Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第57章 「家族への想いのその果てに」 投稿者:YOSSYFLAME




『長らくお待たせしました!  いよいよ第5ブロック代表決定戦、
koseki、雛山理緒組 vs T-star-reverse、松原葵組――』



「よっしー、お前はどう見る?」
  観客席にふてぶてしく陣取る山浦が、大きな声で質問を投げかけてくる。
「やっぱり松原優位と見るか?  うんうん、気持ちは解るぞ。
  あいつは鍛えがいがあるからなあ、お前が惚れるのもよくわかる。
  なあに隠すな!  わかってるわかってる!
  だが、惚れた女のことを思うのはいいが、物事は公平に見なきゃならん。
  そもそもお前は――」



(あー……っせえなあ、まったく……)
  尚も自分の演説に酔う山浦を置き去りに席を立つYOSSY。
(悪いやっちゃねえんだけど、あの体育会系の説教癖はどーにかならんもんかなあ……)
  頭をポリポリ掻きながら席を探すYOSSYの前に、
「おや、奇遇ですねえ」
「あら、あんたがここにいるのって、結構珍しくないか?」
「フッ………そんなことより、試合が始まりますよ?」






『それでは、koseki、雛山組 vs T-star-reverse、松原組、プレイッ!!』






「はあああっ!!」
  パアアンッ!
  葵のサーブから、この波乱に満ちた試合の火蓋が斬って落とされた。
「やあっ!」
  それを理緒が無難に返し、さらにそれをティーが綺麗に返す。
  静かな出足の様子見は、しかしながらあっさり一段落を見る。
「アウト!  15−0!」
「アウト!  30−0!」
「アウト!  40−0!」
「アウト!  アンドゲーム!  ティー、松原組、1−0!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」
  まだ始まったばかりだというのに、この中で一人肩で息をしているkoseki。
  しかもこの第一セット、この責任失点は全部彼によるもの。
「おいおい大丈夫かぁ?」
「やっぱムリだったんじゃねえか?」
  観客達の無情な声が、彼の疲労に拍車をかける。

「当然の結果ね」
  太田香奈子がぼそりと呟く。
「確かに参加は認められたけど、ゲーム慣れしてない彼。
しかもついさっきまで心の準備すらできていなかった彼。
そんな彼にいきなり激戦の代表決定戦を担わせること自体、無理があるに決まってる」

「それがわかってるからこそ」
  2回戦で自分達を破ったティーを見据えながら、セリスが口を開く。
「それがわかってるからこそ、彼は徹底してkoseki君に狙いを定める。
  鉄壁の理緒チームにぽっかりと空いた穴、彼が見逃すはずはない」



「ゲーム!  ティー、松原組、2−0!」



「かぁ……えっげつねえなあ、ティーの野郎。慣れねえkosekiを徹底狙い撃ちか……」
  買ってきたタコヤキを頬張りながら、友の活躍を見守るYOSSY。
「まあでも、俺らでも同じことするけどな。ただ、アレだ」
  YOSSYの視線の先の、ショートカットの元気少女。
  その仕草はなんとなく、申し訳ないような何かを感じさせる。
「葵ちゃんが果たして納得してるかな?  
まあ、あいつも間違ったことやってるわけじゃないんだけどね……」

  そんなYOSSYの考えも余所に、再び試合は進んでゆく。
  相も変わらずの徹底したkoseki狙いに、3ゲーム目にして彼も完全にグロッキー。
  そしてそれに倣うように……
「ゲーム!  ティー、松原組、3−0!」
  ついにその差は3ゲームに。勝利への黄信号が点灯するも、光明さえもまったく見えず。
「あくっ!」
  ガシャッ!
  完全に満身創痍のkoseki。鋼鉄の鎧も今は、ただのハンデにしかならない。
  そんな彼に理緒は無言のまま近づいて、そして、言ったのだ。

