Lメモ・vsジン・ジャザム「ジャッキング!クイーン・ザ・リズエル・中編」 投稿者:YOSSYFLAME




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前に上げた中編です。m(_)m

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「千鶴姉!  やっぱりどこにもいないよ!」
柏木邸。
梓が息を切らして飛び込むなり、焦りを含んだ声でそう告げた。
「ジンの奴、病院抜け出してどこに行きやがったんだ!?」
「ジンお兄ちゃん、どこ行っちゃったんだろう……」
梓に続いて初音までもが不安げな声をあげる。
「姉さん、もしかして……」
楓の言葉にわずかの間を空けて頷く千鶴。
「どうしたの楓?なにか心当たりでも?」
梓が途端に楓に詰め寄る。
「…多分ジン君は、特訓しに行ったんでしょう。今度こそ確実によっしー君を倒すために」
しかし、その問いに答えたのは楓ではなく千鶴だった。
「梓」
「!……なに?」
「少しばかり留守番していてくれないかしら、今から行くところがあるの」
言うや否や車のキーをとり、玄関に向かう千鶴。
「ジンを捜しにかい?  だったらあたしも!」
「千鶴お姉ちゃん、私も行くよ!」
いても立ってもいられない様子で梓と初音が詰め寄るが、
「いえ、少し違うところに行ってくる。だから、あなたたちは留守番をお願い」
落ち着いた口調だが有無を言わせぬ雰囲気。
絶対についていくと意気盛んだった梓も初音も、不承不承頷く。
「じゃ、お願いね」
そう言って出て行く千鶴。
玄関の戸が閉じられ、次いでエンジン音が響く。

「千鶴姉……」
姉の心中を思い、
「ああくそ!  男ってのはどうしてそんなに身勝手なんだっ!」

「ジン君……」
ただ一言呟き、軽くアクセルを踏む千鶴。
目的地は、試立リーフ学園。







Lメモ・vsジン・ジャザム 「ジャッキング! ”クイーン・ザ・リズエル”(中編)」







――話は少し戻り、決闘翌日、エルクゥ同盟寄合所。

「……あのさあ、そう味も素っ気もない態度をとらなくたって」
「お前がここに足を踏み入れる資格があると思うのか?」
エルクゥ同盟の溜まり場になっている某教室。
とりあえず顔を出しておこうと寄合所に来てみたはいいけれど、
”リネット・エース”ゆきが断固として立ち入りを許可してくれないのである。
普段こそ、それこそ普通の男子生徒よりも気が小さく、与し易いと思われがちのゆきだが、
さすがに自らの尊敬する兄貴分を
あのような卑怯千万の策略で退けた相手、YOSSYFLAMEを許せるはずがなかった。
「だからぁ、勝負に勝ったのは俺だぜ?  勝者が全てを手に入れるのは闘いの論理じゃないのかい?
まあそれは極論としても、正式に賭けをして、それで勝ったんだ。アンタらが何よりの証人だろ?
それを受け入れられないのなら、アンタらこそ正々堂々って概念から外れていると思うが?」
屁理屈千万だが、”ある意味”筋が通っている…かもしれない。
めんどくさそうにそう論じたYOSSY。
だが、
「ジン先輩とお前の約束なんかこの際関係ない。
僕は、”エルクゥ同盟”として、お前だけは迎え入れるわけにはいかない」
「はあ?」
あくまで頑ななゆきに、さすがに呆れ声をもらすYOSSY。
「お前は自分が勝つためだけに、初音ちゃんらを危険に晒した。
守護すべき人を故意に危険に晒すような奴に、エルクゥ同盟員の資格はない!」
叫ぶように吐き捨てるゆき。確かに正論でありもっともである。
「いや、だーかーらー、それには訳が……」
「女の子を人質にして勝とうなんて腰抜けにはエルクゥ同盟なんて名乗って欲しくないね。
勘違いするなよ。よく頭に叩き込んでおけ。
お前はジン先輩に勝ったんじゃない。”勝たせてもらった”ってことをな」
普段には滅多に見せない冷笑を浮かべながら侮辱のセリフを吐き捨てる。

