Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第54章 「想い背負う鬼女達の舞」 投稿者:YOSSYFLAME




『まさに死闘!
第4ブロック代表決定戦、菅生誠治、柏木梓組  vs  ジン・ジャザム、柏木千鶴組の決戦!
押して押されて、倒し倒され、6ー6!  勝負はタイブレークにもちこされることに!!  
さあ、この果てしなき闘いの勝者は――――どちらか!?』



「……誠治」
  思いつめたような表情の梓がボソリと呟く。
「ありがとな。ここまでやってくれて」
「梓……?」
「ここまで、勝負を持ち込んでくれて、本当にありがと」
  誠治の方を振り向き、優しい笑みを向ける梓。
  その笑顔が、誠治にはたまらなくひっかかる。
「おい梓、何を……」
「見せてやるよ。………あたしの力を!!」
  誠治にではない、梓の視線は――、一直線にコートの向かい側の千鶴に向けられている。
「応援してくれた連中のためにも、ここまでやってくれた誠治のためにも。
……千鶴姉。今回ばかりは、負けるわけにはいかないんだ!!」

「ジンくん、お願いがあるんだけど」
「……まあ、だいたい察しはつきますがね。菅生の抑えは任せてくださいよ」
  ジンの言葉に、千鶴は薄く笑みを浮かべて、
「……ありがとう。本当に感謝するわ」
  その一言でジンには全てが理解できた。
  千鶴もまた、梓の挑戦を真っ向から受ける気なのだと。



「それでは、タイブレーク、菅生組サーブで……プレイッ!!」



「はあああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
  会場に響き渡る梓の咆哮!
  梓の質感が桁違いに増えてゆく!
  コートの空気が震撼し、闘気がそこに充満す!
「(これが………梓の本気だというのか………?)」
  背中にビンビンに伝わってくる闘気に戦慄する誠治。
「いくよっ!  千鶴姉!!  ――食らいやがれーーーーーーッ!!!」

  ドキャオンッッッ!!!!!
  今までにない、大地を震わす豪球が千鶴を襲う!
  唸りを上げた超豪球が、今まさに牙を剥き――









  ヒュンッ!










  ドガアッ!
  コートの壁に走る物凄い衝撃音。
  足元を一瞬で抜き去ったその球は、一歩の移動をも許さなかった。
  そう、“梓の足元を抜いていった”その球は。
「梓……」
  その主の唇が静かに動く。凍てつく瞳が梓を射る。
「……こんなものなの?  あなたの力は……」
  刹那、会場中が凍気に打たれ、梓の身体に例えようもない寒気が走る。
  同時に、全ての目撃者が戦慄と共に、それを認識させられる。





  ――これが、柏木千鶴の実力の片鱗――





「嘘だろ……」
  呆然と誠治が呟く。
  彼は知っている。工作部内での練習試合。
  霜月祐依、大庭詠美組の猛攻を一撃で黙らしめた、柏木梓の超豪球を。
  しかし、それすらも全く問題にしないというのか。
「嘘だ……」
「梓……」
  声を震わせ、梓が呟く。
  そんなことがあるはずはない。
  少なくとも、単純なパワーではあの千鶴をしても、自分の方が上のはず。
  いくらなんでも、
「こんなに力が離れてるなんてこと、あるもんか……」

  パアアンッ!
「!」
  ジンのサーブが梓の前に来る、しかし……
「……なっ!?  ナメてんのかあ!?」
  ジンのサーブはまさに、打ってくださいといわんばかりの絶好球!
「てんめぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!  ナメンなああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
  ドギャオンッ!!!
「(今度は手前じゃない!  ラインスレスレの一撃!  止められるもんか!!)」



  ヒュンッ!



  バアアッ!
  次の瞬間またも、梓の足元に土煙が巻き上がる。
「そんな……」
  一歩も反応することもできず。壁に激突したボールを伺うことすらできずに。
  自分の鬼化した超豪球ストロークさえ、しかもダイレクトで打ち返したというのか。
「ジン組、2−0!」
  主審のコールも聞こえない。
  これほどの力の差があるなんて。
「なんで……」



  ヒュン!

