Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第52章 「科学部の最高傑作」 投稿者:YOSSYFLAME




「それにしても2回戦、まさかあれほど手こずるとはな……」
  控室で嘯くは、学園では知らぬものなしの恐怖のサイボーグエルクゥ、ジン・ジャザム。
「……だが、奴等のおかげで目が覚めたぜ」
  ニヤリと不敵な笑みを浮かべるジン。
  2回戦、対八塚崇乃、観月マナ戦において、本気で敗北一歩手前にまで追い込まれた彼ら。
  なんとか大逆転勝利を収めたものの、反省点が多く残る試合でもあった。
  しかし、その闘いを経たおかげで、
「もう俺には油断はねえ。勝って決勝トーナメント、必ず進出してやるぜ!!」
  控室に、ジンの咆哮が大きく響いた。
「って、どうしたんですか千鶴さん?」

  ジンが咆えている間、ただ思いつめた表情で座っている千鶴。
  その理由は、なんとはなしにジンにもわかっていた。
  次の試合、第4ブロック代表決定戦の相手は、菅生誠治と、そして、
千鶴の妹・柏木梓が、彼女たちの前に立ち塞がることになる。
  高校生活の想い出の為に全力で大会に挑んでいる梓。
  無論、千鶴らにも勝たなければならない理由はある。
  しかしそのその妹の道を、果たして本気で阻めるものだろうか……

「なるようにしかならねぇですよ、結局」
「ジンくん……」
  そんな千鶴の横で、彼らしくぶっきらぼうに口を開く。
「俺達に負けるんなら、所詮はそれだけのものでしかない、ってことでしょうよ。
  どのみち俺達は勝ちを目指すだけ。
その結果どうなろうと、それはその後の問題だと、俺は思いますぜ」

  ふうっ。
  ジンの言葉にため息をもらす千鶴。
「シンプルね、君は……」
「いけませんか?」
「ううん」
  軽く首を振って、ジンに柔らかい笑みを向ける。
「おかげで少しだけ楽になったわ。ありがとう、ジンくん」
「千鶴さん」
「さあいくわよ!  私たちの目標の為にまずはこの試合、勝つわよ!!」
  カラ元気が少しばかり入り交じった、それでもいつもの千鶴の声。





「いよいよ、大一番だな」
「この詠美ちゃん様がこぉちしてあげたんだから、負けたらしょーちしないわよ!」

「誰がコーチしたって?  え、詠美?」
  対して菅生誠治、柏木梓組の控室。
  工作部メンバーのほとんどが集合し、工作部以外からも大集合して。控室は湧きに沸いていた。
「お前達が最後の希望だからな、優勝して温泉旅行、必ずもぎとってきてくれよ!」
「相手は強いですけど……頑張ってください……」
  次から次へとかけられる声を、靴紐を縛りながら頷き聞く彼女。
  そして紐を縛り終わった刹那、勢いよく立ち上がった。
「任せとけ!  絶対に優勝して来てやる!  な、誠治!」
  サングラス状の軌道解析ツールとパワーアシストグラブを装着しながら、
工作部部長・菅生誠治は不敵に口元に笑みを浮かべた。
「当然。……決勝トーナメントのキップを勝ち取るのは、俺達だ」





『さあ、各ブロック代表決定戦もいよいよ佳境に入ってまいりました!  
  第4ブロック代表決定戦、ジン・ジャザム、柏木千鶴組  vs  菅生誠治、柏木梓組の一戦!!』
  緒方理奈の実況とともに、燃え盛るように湧き上がる観衆。
『果たして、工作部エース対科学部エースの対決の行方は?
そして、千鶴選手対梓選手の、柏木姉妹骨肉の一戦!!  
この因縁の対決、果たして勝つのはどちらか!?
さあ、まずはジン・ジャザム、柏木千鶴両選手の入場です!!』

  うわああああぁぁぁ!!
  まるで森に放たれた火のように観客のボルテージは沸騰してゆく。
「ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!
ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!  ジン・ジャザム!」
  入場と同時にジンコールが湧き上がる。
「っしゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
  その気合に存分に応えしジンの咆哮が、会場を震撼させる。
  まさに不動の王者の貫録。実力故の大歓声。



『対しまして、菅生誠治、柏木梓両選手の入場です!!』
  理奈のコールと共に、悠然と、そして堂々と入場してくる誠治と梓。
『充実した気が両選手から感じられます。大一番のプレッシャーなどまるで感じさせません!』
  コメント通り、誠治と梓にはいささかの気負いすら感じられない。
  あの対戦相手、この試合の重みをわかっていながら、なお自信が二人から溢れている。



