Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第60章 「もうひとつの異名」 投稿者:YOSSYFLAME




『いよいよ大詰めに差し掛かってきました、第6ブロック代表決定戦!
なんとなんと、悠朔、来栖川綾香組が強い強い!  圧倒的な強さで瞬く間に5ゲーム奪取!
さあ!  OLH、勇希組、せめて一矢報いれるか、いや、奇跡の大逆転勝利なるか?
はたまた悠、綾香組が、その凄絶なる力見せつけるか!――――正念場です!!』



(……現在5−0、普通に行けばまず負けることはない)
  1ゲームでも取れば勝利の圧倒的大差をつけながら、それでも悠は念を入れる。
(この状況でもし逆転負けということが起こり得るならば、その条件は……)
  一片でも残る不安材料をも掃除すべく、あらゆる可能性を巡らせ、そして。
「綾香」
  パートナー綾香に耳打ちをする。
「殺人球だけは気を付けておけ。万が一ということが有り得るからな」
「わかってるわよ。2回戦、身を持って味わったからね。――二度も同じ轍を踏むものですか」
「……それでいい」
  いつもの彼の素振りのまま彼女から離れ、そして敵を捕捉する。
(そして、殺人球が来るとしたら………アレしかない)



「ククククク……フフフフフ………ハァ〜ッハッハッハッハッハァ!!」
  ごんっ。
「いつまで不気味な笑い方してんのよ、君は」
  対する窮地のOLH、勇希組だが、現在一人ほどコートに叩き臥せられている模様。
「大丈夫だ勇希、今の俺に死角はない!」
「……死角だらけにしたげようか?」
「…………わかったから妙な構えでラケットを持つなっ」
「わかってくれればいいんだけど」
  ふうとため息をつきながらさりげに牙突の構えを解く勇希。
「まったく。
笛音ちゃんやティーナちゃん、それに琴音ちゃんの応援もらえたからって、浮かれすぎよ君。
結局私達が圧倒的劣勢で、1ゲームでも取られたらその時点で負けって状況は、なんにも変わっ
てないんだから」
  腰に手をやり教える勇希だが、OLHの態度は依然変わらず。
  いい加減拳を振り上げかける彼女の耳に、その時囁く彼の声。
「……本気なの?」
  勇希の振りに、彼は唇を歪め応える。





  双方の思惑深く絡んだ、第6ゲームが火蓋を切った。
  と同時に、観衆が僅かにどよめきを見せる。
『おっと?  OLH、斎藤両選手、ここにきて消極的になったか?』
  理奈の指摘通り、OLHと勇希、共にただボールを後方に返しているだけ。
  無理はしないといえばそれまでだが、しかしそれにしても消極的。
(フン……)
  しかしそんな中、悠一人は鼻でそれを笑う。
(魂胆が見え見えだ………綾香)

  スパアァン!
  唐突に放つ綾香のストローク。リーチに着実に近づくべく、2人の間を切り裂きかけるが。
「よぉしきたあ!」
「気が進まないけど仕方ない!」
  OLH、勇希両者、中央に猛ダッシュ!  そう!この体勢は!



「「行っけええええぇぇえっ!!  ツインビーーーーーーーーーーーームッ!!!」」



『行ったあ!  OLH&勇希必殺ツインビームが、今度は綾香選手を襲うぅ!!』
  唸りを上げて飛び交うツインビームが、綾香の真正面に迫り来る!
  しかし綾香は動かない!
  悠すらも何も動きもしない!
「馬鹿な!確かに悠君は出来たが、綾香さんがあれをどうやって捕ろうっていうんだ!?」
  並みの腕力じゃ到底歯が立たぬ殺人球ツインビーム。
  しかし綾香、悠然とバックスイングに入る!
「――覚えておきなさい!  私に全ての力技は、一切通用しないってことをね!」
  咆哮と共に、綾香はラケットを振り切る!そして!



  ッパアアアアアァァァアア………ンッ!!