「ジン組、3−0!」
  またも。
  誠治のサーブを、今度は千鶴から、必殺の不可視のスイングで梓に速球を放つ。
  圧倒的な実力の差にショックを受けながらも、懸命に追いつこうとするが、
バアアンッ!
ラケットにかすりもせず、あっさりと3ポイント目を許してしまう。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
  僅か3本。
  僅か3本の攻防で、梓の息は既に切れている。
  まさかここまでの力の差があったとは。
  パワーでの優位という唯一の拠り所さえも、無残に破られて。
「ううっ……」
  今の梓には、もはや俯き、唇を噛み締めるぐらいしかできなかった。



「すみません。ジン、千鶴組、治療の為タイム取ります」

「え……っ?」
「ちょっと足首捻っちゃって。私たちはまだタイムありますよね?」
  さっきまでの凍てつく気が嘘のように、温和な笑みを主審に向ける千鶴。
「いえ、まあ……確かにまるまる10分ありますけど……」
「じゃあ、よろしくお願いします♪」
  主審の了承を聞く前に、さっさとベンチに引っ込んでしまう。
「(誰が足首捻ってるって……?)」
「まあ、そーゆーことだから、頼むな」
  呆れ顔で千鶴を見る彼にさらに一言つけて、ジンも後を追って引っ込んでしまう。
「ふう……」
  ため息をつきながら釈然としない顔の審判。それでも申告がある以上、
「ジン、千鶴組、治療のため、タイム!」






「梓!」
「しっかりしいや、梓先輩!」
  圧倒的な実力に打ちのめされて、ショック大きくベンチで俯く梓。
  誠治や智子に叱咤を受けるも、一向に立ち直る様子はない。
「しかし、あれほど通用しないものなのか?  実際」
「彼我のパワー差の計算が若干狂ってたとしても、そこまでの差があるとは……」
  絶対的な力の差に、霜月も昂河晶も疑問を持つが、
「んなこと今はどうでもええやろ!  早く先輩が立ち直らんと!」
  そんな中、両肩を抱いて細かく震えてる梓。
  あまりの差、そして見据えられた千鶴の瞳への恐怖は、一向に抜ける様子はない。
「梓!  しっかりしろ!  まだ試合は終わってない!」
  両肩をつかんで誠治が必死に説得するも、梓の震えは止まりはしない。
「梓っ!  くそっ、こうなったら――」










  むにゅっ☆










「ぼいん、たっち〜〜〜〜〜☆」










「え?」
  その場にいた誰もが、全く身動き一つとれなかった。
  応援の誰もが、誠治も、当事者の梓でさえ。
  むにむにむにむに。
  その間も、梓の豊かな胸を揉みしだいている指。
「き………」
  次の瞬間、喉から目一杯それが迸った。





「キャアアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」





  どぐわしゃああっ!!
  強烈な梓の投げで、不埒な者は吹き飛ばされる。
「な、な、な、な、何なんだっ!?」
  両胸を両腕で交差し抑え、あまりに不意の攻撃に顔を赤く染めうろたえる梓。
「誰だっ!  こんなうらやましいことをする奴はっ!」
「……けしからん、じゃないのかな……」
  被爆先の様子を伺う霜月と晶。
  そこにいたのは、あまりにも意外な、しかしある意味必然の人物だった。
「宇治っ!?」

「いきなり何するんだ、お前はっ!!」
  ひったてられる宇治に怒鳴り散らす梓。
  しかしそんな梓の怒りを、ニコニコ笑いながら受け止めている宇治。
「なぁにがおかしいんだオマエはぁ!?」
「は、はって……」
「……おい、頬から手を放してやったらどうだ?」
「あっ……」
  両側に思い切り引っ張っていた宇治の頬を離してやる。
  口が解放された宇治の口から出た言葉は、まさに驚愕すべきものだった。

「これでやっと、普段の梓先輩に戻れたな、って。僕はそれが嬉しかったんです」



「宇治……」
  梓には、それしか言えなかった。
  彼女を慕ってるものの中で、秋山登、日吉かおりなどに比べると、若干おとなしめの彼。
  しかしそんな彼が、よもやこんなことを……
「本当はこんな過激なこと、秋山先輩や日吉先輩がやりそうなものですけど、
あいにく二人ともダウンしてますから、それで僕が……
いずれにしても、これで元気が出てくれてよかったです。これでダメなら、どうしようかと」
「宇治……」
  思わず目頭が熱くなる梓。
  彼にとってみれば、むしろ梓達が優勝したら困るはずなのに、それでも敢えて。
「確かに優勝までされたら嫌ですけど、
不本意に終わるのを見るのは、どうにも耐えられなくて」
  あっさりとそう、宇治はいってのける。
  顔を一生懸命擦りながら、紅くなりゆく目元を隠すことしか、今の梓にはできなかった。