「そろそろ体、あったまった?」
「……ええ、なんとか……!」



「なんだと?」
  仰天の声をあげるYOSSY。
「それじゃ何か?  あいつらはわざわざ3ゲームも犠牲にして、kosekiの練習時間に使っ
ていたっていうのか?」
「その通りです。
全く体を動かしていない彼に、そのまま全力で試合をさせても無闇にリズムが狂うだけ」
  それならば。彼の口が細かく開く。
「いっそ最初から3ゲーム捨てて、思い切って練習に費やしたほうがいいじゃないですか」
「いや……そりゃあ……」
  彼の提案したあまりに突飛な作戦に少なからず面食らうYOSSY。
  言うことはある意味理に適っている。しかし。
  それも対戦相手次第のこと。その作戦、攻撃的で守備がモロいチームならまだなんとかな
るかもしれないが、今闘っている相手は紛れもなく、今大会屈指の守備型チーム・ティー&
葵組ではないか。
「そんなチームに3ゲームもアドバンテージやって、一体どうするつもりよ?」
「YOSSYさんも、まだまだ彼女らの実力を見極めてらっしゃらないようですね」
「なに?」
「ほら、動きますよ」

  わああっ!
  観衆が揺れた、理緒組のあまりに突飛な陣形に。
『こ、これはどういうつもりでしょうか、koseki、雛山組!
なんと、koseki選手が極端にコート隅に寄る格好!  これは……?』
  実況の理奈がその不可解さに震える。
  なんと、さっきまで普通に前後衛を敷いていたkoseki組、なんと、kosekiがラインを踏み
超えた位置に構えている。
  そう、ラインギリギリのボールしか打ち返せないあの位置に。
『これではコートがあまりにも……
……なんと?  雛山選手、コートのど真ん中で悠々と構え出したぁ!?』

「ま、まさか理緒ちゃん?」
「そういうことですよ、YOSSYさん」
  大胆不敵。そう形容するしかない理緒組の陣形。
「もしかして、あの広いダブルスコート、ほとんど全部彼女一人で拾うってのか……?」
  3ゲームものアドバンテージを許しておいて、その上でのさらなる雛山組の奇策。

「彼女は、それほどまでに自らのレシーブに自信を持っているのですね」
  対して、理緒の奇策にも動じず淡々と構えるティー。
「せんぱい……」
「大丈夫ですよ、松原さん」
  あまりにも突飛な理緒組の戦術に戸惑う葵を、彼は優しく力づける。
「あなたの今の力を出せば、自ずと勝ちは見えてきます」
  なんの揺るぎも感じさせず、ティーはそう断言する。

【あなたたちなら絶対にできます。頑張って、勝利を掴んでください】
  試合前の彼の励ましが、今では何より心強い。
(うん。私たち絶対勝つからね!  ――beakerくん!)



「プレイッ!」
  理緒のサーブから試合再開。それとともに例の陣形に移行する二人。
(どうやら、本気みたいですね。なら……)
  躊躇なく、ティーが振り抜く。
(遠慮せず、勝たせていただきます!)

  バシイッ!
「――ほっ!」
  コート隅に飛んでいったティーのショットに、追いつきボールを返す理緒。
  しかしまたしても甘いボールが、今度は葵の目の前に。
「はああああっ!」
  葵の気迫を振り絞ったスマッシュが、今度は逆方向に突き刺さる。

  パアンッ!
「ほっ……と!」
  間一髪、ギリギリで追いつきまたも返す理緒。
  しかし、今度は前衛にボールが。
  ボレーの絶好のチャンスに葵が迷いなく飛び出す!
「せやああっ!」
  気合と共に、体重の乗ったボレーが撃ち放たれるが!
「はいっ!」
  パシンッ!
  またしても理緒の障壁に阻まれるショット。
(……見ると味わうとでは大違い、というやつですか……)
  2回戦で見た理緒の脅威の守備力を、実際味わいその凄さをまざまざと感じ取るティー。
(……なら)
  彼の視線が一点に注がれる。
  koseki。
  理緒の鉄壁の守備を崩すのは無理でも、彼にさえ撃ち込めば……
(敵の弱点を突くのは戦の常道。覚悟していただきます)
  パアアアンッ……!
  ティーのフルスイングショットがライン際、kosekiの真正面に向かい斬り進む!
  さすがに不意をつかれたか、理緒は一歩も動けない!
(よし!)





「ちぇええええぇぇぇぇゃぁぁぁああああああーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
  グワッシャアアアァアア!!





