『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第十九話 〜Rough for,Love four〜 投稿者:YOSSYFLAME




「貧乳年増ぁー、どこ行ったぁー」
  何か強烈な私怨でもあるかのような――いや、実際あるのだが――異様な目つきで闊
歩する、エントリーヒロインの一人、隆雨ひづき。
  そんな彼女を従兄である佐藤昌斗は、呆れるような視線で眺めている。
「……ったく。なぁに考えてんだか」
「昌兄、何か言った」
「いえ、なんでもございません」
  実にヒエラルキーが明確な関係である。
  そんな中、ひづき組もう一人の片腕、悠朔は何事かを考え込むようにしながら歩いて
いる。
「それはそうと悠、ちょっとばかり休憩でもとるか?」
「休憩ぇ!?  甘いアマイ天井!  そんなことしてるまに貧乳年増が――」
「……その貧乳年増なら、すぐ近くで交戦中だ」
「へへえ。いい根性してるじゃないの…………って、交戦中ぅ!?」
「ボヤボヤするな。行くぞ!」
  目に険が宿った悠に腕を掴まれ、引っ張られるようにひづきも走る。
「ちょ、ちょっと悠さんっ!」






「エイリャアアアアアアアアアアアアアア!!」
「……ッリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
  交錯する足刀、爪、そして拳。
  二頭の猛る鬼達が、互いを喰い尽くさんとばかりに、兇器という名の身を奮う。
  学園最強の死闘と言ってもなんら遜色のない、鬼、二頭。
  一方を柏木耕一といい、もう一方を柳川裕也と称す彼らの激突。
「シャアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアッ!!」
「ヌアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

  ガコンッ!!

  拳と拳が真正面から炸裂し合う。
  右と左。
  利き腕の耕一が押し切る。
  そしてそのまま返しの左――

  ドボオオッ!

「グゥェ……!」
  その左が届く前に柳川の前蹴りが耕一の鳩尾に深くめり込み。
「死ネェエ!」
  間髪入れることなく柳川の右爪が耕一に襲いかかり――

  グシャアアアアアアアアアアアッ!!

  頭蓋を砕かんばかりの衝撃音が辺りに響く。
  カウンターで頬にめり込む兇拳。グラリと崩れかかる柳川。
「トドメダア!」
  その延髄目掛けて飛襲する耕一の右回し蹴り!

  ゴオォオンッ……!!

  高らかに響く鐘音の響きを後に、跳ね飛ばされる耕一の四肢。
  鉈のように重い斬脚に臆することなく前進し、そのまま顎に致命の一撃。
「ク……っ!」
  それでも。それほどの一撃を見舞われても倒れずとどまる耕一。
  すかさず追走しようとするも、足にキテいて柳川駆けられず。
「へっ……」
「く……」
  互いに互いが加えた打撃の数々が、互いをヒトの姿に戻す。
  そしてそのまま互いを睨む。一点の隙も逃さぬかの如く。



「……人間じゃ、ねえ……」
  今更と言えば今更の感想を呟きながら物陰に隠れて様子を伺う昌斗。
  その掌には、そうとはっきり解るほどの汗が浮かんでいる。
  そしてその横では悠もまた。何やらブツブツ言いながら、その額を汗で濡らし。
「う〜っ……耕一先生、がんばっ……!」
  その横のひづきは、違う意味で手を固く握っていたりもするが。

  三人の視線はほぼ同じ。
  顔を腫らし血を流しながらも、互いの挙動から一瞬たりとも目を離さぬ耕一と柳川。
  そして。
  その闘いを静かに見つめる柏木千鶴。
  さらに、彼女を隙なく守るエルクゥ同盟クイーン・ザ・リズエル――ジン・ジャザム。
「どうする?  ジン先輩全く隙がないぞ?」
  状況を打破する手だてが思い浮かばず焦る昌斗。
  取り込み中の今こそ最大の好機、に見えたそれが、ジンの存在感により完全に霧散。
  柳川と交戦中の耕一を完全に差し引けたとしても。
  三対二という数的優位など、ジンと、そして千鶴の前では何の意味も持たない。
「6……5……4……3……2……1……50……9……8……」
「どうするんだ、悠………って、お前なにさっきからブツブツ言ってんだ?」
「2……1……40……9……8……」
「悠!  聞いてんのか!」
「…………聞いている」
  声を押さえながらもを荒立てる昌斗に、小さく、鋭く、そして只ならぬ意志で応え。
「昌斗」
「なんだ?」
「俺が背中を叩いたら、真っ直ぐジンに斬りかかれ」
「なに?」
  昌斗は耳を疑った。
  それはそうだろう。あまりといえばあまりの作戦。
「ひづき」
  その昌斗の狼狽にも構わず悠は言葉を続ける。
「コレが光ったら、千鶴校長を攻撃しろ。容赦なくだ」
「コレ……ねぇ……」
  悠の手に握られている“コレ”を怪訝そうにひづきは見つめる。
「お前……一体何を」
「――――。」
  バンッ。
  今尚真意が理解できてない昌斗に何事かを呟き、そしてその背中を何事もなく叩き。
  そして――



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」



  普段全く聞かせぬ気迫と共に、真っ向からジンに斬りかかっていく!
(クッ!どうにでもなれだっ!)
  そんな悠に追随――むしろ追い抜く勢いで昌斗も疾る!