「……ま、否定はできねーな」
そこまで言われてなお笑顔を絶やさないYOSSY。
ただし、さっきまでとはかなり質が違う笑みになってはいるが。
「勝ったんでも勝たせてもらったんでも、この際どーでもいいや。
でも、これだけは言っておくが、アンタらエルクゥ同盟ってのは、
たかだか女の子を人質にされた程度であっさりと勝ちを譲ってくれる集団なんだ?
はっきり言わせてもらうが、そんなんだったら今すぐ解散しな、そんな集団。
悪いけどそんなんじゃとてもダーク13使徒や暗躍生徒会に太刀打ちできるとは思えないしな。
まだDセリオや広瀬の方がいくらか役に立つんじゃねーの?」
「……なに?」
皮肉っていうか、喧嘩を売っているとしか思えないYOSSYのセリフに気色ばむゆき。
「何を怒ってる?  アンタの論理でいくとそうなるって話をしただけだぜ、俺は?」
「…フン、怒ってるだと?
男同士一対一で闘えもしない腰抜けに何を言われたところでか?」

唐突に喧嘩刀を抜き、突きつけるYOSSY。
「どうやら、アンタには何を言っても無駄ってことがなんとなくわかったよ。
俺もねえ、まあ、すんなりってことはないにしても、
言えばわかってくれるかなあって思ってたんだけど、どうやらほとほと甘い観測だったみたいだな」
もう遠慮はない。
思いっきり殺気をぶつけるYOSSYに対して、
ゆきの方も、愛用の武器・ビームモップに気を充満させる。
「僕ははじめからそのつもりだったけど。……ジン先輩の仇、今こそとらせてもらう!!」



「シャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「うりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
互いが強烈に踏み込んだ!  



「お久しぶりの鬼畜ストラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁイクッ!!」
「みゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!??」



ずごしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「か、風見…てめぇ…」
「そ、そんな…ひなたちゃん…」
がくっ。
どちらかというと、ゆきの方が鬼畜ストライクのダメージが大きかったらしく、きゅうとのびている。

すぐ側でのびているゆきと美加香を尻目に、
「で?  お前らも俺と闘るっての?」
頭をさすりながらジト目でYOSSYが見つめたのは、
”キング・オブ・エディフェル”風見ひなたともう一人、
「梓を危険に晒したのは許せん。
だがお前はジンの獲物だ。幸い梓に怪我もなかったことだし、
特別にジンが帰ってくるまで待ってやる」
そう不敵な笑みを浮かべたのは、”ジャック・イン・アズエル”秋山登。
「ただ、今度ジンがやられた時には、俺がお前を叩きのめす。文句はないな」
「…正直アンタとは闘りたくないんすけどねえ…、今回は見逃してはくれないんでしょ?」
「当然だ」
全く、この人は爽やかすぎる。
そう思いながら苦笑して秋山を見つめるYOSSY。

「で、風見、お前は?」
「僕の戦闘思想はある程度知っているでしょう。
やり方はどうあれ、貴方は勝ち、ジン先輩は負けた。それは動かしようもない事実です」
当然だといわんばかりの口調で話す風見。
「ただし、ジン先輩は死んだわけじゃない。
死んでいない以上、あの人は必ず戻ってくる。貴方を倒しにね」
「ま、簡単に予想できるな」
またあのしんどい戦いをしなきゃいけないのかと心中げんなりするYOSSY。
「……それに、よっしーさん、
あなただって本当に”クイーン・ザ・リズエル”を手にしたとは思っていないはずです」
「……美加香ちゃん」
何時の間に気絶から回復したのか、真摯な瞳でYOSSYを見つめる美加香。
「だって、あの勝負のときもそれ以降も、あなたは千鶴さんと顔すら合わせてない。
いえ、合わせられないんです。違いますか?」
「(……痛いところをつくな)」
内心苦笑いをするYOSSY。
自分の闘い方が卑怯だってことは承知の上。後悔はしていない。
だが、
あの時の千鶴の視線。
噴水に沈んだジンのところに、誰よりも先に向かって走っていった彼女。
そんな千鶴がふとこちらに向けた視線。
咎めでもなく怒りでもなく軽蔑でもない。かといって祝福でもなければいたわりでもない。
そう、あれはまるで――