  裂帛の気合と共に凄まじい衝撃が響き、それはコートを激しく叩き上げた。
「イ……イン!  15−0!」

  うあああああああああああああああああああああああっ!!
  不意に静寂から解き放たれた観客の大絶叫。
  彼らはあのショットに震え、凍り、そして沸き立った。
  ライン際で両手でラケットを握り、野球のスイングのように振り回したkosekiの驚愕の、
スーパーパワーショット、まさにそのものに。
「す……すげえぞkosekiぃっ!」
「そんな技持っててなんで出てこなかったんだーーー!?」
「俺はいつかお前はやると思ってたぞぉ!」
  好き勝手な観客の歓声に、それでも照れくさそうに手を振り応えるkoseki。

「なんなんだあの威力は………ありゃジン先輩クラスにも匹敵するぜ……」
「それには理由があるんですよ、YOSSYさん」
「理由?」
  得意そうに眼鏡をしゃくりあげるbeakerの口から、その理由が語られる。
「簡単なことです。余計なことは何も考えず、ただ来た球を思いきり撃ち返す。
それだけを考えて撃たせたなら、彼の力ならあれくらいのショットは十分放てます」
  もうどこからどう見たところで、kosekiは典型的なパワー型。
  そんな彼の特徴に加え、テニスが不慣れ、しかも飛び入り、そしてパートナーが理緒。
  以上の条件をbeakerは分析し、そして導き出した答えはこれ。
“ライン際に立ち一歩も動かず、来たボールだけを思いきり打ち返しなさい”と。
  3ゲームものアドバンテージをわざわざ敵に与え、kosekiを何に慣らせたか。
  それは、“どんなボールが飛んでこようと腕を縮こまらせず、思いきり撃てるように”。

「koseki君」
「あ、理緒さん……」
  理緒に呼びかけられ振り向くkosekiの目の前に、ちょこんと小さい理緒の掌。
「はいたっち♪」
「……!」
  にこにことイタズラっぽく笑う理緒。
  次の瞬間、空にも響くような気持ちのいい音が木霊した。



  形勢は逆転した。
  0−3のビハインドを背負っていたkoseki、理緒組。
  だが精神的には完全に攻守逆転。
  その中でもkosekiの一撃は、予想以上に大きいダメージをティーと葵に与えていた。

  もともと旧雛山組の弱点は、まぎれもなく決定力不足にあった。
  理緒にしても鉄壁、いや驚愕の守備を誇るが、攻撃力はと問われると、これが殆ど皆無。
  だからやりずらくはあったが、前の彼女らに怖さを感じるチームはいなかったのである。
  しかし。
  kosekiの“大砲”は、今までの彼女らのイメージを十分に覆した。
  機動力絡みの闘いは全く不得手のkosekiだが、そんなこと、する必要などない。
  ライン際に立って、ライン際、つまり真正面に来たボールだけ打つ返していればいい。
  そこに打てばポイントを奪られる、という恐怖の先入観、それが敵を縛りつける。
  そして、koseki以上に手強く厄介なのが――

「――はいっ!」
『また捕ったまた捕ったぁ!  雛山選手、縦横無尽の大活躍!
コートの大部分を担い!  しかも2対1で!  信じられない大健闘です!』
  そう。鉄壁の守護神、ミス・パーフェクトこと雛山理緒。
  kosekiがライン際に寄っている分、それ以外の大部分を彼女一人で担い、ティーと葵の二
人の猛攻を、たった一人で、それもほぼ完璧に防ぎ通しているのだから。
「はああっ!」
  たまりかね葵が力を入れて放つが、
「アウト!  koseki、雛山組、2−3!」
  それが力みと化し、アウトポイントを誘発させられ、あと1ゲームと追いつかれる。

「さて、どうしたものでしょうかね」
  しかし、1ゲーム差に追いつかれてもティーはごく淡々としたもの。
「ティーせんぱい……」
「大丈夫ですよ、松原さん」
  葵の背中をポンと叩き、確信に満ちた笑みを見せるティー。
「普段通りやればいいんです。そうすれば、自ずと勝利は転がってきますから」
  ティーには確信があった。
  いかに理緒に驚異的なディフェンス力があろうとも、いつかは必ず息切れする。
  格闘部の、いや、L学屈指のタフネスを誇る自分達二人を相手にして。
  彼女が最後までもつなどありえない、そう確信して。



