掛けて吹き付ける。 圧倒的劣勢の今のYOSSYからのあまりに意外な攻撃に、さすがのジンも対応できず。 しかし、YOSSYの本来の目的はそれに加え―― 「……運が、悪かったな…………ジン先輩!」 ドボオオオオンッ! 「なっ!!」 観衆が悲鳴を上げる。 ジンの視界が血飛沫で妨げられたその一瞬、鋒鋩の体のYOSSYの河津掛け。 深き学園中庭の噴水池に、自分もろともジンを叩き落とした。 前回の対決で勝敗が決した、あの因縁の噴水池に。 「いかん!」 柳川の口から尋常ならぬ危惧が漏れる。 「スクリューも前回で壊れている筈だ! このままではジンは浮かんでこれないぞ!!」 「(そーゆー……ことよ)」 河津掛けでジンを払い落とし、首根っこを掴みながら沈んでゆくYOSSY。 「(なんとか噴水池まで誘い込み、そして、一瞬の隙を突いて叩き落とす。 スクリューを前回で破損させているジン先輩には、ここからの脱出は……不可能さ)」 鋼鉄サイボーグのジンにとって、スクリュー無しで泳ぐのは、今のままでは至難の業。 大逆転勝利。YOSSYは強く確信し。 「大丈夫ですよ、柳川先生」 「風見……?」 柳川に、何一つ問題はないとばかりの笑みを向け、そう言い放つのは風見ひなた。 「忘れましたか? 僕らエルクゥ同盟だけが持ちうるアレ≠」 「(……く…っ?)」 勝利への確信を抱き、水上へ脱出しようと首根っこにかかった手を放したYOSSY。 しかしその彼自身の首が、固くジンに掴まれている。 「(は……離しやがれ…っ………っぐ………)」 元々の腕力の差に加え、ただならぬダメージを負っているYOSSYにそれは振り払えない。 「(テメェ、心中か? ……いや、違う……!)」 自分を見据えるジンの眼光の強さに、YOSSYはソレ≠確信した。 「貴様ならわかるよなぁ? エルクゥ同盟だけが持ちうる、勝利の為の燃える力を!!! これで………今度こそ終わりだ!! ――行くぜ! ハイパーモード!!!!!」 瞬間、噴水から無限の金色の光跡が迸った!! グバアアアアアアアアッ!!! 噴水池から物凄い水柱が立ち起こる! 「ジンッ!!」 誰がともなく口にする。金色の光跡のその主を。 YOSSYをガッチリ固め、天空高く舞い上がる金色鬼! 「(……これがハイパーモードなのか……? 聞くと味わうとじゃ雲泥じゃねえか……)」 もがけど離れぬ、傷だらけのYOSSYを捉えるジンの戒め。 いや、例えYOSSYが絶頂時であっても結果はなんら変わるまい。それほどのシロモノ=B 「終わりだ!!!!!」 その咆哮と同時に、己が真下に、鋼鉄の金色鬼は降臨する―― グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!! 「……………………貴様ぁ……」 膝をつきながらながら呪詛の声を上げる男。 その男を嘲笑すら浮かべながら昂然と見下ろす男。 観衆の誰もが、声一つ上げられなかった。 「………ゴキブリよりしぶとい野郎か貴様はぁぁ!!」 ドカッ! 膝をついていた男が起き上がり殴ろうとするが、その前に、見下ろす男の蹴りを食らい倒される。 「………へ、へへ……無理すんなって…… ハイパーモード使用後は全っ然力を出すことができねえってのは、調査済みなんだから…さ。 ………な、ジン先輩?」 木刀を杖代わりにしながら得意そうに講釈をたれるのは、なんと誰あろうYOSSYFLAME。 そのYOSSYに見下ろされ、怨嗟の視線で睨みつけながら歯ぎしりを鳴らずジン・ジャザム。 「もし、本気であんたが俺を殺す気だったら、まず俺の勝ちはなかっただろうけどな」 ジンを見下ろし嘯くYOSSY。その眼の色は、先程までのおちゃらけたものではない。 ジンのハイパーモードにより空高く打ち上げられた時、完全にYOSSYはお手上げだった。 そして、地面に叩き付けるべく、ジンの鋼鉄の体が降下を始める。 脱出絶対不可能の状況にありながらしかし、そんな中でもYOSSYの執念は絶えなかった。 ――たった一瞬でもいい、たった一瞬でもジンの力が少しでも緩んでくれれば。 そのたった一瞬≠ェ訪れた。 皮肉にも、ジンの僅かに残った手心、その優しさが唯一の隙になった。 YOSSYを殺そうとはせず、戦闘不能にさせる方法。 彼を殺さずして両手両脚をへし折るべく、落下中に体勢を入れ替えようとするジン。 その力のベクトルの変化≠、YOSSYは見逃さなかった。 自由だった足を駆使し、その力が緩んだ一瞬、自らの体勢を横向きにして。 木刀を杖代わりにして立つYOSSY。その左腕と左足はグシャグシャに砕けてしまっている。 しかし、足一本さえ残ればよかった。腕一本残れば御の字。 ジンのハイパーモードを前にし、それを凌ぎさえしてしまえば、それでよかった。 「……なんかあんたの情けにつけ込んだようで、悪い、けど…な……」 バキイッ! 起き上がろうとするジンの顔面を、木刀を軸足にして右足で蹴り飛ばし倒す。 そのままジンの体に馬乗りになって、マウントポジションを取り―― 「グ……ゥゥゥゥゥ……」 ジンの首に木刀を押し当て、体重を乗せて押しつぶす! そうはさせじと振り払わんとするジン。