『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』第三十一話 〜Art Girl〜 投稿者:YOSSYFLAME




「……フッ!」
  トンッ!
  決して斬れぬ手刀。しかしまた一人昏倒させられる。
  夜に突入してからの突然の襲撃。
  たった一人きりの柏木千鶴に襲いかかる、有象無象の集団。
  だが……

(おかしい。みんな、まるで意志を持っていない)

  肉の人形。
  感情を持たぬそれが、絶え間なく千鶴に襲いかかる。
  次々と昏倒させてはいるものの、しかし。
(くっ、また……)
  なにせ元々、意志のない人形同然の生徒なのである。
  昏倒させたとて、足止めになるわけではない。
(……こんなことができるのは、あの奇術師ギャラ君でも少々きついかもね)
  元々強烈な自我を持つ人間。
  それを思うが侭に動かせるなど、並々ならぬ術、そして能力が必要。
  いくら薔薇部に所属している得体の知れない男であろうとも、いくらなんでも。



「しかしながら、世の中には不可解な出来事があるものでございます」



「嘘、本当に……?」
  千鶴とて俄かには信じられない。
  先程まで何もなかった場所に、突如現れたギャラ。しかも、
「私も、案外捨てたものではないのでございましょうか」
  紛れもなく、この術の術者であるのだから。
「どうしたの、ギャラ君。こんなところで」
「これは愚問を。先生の服を戴きに参ったところでございます」
「あらそう。うふふふふ」
「ふふふふふふのふ」
  シュンッ!
「!?」

「術者さえわかればこっちのもの。悪いけど、眠っていてもらうわよ」
  まさに一瞬。
  千鶴の手刀が瞬き一つするかしないかの間に、ギャラの首筋に決まっていた。



「ひげういぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぷ!!」



「なんとっ!?」
  ジャキぃッ!
  千鶴の背後に髪の擦れる音が、鳴り響くと言っていいほど高く響き渡る。
  いや、正確には髪ではなく、髭。
  鞭状の髭が二鞭、激しく交錯していた。
「……危のうございました……」
  交錯した髭の、まさに寸前にいた男こそ、千鶴が首筋に決めていたかに思えたギャラ。
  そのギャラに、間髪いれずに千鶴の反撃が加えられるが……
「ちょっと、遅かったわね……」



【御機嫌ようございます、千鶴さま、ひげ4さま。
また近いうちにお逢いできることを、心よりお待ちしております――】

  そんな捨て台詞を残し、ギャラの体は、文字どおり霧散していた。



「……ひげ4君。どう思う?」
「ギャラ様の能力であそこまでのことができるとはちょっと思えないのでございますっ」
  もうなんていうか立派な殿様髭を整えながら、ひげ4は断言する。
「さすれば何者かのバックアップが、ギャラ様に働いてると考えるのが順当かと」
「私もそう思う。となると、ギャラ君の背後にいるバックアップというと……」



「……高位魔族の令嬢、ルミラ・ディ・デュラルさんと思うのです、が……」



「長谷部さん……?」
「断言は、できないのですが、おそらくは……」
  両手を胸の前に組みながら、小声でそう呟くのは、3年美術部所属。
“ミス・エイトハンドレットワン”の異名を持つ同人作家、長谷部彩、その人であった。
「ルミラさんが……?」
「ルミラさんは、この競技が始まってから、ずっと、何事かに専念しています。
れっきとしたエントリーヒロインが、一切参加の気配を見せずに、です。それに……」
「それに?」
「このあたりの魔力が、どんどん高くなっていっている、ように、思えるのです……」
「なるほど……」
  彩の説明に、千鶴とひげ4も頷く。
  それならば、ギャラがあれだけの数の一般生徒をも巻き込んだ催眠術を駆使できるのも頷
ける。
「ルミラさんが、何をなさっているのかはわかりません。しかし……」
  気弱な彩が僅かに見せる、決意の表情。
「このまま放っておいたなら、ルミラさんの魔力が、手をつけられない状態に……
そうすると、他の人達に勝ち目は……」
「なるほど。わかったわ」
  彩の説得に千鶴も納得する。しかし。
「長谷部さん」
「はい……?」
「どうして、私達にそれを教えてくれたの?  あなたは見たところヒロインじゃないみた
いだけれど」
  極々小さく引っかかるあくまで些細な疑問。しかし、それに彩は素直に答える。
「私の夢を叶えるためには、特定の人だけが強くなってもらっては、困るんです。
……ですから……」
「私とルミラさんを、潰し合わせようってわけね」
「申し訳、ありません……」
  心底申し訳なさそうに頭を下げる彩を、しかしながら千鶴はそれを制して。
「別にいいのよ。どうせ優勝するには遅かれ早かれ、誰であろうと全員倒さなければいけ
ないんだから」
「ありがとうございます……」
  そんな千鶴に、彩は心から頭を下げた。

「さて、それじゃ長谷部さん。ルミラさんの居場所。彼女がどこにいるかはわかる?」
「え、と………おそらく、リズエル棟の屋上かと、思うんですけれど……」
  そう口にする彩の言葉には、珍しく妙な確信がこもっている。
「あの……」
「ん?」
「私も、連れていってはいただけないでしょうか……?」
「長谷部さん……」
「この辺りの魔力が増加していることに、私も若干恩恵を受けてますし。
それに……お二人よりは三人のほうが、より有利かと思うんです……」
  意志強き瞳で、彩は千鶴を見据える。
(私の夢……やおい同人が学園で天下を獲るため、にも……)

「わかったわ」
「あ……」
「それじゃ、ここは力を借りるわ。よろしくお願いね、長谷部さん」
「……ありがとうございます……」
「もちろん、私も同行させていただきます、このひげの力、存分にっ!」
「頼りにしてるわよ、ひげ4君」
  千鶴から差し出された手を、彩はか細く、ひげ4は強く、しかし共に熱く握った。



























========================================

こんにちは、YOSSYFLAMEです。

たった一人の千鶴さんに、新たにひげ4さんと、そして美術部の長谷部彩さんを
加えさせていただきました。
彩選手の特技は、いまだもって考えてません。
なんでもあり、のどよこんですから、非力な彼女をどうにか活躍させていただければ
ありがたいです。

それでは、失礼いたします。