「はぁ!  はぁ!  はぁ!  はぁ!」
「ふっ!  ふっ!  ふっ!  ふっ!」
  葵と理緒の息が激しくあがる。
  互いの様子見も終わりを告げた第6ゲーム。
  恐るべきスタミナに物言わせるティー組が仕掛けた、持久力合戦。
  とにかく両者守りに比重を置き、粘りに粘り敵の自滅を待つ、まさに蟻地獄デスマッチ。
  しかしそんな状況でも、理緒の動きは衰えを知らない。
  むしろスタミナ勝負を仕掛けたティー組のほうに、徐々に焦りが見えてきた。
(……確かに彼女のスタミナも侮ってはいませんでしたが、それにしても……)
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
(松原さんもかなりバテてきている………どうする……?)
  ティーにとっては、まさに計算外。
  ただでさえ2対1、しかもスタミナなら校内屈指を自負する自分達二人を向こうに回し。
  なのに、なぜ理緒はバテない!?
  ティーの脳裏にちらつく焦燥。このまま初志を貫徹するか、それとも……

「松原さん」
  肩で息をしている葵に小さく、しかし力強く励まし、そして言う。
「勝負をかけましょう。雛山さんの牙城を崩すために」
  勝負をかけ、そして賭ける。
  理緒が潰れるのが先か、自分達がそうなるのが先か。



『おおっ?  ティー、松原両選手、一転しての積極果敢の攻め!!』
  縦横無尽に動き回り、右へ左へ球を打ち込む。
  守備しかできない理緒と違い、攻守ともに粘れる二人。
  その二人の“粘りの攻め”が、理緒を屠るべく動き出す!
「――フッ!」
  気合をむき出しにしてボレーを繰り出すティー。
「はああっ!」
  前衛後衛無関係、縦横無尽に動き回り、気迫篭るショットを放つ葵。
  今大会初めて見せる、積極果敢な攻めのテニス。
  ポイントを守るのではなく取るために。負けぬためにではなく勝つために。
  それなのに。
  そこまでしてるのに。



「なんで?  なんであの娘は崩れないの?!」
  信じられないものを見るかのよう。
  そんな感覚に襲われて、思わず綾香が立ち上がる。
「スタミナなら、タフネスだけなら、私よりもあるあの二人を相手にして………何故?」

「話は簡単よ。
理緒があんたよりも、葵たちよりもスタミナがある。――ただ、それだけの話よ」




「うあああああああああああっ!」
  裂帛の気合を込め、葵の放つ強烈なスマッシュ。しかし!
「よいしょっと!」
  滑り込みながらスマッシュをレシーブで返す!
「くううっ!………あ!」
  ルーズボールをつい打ち損じ、ボールをネットに引っかけてしまい。
「ネット!  40−0!」
「理緒さん、あと一球で同点です!」
  kosekiの声に励まされ、親指を立てて理緒は応える。

「……いきます」
  ボソリ、葵の口が微かに動く。
「全力で、倒します!!」
  息を切らせ肩で呼吸す葵だが、自身を鼓舞し、気合を充電!
「はああああっ!」
  理緒からのサーブにも積極果敢に飛び込む葵。
  まるで、残る全ての力をこのゲームに、このポイントにかけるが如く。
(それで正解です、松原さん)
  葵のフォローに回りながら、ティーはそう思っていた。
(この勢いで同点に追いつかれたら――――この試合、取り返しがつかなくなる!)
「ほっ!」
  それでも破れない理緒の壁。ボールはフラフラとネット際に。
(ここしか、ない!)
  物凄いダッシュで葵が踏み込む!その球に!
(雛山先輩を倒すには………もう、これしかない!!)
  葵が左手にラケットを持ちかえる!右手をそっとラケットに添える!そして――
「はあああぁぁぁーーーーーーっ……………はあああああっっ!!」



  ドンッ!!!