しかし、全然力が入らない四肢ではどうにもならない。 次第にジンの顔色が悪くなってゆく。腕も足も、見る見る力が抜けてゆく。 「い……いい加減にしろぉっ!!」 キレる寸前を必死で堪えていたゆき。 YOSSYのあまりの卑劣さとジンの窮状に、ついに我慢の限界を超え、 愛用の獲物・ビームモップを構え、YOSSYに向かい猛然と殴り掛かる! ガシイッ! 「ち、千鶴先生!?」 YOSSYに殴り掛かるべく飛び出したゆきを、身体全体で千鶴が抱き留める。 「なんで止めるんです!離して下さい千鶴先生!!」 血相を変え訴えるゆきに、千鶴は黙って首を振りたくるのみ。 その千鶴の態度が、ますますゆきの怒りを煽る。 「ジンさんを見捨てる気ですか!? これ以上放っておけるわけないでしょう!!」 千鶴に向けられる、ジンを考えたゆえのゆきの怒声。しかし千鶴は彼を放さない。 「プライドとかなんとか言ってる場合じゃない!わからないんですか千鶴さん!!」 千鶴をさん呼びするほど、怒りに我を忘れているゆき。だが、それでも。 そんな千鶴の鉄面皮な態度に、ついにゆきの心が暴走する。 「あなたはジンさんが大切じゃないんですか!? え、千鶴さんっ!!」 ガッ! ズザァァァッ! 千鶴に抱き留められていたゆきの体が引き剥がされて、地面に投げ出される。 「だ、誰……!」 怒りのまま起き上がるゆきの目の前に飛び込む三つの影。 「……秋山先輩、ひなたちゃん、まさたさん……」 ジンと自分の同胞、エルクゥ同盟の三人を見上げるゆき。そして彼らに訴える。 「あ……あなたたちならわかるでしょう! 早くジン先輩を!」 「ゆき!! 千鶴さんを見ろ!!」 ビクッ! 思いがけない秋山の一喝に、思わず身を震わせるゆき。 言われるがまま千鶴に視線を向けたその瞬間、愕然とする。 「千鶴、先生……」 千鶴は、震えていた。 小さく、細かく。 両腕で抱き回した両肩は、いつもとは比較にならぬほど小さく、か細く見える。 それでも。 それでもその瞳は、しっかりと二人の勝負を。 そしてジンを。ジン・ジャザムを、一瞬たりとも見失うまいと瞳を見開き、焼き付けていた。 瞳に溜まった雫を、決して漏らすまいと、落とすまいとしながら。 「YOSSYFLAME……」 「なんだいジン先輩!?」 膝と腕によって自らの首を木刀に押し付け絞められているジン。 そのジンが、敵の名を呼ぶ。 「降参してクイーン・ザ・リズエルの座を譲るってんなら今すぐにでも離してやるが!?」 YOSSYも既に満身創痍を越えた重体だが、勝利を目前にした高揚感がそれを忘れさせる。 しかしそんなYOSSYに、ジンは言い放った。 「テメェは……死んでも、クイーン・ザ・リズエルにはなれんさ………絶対にな………」 「ふーん……この状況でなにを抜かすかなあアンタはぁ!!」 ググッ! 右膝と右腕にさらに力を込め、ジンを窒息させんとすYOSSY。 とうの昔に超機動も技も使えなくなっているYOSSYだが、その殺気と執念。 首を締めつけることくらいしかできなくなっても、例え体中の骨を砕かれたとしても、 その凄まじき執念がある限り、YOSSYFLAMEはYOSSYFLAMEであり続けられる。 しかし、YOSSYがYOSSYであり続けるのと同様、 ジン・ジャザムもまた、何があろうとジン・ジャザムであり続ける。 ジンは感じていた。 自分に投げかけられた、自分に向けられた千鶴の想いが。 ジンを信じている。そんな千鶴の想いが。 ジンの身を引き裂かれるほど痛烈に案じながら、それでもジンを信じて動かず見守る。 そんな千鶴の想いを、ジンは確と受け取った。 ジンが先程YOSSYに言った言葉。 貴様は絶対にクイーン・ザ・リズエルにはなれない=B 決して憎まれ口や何かで、ジンはそんなことを口にしたわけではない。 ジンには理解っている。 クイーン・ザ・リズエルというのは、どういうものであるのかを。 「――今、見せてやる」 「何!?」 「エルクゥ同盟リーダー・クイーン・ザ・リズエル、をなぁ!!!」 「うおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 「……な!!?」 グアアアアアアッ!!! 今までとは比較にならぬ程のジンの力≠ェ、YOSSYを弾き飛ばす! 「な、何ぃっ!?」 驚愕のYOSSY。 弾き飛ばされたそれ自体にも驚いていたが、それ以上に驚くべきことに。 「ハ、ハイパーモードだと!?」 鋼鉄の金色鬼の復活―― しかも、先程のそれよりもその輝きは明るく、そして熱い。 全く力が入らなかった両腕両脚には、漲らんばかりの力の充実。 「そ、そんなことがありえていいのか!?」 YOSSYFLAME唯一の誤算。 ハイパーモード=姫護の力≠ニは、本来柏木家の女子を護る為の力。 エルクゥ同盟員独自の能力増加の一言で片づけられるほど、底の浅いものではないのだ。 彼女らの想いに呼応する限り、その力に限界などない。 千鶴の想いある限り、その力に限界など―― 「――俺は、絶対に負けねえ。千鶴さんがそう願う限り、絶対にな!!!!!」 ドンッッッッッッッ!!!!!!! 今度こそ。 今度こそジンの烈鬼の拳≠ェ、YOSSYFLAMEを完全に沈黙させた。