Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第53章 「発明家の原点」 投稿者:YOSSYFLAME




「ッシャアアアッ!!」
  ドバキャッ!

「がっ!」
  ジンのヘビー級ストロークが、容赦なく誠治を襲う。
  パワーアシストグラブが使えなくなった誠治に、ジンのショットを防ぐ術はない。
  軽くラケットを弾き飛ばされ、落ちたラケットの乾いた音がコートに響く。
「ゲーム!  ジン、柏木千鶴組、2−3!」
  審判のコールが無情に響く。
  ジンの天井知らずの潜在能力により、誠治の工作部謹製アイテム群は完全に狂わされた。
  以後の2ゲームは、完全なジン組ペースで試合が進行してしまっている。
「誠治、大丈夫か……?」
「ああ、なんとかな……」
  心配そうに声をかけてくる梓に心配かけまいと振る舞う誠治。
「無理するなよ。あのジンのショットは、普通の人間じゃちょっと取ることはできないんだから……」
「……………」
「誠治?」
「……ま、なんとかしてみるさ」
「誠治……」
  勢いよく立ち上がり、梓に背を向けコートに戻る誠治。
  こころなしか軽い苛立ちがその背から感じられ、僅かな寂寥感に梓は襲われた。

「(普通の人間じゃ、取ることはできない、だと……)」
  構えながらも、先程の梓の言葉が頭の中で反芻される。
「(それじゃあ、物理的に歯が立たない相手には、ずっと勝てないとでもいうのか?)」
  誠治には彼なりの科学に対する理念は、当然ある。
  不可能を可能にするために。その為に発明というものは存在する。
  そう、出来ないものを出来るようにする、そのために。
  ずっと、そう信じて発明と失敗を繰り返してきた。
「(しかし、現実は………)」
  どんな相手に対しても通用すると思って作った工作部謹製アイテム群。
  尋常ならぬ力をもつ人間に対しても、通用すると思っていたアイテム群。
  しかしジンの、それの限界をも上回る力によって、その構想が完全に崩壊させられてしまった。
「(俺の発明が通用しない相手がいるということ……)」
  それに上乗せされるかのように梓からかけられた言葉。
  無論梓の言葉は、生身の誠治が取ることが困難だということであり、発明の限界の肯定ではない。
  それは誠治とて十分承知している。
  しかし……



  バキャオンッ!
  ジンの放つ強烈なストロークが、誠治の横目掛けて撃ち込まれる。
「(負けない……例えアイテムがなくとも、俺は君には負けられないんだ!)」
  そのストロークに真っ向から誠治は立ち向かう!
「誠治っ!」
「せやああぁぁぁぁ!」

  ビキィッ!

「が……ぁっ……!」
「誠治っ!?」
  強烈無比のジンのショットをマトモに打ち返そうとした為に、手首にものすごい衝撃が走る。
「ゲーム!  ジン、柏木千鶴組、3−3!」

「グ……ゥゥ……」
「おい、誠治っ!」
  主審のコールも聞こえたのかどうか。梓が心配そうに声をかける。
  どうやら僅かにスイートスポットを外してしまったらしい。
「主審、治療タイムもらうよ!」
  梓の宣言によりタイムが取られ、手首を押さえながら誠治はベンチに戻って行く。、



「誠治さん、大丈夫?」
「ああ、なんとかな……」
  保科智子に声をかけられ、痛みはあるもののはっきりとした口調で言葉を返す誠治。
  昂河晶が側に近づいてくる。
「僕の気孔術で、今すぐ直します」
「ああ、済まないな……」
  晶の気孔術“活剄”を手首に当てられ、みるみるうちに手首の痛みが消えてゆく。
「済まない。……それにしても、君は凄いな。何の道具も使わずに傷を治してしまう」
「いえ、たいしたことじゃないですよ」
「十分たいしたことだよ。君達がうらやましいよ、本当に」
「部長……?」
「ちょっと、疲れたな……」
  晶や智子を前に、少しばかり憔悴した表情を浮かべる誠治。
「誠治……」
「梓もそうだよな。ジン相手に互角に打ち合えるんだから、全くすごいの一言だよ」



  バシャアアッ!



「わぷっ!  な、何だっ!?」
「ちょっとは頭が冷えたか、誠治?」
  何事かとまわりを見回す誠治の目に入ったものは、氷水入りバケツを持った霜月祐依の姿だった。
  選手に氷水をあびせかけながら、その表情はニヤケそのもの。
「なぁにさっきからカッカきてんだお前は?
ジンのあんな豪球、バカみたいにマトモに打ち返したら、手首おかしくなるに決まってんだろ」
「し、霜月さんっ……!」
  霜月の暴言に長谷部彩が慌てて止めに入るが、霜月は意にも介さず、
「アイテムぶっ壊されたからって力勝負に行くか?  サルじゃあるまいしよ、まったく」
「……霜月、お前――」



「ここ使えよここ。お前の最強の、誰が相手でも誇って憚らない武器は“ここ”だろうが?」



「……!」
  さすがに気色ばむ誠治の目の前で、頭を指差し嘯く霜月。
  その一言で、誠治の中から何かが弾けた。
「……霜月」
「ん?」

  バシャアッ!

