Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第78章 「吹っ切れたデジタルの騎士」 投稿者:YOSSYFLAME




 Leaf学園男女混合テニス大会。
 ――準々決勝第3試合・とーる、宮内レミィ組vsHi-wait、月島瑠香組。

 徹底的な“レミィ敬遠策”と“ファントム破り”で勝機を掴んだかに見えた
暗躍生徒会代表チーム・Hi-waitと瑠香の二人。
 しかしながらとーるの見事な誘導作戦で、レミィの強烈ショットが炸裂。
 ノッてきたレミィを前に、どう逃げ切るか、暗躍生徒会代表チーム。
 そしてノッてきたレミィを軸に、どう逆転するか、風紀委員会代表チーム。



「ゲーム! とーる、宮内組、2−3!」

 結局このゲーム、全球レミィの高く打ち上げるサーブからの相手の返しをレ
ミィが打ち返し、そのままのペースで2ゲーム目を奪取した。
 しかし。

「ゲーム! Hi-wait、月島組、4−2!」

 自分らのサービスゲームだけは堅守する暗躍組。
 瑠香のサーブから始まるゲームを、相変わらずレミィ敬遠作戦でとーるにの
み打たせ続けるHi-waitと瑠香の二人。
 波に乗ったかと思いきや、なかなかどうして話は簡単じゃないというところ
か。
 2ゲームの壁。
 ある程度以上の技術力を持ちえたチーム相手には、遥か高い壁。
 そして、なおもとーる組に降りかかる試練。
 ファントムが完全に破られている今、致命的とも言える“3ゲーム差”をつ
けられるかもしれない、絶体絶命のピンチ。
(さて、どうしたものか……)
 堂々と啖呵切ったはいいけれど、こういうときに出てくるとーるの弱点。
 デジタル的考え方を主とするとーるの基本的な思考は“1か0”。
 つまり、ファントムを打つか否か、それしか脳裏に浮かんでこない。
 もっとも、新必殺技と言っても、そんなインスタントに浮かんで、なおかつ
それを実行するとなると、驚異的な技術力を要するのではあるが。

(くぅ……、こんな時にこそ私の出番だっていうのに!)
 風紀委員長広瀬ゆかりも、この場面の打開策が浮かんでこない。

(……勝った)
 対照的に隠れて手を握り、勝利を確信するのは太田香奈子。
(彼、真面目だけど吹っ切れないのよね。性格的に。
 今の彼じゃ、何をしたところで、ウチの防衛網は破れない。
 このゲームをブレイクして、5−2にでもなろうものなら……)
 まず100%勝てる。自分の任務を遂行できる。
 香奈子は浮かれているわけでもなく的確に絶対有利を確信していた。
 あの声が、コートに響くまでは。

「とーる先輩、思いっきり! 負けても呪わないから安心して打って!」

(――川越さん!?)
 打てば地獄、打たずとも地獄のとーるの耳に響いた救いの声。
 そうだ。
 その救いの声をくれた彼女は、自分達との試合で無様な敗北を喫したのでは
なかったか。もはや勝てないというのは十分すぎるほどわかっていただろうそ
の試合で、最後の最後まで全力を尽くして自分達にぶつかってきたライバル。
「勝ち負けは二の次だよー! 全力でファイト!」
(……新城さん)
 たける、沙織という自分と浅からぬ縁を持つ二人が励ましてくれている。
 その励ましは、勝とうが負けようが全力で戦うこと。
 勝負の綾など、それから見えてくるものに過ぎないということ。
「トール、テーキッドイーズィーネ!」
 気楽にやろう。パートナーも励ましてくれる。
 ここまで言われて、ここまで応援してくれて、何も出来ないようでは――

 高々とボールを上げる。 
 その落下点に合わせ、全力で、全速で、目に見えないほどのスピードで放つ。
「ファントム、GO!!!」
 その右腕から弾かれるように放たれたそれは、まぎれもなく彼の全力。

(一度破られた技を性懲りもなく!)
 ファントムの特質は理解できている。それを打ち返す技術も自分にはある。
 あとは単に、それを実践するのみ。
 しかし――

 だからといって、100%実践できるわけではない。
 彼も皆も、わかっていたはずなのに。
 打ち返したボールは振り遅れ気味に流れ、コートに引っかかる結果に終わる。
「ゲーム! 15−0!」

