『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第十六話 〜strenge destinies〜 投稿者:YOSSYFLAME




「とにかく、行ってみるしかないだろう」
  柏木楓を伴って、考えを脳裏に巡らせながら、西山英志は歩いていた。

  先程の月島瑠香からの校内放送。
現在生き残っているヒロインの為に、時間制限ありながらも豪勢な食事を用意すると
いうその内容は、ヒロインのみならず参加者全員に少なからず影響を与えていた。
(確かに楓の言う通り、先程の闘いで我々の消耗も激しい)
  学園屈指の強豪と目される西山英志を擁する柏木楓とて、それは例外ではなかった。
  つい先程狙われたばかり、しかも楓も西山も、初期段階にしては予想外の体力とそし
て、精神力の消耗を強いられていたのである。
「私は……大丈夫です」
  そうは言ってはいるものの、西山から見て、この厳しい闘いの序盤に絡まれた楓の消
耗は、彼女が思っている以上のものであろう。
  そして、校内放送にはもう一つの利点があった。
“互いの情報交換”という舞台が、この食事の場ということで見事にしつらえているの
  である。脱落者や現在の動向もおぼろげながらわかるかもしれない。
  時間は長い。得られる情報を得ておいて間違いはない。そう考えて、敢えて暗躍の手
に乗ってみることにしたのである。
(仮にどのような策を弄しようとも、楓だけは必ず守る)
  最悪の可能性を、想定しながらも。










『どよめけ!  ミスLeaf学園コンテスト』 第十六話  〜strenge destinies〜










「あ……こんにちは……」
「ん」
  学生食堂の前に来た楓と西山の前で一人佇んでいるは、L学体育教師・河島はるか。
「先生?  何をされてるんですか?」
「待ってるんだ」
「誰を?」
「友達を」
  相も変わらずシンプルなやり取りの間にくいっとはるかが目線を向けたところにいた、
見慣れない、中性的なボーイッシュな少女。
「河島先生は、一緒に召し上がらないんですか?」
「ヒロイン以外入っちゃダメだっていうから」
  楓の問いに答えるはるか。
「そうですか………どうする、楓?」
「……入ることにします。他にも召し上がっている人もいますし」
  実は知る人ぞ知る、割と美食に目がない楓の意外な一面。
  そんな可愛い一面を知るものは、西山を含めまだ数人しかいないのが残念だが。
  それはそれとして、確かに楓の言う通り数名の女生徒――西山も楓も知っている、岡
田、吉井、松本の一派――もワイワイ騒ぎながら美食をつつき味わっている。
  河島はるかの友人というボーイッシュ少女も、その輪から多少離れたところで黙々と
食を進めている。とても闘いの場とは思えない、和やかな雰囲気が食堂を包む。
  少なくともこの状況において、罠があるとは思えない。
「それに……」
  僅かに面差しを染めながら楓は言葉を投げかけ。
  そして、西山を真っ直ぐに、何かを託すように見上げ、そして食堂に入っていく。
(楓………)

“それに……英志さんが守ってくれますから”

  瞳でそう語られて、西山の拳にも力が入る。



「む?」
  周囲をくまなく見回していた西山の目に、一人の男の姿が映る。
  この大会においての“無党派層”。つまり何処に属するでもなく、ただ女子の素肌を
見たいがために、この大会に参加してきた、いわゆる無頼の一人。
  YOSSYFLAME。
  見たところたった一人のようだが、こまめに食堂を遠くから覗き込んでいる。
(フン……)
  食堂はエントリーヒロイン以外入場禁止のはず。傍らに佇むはるかが証。
  それならば。ヒロインの出際を狙っているのだろう。ハイエナが考えそうなことだ。
  そのハイエナと目が合う西山。
  露骨に敵意に満ちた目で睨むYOSSYに、西山も無言の圧力を食らわせ。
  どんなことがあっても楓にだけは手を出させない。
  YOSSYのみに対してならず、その周囲一帯にさえ、不敗の虎の気迫が響く。










