Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第56章 「絶望の淵で」 投稿者:YOSSYFLAME




『第5ブロック代表決定戦に出場予定の猫町選手、猫町櫂選手!
大至急、Bコートまで来てください!  繰り返します――!』

  第4ブロック代表決定戦にて、優勝候補最右翼・ジン、柏木千鶴組のよもやの敗退でざわつく会場。
  そのざわつきも収まる前に、今度は別のざわめきが、コートを覆い尽くしていた。
  そのざわめきの中、ただ一人、ぽつんと佇むパートナーの雛山理緒。
  彼女の胸中は、一体いかなるものであったろうか。



「……綾香、急いで用意しろ」
「え?」
  親友・柏木梓の勝利を見届けた後、ひとまず控室に戻っていた来栖川綾香。
  そんな彼女に、遅れて控室に入ってきた悠朔は開口一番。
「準備って………まだ第5ブロックの試合があるでしょ?  それからでも――」
「その第5ブロックの試合が、行われなかったとしたら?」
「――え?」

「何?」
「それって、ホントなの?」
  試合観戦をしていた榊宗一にそう言われ、僅かに驚くOLHと斎藤勇希。
「ああ。猫町が試合開始時間になっても姿を見せない。
  このぶんだとどうやら、T-star-reverse組の不戦勝になりかねないんでな」
「不戦勝……」
「……ウォームアップを急ぎましょ、OLH君。そういう事情なら」
「そうだな。急いだ方がいいな」

「(どこにいるんだ、猫町君!!)」
  学園中を息を切らせながら、騒ぎの張本人を捜して走るきたみちもどる。
  無論彼だけではない。校内巡回班メンバー総出で、彼の消息を追っている。
  局長である彼にしても、今回の失踪は寝耳に水。
  一体何が原因なのか。
  しかし、そんなことより、今は急を要する。
  急がなければ。
「(猫町君、出て来てくれ!)」



『第5ブロック代表決定戦に出場予定の猫町選手、猫町櫂選手!
大至急Bコートまで来てください!  繰り返します――!』



「ったく、何やってんだか、猫町のヤツ……」
  観客席からためいきをつきながら、コートを見下ろすYOSSYFLAME。
「お前らしくも無い発言だな。このままいけば松原は不戦勝で難なく勝ち上がれるんだぞ」
  そんな彼にいつもらしさが欠けていると指摘するのは、隣に座っている山浦。
「松原萌えのお前としては、タナからボタモチの展開だろう?」
「ま、そりゃそうなんだけどさ……」
  YOSSYの目は、ある一点を見据えて動かない。
「葵ちゃんには勝ってほしいことには違いはないんだけど、
こんな形での決着ってのはちょっとなあ……」
「雛山か。お前が見てるのは」
「うん……。せっかく頑張ってきたのに。
  勝負で負けるならまだしも、こんな形で負けるのは、ちょっとって気もしないでもないんだ……」
  視線は理緒の方を向いたまま、言葉だけを山浦に投げかける。
  そんなYOSSYが、ある気配に気づいて横を振り返る。
  そこには、第二購買部部長beakerが、厳しい面差しでコートを見下ろしていた。



「ティーせんぱい、この試合、どうなっちゃうんでしょうか……」
  不安げな視線を、パートナー・T-star-reverseに向ける、理緒組の対戦相手・松原葵。
  勝負においては、いついかなるときもまっすぐ正々堂々とありたいと願う彼女。
  そんな彼女にしてみれば、この試合の展開は甚だ不本意に他ならない。
  勝っても、例え負けたとしても。
  正々堂々と胸を張っていたい。それが松原葵の“戦いの信条”。
  その葵の気持ちは、ティーには痛いほど解っている。
  けれども、肝心の相手がいないのでは、どうにもならない。
  彼の目が、コートの向こうに注がれる。
  一人ぼっちの雛山理緒。
  しかし、彼女の瞳は死んではいない。
  そんな瞳が、ティーの視線に気づく。
「大丈夫!」
  なんの揺るぎも無い、言葉だった。



『第5ブロック代表決定戦に出場予定の猫町選手、猫町櫂選手!
大至急Bコートまで来てください!  繰り返します――!』
  会場が一層ざわめきを増す。
  一向に猫町は現れる気配すらない。
  既に試合開始予定時間を10分も超過している。
「どうだい、彼は?」
  主催者である暗躍生徒会会長・月島拓也の問いに無言で首を振る太田香奈子。
「そうか……」
  しばし顎に手をやり、熟考する拓也だが、
「よし。仕方がないな」
「……はい」
  拓也の心中を読み取り、放送席に足を運ぶ。
  猫町、雛山組は、1回戦で彼女と健やか、暗躍生徒会チームを下したチーム。
  そんな彼女たちに宣告を下さんとする香奈子。
  彼女の心中は、果たしていかなるものであるだろうか。



