Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第59章 「眼醒めし狼」 投稿者:YOSSYFLAME




『会場のみなさまに連絡です。
第6ブロック代表決定戦、OLH、斎藤組  対  悠、来栖川組の試合が、もう間もなく――』

「「おーーーーーーーーっす!!」」


「どわああっ、何なんだお前らいきなりっ!」
「なんなんだとは失礼な」
「まぐれとはいえせっかくここまで勝ち進んだ仲間の」
「――応援に来て何が悪いというのですか?」
  絶え間なく飛んで来る歓声の雨アラレ。
  ウォーミングアップを終え控室で準備をしていたOLHと斎藤勇希だったのだが、いきなりの
珍客たちにさすがに面食らっていたりもする。
「それにしても、来栖川警備保障総揃いだとはねえ……」
  勇希が嬉しそうに言葉を紡ぐ。
  そう。彼女とOLHの目の前には、まさに警備保障勢揃い。
  Dセリオ、Dマルチ、DガーネットにDボックス。
  へーのき=つかさに森川由綺、榊宗一に霜月祐依、先程勝ち上がったT-star-reverseまで。

「頑張ってください。決勝トーナメントで会えるのを楽しみにしてますよ」
「頑張ってね、二人とも!」
「いやあ……わざわざ悪いなホントに。頑張るよ」

「まあ、まぐれでもなんでも勝ちは勝ちだ!  自信もってけ!」
「そうそう!  よく言うだろ?  “運も実力のうち”って」
「……お前らなあ……」

「――次はさぞかし絶望的な闘いになるかと思いますが、気を落とさないでください」
「せ、セリオさん……建前でも頑張ってくらい言ったほうが……」
「――勝利確率7%………縁起がいい数字がでました。おめでとうございます」
「――オメデトウゴザイマス。オメデトウゴザイマス」
(ポン…ポン…←哀れみを込めて肩を叩くDガーネット)

「………お前ら………お前らみんな――





  ――お前らみんな出ていきやがれえっ!  ダーク・ウィンドオッっ!!」





  ひゅうっ、ばたんっ!

「はー、はー、はー、はー……試合前にいらん体力使わせやがって……」
「ダメじゃないOLH君。せっかくみんなが激励に来てくれたのに」
「……アレをお前は激励と言うんかい」
  窘める勇希に何故か青筋立てて応えるOLH。そして扉の外では。
「ほらぁ、だからやめとけって言ったじゃねえか」
「お前だって怒らせるようなこと言うから。まぐれだの何だのと」
「私と森川先生はちゃんと励ましたんですけど」
「ティー君の場合は綾香さんにも同じこと言ってたけどね」
「――せっかく勝利確率7%と偽証したのですが。13%では縁起が悪いと思ったので」
「――Dマルチさんの優しさをわかってあげられないなんて、困った人ですね」
「そもそも言わないほうがもっと優しかったんじゃないかなぁと。確率下がってるし」
「――シニンニクチナシ、シニンニクチナシ」





「YOSSY君、YOSSY君……」
「んあ?  ……ああ、昂河か。どしたん?」
「……そろそろ試合が始まるから起こしてあげたんだけど、迷惑だった?」
  席にもたれかかって寝息を立てていて、今尚寝ぼけてるYOSSYに呆れたような視線を向け
る、彼の友人の一人、昂河晶。
「ああ、悪い。寝過ごすところだった」
「まあ、試合が始まれば嫌でも起きるだろうけど。隣、いいかな?」
「いちいち断るようなことでもないだろ?」
「じゃ。お邪魔するよ」
  よっ、とYOSSYの隣の席に昂河は静かにつく。
「試合、残念だったね。僕は又聞きで結果聞いたんだけど」
「ああ。まあ飛び入りだとあんなもんだろな。しゃーねーよ。
……ところでお前はどこに負けたんだ?  いや、俺もお前の試合は見てなかったんだけどさ」
  頬を掻きながら問うYOSSYに、悪戯っぽい笑みを浮かべながら昂河はコートを指す。
「綾香と悠んとこか?  まああいつら強いからなあ……」
「違うよ。OLH先輩と勇希先生のチーム」
  静かな笑みを崩さぬまま、柔らかく訂正する昂河。
「……おそらく次の試合、大部分の連中が悠君、綾香さん組の勝利を予想してるだろうね」
「順当に行けばそうだろうな。6ブロック優勝最有力なんだろ?  あいつら」
「うん。……でも僕は、そう簡単に事は進まないと思ってるんだけどね。
確かに強さでは比べるべくもないかもしれないけど、でも、なんとなくそう思うんだ」
  確信に満ちたかのような昂河の微笑。
「まあ、自分が負けた相手を贔屓したくなるのはわかるけどな」
「それもあるけど……まあ、実際闘った僕らにしかわからないかもしれないな」