  ビリビリビリビリィ――ッ!
「キャアァ………ッ!」










「楓ええええええええええええぇぇぇぇぇぇええええええええええっ!!!!」

  ドガアアアアアアッッ!!
  もはや反射そのものだった。
  愛する人の、絹裂くような悲鳴を耳にした時には既に、西山は食堂に殴り込んでいた。
  その彼の目に入ったもの。
  無残に破られた特注の制服。
  純白のビキニと肌を衆目に晒し、恥じらいに肌を桃色に染め、身を縮こまらせて蹲る、
彼にとってかけがえのない大切な女性のあられもない姿。
  そして――
  口元を任務達成の笑みに歪め、してやったりと投げかける、あのはるかの友人だった、
ボーイッシュな少女、もとい女性。エントリーヒロイン――――風見鈴香。



「貴様あああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
  西山にとって、それが女だろうと関係ない。
  楓の道を阻んだ彼女を、黙って帰せるはずがあろうか。
  彼奴にも同じ奈落の道を。
  怒りで暴走した西山の牙が――



  ――だが、西山のその牙が、鈴香の服を引き裂くことはなかった。



「へへっ、してやったりさ!!」
  西山の視界の遥か先、仇の鈴香が抱きかかえられ。
  その鈴香を横抱きに、自分をも凌駕するほどのスピードで、駆け抜けることのできる
男。
  そう、L学のナンパ師こと、YOSSYFLAME。
  次に頭を上げた時には、もはや何もかもが手遅れだった。






「あのな。一体いつ自分が、“ここは襲撃禁止です”なんて言ったよ?」
  当然西山の怒りは収まらず。
  お互い暗黙の了解だからこそ、穏やかに食事をしていたはずではなかったのか。
  その不文律をいともあっさり破り捨てた、鈴香一派の行為は認められるものではない。
  しかしそんな西山の怒りの抗議は、Runeにあっさり却下され。

  そう。全ては仕組まれたこと。
  あの場面で、よもやはるかが騙しに走るとは、誰が想像できようか。
  他の人間では気づかれたかもしれない嘘を、平然とつき通せる雰囲気を醸し出してい
るのが――別に彼女は虚言癖があるわけでもなければ、人を傷つけて喜ぶような女性で
もない――河島はるかという女性の、ある点において澄んだ心の持ち主だからこその技
とでも言えようか。
  それに、風見鈴香が学内ではまだそれほど名が知れていないことも幸いした。
  そして、よもや鈴香とYOSSYが組んでいたという仕掛けを見破ることは、いかな
西山といえども、いくらなんでも無理だったろう。
  まず第一に、河島はるかの無我と風見鈴香の無名さで食事に関する警戒心を――これ
は偶然岡田一派が同席していたことが思わぬ幸いとなって返ってきた――なくさせるこ
と。
  次にYOSSYがただの無頼に見せかけて周囲をぶらつくこと。
  さすれば西山の警戒心は、YOSSY含む外周に集中される。
  その間に、全くの無警戒で食事を楽しんでいた楓とすれ違いざまに、鈴香が楓をひん
剥き倒す。
  西山や楓の警戒心は、おそらくは主催の暗躍生徒会、そして野外から迫り来る欲望の
襲撃者、そして、まだ姿を見せぬ学内の有力者達に集中していただろう。
  考えてみれば簡単に導き出される“もう一つの可能性”。
  しかし気づかなかった。同じ“服を剥かれるということ”が、ヒロイン同士にはある
意味、奇妙な連帯感を心のどこかに浮かばせている。
  そんな中、さながら一時休戦とばかりの食事タイムが設けられれば、その思いは一層
強くなる。
  そこがまさに“心理的盲点”。
  さらにもう一つ付け加えるならば、楓と西山が、序盤からの奇襲を受けて精神が疲弊
していたということ。
  彼女たちが万全ならば、あるいはそれすら見抜いていたかもしれない。
  そして、もし彼女たちが。
  もし彼女たちの実力が、それほどのものでなかったと仮定したならば――あらゆる事
象に対し、もう少し臆病になっていたかもしれなかっただろうか?

