Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第69章 「切られた火蓋!L学超絶イ○モノ決戦!」 投稿者:YOSSYFLAME




「やる気に、なったかよ」
「おう」
 ジン・ジャザムの問いに一瞬の躊躇もなく、秋山登は答える。
 彼等のすぐ側では、ゆきと初音の二人が仲間達に健闘を称えられながら、照れく
さそうな表情を浮かべ、コートから去りゆくところだった。
 ふたつの掌を、暖かく握り合いながら。
「じゃあな。せいぜい楽しませてくれや」
「おう!」
 ジンの激励を背に受け、自らの準備をするべく秋山は控室に戻る。

(やる気に、か……)
 控室までの薄暗い廊下。何人かとすれ違った他は誰もいない、静かな空間。
 そんな空間を歩みながら秋山は、およそ彼らしくもないといえるのか、ちょっと
した思いに耽っていた。
 第8ブロック2回戦第2試合。
 対戦相手・風見ひなたの陥穽のおかげでパートナー・日吉かおりの欠場を余儀な
くされた秋山。偶然にも水野響によるテロ工作により、向こうの赤十字美加香もが
出場不能に陥ったために急遽組まれた特例中の特例、風見とのシングルスマッチ。
 エルクゥ同盟同士一対一の、闘志剥き出しの死闘の末、秋山は勝った。
(違うな。俺は“上がった”だけだ。本当に“勝った”のは……)
 確かに、シングルスマッチでの美加香の乱入は反則以外の何者でもない。
 しかも、美加香らぶらぶ天驚拳なる技など、テニスとして認められるはずも無い
議論するのも馬鹿馬鹿しくなるほどの愚行としか言いようの無い行為だろう。
(そんなものは関係ねぇ。あいつは勝ち、俺は負けた。それだけだ)
 今でも秋山はそう思っている。
 勝負というものに対し、一つの仮定を挙げてみるならば、一方が制したと心から
思い、もう一方が制されたと心から思ったならば、それは、勝ちと負けではないだ
ろうか。
 その仮定を当てはめたなら、仮にテニスのルールがどうあれ、風見は制し、秋山
は制された。少なくとも当の二人はそう思っている。
(……だから、俺はそれを譲ろうと考えた)
 その秋山の思いをそのまま実行という形にしたのは、奇しくも次の試合、第1ブ
ロック代表決定戦に出場していた、四季&柳川裕也組だった。
 確かに反則、確かに邪道。されどあの柳川を彼の力で下した二人に、四季は決勝
トーナメント進出の切符を、なんの躊躇いもなく手渡した。
 その光景を秋山は、なんともいえぬ思いで見つめていた。
 秋山の場合、風見の必殺奥義でその四肢五体が細切れに千切れ飛んだために、風
見組の反則負けが告げられたその瞬間は、まだ実体化していなかったため、前述の
四季のような行為は、できなくともいたしかたないところがある。
 しかし、それ以前に原点に戻って考えたい。
 確かに四季の行為は、まさしく潔いの一言に尽きるだろう。客からの喝采も多数
浴びていたという事実もある。だがしかし、それが必ずしも正しくて、生き残って
しまった彼が必ずしも正しくないなどとは、果たして誰が言い切れるだろう?
(あっきー、見ててね)
 川越たけるは、自身の代表決定戦の前、秋山にそう告げた。
 おそらく秋山の心中の葛藤を察し、気を配ってくれたのだろう。
 結果だけ見れば、0−6の完敗。
 しかしたけるは、最後まで泥臭くしぶとくなりふり構わず、胸を張って闘った。
 たけるの健闘を称えながら秋山は、得体の知れない、湧きあがる感情を感じた。
 彼の目に映る幾多の試合と幾多の思いと、幾多の行為。
(あんたに悩んでんのは似合わないよ! 熱血のまま暴れまくりな!)
 柏木梓。
 彼女自身、番狂わせともいえる勝利の後、彼のもとに近づき肩を叩きながら吐き
出した言葉。
(悩むなど柄じゃない。確かにな)
 なりふり構わぬ、ということ。
 誰もが、いや、自分もそうだったろう。
 皆、なりふり構わず戦ったその先に、誰の目を気にすることなく、自分の心に忠
実に、各々の気持ちを行為という形で表している。
 なら、今の自分の、偽り無き気持ちはどうか?