「その辺は俺の問題さ。じゃ、一旦出直すとするわ。
だけど、これだけは言っておくけど、俺は今度もジン先輩に負けるつもりはない。
例え、どんな手を使おうともな」
そう言って風見や美加香、秋山を背にして寄合所を立ち去った。





――そして、学園付属病院。面会謝絶の札がとれて、見舞いに来た梓や楓、初音が見たものは、
窓が破られた、誰もいない病室だった。
慌てた梓たちは、どうしても抜けられない用事があった千鶴に連絡。
千鶴も加え、心当たりを探し回って、それぞれ一旦柏木邸に集まった。
そして、思い立って出ていった千鶴が見つけたジンの心当たりとは――



「知らんな。」
そんな千鶴に対して無愛想に吐き捨てたのは、
「柳川さん、本当に知らないんですか?  貴方ならジン君がどこに行ったのか知ってるはずです」
そう、悪名高き科学部顧問にしてジン・ジャザムの師匠、柳川裕也である。
「知らんと言っているだろう」
すげない柳川。
様々な理由があって、犬猿の仲である二人。
元々無愛想な柳川が、輪をかけて無愛想になっているのもある程度はわかる。
「まあ、復讐のために病院を抜け出したはいいが、どこかその辺でのたれ死んでるんじゃないか?」

パンッ。

柳川の揶揄に思わず手が出た千鶴。
「貴方って人は……!?」
「何をうろたえている?」
激昂する千鶴を、しかしながらそんな彼女を冷たい目で睨み据える柳川。
「貴様は本当にジンのことを理解しているのか?」
「何ですって……?」
「あの男が負けたままのたれ死ぬ男だと、針の先ほどでも思っているのか?」
「………」
冷徹に言ってのける柳川。彼の冷たい気迫に思わず気圧される。
しかしそれは、恐怖とかそんな負の感情じゃない。
おおよそ普段の彼には似つかわしくないものに、千鶴は気圧されていた。
「……俺のところにジンは来ていない。俺が知っているのはそれだけだ」
そう言い捨て、もう柳川は口を開かなかった。
千鶴もまた、何も言わずに出て行く。



”あの男が負けたままのたれ死ぬ男だと、針の先ほどでも思っているのか?”



「……全くだわ」
誰とも無しに呟く。
そう。あのジンに限ってそんなことはありえない。
それをよりによって、あの柳川に再認識させられるとは。
「…まったく」
小さい呟き。
とすると、今、彼にしてやれることは何か。
「ジン君……、ちゃんと帰ってきてね」
夜空に向けて、三たび呟いた。



「……何をやってるかと思ったら、随分原始的な特訓だな、ジン?」
「セリス……か」
「お前がいなくなったと聞いたんでね。ヤマはって来てみたら、当たりだったみたいだな。
で、母校で何をするつもりなんだ?」
尋ねるセリス。
ここは、彼とジンの母校のグラウンド。
ここの中学生が”決闘”などと、
古典的かつ”らしい”ことを日々(でもないが)繰り広げている場所。
そして勿論、当時のジンもセリスもまた。
「昔の闘争心を取り戻す」
「……そうだな。よく僕と闘りあってたもんな。
確かにあのときのお前には、何者を寄せ付けない殺意にも似た闘争心があった。
しかし、それは背負うものが何もなかったときのお前の闘い方だろう。
今のお前にはたくさんの仲間がいる。何も今そんな戦いをしなくても……」
「その仲間を盾に取られ危険に晒したんだ、俺は。……もう甘さはいらねえ。俺は奴を殺す気で闘う」
そう言ったジンの横顔は、セリスですら何回かしか見たことのない。そんな殺気に満ちた顔だった。
そして、そうなったときのジンを止めるのは誰にも出来ないということも。
「わかった。僕も特訓に付き合おう」
「フン、ハンパに首突っ込むと大怪我するぜ?」
「僕を誰だと思っている?  宿敵として、お前があんなのに負けっぱなしでいられたら困るんだよ」
「……上等!」