「そういうことよ。まったく」
「――綾香!」
  不敵な笑みを浮かべながら、宇治の後ろから現れた来栖川綾香。
「まったく、あんな力任せのキレのないショット、何発撃っても無駄なだけよ」
「え……?」
「肩の力を抜きなさい。気負いすぎてるから、かえって逆効果なのよ。――いい?」
  自信に溢れた口調で、梓に断言する。
「あんたはパワーでは決して負けてない!  自信もって行ってきなさい!
――私たちと決勝トーナメントで当たるためにも、こんなところでつまづけないでしょ!」
「……綾香」
「そうや!  梓先輩なら勝てる!」
「みんな、期待してるんだぜ!  温泉をな!」
「頑張ってください、ね……」
「……みんな」
  梓の胸に、力が甦る。
  本来の、何者にも屈しない、彼女本来の力が。
  ぽん。
  そんな梓の肩を、誠治が優しく叩く。
「大丈夫、絶対に勝てる!」
「――ああ!」
  力をくれたみんなに伝われとばかりに、梓の気合が響き渡った。



「ジン、千鶴組、治療終了です!」
「!」
  それを待っていたかのように、主審のコールがかかる。
  気力万全でコートに向かうジン、そして千鶴。
「(千鶴姉……)」
  そんな姉を、鋭い眼差しで見つめる梓。
「(わざわざ時間をよこしたこと、後悔することになるよ……)」
  そんな妹を、涼しい顔で、一点の隙すら伺えない笑顔で、千鶴は見据えていた。



「プレイ!  ジン組サーブから!」

  ヒュンッ!
  千鶴の不可視の振りから繰り出される超速サーブ!
  しかし!  今度は梓は反応している!
「チェストォ!」
  パアアンッ!
  なんとか返した梓の球は、しかしながら千鶴の真正面!
「――ふっ!」
  ヒュンッ!
  千鶴必殺“不可視の斬撃”が再度炸裂!
  しかし!
「よし!」
  既に梓は読んでいた。超速球の軌道を完全に!
  既に振りかぶっている。あとは振り下ろすだけ!
「いくよっ!」
  刹那、轟音が轟いた!
「いっけえ!  必殺・“クラッシャー”ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

  ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!!



  ヒュンッ!
「――!!」
  千鶴の顔色が変わる。と同時に、



  カシャアンッ……
  千鶴のラケットが弾き飛ばされ、乾いた音を立て地面に転がった。
「す……菅生組、1−3!」
  主審のコールと同時に、観衆が一斉に沸き立った。
「いいぞーーーーーーーーっ!」
「すごいぞ、梓っ!」
  鳴り止まない歓声の下、ラケットを高く掲げ上げ、
「おっしゃあああああああああああああああああああああああっ!」
  梓の咆哮が、会場一杯に響いた。



  それからの展開は、まさに急転直下に尽きた。
  梓の必殺“クラッシャー”は、まさにキレのある超トップスピンの過剰回転球。
  千鶴の必殺“不可視の斬撃”も、このクセ球に加え凄まじい球威には対応できず、
「梓組、3−3!」
  またたくまに同点を許してしまう。――しかし!

  ポォ…ン…

「なっ!?」
  梓の“クラッシャー”を、千鶴はその球威に逆らわず、緩やかに上げて凌ぐ手に出る!
「逃げんなよ千鶴姉!」
  それを逃さず放たれるクラッシャー!
「くっ!」
  しかしなお、千鶴の粘りは途切れない。
  徹底的にクラッシャーをやりすごす千鶴。容赦なくクラッシャーを放つ梓!
  ガシャッ!
「梓組、4−3!」
「やったあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
  梓、誠治の応援席から、ものすごい歓声が沸きあがる。
  いや、それだけではない。
  他の観客も、梓のスーパーショットに魅せられ、俄かに沸き立ってきた。
「梓組、5−3!」
  再び千鶴の粘りをも押し切り、リードを広げる梓!
「これ、いけるんじゃねえか!?」
「いけるよ、これは!  逆転勝利も十分ありえる!」
  工作部応援席、霜月と晶も色めき立つほどの梓の猛攻!
「梓!  あと一押しだ!  いけるぜ!」
  誠治の気合こもった励ましに、梓は拳を握って応えた。
「梓組、6−3!」
「あと1球!  あと1球!  あと1球!  あと1球!
あと1球!  あと1球!  あと1球!  あと1球!」