「お気持ちはわかります。ですが、綾香様のペアは負けることはないかと存じますが」


「なっ……ギャラ先輩!?」
「何時の間に後ろに……」
  突然霧のように背後に現れた神出鬼没の代名詞・薔薇部のギャラ。
  さすがに面食らった二人だが、そんな中、昂河が何故か険悪な視線で彼を見据える。
「……さっきの試合はお見事でしたよ。観戦していていい勉強になりました」
「いやいや、そう言っていただけますと奇術師冥利に尽きますと言うもの。
ですが、まだ何か一物お持ちのご様子。よろしければ私めにも見せていただけたなら……」
「そうですね……」
  ガタッ……
  殺気を隠そうともせず席を立ち、ギャラを見据える昂河。
  ギャラのほうもそんな昂河に臆する素振りすら見せぬまま、彼の視線を軽く受ける。
「おいおいあんたらどうしたん?  ちょっと落ちつかねえか?  なあ、おい」
  この異様な雰囲気に、さすがにYOSSYも仲裁に入る。が。
「あははははっ……!  心配しなくても何もしないよ」
「はあ?」
  途端に殺気を解き、元いた席に再びつく昂河。ギャラを軽く振りかえり
「素人にあれをやったのならまだしも、相手が綾香さんだからね。
格闘家としてしてはならない油断をした、彼女にも非は確かにありますし」
「いやはや……そうおっしゃっていただけたなら、少しは救われます」
  先程までの険悪な雰囲気はどこへやら。目を合わせて笑い合う昂河とギャラ。
「おいおいあんたら、一体なんの話してんだ?」

「なるほどねえ………悪人ですな先輩」
「いやはやこれはこれは。まさかよっしー様に言われるとは思いませんでした」
  YOSSYもやっとその理由がわかり、笑いながらギャラを揶揄する。
「そうそう。綾香様方の勝利が揺るぎ無いと先程申し上げた、その理由ですが……」





『さあ!  いよいよ各ブロック代表決定戦もあと少し!
第6ブロック代表決定戦!  まずはOLH、斎藤勇希組の入場です!』

  実況と共に入場してくるOLH、勇希の二人。
  しかしながらOLH、どこか落ち着きなくきょろきょろしている。
「どうしたのOLH君。さっきからきょろきょろと」
「うーん………笛音とティーナがいないんだよ……」
「そうね。でも、まだどこかで遊んでるんじゃない?  他の初等部の子もいないし」
「だといいんだけどなあ……」
  まだ心配覚めやらぬOLHの肩を、勇希は軽くポンと叩き、
「大丈夫。君が思ってるよりずっと、あの子達はしっかりしてるんだから。
今君がすべきことは、この試合に勝って、笛音ちゃん達を喜ばせてあげること。でしょ?」
「……わかってらい、そんなこと」
  勇希の言葉に乱暴に応えるも、なんだかんだで落ち着く心。


『1回戦は昂河、吉田組を6−4、2回戦きたみち靜、雛山良太組を6−2と
実に危なげなく勝ち進んでいるこのチーム!  しかし!
決勝トーナメント進出への最後の壁が、紛れもなく最大の難関であることは間違いないでしょう!
その最大最強の壁!  悠朔、来栖川綾香組の入場です!』

  うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!
「綾香センパイ頑張ってくださーい!」
「綾香さんまた魅せてくれよ……ぉ……」
「あや、か、せん……」
  学園では現役女優広瀬ゆかり以上の人気を誇る綾香。
  2回戦でも大活躍の学園きってのスーパーガールの入場に一気に歓声が沸きあがる。
  が、その歓声が見る見るうちに萎んでいき、皆たちまち静まり込んでしまう。
  そんな中でYOSSYは、頬の汗一筋かきながらもそう呟く。
「なるほど……ギャラ先輩の言いたいこと、だいたいわかりましたわ」

  圧倒的な威圧感。
  この場にいるだけで屠られそうな、そんな負の威圧感。
  それが綾香のパートナー、悠朔から無慈悲なまでに放たれている。

「いやはや……OLH様方には悪いことをしたと反省しております。
なにせ眠れる狼を、完全に起こしてしまったのでございますから」
  冷や汗を一筋かきながらそう応えるギャラ。隣の昂河も例外なく彼の氣に圧されている。
「そうですね……悠君、2回戦時とは同一人物とは……いや……
……これが悠朔、本当の素顔なのかも。餓狼としての彼の、ね……」

  内なる圧倒的な負の氣を隠そうともせず、OLHと握手を済まし戻る悠。
  その氣に完全に圧倒されているOLHと相手の悠を見、観衆は皆同じことを思う。
  この試合……いや、果たしてこれは試合になるのだろうか、と。



「それでは!
第6ブロック代表決定戦、OLH、斎藤組vs悠、来栖川組――プレイッ!」







  ドンッ!
  ドンッ!
  ドンッ!
  ドンッッッ!!
「げ、ゲーム!  悠、来栖川組、1−0!」

  スパンッ!
  パシイッ!
  ドン!
  パアァンッ!スパアンッ!
「ゲーム!  悠、来栖川組、2−0!」

  パシインッ!
  ドンッ!
  ドンッ!
  ドバアアンッ!
「ゲーム!  悠、来栖川組、3−0!」

  ドンッ!
  パシインッ!
  スパンッ!
  パン!パンッ!
  シュパアアァァァアァアァ………ンッ!
「ゲーーーーーーム!  悠、来栖川組、4−0!」



「おいおい、なんなんだこの試合……」
「OLHと勇希先生だって、全然弱いチームじゃないんだぞ?」
「でもそれを相手にすらしないって……どういう強さだいったい……」

  桁が違う。
  サーブ、レシーブ、ボレー、スマッシュ、運動能力、気迫に至るまで全て。
  当たり前のようにOLH組のコートを切り裂いてゆく豪球の数々。
  そして、当然だと言わんばかりに平然としている悠と綾香。
「もう……もう少し楽しそうにプレイしたらどう?」
「悪いな。これが俺本来の闘い方だからな」
「はいはい、わかったわよ」
  ま、燃える気持ちはわかるけどね、その言葉は敢えて口にせず、綾香自身の胸の中に。
  2回戦、彼が味わった屈辱。
  結果は勝ったとは言え、彼にとってはとてもそれで済ませられるような内容の試合ではなかっ
ただろう。
  何より想ってくれているであろう自分の身を――
(ま、ここはあいつの好きにやらせとこっと)



「うーん……ここまで一方的とはねえ……」
  観客席の通路。
  敵情視察に来たハイドラントとEDGEの神威のSSコンビが困ったように呟いて。
「これじゃ偵察の意味がないじゃない。もう少し頑張ってくれないかなあ、勇希先生達」
  うぬぬと唸るEDGEを余所に、ハイドラントは黙ったままこの試合を観ている。
  悠を、綾香を、そして――
「おっ、あんたらも偵察か。案外マメだな」
  そんな神威コンビに声をかける菅生誠治、柏木梓組と、松原葵、ティー組。
  2組とも決勝トーナメント進出を既に決めており、余裕の観戦と言ったところか。
「どれどれ……おっ、圧勝じゃん!  さすが綾香!」
「ホント……やっぱり綾香さんは強いです……」
  スコアボードをチラと見て、その圧倒劇に盛り上がる梓と葵。
「綾香ーーーーーーっ!  調子いいじゃないかぁ!」
「綾香さーーーんっ!  頑張ってくださいーーーっ!」
  綾香に激励を投げかける二人、そしてそれに手を振り応える綾香。
  そしてこれをキッカケに、妙な雰囲気に包まれていた会場も、一気に盛り上がりを加速させ
ていく。
「いいぞぉ綾香さん!」
「綾香センパイ、ガンバでーーーすっ!」
「一気に決めて、スカっとさせてくれよなーーーーっ!」