「ナメンじゃねえ!!!」
  大胆すぎる突撃に、侮辱を感じ怒るジン。
「喰らえ鉄拳!ダブルロケットパンチ!!」
  ジンの咆哮と共に熱い鉄拳が二人を襲う!
「やはり!――大味なんだよ、こういう時の貴様の攻撃はぁ!!
昌斗!  死んでも躱せぇ!!」
「無茶言うんじゃねえっ!」
【主!右に伏せて!】
  彼の愛刀・運命と彼は、戦闘上では既に馴染み。
  彼女の指示には反射的に従えるのが、器用剣士・佐藤昌斗の本領。
(よし!)
  それを既に見抜いていたか、鉄拳を躱しながら頷く悠。
  しかし、その悠の間近に見えるは千鶴の影!
「目を瞑れ!!」
  そう言うやいなや、千鶴の眼前に悠は球を軽く放った。



  閃光弾という、鎮圧戦の主力兵器を。
  次の刹那。そこからの白光が周囲を侵した。



  しかし千鶴は全く動ぜず。その牙を真っ直ぐ悠に向けたその時。
「貧乳年増覚悟ぉっ!!」
  足も軽やかに突進してくるは、エントリーヒロイン、隆雨ひづき!
  その瞬間、千鶴の目標が変わった。
  組織を叩くなら頭を叩く。対団体戦の常識。

  その千鶴に同時に悠が斬りかかる。しかし。



  ドボオォオォオッ!!!



「ッゲェ……ッ…」
  悠の閃光弾奇襲作戦も効果なし。
  鉛のごとくめり込んだ、ジンのボディーブローのただ一閃が、彼の意識をそのまま綺
麗に断ち切って。
  しかし。
  そのボディーブローが、ほんの一瞬だけジンを全くの無防備にした。
  正直他の者達ならば、なんていうこともない程の隙だった。
  しかし、今回は拙かった。
  たった一瞬の隙とはいえ、彼にだけは、一切の隙を見せるべきではなかった。
  一見無茶としか思えぬ行動が、実はドンピシャだったりする、そんな彼にだけは。






「佐藤式飛天御剣流最終奥義、天翔命閃(あまかけるいのちのひらめき)!!!」






  どう見てもあまりにも早すぎるかのような、その奥義の炸裂に。
  ――ジンの両膝は、粉微塵に砕け散った。

  そう。――悠が描いたシナリオそのままに。












(10……9……8……7……)

「……くうっ!」
  悠の言う通り閃光弾炸裂と共に、ひづきは真っ直ぐ千鶴へ疾る。
  だがその千鶴が、狙いを自分に定めて迫る。

(6……5……4……)

  ヒュンッ!
「あうっ!」
  千鶴の爪の一撃で、バランスを崩してひづきが転ぶ。
  絹の裂ける音と共に、肩口をも引き裂かれ。

(3……)

  一撃で仕留められなかったのは、まさに僥倖に尽きよう。
  ひづきの動きが良かったのか、もしくは。
  閃光弾の効果がここにきて、千鶴にも少しは効いていたのか。

(2……)

  その千鶴が振り返る。
  今度こそ、確実に獲物の服を引き裂くために。
「――くっ!」
  ひづきも構える。
  今はもう、悠の言葉を信じるしかないのだから。

(1……)

「ああああぁぁああああああああああああああああああっ!!」
  弾丸のようにひづきが疾る。
  まるで、ここで全ての力を吐き出すかのように。
  しかし、千鶴が速かった。
  可視できるか否かとまでのそのスピードは、まばたきする間も与えずに、ひづきの懐
へ潜り込めるほどの。
「――っ!」
  絶体絶命。
  それでも、それでもひづきは最後まで闘うために。
  勝つ為にその右脚を、縋るべき己の武器を高く上げる――

(……0)






「黒破……雷神槍おおおおおぉぉぉおおーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
ドンンンッッッッッ!!!