「どわあっ!」
  霜月の顔面に、思いきり水筒の水がぶっ掛けられる。
「任せとけ。なんとかしてみせるさ」
  水をかぶったままの不敵な笑み、いつもの自信家の笑みを、霜月や皆に誠治は向けた。
「へっ!  ようやく頭が冷えたみたいだな」
「少々やり方が強引だったように僕は思いましたけど」
「まあええやないか。頑張れ、誠治さん!」
  皆の声援を背に受けて、誠治は右腕を高く上げた。



「よう、怪我はどうだい?」
「おかげさまで無事にすんだよ」
「そうかい、それはよかった。俺の楽しみがなくならなくてな!」
  自信溢れるジンの笑みを、誠治は真っ向から受け止める。
「心配には及ばないよ。退屈なんかさせないからさ」

「ジン組、ゲームポイント3−3からゲーム再開!」
  ゲーム再開の宣告が下り、4人は所定の位置につく。
  ポォンポォンとボールを地に付け、サーブ態勢に入るジン。
  工作部アイテムを破ってから3ゲーム連取のジンと千鶴。このゲームも絶対の自信を持って……
スパアアァァンッ!
――放った!



『な、なんとぉっ!?  菅生選手、この構えはーーーーーーーーーーーー?』

「バントだとォッ!?」
  なんと誠治は、ラケットを完全に横向きに構え、
ラケットのガットの部分を前面に構える、バントの構えでジンの豪球を迎え撃つ!
「血迷ったか誠治ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「(……血迷ってなんかいない)」
  誠治はあくまで冷静だった。
  先程の軌道解析ツールからの分析結果で、ジンの弾道は見極められる。
  あとは、当てるだけ、当てるだけでいいのだから。
「(よし!)」



  ッポオォォォ………ン………



  ジンの放ったサーブは、誠治のラケットのガットに当たり、高く高く舞い上がり……
「あ……」
  ジンと千鶴の真ん中あたりに、力弱く落球した。
「イン!  0−15!」

「っし!!」
  奇想天外のリターンを見事決め、誠治が決めるガッツポーズ。
  あまりの奇抜なショットに、観衆も、ジンも千鶴も、梓でさえも、あっけにとられていたが、
次の瞬間――

  うわあああああああああああああああああああああああ!!!

  ものすごい歓声が、堰を切ったように沸き起こった。
「なるほどな、その手があったか。なかなかやるじゃねえか、菅生」
「まあね、“必要は発明の母”っていうだろ?」
  不敵な笑みを口元に浮かべるジンに、誠治も自信に溢れた口調で答える。





「わからなくなってきたなあ……この試合……」
  スタンドの通路の手すりに身を預けて観戦している男、YOSSYFLAMEがぼそりと呟く。
「てっきり俺は、あのヘンテコなグローブがぶっ壊れた時に勝負あったと思ったんだけどな……」
「さすが菅生先輩っていったところね……」
  YOSSYの横には、今大会パートナーだった広瀬ゆかりも何故かいる。
「ああ、ジン先輩に力負けしないようにラケットを横にしてガットに当てて返すとは……
あれなら確かに、っていうか今の菅生先輩には、あれが唯一にして最大の手ってところか……」

  YOSSYとゆかりも見据える中、試合は進んでゆく。
  ジンの凄まじきショットに対し、バント戦法でただ返す誠治。
  ジンの弾道をサーチで事前に見切っていた誠治、ジンの豪球ショットに懸命についてゆき返す。
「ぐがっ!」
  しかし、打突部位が非常に小さい為、ミスをして跳ね返ったボールは、体にも当たる。
  それでも誠治はバント戦法を、ただひたすら続けていた。
  それしかジンの豪球を返せる術はないのもあるが、もう一つ……

「でも、ジン先輩にミスが出始めてきた……、もしかしていけるかも……!」
  ゆかりが僅かに驚きの表情を見せる。
  誠治はバント戦法のボールを、極力ジンに返している。
  元々ジンはテニス技術でいったら、大会前に少しばかり練習しただけの素人の付け焼き刃。
  身体能力は文句無しとは言え、技術は経験が物を言うところはある。
  そこを誠治は突いた。
  そう、粘り強く闘った末に出るジンの自滅を待ち続けて。

