『いよいよ大詰めに差し掛かってきました、第6ブロック代表決定戦! なんとなんと、悠朔、来栖川綾香組が強い強い! 圧倒的な強さで瞬く間に5ゲーム奪取! さあ! OLH、勇希組、せめて一矢報いれるか、いや、奇跡の大逆転勝利なるか? はたまた悠、綾香組が、その凄絶なる力見せつけるか!――――正念場です!!』 (……現在5−0、普通に行けばまず負けることはない) 1ゲームでも取れば勝利の圧倒的大差をつけながら、それでも悠は念を入れる。 (この状況でもし逆転負けということが起こり得るならば、その条件は……) 一片でも残る不安材料をも掃除すべく、あらゆる可能性を巡らせ、そして。 「綾香」 パートナー綾香に耳打ちをする。 「殺人球だけは気を付けておけ。万が一ということが有り得るからな」 「わかってるわよ。2回戦、身を持って味わったからね。――二度も同じ轍を踏むものですか」 「……それでいい」 いつもの彼の素振りのまま彼女から離れ、そして敵を捕捉する。 (そして、殺人球が来るとしたら………アレしかない) 「ククククク……フフフフフ………ハァ〜ッハッハッハッハッハァ!!」 ごんっ。 「いつまで不気味な笑い方してんのよ、君は」 対する窮地のOLH、勇希組だが、現在一人ほどコートに叩き臥せられている模様。 「大丈夫だ勇希、今の俺に死角はない!」 「……死角だらけにしたげようか?」 「…………わかったから妙な構えでラケットを持つなっ」 「わかってくれればいいんだけど」 ふうとため息をつきながらさりげに牙突の構えを解く勇希。 「まったく。 笛音ちゃんやティーナちゃん、それに琴音ちゃんの応援もらえたからって、浮かれすぎよ君。 結局私達が圧倒的劣勢で、1ゲームでも取られたらその時点で負けって状況は、なんにも変わっ てないんだから」 腰に手をやり教える勇希だが、OLHの態度は依然変わらず。 いい加減拳を振り上げかける彼女の耳に、その時囁く彼の声。 「……本気なの?」 勇希の振りに、彼は唇を歪め応える。 双方の思惑深く絡んだ、第6ゲームが火蓋を切った。 と同時に、観衆が僅かにどよめきを見せる。 『おっと? OLH、斎藤両選手、ここにきて消極的になったか?』 理奈の指摘通り、OLHと勇希、共にただボールを後方に返しているだけ。 無理はしないといえばそれまでだが、しかしそれにしても消極的。 (フン……) しかしそんな中、悠一人は鼻でそれを笑う。 (魂胆が見え見えだ………綾香) スパアァン! 唐突に放つ綾香のストローク。リーチに着実に近づくべく、2人の間を切り裂きかけるが。 「よぉしきたあ!」 「気が進まないけど仕方ない!」 OLH、勇希両者、中央に猛ダッシュ! そう!この体勢は! 「「行っけええええぇぇえっ!! ツインビーーーーーーーーーーーームッ!!!」」 『行ったあ! OLH&勇希必殺ツインビームが、今度は綾香選手を襲うぅ!!』 唸りを上げて飛び交うツインビームが、綾香の真正面に迫り来る! しかし綾香は動かない! 悠すらも何も動きもしない! 「馬鹿な!確かに悠君は出来たが、綾香さんがあれをどうやって捕ろうっていうんだ!?」 並みの腕力じゃ到底歯が立たぬ殺人球ツインビーム。 しかし綾香、悠然とバックスイングに入る! 「――覚えておきなさい! 私に全ての力技は、一切通用しないってことをね!」 咆哮と共に、綾香はラケットを振り切る!そして! ッパアアアアアァァァアア………ンッ!! 破裂したかのような衝撃音がコートに響くと共に、OLH側のそれに朦朦と土煙。 「イン! 0−15!」 わああああああああああああっ! 沸き立つ観衆。それも当然。 『な、なんと来栖川選手……超殺人球ツインビームを軽々と返しきったぁ!』 「……全ての力の流れさえ読みきれば、どんな豪球も私の前では無力と化す。 殺人球と呼ばれているツインビームといえども同じ。私に力技は………通用しない!」 悠には防がれても綾香には防がれはしまい。 