「うわーーーーっ! 運送屋が来たーーーーーーーーーっ!」 「逃げろーーーーーーーーーーーーーっ!」 「俺はまだ死にたくねーーーーーーーーーーー!!」 ヴォンヴォンヴォン、ドゥルルルルルルル……! Leaf学園キャンバス内の、阿鼻叫喚の叫びをバックに、今日も走るは風見鈴香。 『真心運ぶペンギン便』をキャッチフレーズに、恐怖と混乱を運ぶ彼女。 バキバキグシャアッ!どんがらがっしゃーん! 「こんにちはー! 真心運ぶペンギン便でーす! えーと……はい、姫川琴音さんですね。 立川さんから油絵セット、お届けにまいりました」 「あ、はい……」 「じゃ、ここにサインをお願いします」 「はい……」 乱入時とはまた違った物腰のやわらかさ、それもまた彼女の魅力の一つ。 「ありがとうございました。 それじゃみなさん、どうも失礼しましたーーーーっ!」 ギュロロロロロロ………ベキグシャバキバキイッ! 「……確かに、悪い人じゃないんだろうけど……」 「なんつーか、その……」 「世の中には玄関とゆーものがあると、アリストテレスも言ってることだしなあ……」 「ふーっ、あっつ……!」 所かわって学園の日陰。 鈴香がバイクを止めて一人、木にもたれかかってうだっている。 「最近の猛暑っていったいなんなんだろ……まったく……」 当然の事ながら彼女の仕事は、学園だけで済むはずがない。 その範囲は街中、隣町…… 県(?)を飛び出すことさえも、何も珍しいことではない。 今回はとりあえず宅配バイクで周っているのだが、それだけに猛暑が身にしみる。 「うわぁ……びちゃびちゃ……」 木陰にいて少しは冷めたのだろう。冷え切った汗を吸った衣服が肌につき、なんとも いえず気持ち悪い。 誰しもがわかる不快感を感じていた鈴香の目に、替えの制服のバッグが留まる。 「どこか……着替える場所ないかなぁ……」 宅配業をバリバリこなし、“ミス・ノーブレーキ”と謳われる鈴香とてやはり女。 着替えられるものならば着替えてさっぱりしたいのが、やはり女性の心理。 そんなことを思ってキョロキョロしていると、目の前を一人の女生徒が横切る。 「あの……すみません」 「はい?」 「すみませんけど、着替えられるところどこかありませんか?」 「ええ、構いませんよ。ささ、こっちです」 「ここなら誰も来ませんから、安心して着替えてください」 「ありがとうございます。少しだけお借りします」 女生徒に案内されるままに、無人の体育倉庫に入る鈴香。 閉じられた扉のその外での、その女生徒の薄笑いを、不幸にも彼女は気づかなかった。 「まったく……授業にくらい、きちんと出てほしいものですけどね……」 彼にしては珍しくいらつきながら、外を走るはT-star-reverse。 彼らの次の授業は柳川教諭の物理なわけだが、そこにいなくてはならないYOSSY FLAMEが、授業が始まっても姿を見せない。 柳川教諭の授業をサボることは、是即ち死へと繋がる。 そういうわけで、なんとか柳川を言いくるめ、YOSSYを呼びに駆け出したという わけだったりするのである。 すれ違った隼魔樹から、YOSSYの居場所は運良く聞けた。 傀儡を使いたいところではあるが、以前YOSSYにめいっぱい落書きをされたとい う前歴があったりするので、彼に対してはあまり使いたくない。 そうすると。 「おおかたぐっすり寝てるのでしょうが……仕方のない人ですねえ……」 自らの足で倉庫に向かい、ややいらついたそのままに、彼は扉を開け放った。 その彼の目に焼きついた姿に。 白く小さき布のみ残りし、肌も露な彼女の姿に。 彼女が悲鳴を上げる間もなく、彼は音を立て地に伏した。 「ち、ちょ………大丈夫ですかっ? しっかりしてくださいっ! 暑さでやられちゃったのかも………しっかりしてくださいっ!!」 極度の女性裸身恐怖症であるティーの特質を、初対面の鈴香は知るよしもなく、 携帯で駆けつけた河島はるかの説明で、なんとか事無きを得ることができ。 そして、この一連の騒ぎにも目を覚まさなかった騒動主・YOSSYFLAMEは、 当然ながら柳川の手で、真夏の三途の川に叩き落とされたことは言うまでもない。 ――真心こもる宅配娘・鈴香の小さな騒動記。 ======================================= こんにちは、YOSSYFLAMEです。 仕事から帰ってきたものの寝付けずに、こうなったらLメモ書いちまえとばかりに 書いた一本です。 鈴香さんの魅力が伝わってくださったなら、嬉しいです。 猛暑が続きますが、みなさま、お体には十分留意して、過ごしていただければ幸いです。