「OLHぃっ!  お前まだ寝てんじゃないだろうな!」
「いつまであんなスカしたコンビに好き放題やられてんだお前はぁっ!」
  しかし、それは綾香サイドのみならず。
  むしろ完全に圧倒されていたOLHサイドにも反攻の炎を灯す結果に。
「う、うるせえやい!  いいから黙って見てろお前らっ!」
「お前そういうことゆーか!」
「せっかく応援してやってんのによ!」
  警備保障の連中のみならずクラスの友人達にも手荒な声援をぶつけられるOLH。
  憎まれ口は叩くものの、明らかに彼の表情に生気が戻ってきている。

「いい友達、たくさんいるじゃない」
「……あーゆーのを世間ではいい友達って言うのか?」
「まったくもう、照れ屋なんだから君は」
  バツ悪く頬を掻くOLHに、勇希は笑って肘でつつく。
「さてと、そろそろ反撃しよっか?  やられっぱなしもシャクだしね」
「めずらしくお前と意見があったな、勇希」
  ニッと笑みを浮かべる勇希に、OLHもまた不敵に応える。



  ドンッッッ!
  唸りを上げ襲いくる悠のサーブ。ファーストゲームではオールサービスエースを許したが……
「馬鹿じゃあるまいしそんなのがいつまでも通じるかぁ!」
  パアンッ!
  今度はキッチリ見切って返す、しかしそのリターンを綾香に狙われる。
「ハアッ!」
  綾香のキレるストロークショット。しかし。
「せやあっ!」
  勇希が回り込み返すも悠のストロークに返される、その弾道がOLHと勇希の間を切り裂く!
「いくよっOLH君!」
「ほいさあっ!」



「「喰らええぇっ!  ツイン・ビームっ!!!」」



『出たああっ!  OLH、勇希組必殺、ショット同時打ちツインビームッ!!
その脅威の破壊球が、唸りを上げて悠選手に襲いかかるーーーーーーーっ!』
  実況を裏付けるかのような二人の放った破壊球が悠めがけて放たれる!
  しかし悠、表情一つ変えぬまま、その場を動きすらしない!

「無駄だっ!
あの息の合った二人が放つツインビーム、1+1=2なんて単純計算じゃない!
そこらの剛球とは全然違う!  いくら悠君でも返せるものか!」
  かつてやられた経験があるだけに、確信を持った口調で昂河が叫ぶ。
  OLHと斎藤勇希、二人の打撃力の和を遥かに超えた破壊球、それが必殺ツインビーム。
  しかし悠は動かない。まるで絶対の確信を持つかのごとく。
「絶対無理だ!  例え誰でもね!」
  その時、悠が動いた!



「その技は一度見た!!  ――封神流武闘術・真空烈破!!!」



  刹那、可視できぬほどの速度でラケットを駆使し無尽蔵に空を斬る悠!
  球の軌道の先目掛けて無数の衝撃波をぶつけるために!
「なっ!……その手があったか!」
  悠の技に昂河が咆える。
  無数の真空波をぶつけることでツインビームの勢いを殺し!
  だがそれでもツインビームは止まらず!だが!
「任せたぞ綾香ぁ!」

  シュパアアアァァァアアンッ!!
  咆えると共に一瞬で、ボールを真上に打ち上げる!
  僅かながら威力残る球が後方に流されるが、それも全て計算内!
「ゆーさく上等!!」
  ッパアアアァァァァァアンッ!
  綾香の咆哮の一撃が、OLH組のコートを割り裂いた。



「ツインビームさえも返されるとはな……じゃあ、これならどうだ!」
  それでもめげぬOLH。積極的に前に出る!
  しかし、綾香のロブがその彼の頭上を遥かに越える。
  ググッ……
  待っていましたとばかりに、勇希が力をこめかける!
「いっけええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
  パアアアン!