――そして。

「ふーん……、あの物騒な兵器を直しもせずに来たわけですか」
「てめえ倒すのにそんなもんはいらねえ」
再び対峙する二人。YOSSYFLAMEと、ジン・ジャザム。
場所は学園グラウンド。
巻き添えにされることを恐れた大半の生徒は校舎の中から見物している。
もっとも、恐れてるわけでもなく校舎から見ている生徒も数多くいるが。
グラウンドにいるのはほんの十数名だけ。
「もっと観客がいたほうが盛り上がるんだけどなあ……」
「てめえは客がいなけりゃ闘うことも出来ねえのか?」
ジンの揶揄が飛ぶ。
「ま、確かに客の有無は関係ないすねえ。それに、ここには十分な見届け人もいるし」
そういって傍らに視線を移すYOSSY。
秋山、風見、ゆき、まさたのエルクゥ同盟に加え、柏木4姉妹の姿も。
「今度こそ、アンタに引導を渡してやりますよ、ジン先輩!」
「やれるもんならやってみろやぁ!」



『始め!』



「シャァァァァァァァァァァ!」
ずしゃあっ!
開始早々猛然と突っ込んだYOSSY!  そのまま前蹴りをジンにぶちかます!
しかしそれはフェイント!  目的は土煙による目くらまし!
「悪いな!  先手いただきっ!!」
後方から喧嘩刀一閃!

がしゃ!

「何!?」
そうYOSSYが叫ぶ暇もあろうか、
ジンの強烈な回し蹴りが脇腹にヒット!  よろけるYOSSY!
「アマすぎるんだよテメェはぁぁぁ!」
がしっ!
YOSSYの顔面をアイアンクローのようにかためて、持ち前のパワーで一気に校舎まで押し寄せる!
「くたばれコラァ!」
ぐしゃあぁぁぁぁぁ!
後頭部から校舎壁に強烈に叩き付ける!
「次は殺すと言ったよな!!」
そのままマウントポジションの態勢になるジン。
しかし前と違うのは、
YOSSYの両腕を両足でがっちり踏み付けて悪さが出来ないようにしている点!
「オラァァァァ!」
容赦など寸毫もない拳の弾幕。
「よっしゃあ!  さすがジンさんだ!」
「やっちまえジンさん!」
「そんな奴叩きのめせ!」
圧倒的優勢のジンの戦いに魅せられたのか、それともただ単に恐怖の要素がなくなったからなのか。
生徒達が大挙してグラウンドに下りてくる。
「おらおらおらおらおらぁ!」
なおも続く拳の弾幕。
もう既に止められるものなどいない。

がしっ……
「っ! 何しやがるっ!」
弾幕を止められてすごい剣幕で睨み付けるジン。
だが、その対象を目にして眦が緩む。
「ジン君。君の勝ちよ。だから、もう」
そう言ってジンの右腕を掴んでいる千鶴。
下を見ると、無様に気絶しているYOSSYの姿が。
「……わかったよ、千鶴さん」
一つ息をつき、そしてゆっくり立ち上がる。
そして、その拳を高く突き上げる。



