どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト 第三十七話 「Today's Heloin」 投稿者:YOSSYFLAME




「申し訳ないです。結局役に立てなくて」
「ううん。ありがとうございます。楽しかったですよ」

 もう夜も更け切った頃。
 YOSSYFLAMEと“元”どよこんエントリーヒロイン・風見鈴香は、別れの挨拶を交
わしていた。
「よっしーさんも一緒にくればいいですのに……」
「いえ……それは……申し訳ないです……」
 牧村南に同行を誘われたりもしたが、YOSSYはやんわりと断った。
 紆余曲折あった鈴香の失格劇。
 その“原因”ともいえる広瀬ゆかりからは、なんとか解放してもらっている現状。
 だからといって、結果的に彼女の“行動”の“発端”となってしまった鈴香たち
と、これ以上共に行動することも、なんとなくYOSSYには憚られた。
(つーか、どうしたもんかなぁ……)
 本気で頭を抱えたくなるような状況。これがなんというか、本音だったりする。 

「……とまぁ、なんとか玲子さんと合流できるよう、祈ってます」
「ん。ありがと」
「ありがとうございます」
 河島はるかの愛車シルバーアロー(今大会用改造二人乗り自転車)の背には、芳
賀玲子との合流目的で一時的にチームに加わった、コスプレサークルチーム一喝メ
ガネ娘・月城夕香が乗っている。
 二人乗りの場合、はるかのオーバーアクションにはまず期待できなくなる。
 が、既にこのメンバーは、ヒロイン争奪資格を喪失していることだし、余程のア
レにでも遭遇しない限り、普通に鈴香とはるかが機動力を発揮しさえすれば、まず
身の危険は免れるだろう、と。そうYOSSYも、鈴香らも考えていた。
 彼女達四人が玲子の元についたあと、どういう選択をするかまでは、YOSSY
の気にするところではない。
 ただ、今にして思えば短いなりにも、この異色メンバーでてんやわんやできたこ
とは、やはり楽しませてもらったし楽しかった。彼は心底、そう思っていた。
「お世話になりました。みなさんお元気で」
「ん」
「どうも。そちらこそ」
「頑張ってくださいね」
「そうですね。今度会うときは――」
 それを言い切らないうちに、鈴香のハーレーが轟音を奏でる。
 と思わぬうちに、ハーレーとシルバーアローはあっという間に走り去った。

 ――今度会うときは、多分敵同士ですね――

 鈴香の唇は、確かにそう紡いでいた。
 旅路で出来た友達と別れるような寂寥感。YOSSYはそれを感じていた。
 そして。
(敵でもいいから、また会いたいよなぁ……) 
 向こうもそんな風に思ってくれたなら、少しは幸せかと、そう思いながら。
「さて、と……」
 


「……貴様」
「わざわざ来てくれたんだ。相手してやらんのも悪いと思ってさ」
 
 YOSSYがゆかりの拘束から一時的に解放してもらった理由は、二つあった。
 一つはひとときの同志、鈴香や南たちと別れの言葉を交わすため。
 そして、もう一つは。
「……今更貴様に用はない。どこへなりとも行くがいい」
「そういうわけにもいかないさ。俺はそのために来たんだからな」
 今大会の因縁深き相手、西山英志と決着をつけるために。
「俺は貴様の鬱憤晴らしに付き合うほど暇ではない、そう言っているのだがな」
「人を始末しに来るほどに未練タラタラの分際でなぁに言ってるんだか」
 次から次へと挑発言葉を投げつけるYOSSY。
 西山にしても目の前の男は、楓の柔肌を晒し者にした男。
 それを件の紆余曲折から、目を瞑ろうと思っていた矢先にこの態度。
 ほどなく西山の堪忍袋の緒は、音を立てて吹き飛ぶことになる。
「あぁ……今でも目に焼きついてるなぁ……柏木さんの白い肌、華奢な身体……」

「覚悟は出来ている、ようだな……」
「……まぁね」
 正直、失敗したかもなどとYOSSYは思ってたりもする。
 それほどまでに目の前の男、西山英志。その存在そのものが恐怖と化し、彼を包
む。
 対峙しているそれだけで、冷汗が滲み出て止まらない。
 西山の全身は、これ殺気其の物。よくこれで暴走をせずに今まで理性を保ってい
られたなと思う程の。それほどまでに、西山にとって楓の素肌を晒されたことに対
する、怒りは凄まじかったのである。
「其れならば」
 ググゥっと、西山の拳に気が込められる。
 YOSSYFLAMEは結局のところ、何もわかっていなかった。そう言えるだろう。
 これほどの怒気を持たれておきながら、それでもあえて、見逃してもらっていた
という、そんな天国のような今までの事実を。
 しかし、起こしてしまったものは仕方がない。
 切っ先を目の前の“鬼”へ向け、ゆっくりと、“構え”に入る。
「……行くぞ」
 皮肉にもその“戦闘態勢”が、西山への“宣戦布告”になってしまった。