『おや……?  あれは一体……?』



  入場している誠治達2人の後ろに、続いて歩いてくる人影が。
  保科智子、昂河晶、FENNEK、陸奥崇、八希望、ちびまるという工作部のメンバー達、
それだけにはとどまらず、霜月祐依、大場詠美、長谷部彩、橋本といった門外メンバーも共に。
『なんと、工作部プロジェクトチームのほとんどが入場してきました?
これは一体、どういうパフォーマンスなのかっ!?  菅生、柏木ペア!?』
  工作部プロジェクトのメンバーを引き連れて、誠治と梓がコートに踏み込む。
『さあ、工作部プロジェクトの意図は何か……
っと?  保科選手の指示でプロジェクトメンバー、円陣を組んだ!  これはもしや……?』



「よっしゃ!  絶対勝つで!」
「「オウッ!!」」
「絶対上がるで!!」
「「オウッ!!」
「優勝したるで工作部!!!」
「いくぞ誠治!ファイト梓!オッ!オッ!オウッッッ!!」



『こ、これは………プロジェクトチーム、この大一番で円陣鼓舞か?』
  あまりのパフォーマンスに一瞬観衆が呆気に取られるが……
「よっしゃ行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

  ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

  気合をもらった梓の咆哮は、観衆の熱気を一瞬で沸点をブチ切れさせた。



「千鶴姉!」
「……………」
「この試合であたしは、あんたを超える!!」
  千鶴にラケットを突きつけて、梓の不敵に開かれた唇から、紡ぎ出される勝利宣言。
「梓……」
  そんな妹の姿に、千鶴は身を震わせて、
「……いつから私にそんな口を聞けるようになったのかしらぁ?」
  温和な笑みを浮かべながら口走るそのセリフに、周囲の温度は確実に5℃は低下した。

「そんな悪い子には――お・し・お・き・しなくっちゃね………」
「……上等だよ。やってもらおうじゃねえか!!」
  円陣の気合と敵愾心まで上乗せされて、気合がはちきれそうな梓。
  対してそんな妹の挑戦を、真っ向から受けて立つ千鶴。





「それでは、第4ブロック代表決定戦、ジン、柏木千鶴組vs菅生、柏木梓組…………プレイッ!!」





「うっしゃあああああああああっ!!」
  ドバキャッ!!
  先陣を切って、ジンのヘビー級サーブが誠治を襲う!!
  バキッ!
「がああっ!」
  その圧倒的な破壊力は、誠治のラケットを枯れ葉のように弾き飛ばす!
「イン!  15−0!」

「誠治!  大丈夫か!?」
「……さすがジンだな、腕の痺れがなかなか取れない……」
「誠治……」
「だが……」
  その口元に揺らぐことなき自信の証を浮かべて、誠治は言った。
「今の一撃で悪いが、“覚えさせてもらったよ”」



「くそがっ……!」
  強烈な勢いで放つジンのストローク。
「よし!」
  パアアァァンッ!
「ぐっ!」

「アウト!アンドゲーム!菅生、柏木梓組、3−0!」
「よし!」
「ナイス誠治!」
  序盤で3ゲームのアドバンテージを確保して、調子よさげの誠治と梓。
  これというのも、誠治が装着している工作部アイテム群、
サングラス状の軌道解析ツールとパワーアシストグラブの賜物であることは言うまでもない。
  どうあがいても歯が立たないパワーファイター対策に誠治が発明したこのアイテムは、
ジンや千鶴の弾道を見切り、
さらには一度食らった相手の球威――今の場合はジンの球威――に対応し、
決して力負けしない腕力を装着者にもたらす、まさに脅威のアイテム群。
  ジンのパワーと互角に張り合いさえできれば、あとは技術の勝負。
  そのあたりでジンよりもはるかに器用でテニスの経験値も高い誠治は、圧倒的優位に立てるのである。

「……ククククク」
「ん……?」
  そんな状況の中聞こえたジンの笑い声に、訝しむ誠治。
「俺の力をそんなもんで封じて、さぞかし御満悦だろうな。えぇ?工作部のエースさんよ」
「おいおいジン、卑怯だとかそんなことは言わないでくれよ。
君の力とて、科学部の産物によるところが大だ。
それに対して俺はあくまで、“工作部の科学力”で対抗したにすぎないんだからな」
なんら悪びれたところのない誠治の言葉。
この大会ではありとあらゆる超常能力が、一定のルールの元認められている。
そんな連中と闘う際に用いる“自分達の能力=科学力”を駆使することに、なんら憚ることはない。
誠治は胸を張ってそう主張できるし、またその主張にはジンとて異論はない。
「……安心しな。卑怯だなんていうつもりなんか、さらさらねぇよ」
「それを聞いて安心したよ、さあ、これからもお互い正々堂々と闘おう。
“科学部の最高傑作”たる君を上回ってこそ、我が工作部の実力も示せるしね」



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
  ドンッッッ!!
  自分の力が通用しないとわかりきったこの状況で、なおも無作為なストロークを誠治に放つジン。
  パワーも球筋も見切られ、球質自体は至って素直なジンの豪球は、何の苦もなく誠治に返される。
  それをわかっていながら無為に、無策といってもいいくらい、ひたすらに誠治を狙って放つ。
「そらっ!」
「がっ!?」
   そんなジンの隙を突き、誠治の綺麗なリターンショットが、ジンの横をすり抜ける……