  勇希の渾身の一撃はしかしながらミスショット!しかもOLHに直撃の!その時!
  ――フッ!
  見切っていたかのように身をかがめるOLH!しかも同時にボールにフックが!
(これならどうだ!  勇希の変化球と俺のブラインドの二重のトラップ!
  俺達の秘密兵器“フェイクブラインド”!  初めて食らって返せるもの――

  ――なにぃっ!?)







  自信に満ちたOLHの眼前に飛び込んできたもの。
  撃ち放たれた勇希のショットが、悠に返されたその証――







「ゲーーーーーーーム!  悠、来栖川組、5−0!」
  勝負あり。誰もがそう確信した。
  スコアもさることながら、ツインビーム、そしてフェイクブラインド。
  OLHと勇希が自信を持って繰り出した技の数々さえも、完膚なきに破られたのであるから。

「綾香」
「綾香さん……」
  コートチェンジ、その時下に降りて綾香に梓と葵が声を。
「あと1ゲームだな、油断するなよ!」
「綾香さん、頑張ってください!」
  梓と葵の激励に、ウインクしながら綾香は言った。
「決勝トーナメント、私達の対策でも練ってなさいよ♪」

「……綾香。まだ勝ったわけでもなんでもないんだぞ」
  浮かれる綾香に悠が釘を刺す。
「主審から勝利宣告されるまでは絶対気を抜くな。まだ俺達は勝っていないんだ」
「はいはい、そうでした……っと」
  再度未決着を強調する悠に仰々しく肩を竦める綾香。
  ……しかしその瞳、女王の気迫。



「さて、どうするOLH君?」
  対照的に打つ手無し。全ての手段を封じられ、八方塞りのOLH&勇希。
  油断なき悠と綾香がネットの向こうで気を滾らせる。自分らにトドメを刺すために。
「まいったよな……まるで決められる気がしねえ……」
  何処に打っても返される。悠と綾香の気迫がつい、弱気の虫を起こさせる。
「OLH君!  笛音ちゃんとティーナちゃんに温泉旅行プレゼントするんでしょ!?
だったら頑張りなさいよ!  まだ私達は負けたわけじゃないんだから!」





「お兄ちゃん、がんばって!」
「ボク達の愛のためにも、絶対勝ってくれるんでしょ!」





「え……?」
  勇希の檄の後の思わぬ声に、OLHの身が固まる。
  彼が聞き間違えるわけも無い。忘れるわけなど絶対無い。大切な、大切な声。
「笛音………ティーナ………」
「お兄ちゃん、こっちきて!」
  笛音の呼びかけに応えるままに、とことこと歩を進めるOLHの首に

  ……ふわっ……

「たんぽぽの首飾り……?」
「お兄ちゃんがかてますようにって、おいのりしながらつくったの!」
「ボクもお兄ちゃんのために作ったんだよ!  はいっ!」
  笛音とティーナの贈り物。たんぽぽの首飾りがOLHの首で健気に咲く。
  まるで、今の彼を力一杯励ましてくれているかのように。








「……本当に、本当に心を込めて作ったんですよ。笛音ちゃんとティーナちゃん」








「ことね、ちゃん……?」
  OLHは自分の目の前の光景が俄かに信じられなかった。
  自分が慕ってやまなかった。
  その陽射しに照らされることをずっと夢見てやまなかった、彼にとっての太陽・姫川琴音。
  その彼女が、今は自分のために。
  自分だけのために、暖かき陽射しと言う名の笑顔を向けてくれている。
「ですから頑張ってください、OLHさん。笛音ちゃんとティーナちゃんのために。
……そして、あなたたちを一生懸命に応援してくれる、初等部の子たちのために」
「初等部……」
「どうやらみんながいなかったのは、これを作ってくれたからみたいね」
「勇希……」
  振り返り見たパートナーの姿。彼女の首にもかけられてるたんぽぽの首飾り。
  それだけじゃない。初等部のみんなが作ったそれが、彼らのベンチにも健気に咲く。
  そして目に入る、靜に良太、木神木風、てぃーくんの姿まで。