「……………」
 ようやく、YOSSYはその目を開いた。
 体のどこに信号を送っても、満足な返事が返ってこない。
 しかしながら、体のどの箇所にさえ、致命的に破損した箇所は見られない。
 ただ、どの箇所にも強烈な痛みが走るだけ。時間が経過すればどうにかなるもの。
(どこまでも、流石な男だな……)
 あれだけの怒気を放ちながら、身体機能の何一つ致命的に破損させることもなく
決定的に叩きのめすことが出来る、西山英志という男の技量の凄まじさ。
 それが逆に、YOSSYには悔しかった。つまりそれだけの、言ってしまえば、
西山にとってはこの対決など、赤子の手をひねるようなものだったのだろうから。
 もちろん、心理状態における能力発揮の差というものもあるにはあるだろうが、
それでも、YOSSYは悔しかった。
(ともあれ、これからどうするべきか……)
 星空を眺めながら、動かない体を大の字に寝そべらせ。
 YOSSYFLAMEはこれからのことに、思いを馳せていた。






 ――ここから一時的に時間軸、昼間に戻します――






「くぁあああ……!」
 目を疑うべきなのか、こともあろうに“あの”岩下信が、大苦戦に陥っていた。
「ウェイトレス・バヨネット!」
 ビシィ!
 岩下の脇腹を切り裂く右後ろ回し斬り。
「ウェイトレス・スピニングっ!」
 ゴゴゴゴンッ!
 制服のスカートをひらひらはためかせ、連続回し斬りを岩下に入れる女生徒。
 髪に大きなリボンをつけて、銃剣を構え振り回し切り刻み、学園最強傑に間違い
なく入るといわれている岩下信を手玉に取っている少女。
 死乃森阿修羅。L学2年。こともあろうにダーク十三使徒“ヒラ構成員”である。
「ほいさっ!」
 しかし阿修羅一人にいくらなんでもここまで苦戦するなど、岩下にはありえない。
 その理由はもう一人、阿修羅をフォローする人間がいたから。
 とことん低い姿勢で構え、岩下の足元にいやらしく絡みつき、要所要所で蹴りを
放ち、阿修羅の派手な闘い振りをフォローするのが、彼の闘い方。
 決して阿修羅のパンチラを下から覗き込む意図はない。多分。おそらく。
 そんな彼は魔江田凶治。阿修羅と同じ2年生の、ダーク十三使徒一般使徒。
 正確に言えば、十三使徒特殊部隊である“ある男”の直轄に入っているだけに、
他の一般使徒とはそういう意味では一線を画してはいるのだが。
 しかし、なんのかんの言ったところで、阿修羅も凶治も一般使徒。
 いかに二人のコンビネーションが目覚しいとはいえ、それだけで岩下に通用はし
ない。
「小賢しい!」
「ぐっ!」
「ああっ……!」 
 パワーとて他には引けを取らない岩下。両手で阿修羅と凶治の首根っこを掴みあ
げる。
 2対1とてこうなれば岩下のもの。
 しかし悲しいかな、今回は“2対1”ではなかった。
「ちゅるぺたぱーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんちっ!!」

 ズンッ!

「カ……ハッ……!」
 岩下の鳩尾に入る、強烈過ぎるほどの突き上げの一撃。
 あの岩下が、たまらず両手を離してしまうほどの。
 強烈な一撃を叩き込んだその男こそ、阿修羅と凶治の直属隊長。
 その名もダーク十三使徒第七使徒中隊々長、平坂“ちゅるぺた萌え”蛮次。
「ぐ……っ!」
 たまらず岩下が距離をとる。
 そうすると再び阿修羅と凶治が纏わりつく。
 どちらかが攻撃されたらどちらかのフォローがすかさず入る。
 双方がヤバイと見るや、平坂の強力無比な一撃が入る。
 純粋な肉弾戦に関しては平坂蛮次はL学屈指の剛勇無双。
 しかしその他の要素に関してはからっきしダメダメなため、それをフォローする
ためにつけられたのが、死乃森阿修羅と魔江田凶治の新鋭二人。
 ちゅるぺた命の平坂にしてみれば、ないすばでぃの阿修羅が自分の下につくこと
に、並々ならぬ抵抗があったようだが、まあそこはそれ。
 ともあれ、平坂と阿修羅、凶治の三位一体コンビネーションの前に、岩下は手も
足も出すことができない。
(信さん……っ)
 岩下と共に決戦に臨んだ藍原瑞穂も、徹底した相手ペースの前に、パートナーと
しての役割を果たせそうにもない状況にあった。
 岡田救出のために岩下・瑞穂と共に赴いた、SOS、たくたく、吉井、松本の四
人も、現状自分の身を守ることで精一杯。なにしろ瑞穂は勿論のこと、吉井、松本
自身さえも、平坂蛮次のちゅるぺたのターゲットであるのだから。
「必殺! バヨネット・スルー!」
 阿修羅が岩下めがけ銃剣を投げつける。銃剣が乱回転しながら岩下に迫り来る。
 しかし岩下、百戦錬磨のジャッジのリーダー。難なくそれを振り払う。
 しかしそれこそがまさに罠。2本目の銃剣が岩下の喉を掻っ切るべく迫る。
 と同時に魔江田凶治の足払いも同時に襲い掛かる。
「甘い!」
「なっ!?」
 あろうことか岩下、正面全開に集中力を展開。
 凶治の足払いを重心をかけた脛でガッチリと受け、同時に腕に重心をかけ、銃剣
を弾き飛ばす。
 そのまま返す腕で凶治に掴みかかる。今度こそ逃がさない。
 捕まえたと同時に仕留めてやる。そんな岩下の背後に、阿修羅が回りこんでいた。
「ぐぅ!……ぅ!」
「ふふっ……くびり殺してあげる♪」
 正面に集中力を全開にしたせいか、背後にはまるで無防備。
 易々と阿修羅に背後に回られ、裸締めをかけられる。
「く……う!」
「へへ……そうは問屋がおろさんけんのう」
 広島弁チックに岩下の両腕を掴み押さえて平坂が勝ち誇る。
「岩下さん!」
「おっと、そうはいかないぜ」
 救出に出向こうとしたSOS、たくたくさえも、凶治の牽制で思うに動けない。
「ぅぁ……か……!」
「ふふっ、天国に逝かせてあげるからね……ふっ……」
 裸締めで岩下の頚動脈をギュウギュウ締めつつ、彼の耳に暖かい吐息を吹き込む。
 これぞ死乃森阿修羅必殺メニュー、天国へのくびり殺し。
 ふぅっ…
「ぅ……ぅぁぁぁぁ…っ」
 岩下信の目の焦点が、次第に合わなくなってきた。
 恐るべき縊り殺し戦略の前に、ジャッジリーダー岩下信、ついに陥落の時――