『大会本部より連絡です!』
  スピーカーを介して響く香奈子の声。
  ざわついていた観客席がこの一報でピタリと静まる。
  と、同時にビクリと小さく、理緒は身体を震わせる。
『第5ブロック代表決定戦、猫町櫂、雛山理緒組  対  T-star-reverse、松原葵組戦ですが、
試合開始予定時間を遥か超過しても、猫町選手が試合場に現れない為、
大会本部は試合開始不能と判断しまして――』















『猫町、雛山組の不戦敗を宣告すると共に、
T-star-reverse、松原組の決勝トーナメント進出を決定いたします!!』















  静まり返ったまま誰一人口を開こうとはしない。
  とうとう、猫町櫂は理緒の前に姿を見せなかった。
  とうとう、第5ブロックの総決算、代表決定戦は行われなかったのである。
「ふう………」
  T-star-reverseが小さくため息をつく。
  自分のパートナー葵と、そして理緒の心中を思い。
「あ……」
  そんなティーの口から声が漏れる。
「雛山さん……」

「しょうがないよ。猫町君には猫町君の都合があったんだろうから。
それよりごめんね。試合、することができなくて」
  ぺこりと心底ティー達に申し訳なさそうに頭を下げる理緒。
「雛山先輩……」
「ごめんね、松原さん」
  済まなさそうな笑みを表情に現す理緒。
  不戦敗が決まったその瞳には、涙など、少しも浮かばなかった。
  ただ、対戦相手のこの二人、そして、自分達が倒してきた相手。
  理緒の心を曇らせているものがあるとすれば、自分の無念ではなく、それはまぎれもなく
そんな彼らに対する申し訳なさ、ただそれだけだった。
「決勝トーナメント。頑張ってね、二人とも」
  そんな澱みをも振り払い、笑顔で手を差し出す理緒。
  僅かな逡巡の後、ティーも笑いながら手を差し出す。
「絶対、優勝します」
  一言だけ、はっきりと。















「――ちょっと待ったあ!!!!!」















「!!?」
  まさに、理緒とティーの手が握られる、まさにその寸前。
  一人の叫びが、この空間を切り裂いた。
「せ、選手交代!  
猫町選手に代わり、ぼ、僕、kosekiが理緒さんのパートナーとして、この試合、た、闘いますっ!」

『……は?』
「で、ですから、僕が猫町選手のかわりに――」
『いや、いきなりそんなこと言われても……』
  スピーカー越しに困り果てる香奈子に、どもりながら訴えるkoseki。
「お、お願いしますっ!  選手交代を認めてくださいっ……」
「できるわけねえだろ!」
「いきなり出て来て何言ってんだテメェ!」
「引っ込めコラァ!」
  呆気にとられる観客達も、我に返ると共にこの突拍子もない乱入者に大ブーイングを。
  しかしそれも無理なきこと。
  もともとこの大会には、校内エクストリーム大会と違ってリザーバー制を設けていない。
  よってこの場合ルールにのっとると、kosekiがいくら主張したところで出場の権利などない。
  そのために、この突然の乱入者には当然のごとく大ブーイングが見舞われる。
  しかしそんな中、kosekiは声を張り上げて参加を主張する。
  言うまでもない、友達・理緒の出場のために。
「おねがいします!  出場をみとめてくださいっ!」
「うるせえ!  帰れコラァ!」
「かえれ、かえれ!」
「かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!」
  会場中、揺れるように“帰れ”コールの大反響。
「かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!
かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!かーえーれ!」