  二重三重の襲撃。そして二重三重の罠。
  楓にとってはまさに、“運が悪かった”。……この一言しかないのかもしれない。






「しゃあっ!  三位一体バチコンよっ!」
「ふふ………まさかあそこまでうまくいくとは、私も思いませんでした」
  もはや学生食堂は見えやしない。
  見事にしてやったり、の二人は、はるかと南と合流するため、YOSSYの超機動で、
打ち合わせ通りの場所に向かって、ひた走りに走っていた。
「でも……」
  不意に鈴香の顔が僅かに曇り。
「いいんでしょうか?  こんな勝ち方で。……不文律の信頼を裏切って」
  鈴香にももちろん、“服を破かれ素肌を晒される女”としての奇妙な連帯感はあった。
  それを自分自身の手で反故にしてしまったのだ。
  無論報復を恐れているのではない。
  優勝すると誓った以上、夢叶わなば素肌を晒す覚悟はとうにできている。
  鈴香が気に病んでいるのは、同じ女としてのそんな気持ちを、騙し討ちという形で踏
みにじってしまった、ということに。

  キキッ。
  超機動が止まる。
  そして、鈴香の瞳を見つめ。
「おそらくは、悩んでいいんじゃないでしょうか」
「え?」
  ちょっと意外な一言に、鈴香の口から驚きが漏れる。
「俺に言わせればそもそも、正々堂々と闘うなんて概念、最初からないんです。
仮に俺達が正々堂々真正面からあいつらに挑んだとしたら、九割九分九厘返り討ちに遭
うこと間違いない。つまり、“真正面から堂々と”なんて概念で、わざわざあいつら優
勝候補に有利な条件で闘ってやる義理も義務も俺にはないんです」
  YOSSYの言葉に僅かなすれ違いを感じる鈴香。しかし。
「けど、鈴香さんはそういう問題で気に病んでるわけじゃないですよね?」
「………はい」
「強い弱いなんかじゃなくて、彼女たちに対しての気持ちの問題なんじゃないです?」
「はい」
「なら……俺にはちょっと解決策が浮かばないです」
  イタズラっぽい笑みを浮かべ、YOSSYは鈴香を見つめる。
「けれど、悩んでていいんじゃないかなとも思いますよ。だって……」
  その掴む手も心持ち強く、真っ正面からYOSSYは、鈴香に言葉を投げかけた。

「そんな鈴香さんが好きで、みんな集まって来てるんですから。
南さんだって、はるか先生だって、鈴香さんのまわりの人達だって。
俺だって、そんな鈴香さんが何故か気に入ったから味方についたんですから。
……ほとんど初対面だってのに何がわかる、って言われてしまえばそれまでですけどね」

「よっしーさん……」
  鈴香の小さな唇が、思いの何かを振り切って。
  照れ笑いを浮かべる悪ガキに、応えるために紡がれる。






「………さっきから言いたかったんですけど、さっきからどこ触ってるんですか」












「…………ぎく」
「人のお尻触りながらそんなこと言われても、全然説得力ないんですけど」
「ぐっ、やっぱそうですかっ」
「それにもう抱いていただかなくても結構です。早く降ろしてください」
「ううっ、せっかく久々にシリアスで決められたと思ったのに」
「こっちのセリフです。せっかく綺麗に一仕事終わったっていうのに」
  ジト目でじぃっと睨む鈴香からの、そんな言葉に僅かに驚き。
「なあんだ。闘争心は失ってないんですね」
「当然です。狙うは優勝ですから。

――真心運ぶペンギン便。どんな形なきものでも、ご依頼あらばお届けします!」












                                               第十六話での脱落者………柏木楓





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こんにちは、YOSSYです。

早速食堂を使わせていただきまして、霜月さん、ありがとうございます。
“なんでもあり”の一つの形、どう映られたでしょうか。
“やり方次第では、状況次第では、弱小勢力でも優勝候補を倒せる”という表現
上手く表現出来ていればいいのですが……
ご意見などありましたら、お待ちしています。

あと、鈴香さんが可愛く書けていたなら幸いです(笑