「やったあ!」
「ああ。見事な根性入った一撃だったな」
「とーるくん、すごーい!」
 たける、秋山、沙織らからも、今の会心のショットを賛辞する声が出る。
(ふぅ……下手な考え、休むに似たり、か……)
 ため息をついて深くベンチに寄りかかるゆかり。
 吹っ切れた、そのことで好結果を生んだ自分達の代表チーム。
 喜び合うコートの二人を見て、あれこれ思索したことが馬鹿馬鹿しく思えて
くる。
 そして、それを教えてくれたたけるたちには感謝の一言。
(そう。とーるくんのファントムは、そうとわかっていても簡単に返せる代物
じゃない。
 そして、ウチのチームはファントムだけじゃなく、十分に実力を研磨してき
たチーム。たとえ相手がテニス経験者でも、引けはとらないくらいにね!)
「その調子その調子! このまま一気に逆転しちゃいなさい!」
「はい!」
「OK! ユカリ!」
 勝てる。今なら。
 ゆかりの思いも、とーるとレミィに伝わった。

「ゲーム! とーる、宮内組、3−4!」

 時々ファントムを弾き返せはしたものの、勢いで押されゲームを失う。
 しかしこれはブレイクゲーム。落としても仕方のないゲーム。
 次のサービスゲームを堅実に取ればいいだけだ。
 Hi-waitも瑠香も香奈子もそう思っていた。
 
「ゲーム! とーる、宮内組、4−4!」

(な……!)
 思わず椅子から立ち上がり驚愕する香奈子。
 Hi-waitの癖球サーブが、思い切り振り切ってくる二人には全く通用しない。
 というか向こうの戦意、士気、勢いが尋常じゃない。
 分析してみればいいじゃない、今の彼我の状況をね。なんて目で笑い見てく
る風紀委員長広瀬ゆかりを忌々しく思いながらも分析せずにはいられない。
 そして――絶望的な結果が香奈子の脳裏に算出された。
 初期立てたレミィ敬遠、ファントム撃墜の両作戦は見事に破られている。
 2ゲーム差は安全圏という中級者以上のテニス不文律も打ち砕かれた。 
 何より両作戦で士気が激減しているはずだったとーるとレミィの二人は、
 それぞれに仕掛けられた謀略を見事打ち砕き、もはや士気は天井なし。
 それは――

「ゲーム! とーる、宮内組、5−4!」

「IYAAAAAAAAAAAAA!」
 レミィの歓声にかき消されないくらいのハイタッチを交わす風紀の二人。
 完全に調子に乗せてしまったレミィのサーブは、暗躍を圧倒するに十分だっ
た。
 暗躍生徒会、敗色濃厚。
 最終兵器・デレンガイヤーはここぞという一本でしか使えない。
 そして次のサーバー、月島瑠香は、コートの4人の中で一番平凡なサーバー。
 必殺ともいえる観察眼をもってしても、向こうの穴は見えてこない。
 それに加えて、向こう=風紀委員会代表チームは、ここに来てとんでもない
手を打ってきたのである。

『ああーっと! 瑠香選手からのサーブをとーる選手ロブで返す。
 瑠香選手打ち返すも、なんとレミィ選手もがロブで瑠香選手を狙う。
 こ、これは……?』

「……掟破りの敬遠返し、と言ったところでしょうか」
「そっだねー。
 ま、やったらやられるのはどの世界でも同じだし、仕方ないかな」
 ハイドラントとEDGEの神威のSSコンビ。
 この試合の勝者と準決勝で当たる可能性があるだけに観戦していたのだが。
「これはどうやら、上がってくるのは……」
「風紀代表チームになりそうだね。ま……」
 友人である月島瑠香を顧みてポツリと一言。
(瑠香ちゃん。準決勝では仇、とってあげるからね)
 その一言だけを残し、二人の姿は掻き消えた。

 ここにきて総合力で明らかに上のHi-waitを完全に敬遠しての瑠香狙い。
 瑠香も決して下手ではないのだが、戦意最高潮の向こうの二人を一人で相手
するには、さすがに分が悪すぎた。
「このクソ野郎共がぁあああああ!」
 懸命にボールに追いすがるも、その隙間を縫って瑠香サイドを攻撃。
 曲者Hi-waitに一切ゲームに関わらせない。
 ゆかりの作戦かとーるの作戦か知らないが、あまりにもえげつない作戦。
「実はワタシの作戦デシター!」
『お前かよ!!』
 その場にいる全員のツッコミを受けながら、レミィのストロークはHi-waitの
遥か遠く、瑠香の左後ろライン際に突き刺さる。
 これが、この勝負のウイニングショットだった。