(戦いてぇ!!)
 そこには、相手が待っている。
 あの西山英志&柏木楓組を下した、紛れも無き強敵・TaS。
 そして、いつしかたける同様、妹のようにも思っているセリオ@電柱、電芹が。
 なりふり構わず闘おう。それが今、自分が一番したいこと。
 全てはその心の中に。薄暗い控室前の廊下で、秋山は咆哮を轟かせた。



「震えているのデスか?」
「……やっぱり、わかってしまうんですね」
 少し照れくさそうにそう答えるセリオ@電柱=電芹。
 膝に置いたその両手が、未だ微かに震えている。
 そんな彼女に微笑みかける一体、もとい一人の男。サングラスで目を隠し、しか
しながらそれが何の意味ももたらさないかのようにこんもりと派生したアフロ。
 そう。知らないものなどいやしない。彼こそがアフロ同盟マスター・TaS。
「……秋山さんと勝負するって、どんな気持ちになるんでしょうか……」
 セリオタイプとして生を受け間もない――メイドロボに対して“生を受けた”な
どという言い方は果たして適切であるのかどうかという議論も成り立たないことも
ないが、とりあえず今回はテニスLのため、その疑問は一旦棚上げしておくべきか
――電芹にとって、秋山登という男の存在は、余人が思うより遥か大きなウェイト
を占めている。そんな彼と今回、勝負をしなければならないという状況。
「私……わからないんです。怖いのか、嬉しいのか、辛いのか、楽しいのか……」
 脅えとも、武者震いとも、緊張とも、いずれとも少しばかり違う電芹の震え。
 
 ポン…

「あ……」
「コレ、お守りデス」
 電芹の、震える両手の甲に、黒くやわらかい塊が触れた。
 その黒い物体の可笑しげな動きに、強張っていた電芹の表情が綻ぶ。
「わぁ、可愛いっ……」
「アフロ畑のアフロ太夫デス」
 アフロ太夫を掌で愛でる電芹に、TaSは声音優しく言葉を贈る。
「心配ないデス。精一杯やればきっと、いいコトが待ってますカラ。
“なんとかなるさ”ですヨ。気楽に行きまショウ」
「TaSさん……」
「ネ?」
 TaSの優しい笑顔の前に、いつしか電芹の震えは消えていた。
「……はいっ!」



 試合開始までまだ間があるというのに、会場はすでに異様な期待感でごった返し
ていた。
 もちろん超満員。しかしそれも当然といえよう。
 事実上のブロック決勝、いや、最終決勝戦と言っても差し支えないとまで謳われ
た、岩下信組vs西山英志組の1回戦。
 こともあろうにその勝者・西山&柏木楓組がよもや次戦で敗れるとは、誰が想像
しえたであろうか。
 そしてその西山&楓組を完全に打ち破った二人こそが、今回決勝に出場する二人、
TaS&電芹ペアであるのだから。
 対するはこれも、今大会随一のシングルスマッチで生き残った秋山登と曲者日吉
かおりのL学巌流島ペア。
“死のブロック”と呼ばれた第8ブロックの決勝まで勝ち上ってきた、戦慄と謎と
笑いに満ち溢れたこの二組。
 会場の空気も、いやがおうにも盛り上がるというものである。



「う〜……」
「悩んでるねえ、たけるさん」
「だってだって電芹もあっきーもTaSさんも出るし電芹とあっきーが敵同士だし
TaSさんとあっきーも敵同士だし電芹とTaSさんは味方同志なのはいいんだけ
ど電芹がんばれーっていいたいしあっきーふぁいとーってもいいたいしTaSさん
あふろーってもいいたいし日吉先輩電芹に変なことしたら一生鈍い続けるからねー
ってもいいたいしだいたい鈍いと呪い字が間違ってるしあああ私どうすればいいの
かわかんないよ〜」
「……コーラあげるから落ち着いて」
「……ウーロン茶がいい」
「……はいはい」



「ますたぁ、勝つよな」
「……どうかな」
 アフロ同盟、Yinとデコイも並んで、マスターTaSの応援に来ている。
 しかし、デコイの表情は思わしくない。
「葛田組、西山組と連破しているますたぁ。調子は決して悪くない」
「あの人について調子云々論議すること自体、間違ってる気もするけどな」
「しかし、秋山登……はっきりいって強い。ますたぁといえども下手すれば……」
 沈痛な表情で俯くデコイの肩を、Yinが叩く。
「こうなったら、ますたぁを信じるしかないだろ。ますたぁを最後まで、な」
「ますたぁを最後まで信じる、か……」