「はあぁっ!」
  かと思えた一瞬前、千鶴が飛び込みレシーブする!
「ジンくん!」
「!」
「思った通りにやりなさい!  フォローは私がしてあげる!」
「――はい!」



「イン!  0−40!」
  しかし誠治と梓の前に、第4ゲームも風前の灯火まで追い込まれる。
「いい調子じゃないか誠治!」
「ああ……だが、油断は禁物だ。相手が相手だからな」
  それでも揺るぎ無い自信を抱き、誠治からサーブが放たれる。

  ジジ……ジジジ……

  カシャッ!
「フォールト!」
  誠治のサーブはネットに囚われフォールトに。
「どうした、誠治?」
「いや、なんでもない……」
  軽く梓に手を振る誠治。だが、
「(何だ、今のノイズは……?)」



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
  ドキャッ!!
  それでも、無為に、何の策もなくジンは撃ち続ける。
  誠治のパワーアシストグローブの前には、その力も全くの無力であることを知りながら。
「ちっ……いい加減しつこいな……」
  そんなジンの豪球を、あっさりと返し続ける誠治。

ジジ……ジジジ……



「ジン先輩……」
  観客席から固唾を飲んで見守る、エルクゥ同盟・ゆき。
  エルクゥ同盟の仲間でもあり、そして科学部の同志でもあるジンの苦戦を目の当たりにして。
「大丈夫ですよっ」
「ひめろくくん……」
  彼のすぐ横で観戦している、科学部の一員であり、
そして柳川の弟子であるひめろくの自信に溢れた表情。
「菅生さんがさっき言った言葉。その言葉が自ずと勝敗を表しているんですからっ」



「いい加減しつこいな、君も……」
  パアアァァン!
  焦れてきた誠治のストロークが、甘くジンの目の前に入ってくる。
「っしゃあ!!」
  ドキャッ!
  ジンの豪球が誠治を襲う!しかし!
「はあっ!……な!?」
  ジジ………ジジジ……ジィーーーーーーーー!!!



  ポォン………ポンポン………



「イン!  15−40!」
『おっとお!  菅生選手イージーミス!  ともあれこれでジン組、これで初得点!』
  ウワアアァァァァァ……
  観衆達もその反撃の序曲に酔う。

「故障か……?  なんでサーチにノイズが……?」
  サーチの故障に戸惑う誠治。直ちに代えのサーチを用意する。
「イン!  30−40!」
  それでもノイズは消えることなく、再びポイントを許す。
「故障じゃないはず。全部事前にチェックしたはずだけど………、………まさか………!」
  思いきり目を見開き見据える誠治。その視線の先にある、自信溢れるジンの姿を。
「どうしたい工作部部長さんよ、機械の故障かい?」
「くっ……!」

  プレイ再開する誠治、しかし……
「サーチだけじゃなく、パワーアシストグラブまで………どうなってるんだ、一体……」
「っしゃあああっ!」
  ドオォンッ!!
  ジンのサーブを返す誠治、しかしもはや前のような余裕はない。
「まさか………まさか………」
  誠治がもっとも認めたくなかった可能性。
  アイテムの故障ならまだ救われた。そう、アイテム群は憎いほど正常に稼動している。
  工作部謹製アイテム群の不調、その真の原因は……
「もらったあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
  ドキャアッ!!
  ジンの渾身のスマッシュが誠治を襲う、その時!

  ザ、ザーーーーーーーーーーーーー!!






  ――アイテム群の測定限界値を、ジンの力が上回ったこと。それが――






  ガシャッ!!
「誠治っ!!」
  思わずつんざく梓の絶叫。
  限界を超え破損してしまったパワーアシストグラブ。
  拠り所がなくなった誠治のラケットは、遥か遠くへ吹き飛ばされていた。

「どうだい?“科学部の最高傑作”の力はよ。
俺を封じたいんだったら、もっと気の利いたモンもってこなきゃ、とてもかなわんぜ?」
  一点の曇りもなく嘯くジン。
  無茶でも無謀でも、無策でも、ましてや投げ槍になっているわけではなかったのだ。
  初めからジンは、勝利を確信していた。
  工作部の能力計算の枠など、軽くぶち破れるという確信が。





「闘志と科学の融合……柳川師匠が目指していたコンセプトはそれなんです」
  感慨深げに満足げに、ひめろくが呟く。
「師匠が求めていたもの、それが……
機械の宿命、その限界さえも超える“人間”と“機械”の融合体。
それが、科学部の最高傑作であり、
“それ以上のものにもなれる熱血サイボーグエルクゥ”、“ジン・ジャザム”なんですよ」





  右腕を高く、高く掲げる一体のサイボーグ。
  工作部の測定限界値の限界をぶっちぎって。最高傑作の枠すらも超えて。
  彼はどこまでもひた走る。どこまでも高みを目指し。
  その、絶えぬ闘志を持ちし男の名は――

  
  
  「ジン・ジャザム!!」