  ひづきのまさに目前を、黒雷がまさに駆けてゆく。
「――フッ!」
  が、間一髪。
  150万ボルトからなる雷を司る黒龍を、千鶴は紙一重で躱し。

「ひづきちゃん、助けに来たよっ!」
「私達が来たからには、もうオバサンなんかにデカイ顔はさせませんって!」

  かつては彼女らの一挙手一投足にL学が震撼していた頃もあった。
  そして、今尚その影響力は根強く残っている。
「EDGEちゃん、M・Kちゃんっ!」
  待ちかねた救援に心弾ませるひづきを含めた、彼女らをも含めたその名をも――

「やってくれるじゃない、あなたたち」
  間一髪で奇襲を躱した千鶴、その口元には不敵な笑みが。
  が、その時――






「ガアアアアア……ッ!!」
  ドボオォオッ!
「ェゥ……!」
「ホラホラドウシタ柏木耕一ィ!」
  兇悪極まるボディブローに悶絶寸前の耕一に、一切の逡巡なく降り注ぐ鬼の拳雨。
  先程までの膠着状態が、嘘のような柳川の大攻勢。

  ほんの一瞬、耕一に隙が芽生えた。
  護衛仲間のジンが、悠と昌斗の連携攻撃によって膝を砕かれ。
  何より千鶴のその身に、優勢転じて劣勢のキッカケの雷神槍を見舞われた時。
  耕一の集中力が、殺気が一瞬途切れた。
  そして彼ら二人の鬼天秤は、それだけで揺れて崩れるほどの。

「ゲゥ!」
  再び入るリバーブロー(肝臓打ち)。
  その衝撃でヒトの姿に戻って――弱体化、といった方が正確か――しまう耕一。
  そんな耕一に“鬼”柳川、兇気の滅多打ち。
  鬼の身とヒトの身。勝負は既に見えていた。
「――死ネエエェェェエエッ!!」
  しかしそれでも容赦はしない。
  あるいはそれこそ鬼の性なのか。
  既に戦闘不能と思われる耕一に、致命打となる爪をその身に――






  ブシュウゥゥウッ……!!






  腹が裂けた。
  腹が裂けて、そこから血飛沫が迸る。
  殺戮を。
  そしてその瞬間、最も強く揺らめく命の炎を好む血が。

「カ……」
  信じられないような呆然とした、それでいて全て予想できていたかのような。
  眼にそれを宿し、鬼は呟いた。
「カシワギ………チヅル………」



「……今すぐ、去りなさい」
  血液の芯から冷える、無感情な言霊。
  その後ろでは意識のない耕一を庇うように、EDGE、M・K、そしてひづきが。
「センセ………引いてくれよ」
  鬼の背に頼みかけるジン・ジャザム。
  膝を粉微塵に砕かれながら、それでも。
  頼むから。
  頼みで済んでるうちに引いてくれとばかりに、全重火器をその背に向けて。
  そのジンの傍らで構えるは佐藤昌斗と悠朔。
  二人とも満身創痍ながら、その気迫をその背に向けて。

  次の瞬間、その体躯にしてはあまりに軽やかに――鬼は去った。
  殺戮本能を主とする“鬼”でも、七対一の状況に、根源的な本能が働いたのか。
  それとも、数など問題ではない、彼らの気迫の故なのか。
  それとも………ただの気まぐれか。






「………千鶴先生」
  いつもは貧乳年増だのオバサンだの、本人目の前にしてさえ平気で言い放つひづきが
  真剣な面差しで、改まった呼び方で恋敵を呼ぶ。
「耕一先生とジン先輩はちゃんと保健室に連れて行きます。ここは引いてください」
  限りなくお願いの言葉に近い、実は強要。
“引いてください”の前に来る言葉は、そう。――“見逃してやるから”。
  当然である。彼女達は敵同士。
  そして今は勝負の真っ最中。なあなあで馴れ合いたくなどはない。
  本大会の敵としても、そして、恋敵としても。
  そして今の状況は五対二。
  しかもジン・ジャザムが殆ど戦闘不能。故に実質五対一。
  見逃すといった言葉、強がりでもハッタリでもない。

「……二人を、お願いね」
  そんな言葉を投げかけられてもなお、笑顔で千鶴は引いていく。
  同じ男を恋する者同士。
  もしかしてその心の奥は、余人が思うよりも理解しあっているのかもしれない。
「でも――」



  自然体の、不敵な笑みを投げかけて。
「――最後に勝つのは、私だけどね」

  千鶴はひとたび後にする。――――たった、一人きりで。














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こんにちは、YOSSYです。



悠さんの策略、そしてひづき組の前に、護衛を無くした千鶴さん。
一人っきりの彼女は果たして、これからどう巻き返すか――

――みなさんの熱筆に託させていただいてよろしいでしょうか?



では、失礼いたします。