「で、ますたぁを信じるって、何をどうすればいいんだっけ?」
「俺に聞くか? そういうことを」



「さて、見せてもらうとしようか。お前を破った、TaSの実力をな」
「……………」
 気迫で全身逆毛だっているかのような獣人・XY−MEN。その彼を背後に回し
てなお、気が微塵も揺るがない辮髪の男・西山英志。
「あの……篠塚先生は一緒じゃないんですか?」
「わかんねぇ。まぁ、どっかで見てるとは思うんだけどな」
 西山の傍らに寄り添う柏木楓からの視線にやや照れながらも、それでも会場に目
をやりながら、未だ無言の西山に伝わるように、XY−MENは一人ごちる。
「まぁ、見てりゃわかるってことか……」
「……そういうことだ」



『みぃなさん! お待たせいたしましたーーーーーーーーーーーーっ!!』
 緒方理奈が会場に声を響かせる。それが、何十倍もの響きで返ってくる。
『今っ! 燦々と夕日が輝くトワイライトタイム! ザ・黄昏時!
 そしてこれが、長々と続いた本大会、本日最後の試合になります!
 決勝トーナメント、最後の椅子をかけた戦いが、まもなく始まります!』

 まるで夕日に届けとばかりに、理奈の腕が高くあげられる。

『さあ! まずは! ザ・アフローズ! TaS&電芹組の入場でーーーーす!!』

「HAーーーーーーーーーーーーーーーーHHAHHAHHAHHAHHA!!!
 HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA
 HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」
「ざ・まうんどかーですー」
「響ちゃん、車持ちだね。ナイスステータスだよ」
「たけるさーん! 見てますかー!」
 
 会場が、阿鼻叫喚に包まれた。
 さながら野球でリリーフピッチャーが乗ってくるような小型のマウンドカーをも
じった小型車対応アフロが炎上しながら猛スピードで走りこんできてしかも運転手
が水野響でナビが月島瑠璃子で肝心のTaSと電芹はアフロに乗って両手をあげて
会場にアピールしている状況とくれば、誰だって逃げ出したくもなるというもの。

「免許、持ってるのかな」
「うーん……アフロ車の年齢制限はよくわかりません」
「ん、きっと大丈夫だね」
「そうですね」
「大丈夫なわけあるかああああああああああああああああああああああっ!!!」
 気絶した澤倉美咲を抱えながらシッポが、河島はるか&牧村南に絶叫していた一
幕も、このささやかな惨事の中にあったりした。

「電芹〜! かっこいいよ〜!」
 歓声をあげるたけるの隣では、逃げようにも腕つかまれて逃げられないYOSS
Yの姿があったりもしたが、これもまた、ほんの一幕ということで。



『そ……そしてぇ! 対するはL学のザ・魔女と野獣!!
 殺しても死なない不死身ペア! 秋山登&日吉かおりの入場でーーーーーす!!』

 二人が入場してきた瞬間、会場がどよめきに包まれた。
 あろうことか二人ともなんと、普通に入場してきたのであるから。

「い……意外だな……」
 菅生誠治が、機動隊仕様のシールドの陰から顔を出し呟く。
 というか工作部プロジェクト全員爆炎龍対策でシールド持参で観戦してはいたの
だが、肩透かしにあい、お互い顔を見合わせている。
 しかし約一名、シールドとは無縁の女生徒がいた。
(うん。元気じゃん二人とも。そうこなくっちゃね)
「嬉しそうだな、梓」
「あ、いや、別に嬉しいとかそんなんじゃなくて……」
 誠治に揶揄された梓の表情は、しかしながら決して悪からぬもの。
「やっぱりあたしは、アイツらと戦いたい。
 なんのかんのいってあたしが撒いた種だからさ。責任はとらなくちゃね」
(責任、ねぇ……)
 誠治が軽くニヤケてみせる。責任という義務感とはほど遠い、梓の顔を見て。



「それでは、両者前へ!」
 臨時審判の柏木耕一の号令で、二人と二人、ネット際に集まる。
「お互いフェアに、全力で試合すること! な」
「Hi!」
「おう!」
「はい」
「はいっ!」
 動と静、両極端の入場を演じた四者。しかし返事は皆漲る気迫に満ち溢れ。
「サーバー、秋山組から!」
 サーブを打つべく、開始線まで下がる秋山。
 かおりに気づかれぬよう、チラチラと自分のラケットを凝視する。
 1、2回戦の死闘が嘘のようにキチンと張り直されたガットとグリップテープ。
 それが誰の手によるものかなど、もはや考える余地などない。
 ラケットを握る手に、力がこもる。いままでより、ほんの少しだけ強く。



「それでは! 第8ブロック代表決定戦・
 TaS&電芹組vs秋山登&日吉かおり組! ――――はじめえぇっ!」












                           ――To Be Continued!