『勝者!  ジン・ジャザム!!』



一度は敗れた英雄がまた一回り強くなって甦った。
リーフ学園の生徒達は、帰って来た英雄を大歓声で迎えたのである。











「…大会でもやってるつもりかテメェは?」

歓声に酔う観客達が見たもの。それは、
勝者であるはずのジンが後ろからYシャツの切れ端らしきもので首を絞められている光景だった。
当然首を絞めているのは、殺意と執念をみなぎらせた男、YOSSYFLAME。
一転、悲鳴と怒号が巻き起こる。
「やめろ!  もう勝負はついただろう!」
ゆきがYOSSYを止めにかかる。
「勝負?  俺が戦闘可能だってのに勝負がつくもつかんもないだろうが」
そう言いつつもなおもジンの首を絞めつづけるYOSSY。
ご丁寧に両足でジンの両腕を固めているので、ジンとしても手のうちようもない。
それでも校舎壁にYOSSYを叩き付けるが、執念の塊、YOSSYは尚も離そうとしない。
が、不意にその戒めを解いた。
解かれたとはいえ、さすがにむせるジン。
そんな彼に間髪入れず金的蹴りをかますYOSSY。
がしっ!
が、さすがに急所におめおめ攻撃を許すほどジンは甘くない。
「この餓鬼がぁぁぁぁぁぁ!!」
間髪入れずYOSSYの顔面に正拳突きを叩き込むジン!
「「何!?」」
しかし、絶妙のタイミングで叩き込まれたはずの正拳が躱された!
「パターン通りなんだよ!!」
そう叫ぶや否や、正拳突きで伸び切ったジンの腕を――



ボキッ!



折った。
「…け!」
一連のコンビネーションが見事に決まったYOSSY。油断せず距離をとる。
その判断は大正解だった。
もし、一瞬でも気を抜いていたら、今空振ったジンの大鉄槌を食らっていただろうから。
「こんなもんで終わると思うな!」
さらにその一瞬後、そう吠えたYOSSYの体が消える。
かつて校内エクストリーム大会でも見せた得意技・パラノイアの発動!



「なあ風見、何故よっしーの奴はあれをかわせたんだ?  
俺が見ても完璧なタイミングだったぞ、あの正拳突きは。
あいつは特別回避力が高いわけじゃないだろう」
「予想してたんですよ、最初から。
首を絞められて、それを解かれたと思ったら今度は金的を狙われる。
それを躱したジン先輩が次はどういう攻撃に移るかをね。
だいたいの人間は危機から脱して反撃に移るとき、十中八九顔面を狙いますからね。
あの男らしからぬ肘関節折りもそう。
正拳突きが来るとわかってさえいれば、それを躱し、
関節の最大の弱点である”腕が伸び切った瞬間”を狙って肘を折ることぐらい、
格闘部に在籍してある程度学んでるあの男なら、たいして難事業でもないですからね」



独特のリズムに乗ってジンを翻弄するYOSSY。
しかし、もちろん本家パラノイアはレッドテイルに破られている。
そんな本家をこの場で馬鹿正直に出すはずもなく、
「リミックスバージョンって訳ですか……」
「そうね。だけど、えげつない闘い方ね……」
厳しい目つきで勝負を見ている坂下好恵にbeakerが一言。
「ただ、戦略としては間違ってはいませんね。……ほら」

beakerの言う通り、
YOSSYは絶えずジンの腕が折れている右へ右へ回り込んで重圧をかける。
敵の弱点を突くのは王道。ジンもそのあたりは承知の上。
だが、この場面でまさかYOSSYが、そこまでやるとは誰が想像できるだろうか。

「いくぜ!  これでも食らいな!」
回り込んだYOSSYの右腕には竜巻の渦が!
「必殺・修羅旋風片手刺突ぃっ!」
ジンの自由の利かない右方向から、強烈な突きをぶっ放すYOSSY!
「くっ!」
パラノイアリミックスで体勢が崩されているジン。
このまま受ければ、少しは厄介なことになってしまうかもしれない。
そう判断し、あえて横に飛びすさった。
勢いあまり、ジンの横を疾風の如く通りすぎて行くYOSSY。
反撃に移ろうとジンが後ろを振り向いたとき――