「ゲーーーーーーーーーーーーーーム!!
 マッチウォンバイ、とーる、宮内組!! ゲームポイント、6−4!!」



「やったね、とーる!」
「ええ、まずは任務、見事果たしましたね!」
 勝利のハイタッチを交わす二人。
 参謀としてベンチにいたゆかりも、ほっと一息といったところか。
(ううん、まだまだ準決勝、決勝と残ってる。これからが本当の勝負よ!)
 勝って兜の緒を締める。
 とはいえ、それでも勝利の余韻に包まれるゆかりであった。

「いーか! 正義が敗れたんじゃない!
 お前らの側にも正義(レミィのことね)がいたから敗れたんだ!」
「そうですね、ですから」
 言い訳にもならない言い訳をぬかすHi-waitに、とーるが手を差し出す。
「また今度、勝負しましょう。そのときにこそ決着を」
「フン……」
 仏頂面でも手を差し出すHi-wait。とーると固く握手を交わす。
「ぐすっ……ひくっ……ありがとう……ございました……」
「ああルカ、泣かないでほしいヨ。ルカ、本当に強かったヨ」
「そうです。
 ……月島さんですよね。私のファントムの癖を完全に見破ったのは」
 とーるの言うとおり。
 確かに監視カメラでフォームのチェックは出来たのだが、かすかなその癖は
暗躍生徒会の誰にもわからなかったのだ。
 今、目の前で泣きじゃくっている少女・月島瑠香以外は。
 さすがは……
「でも……でも……」
「デモもストもあるか。お前のおかげでここまでやれたんだ。さ」
「アリガトネ、ルカ」
「ううっ……」
 泣きながらもレミィと握手する瑠香。
 レミィもとーるもああ言ってくれたが、やはりあの4人の中で自分だけが一
人実力的に劣っていたことは事実といえば事実。
 最終的に暗躍生徒会の穴となってしまった彼女のいたたまれなさは……

「よくがんばってくれたね。ありがとう、瑠香」
 参謀、太田香奈子に頭をポンと撫でられて、
「すごいいい勝負だったよ。瑠香ちゃん、お疲れさま」
 2度にわたり激戦した柏木初音に慰められて、
 そして、会場の皆の暖かい拍手に包まれて……

 結局申し訳なさは消えることなく、香奈子の胸を借りて、初音に手を握って
もらいながら泣きじゃくる瑠香。
 でも、瑠香をより泣かせてしまったのは申し訳なさだけでなく、香奈子の、
初音の、そして皆のいたわりの暖かさのせいでもあっただろう。

(ちえっ、僕の出番は無しか)
皆に包まれる瑠香を見て安堵しながらも少々悔しそうなHi-wait。
ゆきや夢幻来夢、Runeなどにぼてくりこかされながらそんなことを考えて
いた。
「……というか貴様らいい加減にしろよ……」

ふととーるが観客席を見やる。たけるも沙織も、手を振ってくれている。
今日勝てたのは、彼女達のおかげでもある。
感謝の気持ちをこめて、彼女らに頭を下げ、レミィと共にコートを後にした。



薄暗いロビー。
コーラを飲みながら人を待つ香奈子。
待っていれば必ず来ると思っていた。
そして香奈子の予想、というか期待通り、やはり彼女は現れた。
「……広瀬」
呼ばれた彼女は振り向きもせずに、ファンタを買ってそのまま去る。
「次こそは……」
彼女の背に吐き捨てるように言葉を投げつける。
「次こそは、あなたを振り向かせてみせる! 覚悟しておきなさい!」
やや涙声で叫んだその言葉に、
「……バーカ」
ただ一言だけ返し、その背中が見えなくなる。
グシャリ。
まだ中身の入っているコーラ缶を握りつぶす。あふれたコーラに濡れる右手。

でも。
香奈子にはまだわからないほうがいいかもしれない。彼女自身の成長の為にも。
ゆかりが彼女に投げかけた、その言葉の本当の意味を。












      とーる&宮内レミィ組……準決勝進出!









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おひさしぶりです。YOSSYFLAMEです。
いろいろあって9ヶ月もの休学、まことに申し訳ありませんでした。

まだ終わってない、そんな気持ちを込めてテニスを再開しました。
決勝まで絶対書き上げますので、見守っていただければ最高に幸せです。
いつもありがとうございます。