「なぁに……」
  そんな中、いささかも千鶴組の勝利を疑ってない男がいた。
  そう、言うまでもなくジン・ジャザム。
  あと1球にまで追いつめられていながらも、手を貸そうともせずただ見ているのみ。
「千鶴さんの恐ろしさ、凄さをまだ認識できない連中が多すぎるよな……」

  シャオンッ!
  ドシュッ!
「千鶴組、4−6!」

  会場が、またも凍り付いたように静まった。
  梓、誠治組大逆転勝利へ湧きに沸いていた観衆を、一撃で凍てつかせる刹那の斬撃。
  ――千鶴必殺“不可視の斬撃”の復活である。
「梓……」
「……なんだい、千鶴姉!」
「まだ、あなたには負けるわけにはいかない。そう、負けるわけにはいかないのよ……!」
梓に、というより自分自身に言い聞かせる千鶴の呟き。
「……千鶴姉も、ホントに大変だよな……」
  皮肉でもなんでもなく、本心からそう呟く梓。
「だけど!」
  目を鋭く光らせて、千鶴をしかと真正面に見据える!
「これだけは譲ってもらう!  
あたしの腕にはあたしだけじゃない!  たくさんの連中の思いがこもってるんだからな!」
  右手を掲げ咆える梓。そんな妹に真摯に応える千鶴。
「そう………なら来なさい。
あなたの思いがどれほど本物であるか、確かめさせてもらうわ!」

「千鶴組、5−6!」
「6−6!」
「7−6!」
  冴えに冴え渡る不可視の斬撃の前に、逆に梓が風前の灯火というところまで追いつめられる。
  そんな梓を、ただ静かに見つめる千鶴。
「……さすがだね、千鶴姉……」
「先輩!  頑張れっ!」
  またたくまに追いつめられる窮地の梓に、宇治の声援が熱く飛ぶ。
「……そうだね。あんたの思い、あんたたちみんなの思いを背負ってる限り……」
  グシャアアアアアァァァァァァァッ!
「梓組、7−7!」
「――あたしは負けるわけには、いかないんだ!」

  刹那の内に獲物を切り裂く鬼女の爪。
  立ちはだかるもの全てを砕く鬼女の拳。
  二体の麗しき鬼女達の激突は、収まるところを知らなかった。
「チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!」
「アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!」
  会場を真っ二つに分けての、千鶴コールと梓コールの大合唱。
「――ふうっ!」
  シャオンッ!
「っしゃあああああああっ!」
  ドゴオオオオオオンッ!
「千鶴組、11−10!」
「梓組、11−11!」
「千鶴組、12−11!」
「梓組、12−12!」
  ぶつかり合う鬼と鬼。
  千鶴が執念で突き放せば、梓がまた執念で追いつく。
  あと一歩というところまで追いつめながら、妹の粘りに追いつかれる千鶴。
  あと一歩で終わるというところまで追いつめられながら、姉に必死に食い下がる梓。

「お姉ちゃん……」
「初音……」
「千鶴お姉ちゃんと梓お姉ちゃん、どっちが勝つと思う……?」
  きゅっと両腕を膝の上に置きながら、たまらなく不安そうな初音。
「わからない。けど……」
  そんな妹の手に、楓はそっと優しく手を添える。
「どっちが勝ってもいいような気がする……だって……」
  羨望を含んだ眼差しを、二人の姉に向ける楓。
「あんなに二人とも一生懸命に、自分の思いをぶつけあってるんだもの……」
「うん。そうだね……」
  ――ちょっぴり、うらやましい、かな……?

「千鶴組、17−16!」
  もう何度目になるだろうデュース。しかし。
「はあ……、はあ……、はあ……、はあ……」
「ふっ……、ふっ……、ふっ……、ふっ……」
  そろそろ両者に疲れが見え始めてきた様子。
  無理もない。鬼の力をフルに出し尽くして闘う二人。当然スタミナの消費もかなりのもの。
「千鶴さん……」
  さすがに疲労の芽が出てきた千鶴に、ジンがハッパをかける。
「ここで決めてください。ここで!」
ここしかない。アドバンテージを得ている今、決めなければ。
  奇しくもジンと同じ思いを千鶴も持っている。
  汗だくになりながらも、彼女なりに強い笑顔を、千鶴はジンに投げかけた。
  ――しかし。

「ネットタッチ!  梓組、17−17!」
『ち……千鶴選手、ここにきて痛恨のネットタッチ……!』
  全く気づかないうちのネットタッチ、痛恨の同点劇。
「(千鶴さん……)」
  ジンは今、察し余るほどに彼女の心中を察している。
  柏木家の長女として、ずっと梓を見つめてきた。
  そんな感慨が、ここに来て千鶴を狂わせた。