――鈍い音とともに、男の呻き声が響いた。



「あら?  どうやら誤爆しちまったようだな?」
YOSSYの足元に呻きながら転がっている観衆の男子生徒。
丁度ジンの背後にいたこの男は、不運にもYOSSYの突きを腹にくらい悶絶している。
いや、不運と言う言い方は間違っていると考えるのが正解だろう。
何故なら――

「ま、大口開けて人を野次ってるから、そーゆー目に合うんだよ、な!」
ぐしゃっ!
「おごおっ……!」
転がっている男の腹を思い切り踏んづけるYOSSY。
その相貌は、醜く暗く歪んだ笑みに満ちていた。
「かわいそうに、ジン先輩がよけなかったらこんな目には合わなかったんだろうにねえ〜」
口元を歪めてなおも男の腹を踏みにじるYOSSY。
怨むならジン先輩を恨みなとばかりに、その視線は、YOSSYを見据えるジンに向けられている。
あまりにも凄惨な光景に、観衆の大部分も声もなく、表情を強張らせている。
「「(……野郎!)」」
もちろん一部のSS使い達が、この凶行を手をこまねいて見ている訳もなく、
幾人かが飛び出してゆくが、

「引っ込んでろ!!」

「「ジン先輩…」」
「この野郎は俺が必ずぶっ殺す!  テメェらの出る幕じゃねぇ!!」
さすがの風格である。
ジンの一喝で、飛び出したSS使いは引き下がっていった。



「へえ……、さすがの迫力ってところじゃないの?」
「!」
YOSSYの嘲りの声が、ジンの耳に入ってきたのはその直後。真後ろから。
ガシンッ!
同時に、喧嘩刀の一撃がジンの後頭部に炸裂する!
「っだらあ!」
ジンのバックブローがYOSSYを襲うが、その寸前に回避!
「はぁぁぁぁっ!」
そして再び、パラノイアマックス・リミックスの発動!



「ジンサン、やばいデスネエ……」
「ますたぁ?  どうして?」
「マア、見ててくださいナ。」
”やばい”その言葉に疑問を持つデコイの問いに答えるかのように、指を差すTaS。
TaSの差した指の向こうでは、ジンとYOSSYが激しく闘っている。
ジンの方も、さすがの格闘センスというべきか、パラノイアリミックスに徐々に食いついて来ている。
ジンの鉄拳がYOSSYを吹き飛ばすたびに、観衆から大歓声が巻き起こる。
「…で?  ジン先輩優勢じゃないか?」
「ノンノンノンッ♪  ヨク御覧になってくださいナ。」
TaSの言葉に疑問を感じながらも、再び決闘に目をやるデコイ。
「…な…っ!?」
「気がついたヨウですネ?」
驚愕するデコイ。
「…ジン先輩の攻撃が………、一発もマトモに入ってない……」
「デス。
よっしーサンは、攻撃を食らう際に、身体全体で思いっきり”自ら”弾き飛ばされてるんデス」
TaSの言う通り、ジンの強烈な攻撃が決まると同時に、柳のように吹き飛んでいる。
「でも、見切ってるようには見えない。明らかにマトモに食らってるとしか……」
「原因は3つあるんデスヨ♪」
のんのんのんっ♪  と、指をちっちっちと動かし、そして説明に入る。
TaSの言うところはこうだ。
YOSSYの体格は、男子にしては小さい方の168cm、55kg。
まして闘う者達の中に比べれば、えもいえずその小ささが目立つ。
しかしYOSSYは、その小さい自分の体を最大限に利用することを考えていた。
その小柄な体であれほど不規則に動きまわろうものなら、誰もが的を絞りにくいもの。
そして、その軽い体重を駆使して、マトモに当たることの少ない打撃を、全身を使って受け流す。
と、口で言うのは簡単なのだが、
体格負けして弾き飛ばされることの少ない体格のいい人間では、そうは上手くいかない。
小さい体格のために、相手に力で圧倒されていたYOSSYFLAMEの
苦い、そして幾度もの試行錯誤の経験のみが成せる、攻撃力受け流し。