  松原葵の必殺奥の手“崩拳球打”がここに来て遂に炸裂!
  凄まじき破壊力をこめた砲丸が、敵コートを砕かんと――
「え……っ?」
  刹那、葵の面差しに戦慄が走った!










「く、くうううぅぅ……………ぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」










  バシイイィイイッ!!!!!

『か、返したぁ!?
松原選手の渾身必殺の一撃を、雛山選手、真正面から受け、そして返したぁ!!』










  ……返された。
  葵の頭には、既にそれしかなかった。
  ネットの向こうには、吹き飛ばされてひっくりかえっている理緒の姿が。
  その姿さえ、葵にはやけにゆっくりと見える。
  そう。
  吹き飛ばそうが、倒そうが。

『雛山選手に弾かれたボール!  たかぁくたかぁく宙を舞っているーーーーっ!!』

(わたしの崩拳が、破られた――)
  深い、絶望と共に。
  葵の膝がゆっくりと、地に崩れ落ちる。



「決める!」
  落下するボールを見、ティーが覚悟を固める!
(せめて、せめてこれを決めないと――)
  はじめて募る危機感に、彼の五感、神経は究極までに高められる!
(松原さんの崩拳は破られたわけじゃない!  
あれをマトモに食らって、いくら雛山さんでも立てるわけがない!――実証するんだ!)
  松原葵の崩拳、そのものを。
  ティーが大きく振りかぶった、その時!



「こいっ!!!  ティーくんっっ!!!!!」
  雛山理緒が、立っている。熱い闘志を、剥き出しに。










「朝の新聞配達、校内での第二購買部でのアルバイト。そして夜のゲーセンでのバイト。
それだけじゃない。病気の母の看病、まだ幼い弟妹の面倒。まだまだ――」
  坂下好恵の口から紡がれる、理緒の決して目に見えぬ、無数の努力。
「私達格闘家だって、自分自身のために努力を惜しまない。
動機はなんであれ、私達が後ろめたさを感じる必要など、全くない」
  拳を握りしめながら、第二購買部の仲間としての理緒を、好恵は語る。――淡々と。
「あの娘の場合、努力を惜しまないのは家族のため。
そして、そんなあの娘の想いが、今、皮肉な形となって、私達の前に現れている」
「……何が言いたいのよ、好恵」
「あの娘は特別でもなんでもない。でも、葵の崩拳を破ったのだって、私は別に驚かない。
あの娘の、理緒の、家族への想いのその果てが――今、当然の形で現れているのだから」










  理緒の返した球がコートに返ってくる。
  しかし、ティーはその球を追わなかった。
  いや。
  追わなかったのではない。追えなかった。
  限界を超えた足が震え、限界を超えた膝が、無念にも地に着いていたから。
「ゲーム!  koseki、雛山組、3−3!」
  葵には審判の宣告が、試合終了の宣告にも聞こえたことだろう。
  高らかなハイタッチのその響きが、まるで勝利宣言であるかのように。
  スタミナという拠り所を失い、自身の必殺崩拳も破られ、頼みのティーさえ崩れ落ち。
  なにをやっても通用しない。
  小さな身体の想いの果てに、鍛え抜かれた彼女には全てが。

「ごめんなさい……綾香さん……」
  観客席の一点を見上げながら、その膝がまた、静かに地に沈んだ。





















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こんにちは、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さてと、年明け一発目のテニスLでしたが、いかがでしたでしょうか?
ゆかり:今作のコンセプトはやっぱ雛山さん?
よっし:ああ。想いの果てに身につけた、信じがたいほどのスタミナと根性!
ゆかり:それにしても、弱くないとは思ってたけど、ここまでやる?
よっし:やるさ。
        理緒ちゃん、朝から晩まで働いてるんだぜ?  年中無休、家族のために。
        そんな彼女の何処をほじくれば、その強さが否定できるんだ?
ゆかり:……それは解るけど。頑張っているのは彼女だけじゃないでしょう?
        松原さんだって、毎日毎日一生懸命――
よっし:はーい、ストップ。あとは決着編にて!
        理緒のその力を前に、葵はどう立ち向かうか?
ゆかり:次回決着編!  楽しみにしていただければ嬉しいです!