「琴音ちゃん」
「はい?」
  OLHは、この場でもうひとつだけ確かめたいことがあった。
  初等部のみんなからの気持ちは、痛すぎるほど伝わった。
  笛音とティーナからの気持ちなど、今更言うまでもないだろう。
  そんな中、彼は最後に確認したかった。
  恋人として、想い人として、なんて贅沢な付加は今は期待していない。
  ただ、ただこれだけは聞いておきたかった。
「君は、笛音とティーナのためにも俺に頑張ってくれ、そう言ったね」
「はい……」
  テニス大会という非日常ならではの行為なのか。
  その中で見せてくれた、琴音の笑顔に突き動かされたのか。
「君は、どう思ってくれてる?  あくまで笛音たちの付き添いなのか。
……それとも君として、琴音ちゃんとして、俺のことを応援してくれるのかい?」
  琴音の瞳を真っ直ぐ見つめて、OLHははっきりと。
「わたしは………わたしは……」
  顔を真っ赤に染めるのはまだ初心な彼女の癖なのか。
  目線を彼の靴に合わせ、OLHにだけ聞こえる小声で、それでも琴音はハッキリ言った。








「わたしは……わたしは………OLHさんに……がんばって、ほしい、です……」












  ぷち。









「ぷち?」
  どこからか何かがキレた音を、勇希は確かに耳にした。
「ククク……ククククク………ククククククククッ…………!」
「……OLH君?」
  拳震え、脚震え、全身を震わせながら不気味な含み笑いを浮かべるパートナーに、勇希が声を
かけようとした、まさにその時。
「勇希いぃっ!!」
「なっ!何っ!?」
「……勝つ」
「へっ?」
「この試合絶対に勝つぞ!  勇希っ!!」
  もはや敵無し、完全にイッちゃってる面差しで、OLHはコートに飛び出した。

「……ちょっとは元気が戻るかとは思ってたけど、まさかここまでとはねぇ」
「ごめんなさい……やっぱりまずかったでしょうか……」
「あー大丈夫大丈夫、アレの扱いは慣れてるから。……それより琴音ちゃん」
「はい?」
  OLHの舞い上がりぶりに戸惑う琴音に、手をパタパタさせて大丈夫と勇希。
  そっと琴音の耳に口寄せ、ささやくようにそう言った。
「あーゆーヤツだけど、これからもよろしくね?」








「なんかこのまま勝っちゃったら、私達悪役になっちゃいそうだけどね。
でも勝負は勝負。遠慮はしないわよ先輩。――勝つのはあくまで私達ってコトで!」
  ビシッとOLHにラケットを突きつけ、不敵に綾香は言い放つ。
  そんな彼女に投げ返す、OLHの不敵な笑み。
  笛音とティーナ、そして琴音の気持ちが詰まった首飾りを、そっと優しく愛でながら。

(さぁて、どうひっくり返しましょうかねぇ)
  ニンマリと浮かべる勇希スマイル。そんな彼を楽しげに見つめて。






















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こんにちは、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さて、始まりました第6ブロック代表決定戦、OLH組vs悠組が!
ゆかり:あいもかわらず見事にぶっ飛んだ展開ね。
よっし:これはもう書いてるクセだからなあ……
ゆかり:ところでさ。よっしー
よっし:ん?
ゆかり:最後の姫川さんのセリフ、書いてて恥ずかしくならなかった?
よっし:……………(本日の営業は終了いたしました)

ゆかり:さて次回決着!
        果たしてこの混迷の闘いの決着は?
        よろしければ読んでくだされば嬉しいです!