「デモ、ソレダケデあのジンサンの攻撃をしのげるわけはないんデスヨネ。
もう一つ、理由があるんデス。」

「……野郎!」
ガシイイッ!
ジンの左フックが再びYOSSYに叩き込まれる。
紙風船のように吹き飛んで行くYOSSY。
「てめぇちょろちょろとぉ!」
ジンも追走するが、既に態勢を整え直しているYOSSY。
再びジンは、不可思議なリズムに翻弄されるしかなかった。
「(クク……、やりずらそうだこと、ジン先輩)」
ほくそ笑むYOSSY。
「ほら!」
スパンッ!
一瞬の隙を突いたYOSSYの足払いがジンの右足にヒット!
しかし、それ以上の追撃はYOSSYもできず。
素直に倒れ、転がりながら間合いを取るジン。
このあたりの戦闘センスはさすがとしか言いようがない。
が、
「あ〜あ、無様なこと……」
ギャギッ!
「ぐっ……!」
立ち上がった瞬間を狙って、YOSSYの袈裟斬りがジンの左膝にヒット!
「しゃあ!」
ガン、ゴンッ!
続けて膝に向かって踏み蹴り二連撃!
「このクソ餓鬼がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ビュン!
ジンの攻撃は再び空を切る。
流れはまた徐々にYOSSYに傾きつつあった。

「なるほど」
校内巡回班・きたみちもどるが納得したように頷く。
そのきたみちの視線は、YOSSYに相対するジンの背後にいる人間の存在に気づいていた。
柏木千鶴を始めとする、柏木4姉妹がいることに。
「(YOSSYFLAMEは、常にジンの背に千鶴先生がいるようなポジションをとっている。
つまりそれは…………、無言の脅迫に他ならない)」
きたみちの額から一筋、汗が流れる。
「(さっきの突き技の自爆、犠牲になった男子生徒への異常ないたぶり。
それが、ただ単に残虐な気性によるものではなく、このための伏線だとしたら)」
きたみちの推測は見事に的を得ていた。
YOSSYFLAMEという男が、勝つためにはなんでもやりかねない男だということを、
今までの2度の闘いで、ジンも脳裏に焼き付いているはず。
どうしても、後ろの千鶴が気になってしまう。
それが、自由な動きを封ずる枷であると共に、精神的な枷にもなっていた。
自由気侭に思った通りに闘えない闘い。
ジンにとって、これほど嫌でやりづらい闘いなどない。
そして、そんな思いが一瞬の隙を生み――



ガシャァァァァッ!



「があぁぁっ……!」
ジンのこめかみに強烈な薙ぎ面が決まる。
いくらYOSSYに破壊力がないといっても、こめかみを殴られたらダメージは負う。
徐々に徐々に、
己の機動力と、駆け引きによって、ジンの精神的足場を崩しにかかるYOSSY。

そして、精神が揺れてしまうということはどういうことなのか。
精神に直結する肉体の耐久力、覚悟が出来なくなり、そして――



ギャキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……ンッ!
ドシャッ!



YOSSYの必殺技・修羅旋風刺突を今度こそ、無防備の喉元に痛烈に食らい…





ジン・ジャザムは崩れ落ちた。












                                                                           To Be Continued!


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どおもお、YOSSYです。
とりあえず出来ているところを区切って投稿しました。
一まとめで投稿というのが、僕の場合どうしてもできないようで(^^;
いよいよ次は完結編。
年内には完結させたいです。お待ちになっていただければ幸いです。



では、失礼いたします。