「(千鶴姉……)」
  梓もまた、千鶴の心中は痛いほどに伝わっている。
  単純にエルクゥ同士の同調なんていうものではない。
  楓、初音も含めて、姉妹4人で生きてきた思い。
  梓には見えない、いろんなものを背負って、それでも笑顔で生きてきた千鶴の想い。
  たかが学園のいちテニス大会でそこまで、と、人は言うかもしれない。
  けれど、どんなものであろうと、お互い自らをさらけ出し、
  自分の全力、なにもかもをぶつけて、闘ってきたことには違いはないのだから。
  だけど。
「(だからこそ、勝たなけりゃいけない。千鶴姉に、応えるためにも!)」

「そうだ梓、決めろ!」
「梓センパイッ、頑張ってくださいっ!」

「――!!」
  不意に聞こえた騒がしい声。
  でも、これで。
  心の中に最後に残ったピースが、ようやく埋められた気がする。
「(千鶴姉――)」
  みんなの思いを胸に。自分自身、そして、千鶴の想いをも胸に。
「(――勝つ!)」



「梓組、18−17!」
  うわあああああああああああああああああああああああああっ!!
  ――瞬間、引っくり返したような大歓声が湧き上がる。
『や、やった……
この試合、タイブレーク延長に入って初めて、梓選手がアドバンテージを握りましたっ!』
「よっしゃいいぞ梓ぁ!」
「梓センパイ、あと一本!」
「先輩、あともう少し、頑張れっ!」
  秋山や日吉かおり、宇治の声援が得も言えず力を沸き立たせる。
「梓!  あと一本だ!」
「梓先輩、頑張ってください!」
「ファイトや、梓先輩!」
  工作部プロジェクト、だけではない。会場中、至る所から聞こえる梓コール。
「あと1球!  あと1球!  あと1球!  あと1球!
あと1球!  あと1球!  あと1球!  あと1球!」
「アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!  アズサ!」

「――なんだか俺にはよくわかんねえ。わかんねえけど……、
負けんな千鶴さんっ!  あと3球、あと3球で勝ちじゃねえかっ!!」
「よっしー……」
  やるせない思いを声に変え、それを張り上げ千鶴に投げかけるYOSSYFLAME。
「ここまでやってきたんだろ!  だったら!  あとひと頑張りだ、千鶴さん!」
「そうよ、コイツの言う通り!  負けないでください、千鶴さん!」
「千鶴さん……頑張れ……!」
「あ、あんたたち……」
  YOSSYだけではない。ゆかりの目前に現れた男女。
  そう、柏木家とただならぬ関わりを持つ、東雲忍、恋の兄妹もこの土壇場で。
「チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!  チヅル!」
  それに呼応するかのように、一斉に湧き上がる千鶴コール。
  両者への応援が最高潮をもすでに超え。
  そんな中、サーブに入る瞬間。かすかに千鶴は、静かに笑みを漏らしていた。
  その笑みの意味は一体何だったのであろう。おそらくは、千鶴にしかわからない。
「――ふっっ!」

  シャアオンッ!
  千鶴の必殺・不可視の斬撃がこの土壇場で、最高の威力を持って梓に襲いかかる!
「(千鶴姉……)」
  迎撃態勢は整った!
  ここを、ここを外せば、もう勝機はない!
  ここで、ここで絶対に決める!
「いくよっ!  千鶴姉っ!!!」
  鬼女の豪腕が、今、なにもかもを撃ち砕かんと解き放たれる!
「チェイサアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」





  ドンッッッッッ!!!!!





  迷い無き超豪球が、千鶴の全てを喰らうべく唸りを上げ迫り来る!
「(梓……)」
  豪球に現れる想い全てを、千鶴は感じ取っていた。
  自分に対する梓の想い、全てを。
「(梓……)」
  あまりに溢れるその想いを受け、千鶴の瞼が俄かに赤く染まる。
  ――けれど!
  だからこそ、その想いに応える為。
  ――愛しき妹の全ての想いに応える為。
「わたしは…………わたしは…………絶対に、絶対に負けられないっ!!!!!」





  シャオォンッッッ!!!!!





「うああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  梓が、梓だけが食い下がった。
  何者にも見えぬ、“不可視の斬撃”を超えた、“不可視の鬼弾”に。
  しかし、“不可視の鬼弾”は、梓のレシーブをも摺り抜けて疾る。
「くあああああっ!」
  その、“不可視の鬼弾”は――――――土煙を立て、ライン際を滑り抜けた。

「今のは………判定は………?」
  誰がともなくそう言った。
  ライン際スレスレの一撃。
  ジンも、誠治も、観衆達も、そして、千鶴も梓も。
  誰も言葉を放つこと無い一瞬。長い、長い一瞬が会場を覆う。
  決まっていれば再びデュース。もし、外していれば――――――















「アウトオオオオォォォォォッ! 

――アンドゲーム!  アンド、マッチウォンバイ、菅生、柏木梓組!!!」















「やったああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
  コートに佇んでる梓と誠治に
  弾かれたように、工作部プロジェクトの面々が駆け寄り、体当たりをぶちかます。
「やったな!  やったなおいっ!!」
「すげえぜ部長!  まさか勝つなんてな!」
「く、苦しいんだけど、おいこら……」
  霜月や陸奥崇にもみくちゃにされ苦しがりながらも、喜びを隠せない誠治。
「やったやないか!  えらいこっちゃ!」
「おめでとう……本当におめでとう……!」
  智子や晶に囲まれてなお、自分の勝利が信じられないのか呆然としている梓。

  ひゅんっ!  どかっ!

「うあっ!  う、宇治……?」
「あたたたた、何するんですか秋山先輩……、……あっ……梓先輩……」
  突然自分の胸に飛んできた後輩に、慌てふためく梓だが、
「先輩!  おめでとうございます!  もう………すごく嬉しいですっ!」
「バカ………男だったら泣くんじゃない………っ………」
  大泣きしながら祝福してくれる宇治。
  そんな彼を見ている内に、じわじわともらい泣きしてしまう梓。
「よっしゃあ!  胴上げだ胴上げ!  まずは――」
「うひゃっ!」
「勝利の女神、大立役者、梓の胴上げだぁっ!」
  歓喜の声に包まれて、一回、二回と宙を舞う梓。
  なんともいえないあらゆる感情に襲われて、大粒の涙が次から次へと零れていた。





「……ジンくん、ごめんね……」
  ちょっとバツの悪そうな声で、ジンに詫びる千鶴。
「気にすることなんてありませんぜ。俺は千鶴さんの守護者ですからね」
  そんな千鶴にハッキリと一点の曇りなく言ってのけるジン。
  千鶴のこの試合にかけていた本当の想いがなんであるのか、それが十分わかっているから。
「……って、千鶴さん?」
  ジンの見慣れない光景が、そこに展開されていた。
  こともあろうにあの千鶴が、両手を顔に当てて泣きじゃくっているのであるから。
「ありがとう………ありがとう、ジンくん………ありがとう………」
「ち、ちょっと千鶴さん……、あの、泣き止んでください……」
  今まで耐えていたものが次から次へと胸から込み上げる想いに耐え切れず、むせび泣く千鶴。
  敗北感ではない。様々な想いの果てのジンの優しさに、とうとう堤防が決壊してしまう。
  もはやジンの中には、どうやって彼女をなだめるか、それしか頭に無かった。
  結局、泣きじゃくっている千鶴を導いて、会場を後にするジン。
  コートではまだ、勝利の美酒を味わう胴上げが行われている。

「千鶴さん?」
  コートを出る間際、ふと千鶴が振り返り何事かを呟く。
  ジンだけに聞きとれるほどの、しかしながらジンに対してではない小声で。
「千鶴さん……」
「行きましょうか、ジンくん♪」
  目元を真っ赤にしながら、それでも千鶴の見せた笑顔は、ジンには最高のものに思えた。
  千鶴とジン。二人は会場を後にする。
  千鶴の残した、言葉をコートに残したままに。



  ――ありがとう………梓……









      菅生誠治×柏木梓組――決勝トーナメント第4ブロック代表決定!

























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どもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:いやあ、今回はどうでしたでしょうか?
ゆかり:千鶴さんと梓先輩の想い?  今回のコンセプトは。
よっし:その通り!  それに加え、二人を囲むいろいろな想いが、伝わってくれれば嬉しいです。

ゆかり:さて、次回は?
よっし:異色対決第2弾!  
        第5ブロック代表決定戦!  雛山理緒組  vs  T-star-reverse、松原葵組の一戦です!
        果たしてこの闘いで、見せる彼女たちの素顔は一体!?
ゆかり:次回!  読んでくださると嬉しいです!