そう思って自分に標的を定めて繰り出してきたんだろうが、と綾香は勝ち誇る。 「どう? これでもまだ、あなたたちに打つ手はある?」 容赦なく綾香は浴びせ掛ける。勝者の威圧と言うべき気迫を。 「よっしゃあああ!」 「あと3球です!綾香さん!」 観客席から飛ぶ梓や葵の歓声に、綾香は手を振りそれに応える。 「……まさに、天才ね」 「…………」 「よもやテニスにまで、合気の理を用いれるとはね」 偵察部隊・EDGEもまた、綾香の今更ながらの実力に目を細める。 しかし、パートナーのハイドラントのその視線は…… 「――師匠。ヤツの異名、“子煩悩幼女重婚者”以外に御存知ですか?」 「……え?」 「あと3球! あと3球! あと3球! あと3球!」 「せやあっ!」 あと3球コールがコート中を包む中、OLHのサーブからのゲーム再開。 しかしここにきてジリ貧を選んだのか、OLHと勇希の攻撃がますます精彩を欠いてきた。 『またロブだ。負けたくないのはわかるけれど、これはあまりに消極的だぞOLH組?』 「いい加減逃げるなよなあ!」 「男だったら散り際くらい潔く散れよ!」 会場からもそのあまりに消極的なそのプレイにブーイングが飛びかってくる。 それでも、それでもOLHと勇希は涼しい顔。 会場の野次などどこ吹く風。 二人して後方に下がり、ボレーのみ打ち続け悠組を前に出させない。 (何を考えてるんだ、一体) 敵の悠朔も、OLH組の不可解な、無駄に時間を延ばしてるとしか思えない行為に疑問符を。 実際彼らが勝つとすれば、玉砕覚悟の殺人球ノックアウトしか残されていないはず。 時間稼ぎで粘ったところで、短期決戦でも長期戦でも、分は自分と綾香にある。 「アウト! 15−40、マッチポイント!」 「あと1球! あと1球! あと1球! あと1球!」 そうこうしているうちにOLHの処理ミスでついにマッチポイントに。 いよいよあと1球と迫られ、OLHの額にも汗が浮かぶ。 「――まあ、こんなものでしょうね」 「せ、セリオさん……」 警備保障の応援団も、この展開に声もなく。 「やっぱり来栖川と悠は強かった、か……」 嘆息の霜月祐依のその横でただ一人。榊宗一が無言でコートを見つめていた。 『おおっと!? 最後の意地か!? 最後の最後のツインビームを、OLH組砲撃準備!!』 消極的なラリーから再び一転。既に破られたツインビームを、敢えて撃たんとすOLH組! 「でも……」 疑問符溢れた昂河の呟き。 「何か策はあるのか………もう、ツインビームは通用は………」 『これが、これがラストラリーになるか!? さあ、出るか必殺――――』 「「ツイン・ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーームっ!!!……… ー――っしまったあ!」 撃ちしぎわ響いた0LH無念の咆哮。 二人が放ちし渾身のコンビネーションショット・ツインビーム。 しかしその砲弾が、ここにきての。 コントロール・ミス。 その最後の断末魔が、今、高く大空に――― 「綾香あああぁぁああっ!!!」 「!!」 『な――』 「つ……」 (ツインビームが、急降下―――!?) 勝った。 あの一瞬綾香は思った。 いや、悠でさえもそう思っただろう。 その一瞬。 その一瞬、死んだかに見えた球は、唸りをあげ綾香の頭に食らいついてきた―― 「ち――!」 綾香が迎え撃つ。 腕を高く高く振り上げ。 敵の最後の執念、最後の希望を断ち切るべくその右腕を―― 「これで終わりよ!!!」 ッパアアアアアァァァァアアアアアアアアアンンンンッッッ!!! 【――師匠。ヤツの異名…… “子煩悩幼女重婚者”以外に御存知ですか?】 【え?】 綾香の腕が、いかなる力にも屈しない技持つ腕が今―― 「……“一話一殺”のOLH……」 ビキ………ッ…! 「……悪い。腕、もらっとくな」 「あ、綾香さん、綾香さん……?」 「綾香……? 綾香ああああああああああああああああああああっ!!!!!」 ――To Be Continued.