  その誠治の目論見が、ようやく実になって現れた。
  圧倒的有利な状況でありながらなかなか引き離せない現状に、ジンの顔にも焦りの色が。
「っだらあ!」
  超重量級のヘビーショットを放つジン。だが……
「アウト!  15−30!」
  僅かに誠治が身を反らし、アウトポイントを誘発させる。
  そして、鋭いボールは全てバント戦法でカットし、甘い球が入ってきたら――
  スパアァンッ!
  思いきり振り切りコートを割るような一撃を叩き込む。
「アイテムが使えないなら使えないなりに、
今自分の出来ることと出来ないことを明確に分析し、その上で勝つ為にはどうするかを考える。
あのバント戦法だって、一見奇抜に見えるけど実は違う。
菅生先輩の冷静な計算のもと、最善の手段として、バント戦法が“発明”された。
必要な事項を、可能事項と不可能事項を正確に見極めた上で、遂行へ必要なものを“発明”する
………さすがL学きっての“発明家”ね。菅生先輩は」
  ゆかりの口から紡がれる、菅生誠治の歴とした才能。
「ゲーム!  菅生、柏木梓組、6−5!」
  それを裏付けるように宣告される誠治組のマッチゲーム。
「……この試合、よもやの大番狂わせになるかもね。よっしー……」
「そいつはどうかな?」





  ウワアアアアアアアァァァァァァァァ………
『こ、ここにきてこのショットは……ジン選手!?』





「ジンくん、ナイスッ!!」
  観衆が沸き、千鶴が歓喜の叫びを上げる。
  ここにきて飛び出したジンのライン際ギリギリのショット。

「ジンのヤツ……ここにきてなんて鋭いスマッシュを打つんだか……」
  さすがに驚いたか、汗を拭いながら呟く梓。
「梓」
「ん?」
「このゲームさえ取れば勝ちだ。頑張ろう」
「……ああ、もちろん!」
  しかしながらここにきて更に集中力が高まってきた誠治。
  なんとしてもここで決めるという意志がビンビン感じられる。凄まじき集中力の充実。

  ッパアアアンッ!
  カコッ!
  ッシイインッ!
  ガッ!
  スパアアアァァァンッ!!
  ガシィッ!
『すごい打ち合い!  ジン選手と菅生選手の凄まじきラリーの応酬だあああああぁぁぁぁ!!』
  土壇場の一騎打ち、ジンvs誠治の闘い。
  誠治がバント戦法で来た球来た球細かいほどに返せば、ジンも強烈無比のサーブを逃さず撃ち込む。
「ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!」
「誠治!  誠治!  誠治!  誠治!  誠治!  誠治!  誠治!  誠治!」
  どちらか先に根負けするかの一騎打ち。
  ジンコールと誠治コールが響く会場で、なおも続く壮絶なラリー。
『無欠の豪球を放ち続けるジン選手、それをひたすら耐える菅生選手、果たして勝者はどちらか!?』

「すごい……打つ方も耐える方も……」
  ゆかりまでもが手に汗にぎり立ち尽くす、それほどの闘い。
「この闘い、勝つのは一体どっち……?」
「んなもん最初からわかってるよ!」
「よっしー?」
  顔を上気させながらラリーに見入るYOSSYが口を開く。
「本気モードのジン先輩が千鶴さんの前で負けたとこなんざ、俺は見たことないけどね!!」





「よっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」





  うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
  もの凄い咆哮。それに次いで響く凄まじき歓声。
『つ、強い!  ジン選手、この土壇場でついに、菅生選手を押し切ったぁぁ!!』
  実況の理奈でさえ、既に興奮を押さえ切れない。それほどのボルテージ。
「ゲーム!  ジン、柏木千鶴組、6−6!  ………タイブレーク!!」
  主審の宣告と共に、引っくり返ったように湧き上がり立つ観衆。
  この試合、ジンと誠治の力量はほぼ互角。
  経験と頭脳でアドバンテージを握る誠治、千鶴の前では負けないという絶対信念を持つジン。
  タイブレークにもちこまれたこの試合の鍵を握るのは……

  会場中の熱気を一身に受けながら、揺るがぬ闘志、揺るがぬ思いを露にし。千鶴と梓は睨み合う。


























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こんにちは、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:うーみゅ、なんかこの形式も久しぶりだな、うん。
ゆかり:ええ、8月には執筆できなかったもんね。
よっし:そのかわり、やっとvsジン先輩を完筆させたし〜〜!  誉めさせてやろう!  な、広瀬。
ゆかり:はいはい、いーこいーこ。いい子だから早く本編とシャッフルLを終わらせなさいね。
よっし:………鬼。
ゆかり:で、今回は2章いっぺんみたいだけど、コンセプトは?
よっし:ジン先輩と菅生先輩のそれぞれの信念………うまく書けてればいいのですが。
ゆかり:みなさま、読んでいただければ幸いです。

ゆかり:それで次回は!?
よっし:第4ブロック代表決定戦完結編!
ゆかり:できれば必見!  千鶴vs梓!  柏木姉妹同志の死闘の果てにあるものは!?
よっし:次回!  よろしければ見てください!