「黙りやがれえええぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」





  ビクウッ!
  会場が一瞬、雷に打たれたかのごとく静まった。
「ザコ共がキャンキャン騒ぎやがってよ!! 
テメェらん中でコイツみてえなマネできんのが誰か一人でもいんのか!!!」
  王者の雷鳴を轟かせる金色の鋼鉄鬼、ジン・ジャザムのまさに鬼の一喝。
「……でもよ、ルールはルール……」
「特例、超法規的措置と言うのはいかなる決まり事にもあるものです。でしょう?月島さん?」
  ジンの一喝に震えながらも尚もあがる不平を掻き消すように澄んだ声で、beakerが問う。
「ジンさんのおっしゃる通り、
明らかに試合に出られないことがわかっていながら、まして不戦敗決定後にも関わらず、
この場に姿を現して、そして、雛山さんのパートナーに立候補する。ブーイングを承知の上で。
そんな彼――koseki君――のような勇気。友達のためにそこまで体を張る勇気。
素晴らしいと思いませんか、みなさん?  ――僕は、彼の行為に心底感服していますが」
  外交術ならL学屈指のbeakerの演説に、皆、声もない。
「そんな彼の勇気に敬意を表して、特例として、選手交代を認めてもいいのではないでしょうか?
――ただし」
  間髪入れずただし書きを入れるところが交渉の妙。
「――対戦相手である、T-star-reverse、松原両選手の了承が得られれば、の話ですけどね。
いかがですか?  大会実行委員長である暗躍生徒会会長・月島さん?」
『T-star-reverse選手、松原選手』
  beakerの提案に返事をせぬままにマイクを持ち、
スピーカー越しに、もう一人の当事者に声をかける拓也。
  不敵に微笑むその表情からは、彼もまた百戦錬磨を思わせる。
『君達の本心からの言葉を聞きたい。
koseki選手の交代を認め、雛山、koseki組とあらためて、決勝トーナメント進出をかけて闘うか。
無論断っても構わない。君らを責める人間は誰もいない。君らはあくまで正当なのだから。
5分時間をやろう。二人で相談して結論を聞かせてほしい』
「――相談の必要などありません」
  ティーと葵、二人の声がピタリと合った。
「koseki、雛山組との決勝トーナメントを賭けた勝負、喜んで受けて立ちます」



『ただいまより、第5ブロック代表決定戦!
koseki、雛山理緒組  対  T-star-reverse、松原葵組の試合を――開始いたします!!』
  うあああああああああああああああああああああああああっ!
  間髪入れずのアナウンスと同時に、一瞬で沸き立つ観衆。
「いーぞー!  葵ちゃん!」
「雛山さん、頑張れよー!」
  双方への応援が飛ぶ。先程までの険悪な雰囲気など、既にどこにもない。
「ありがとうございます!」
「い、いえ……」
「いえ、私たちとしても、はっきり決着をつけて勝ち上がりたいですからね。
――勝たせていただきますよ、kosekiさん」
「はい!  望むところです!」

「(ジンさん……購買部長…………ありがとうございます……)」
  観客席の二人に深々と礼をするkoseki。
「koseki君」
  そんな彼に投げかけられる理緒の声。一点の曇りもない、晴れ渡った笑顔。
「ありがとう!  そして…………頑張ろうね!」
  理緒の最大級の闘志に、kosekiもまた、最大級の闘志をこめた声で答えた。
「ハイ!!」

























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こんにちは、YOSSYFLAMEです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さて、ついに――
ゆかり:ようやくはじまるわけね、2話もかけてやっと。
よっし:どやかましい。
ゆかり:でも、新パートナー、kosekiさんとは意外よね。
        彼、神岸さんのことが好きなんでしょ?
よっし:koseki“さん”?  お前、あの人のことさん付けでなんか呼んでたっけ?
ゆかり:あとがきだから、呼称が半分作者的視点なのよ。あなただってそうでしょう?
よっし:そりゃまあな。で、だ。
        そう。あくまでkosekiさんの第一候補はあかりちゃんであり、
        そしてまた、他に理緒ちゃん萌えがいるんだけどね。軍畑さんとか。
ゆかり:そんな中で、あえてkosekiさんにした理由は?
よっし:まず消去法で考えよう。候補者の中でいくとだな、
        軍畑さんは、L学に入って日が浅く、現時点において理緒との絡みも希薄ということで。
        ここで乱入して入ってくるには、ちょっと不自然かと思って。
        もっとも、予告させていただきまして、次回には確実に出演していただきます。
        軍畑さん、よろしくお願いいたします。
ゆかり:第二購買部部長・beakerさんは?
よっし:くっくっく。あの人は今回、別の役割があるの。
ゆかり:なんだったらあなたがリザーバーとして出ればよかったのに。
よっし:あのな、俺もう負けてんだぞ?  敗者が今更リザーバーだなんて、いくらなんでも。
ゆかり:で、それでどうしてkosekiさんなわけ?
よっし:まず、理緒との関係を数話に渡って形として書き表していること。
        kosekiさんと理緒は、新聞配達のバイト仲間なのです。
        そして、この話を読んでわかるとおり、この役がもっとも似合う人だから。
        最後の一つは……試合でのお楽しみっ!
ゆかり:なるほどね。気弱だけど友達のために勇気を振り絞れる人だものね、kosekiさん。
よっし:そういうことで、いよいよ始まります。第5ブロック代表決定戦!
        koseki、雛山理緒組  vs  T-star-reverse、松原葵組の死闘が!
ゆかり:よろしければ読んでくださいねっ!


最後にkosekiさん。
僕の独断だけでリザーバーとして出演していただきまして、申し訳ありません。
もし許していただけるのならば、精一杯書かせていただきますので、よろしくお願いいたします。