「待ちなさい!!」 

 藍原瑞穂。
 彼女がこともあろうに、自分を狙っている平坂の前に立ちふさがる。
(これ以上信さんを苦しませられない。あの人さえなんとかすれば……!)
 そして次の瞬間、瑞穂は信じられない行動に出た。



 ビリビリビリィッ!



 自らの手で、特注制服を破り捨てたのである。
 破られた制服の下には、大人しめのワンピース。つまり瑞穂の胸の慎み深さを最
大限に主張した水着であったわけで、それはつまりどういうことかというと……

「ちゅるぺたあああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 野獣のような雄叫びをあげ、垂涎全開で獣のように、平坂は瑞穂に襲い掛かった。
(信さんっ……!)
 身体中を強張らせ、瑞穂は瞳を固く瞑る。


 
 ずんっ……



 瑞穂が瞳を閉じていた、その僅かな一瞬で全てが終わった。

 彼女に襲いかかろうとした平坂蛮次。
 あろうことか、阿修羅を背に乗せたままの岩下信の、炎の拳の一撃で、あれほど
のタフネスさがまるで嘘であるかのように、あっさりと、その巨体を地に沈めた。
「隊長!……ぅぐ!」
 平坂の陥落に一瞬、魔江田凶治は気を取られてしまった。
 そこでジ・エンド。
 SOSの放った金的蹴りが、これ以上ないタイミングでジャストミート。
 その間にたくたく、吉井、松本が岡田を救出。
 水着は破かれてはいたものの、他に何をされた形跡がないため、とりあえず三人
は一安心。
(くっ……!)
 平坂、凶治と陥落し、ただ一人孤立した死乃森阿修羅。
 岩下、瑞穂、SOS、たくたく、岡田、吉井、松本の七人を敵に回しては、阿修
羅のレベルでは、はっきりいってどうにもならない。
「くぅ……っ!」
 唇から血が出るほど噛み締めながら、阿修羅は最後の策に出る。
「……ウェイトレス・クロージング!」
「しまった!」
 一気に舞い上がる黒煙。
 その煙が晴れたころには、既に阿修羅の姿はなかった。



「藍原君……すまない」
「……いいんです、信さん」

 結果的に失格となってしまった瑞穂。
 だが、その顔は晴れやかだった。
「あの……誤解しないでください」
 ワンピースの水着の上に、岩下から借りた制服を羽織り、瑞穂は彼に向かい話す。
「確かに失格にはなっちゃいましたけど、私、とても満足しているんです。
 ジャッジとしての自分の仕事を、遂行できた気がしますから……」
「藍原、君……」
 そう。
 完璧なまでの十三使徒側の罠、完璧なまでの十三使徒側のペースの中、岡田を無
事救出することができ、なおかつ、吉井、松本の二人を無傷で済ますことができた。
 これはまぎれもなく、瑞穂の功績にほかならない。
「藍原君……」
 岩下の腕が、そっと瑞穂を包み込む。 
 その瑞穂の表情は、とても脱落者とは思えないほどに安らぎに満ちていた。






 藍原瑞穂……失格。






 現在までの生き残り。

 マルチ
 セリオ
 アレイ
 月島瑠璃子
 太田香奈子(アフロ)
 柏木千鶴
 坂下好恵
 篠塚弥生
 新城沙織
 隆雨ひづき
 芳賀玲子
 隼魔樹
 悠綾芽
 姫川琴音
 松本リカ
 吉井ユカリ
 ルミラ・ディ・デュラル
 来栖川芹香 

 ……以上18名。