  破裂したかのような衝撃音がコートに響くと共に、OLH側のそれに朦朦と土煙。
「イン!  0−15!」
  わああああああああああああっ!
  沸き立つ観衆。それも当然。
『な、なんと来栖川選手……超殺人球ツインビームを軽々と返しきったぁ!』

「……全ての力の流れさえ読みきれば、どんな豪球も私の前では無力と化す。
殺人球と呼ばれているツインビームといえども同じ。私に力技は………通用しない!」
  悠には防がれても綾香には防がれはしまい。
  そう思って自分に標的を定めて繰り出してきたんだろうが、と綾香は勝ち誇る。
「どう?  これでもまだ、あなたたちに打つ手はある?」
  容赦なく綾香は浴びせ掛ける。勝者の威圧と言うべき気迫を。
「よっしゃあああ!」
「あと3球です!綾香さん!」
  観客席から飛ぶ梓や葵の歓声に、綾香は手を振りそれに応える。

「……まさに、天才ね」
「…………」
「よもやテニスにまで、合気の理を用いれるとはね」
  偵察部隊・EDGEもまた、綾香の今更ながらの実力に目を細める。
  しかし、パートナーのハイドラントのその視線は……

「――師匠。ヤツの異名、“子煩悩幼女重婚者”以外に御存知ですか?」
「……え?」



「あと3球!  あと3球!  あと3球!  あと3球!」
「せやあっ!」
  あと3球コールがコート中を包む中、OLHのサーブからのゲーム再開。
  しかしここにきてジリ貧を選んだのか、OLHと勇希の攻撃がますます精彩を欠いてきた。
『またロブだ。負けたくないのはわかるけれど、これはあまりに消極的だぞOLH組?』
「いい加減逃げるなよなあ!」
「男だったら散り際くらい潔く散れよ!」
  会場からもそのあまりに消極的なそのプレイにブーイングが飛びかってくる。
  それでも、それでもOLHと勇希は涼しい顔。
  会場の野次などどこ吹く風。
  二人して後方に下がり、ボレーのみ打ち続け悠組を前に出させない。

(何を考えてるんだ、一体)
  敵の悠朔も、OLH組の不可解な、無駄に時間を延ばしてるとしか思えない行為に疑問符を。
  実際彼らが勝つとすれば、玉砕覚悟の殺人球ノックアウトしか残されていないはず。
  時間稼ぎで粘ったところで、短期決戦でも長期戦でも、分は自分と綾香にある。
「アウト!  15−40、マッチポイント!」
「あと1球!  あと1球!  あと1球!  あと1球!」
  そうこうしているうちにOLHの処理ミスでついにマッチポイントに。
  いよいよあと1球と迫られ、OLHの額にも汗が浮かぶ。

「――まあ、こんなものでしょうね」
「せ、セリオさん……」
  警備保障の応援団も、この展開に声もなく。
「やっぱり来栖川と悠は強かった、か……」
  嘆息の霜月祐依のその横でただ一人。榊宗一が無言でコートを見つめていた。



『おおっと!?  最後の意地か!?  
最後の最後のツインビームを、OLH組砲撃準備!!』



  消極的なラリーから再び一転。既に破られたツインビームを、敢えて撃たんとすOLH組!
「でも……」
  疑問符溢れた昂河の呟き。
「何か策はあるのか………もう、ツインビームは通用は………」

『これが、これがラストラリーになるか!?  さあ、出るか必殺――――』









「「ツイン・ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーームっ!!!………

ー――っしまったあ!」










  撃ちしぎわ響いた0LH無念の咆哮。

  二人が放ちし渾身のコンビネーションショット・ツインビーム。
  しかしその砲弾が、ここにきての。

  コントロール・ミス。 
  その最後の断末魔が、今、高く大空に―――










「綾香あああぁぁああっ!!!」
「!!」
『な――』
「つ……」



(ツインビームが、急降下―――!?)



  勝った。
  あの一瞬綾香は思った。
  いや、悠でさえもそう思っただろう。
  その一瞬。
  その一瞬、死んだかに見えた球は、唸りをあげ綾香の頭に食らいついてきた――

「ち――!」
  綾香が迎え撃つ。
  腕を高く高く振り上げ。
  敵の最後の執念、最後の希望を断ち切るべくその右腕を――
「これで終わりよ!!!」

ッパアアアアアァァァァアアアアアアアアアンンンンッッッ!!!










                                            【――師匠。ヤツの異名……
                                             “子煩悩幼女重婚者”以外に御存知ですか?】
                                            【え?】










綾香の腕が、いかなる力にも屈しない技持つ腕が今――










                                                       「……“一話一殺”のOLH……」










  ビキ………ッ…!

「……悪い。腕、もらっとくな」




















「あ、綾香さん、綾香さん……?」
「綾香……?  綾香ああああああああああああああああああああっ!!!!!」




                                                                   ――To Be Continued.