Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第79章 「いつも通りに」 投稿者:YOSSYFLAME




「さて、いよいよ私達の出番だね、ハイドくん」
「………」
 いよいよ出番がやってきた、準々決勝第4試合。
 相手は自分達とは毛並みこそ違うまでも、常識の枠を超えた相手であること
には違いない。
 その相手を前にしてさえ、EDGEがいつもとさほど変わらぬようにハイド
ラントには見えた。
「……師匠」
「何?」
「西山英志を破った男……気になりますか?」
 感情を表に出さぬまま問うハイドラントに、微笑を返しながらEDGEが応
える。
「……そうだねえ。
 確かにね。兄様と楓さんを破ったあの二人は強いと思うよ。
 けど、それを必要以上に意識してもどうなるものでもなし、いつも通りにや
るだけだよ。
 ね、ハイドくん?」
「……御意」
 無感情だったハイドラントの口元が、僅かに緩んだ。
“いつも通りにやる”
 余人にとっては、自分のやれることを最大限尽くしてやろう、という意味に
とれるであろうし、実際EDGEの言葉の意味も、あながち間違ってはいない。
 ただ、EDGEである。
(学園の大多数の、否、SS使いの大多数さえわかっていない)
“あの”柏木千鶴を敵せる実力が一体どれほどのものなのか。
 皆わかっていない。頭では理解していても、魂に刻み込まれていない。 
 そして、その彼女が“いつも通りにやる”ということが、どれほどのことな
のか。
(電芹……悪いが俺達に立ちはだかった時点で諦めてくれ。
 全ての観戦者よ……そしてTaS。知るがいい)
 神威のSS創始者の、その実力を。
 
 その彼の口元の緩みを、EDGEはいつものように笑って眺めていた。



「で、ますたぁ」
「Hai?」
「ますたぁのアフロの中身って、チョンマゲなんすか?」
「OH! それならジブンで確認してみるといいと思いマスガ?」
「遠慮しときます……」
 週刊誌を読みながらふとした疑問を投げかけたYinは心底後悔したという。
 その横ではデコイがこれ以上なく満足した表情でレンズを磨いている。
 格闘少女葵、マスクで顔を隠しても大人の色気は隠せないレディ・Y。
 ベスト8唯一儚げな印象のあった月島瑠香。彼女が消えたのは実に残念だ。
 しかし彼女が生き残ってくれて本当によかった、宮内レミィの健康的な脚線
美。
 そしてなによりレア中のレア。
 L学二大巨頭ともいえる来栖川綾香と柏木梓の悶絶シーン。
 準々決勝だけでもこんなに宝の山が出来た。
 この第4試合もきっと……
「電芹のいやらしい写真撮ったら呪いますからね……」
「(ぎく)いやいやそんなことは滅相もないですよ川越さん」
 具体的に呪われたらどんな風になるのかはわからないが、なにかすごい怖い
気がするのでやめておこう。
 だいたい電芹の写真は先週既に撮ってるし、なんていったら川越たけるに呪
われるんだろうなとか思いつつ電芹をチラリと見ると、顔を赤くしてデコイの
カメラを気にしながらスカートの裾を必死に押さえている。

「呪いが怖くて写真家やれるか! そのシーンいただきぃ!」

……後日デコイは両腕両脚がまずボキッと折れて、そこにロッ骨にヒビが入り 
ちょっと苦しくてうずくまったところに小錦がドスンと乗ってきた感じの症状 
に襲われることになるがこの一瞬に比べればさしたる問題ではない。

「……何やってるんですか本当に」
「ヤー! 応援に来たヨ!」
「実は私も来ちゃいました」
「まぁ暇になったからな」
 第三試合で見事勝利を収めた“アフロ同盟”のとーると、惜しくもアフロ同
盟ではなかったレミィ。
 で、何故か暗躍生徒会のHi-waitと月島瑠香の二人まで来てくれている。
「あんたら、ど…」
「理由なんかどうだってイイサ! 試合が終わってひとシャワー浴びてきた、
シャワーあがりの姿が艶やかしいテニスウェア姿のレミィと制服姿の月島さん
のツーショット写真いただきぃ!」
 
……後日デコイは突然体中から血が飛び出す毒と血が凝結する毒と内臓が二三
破裂する毒を何げに注入されていたのだがこの一瞬に比べればさしたる問題で
もない。

「で、とーるさんはわかるとして、他の人たちはどうして……?」
「モチロン電芹の応援ネ! カフェテリア同士で準決勝対戦シヨウ!」
「私も……負けちゃいましたけど、電芹さん、頑張ってください!」
「あ……ありがとうございます……」
 照れながらも胸に響く激励の言葉。電芹が嬉しくて震えているのがわかる。
 そんな電芹が、たけるは何よりも嬉しい。
「で、そっちの暗躍の方は?」
「決まってるじゃないか」
 Hi-waitは胸を張って言った。
「僕達が負けた以上、あとはお前らに任せるしかない。
 お前らが勝てば勝つほど会場は混乱と混沌の渦に巻き込まれ、優勝でもしよ
うものならもう会場中つーか学園中が恐怖の坩堝に……」
「コラ。人のチームつかまえて随分な言いようね」
「あたっ」
「Hahahaha」
「なんか帰ってきたらすごいことになってるね……」
「うん……」
 春とはいえほとんど夏といっていい今日。
 それに加え特に暑い、真夏日といってもいいくらい。
 冷えたジュースをたくさん抱えて……

「おおっ!これぞ神の思し召し!
 理奈先生と瑠璃子さんの汗まみれで少し透けたTシャツ姿いただきぃっ!」

 後日と言わず即座に鉄拳を喰らったデコイではあるが、まあ些細なことだ。
 ともあれアフロ同盟女性陣――自分で書いててものすごく違和感のある言葉
だなあとも思うが――から差し入れのジュースをもらいはしゃぐ生徒達。
 皆に囲まれている電芹に励ましの声をかける。
 で、何故か人の輪から一人外れ、右手首をクイクイと動かしてるTaSの姿。

「大丈夫だよ」 
 何が大丈夫なのかは知らないが、アフロを優しく撫でる瑠璃子。
 よく読めない奴と言われる彼も瑠璃子さんの前には形無しの笑顔。
「頑張ってね」
 加えてその一言があれば十分なのだろう。
 理奈からの励ましの言葉に、いつも通りの笑顔を返す。

「TaS選手、電芹選手、第4試合が始まります!」
「よしっ」
「Ha……」
 選手呼び出し担当の桂木美和子に呼ばれ、戦闘準備とばかりに立ち上がる二
人。
「サア、行キマショウ!」
「はいっ!」
 二人顔を合わせあい、控え室を出る。
 後ろにいる仲間たちの大きな声援を背に受けて。



「……そーゆーのを、二股と呼ぶと思うんだけどな、僕は」
「違います! 電芹さんもEDGEさんも大事な友達です! 激励するのは当
たり前です!」
「気持ちはわからんでもないが、なんで僕まで」
「私のパートナーですからいいんです!」
 理屈になってない理屈を言いながら、反対側の控え室に走る瑠香と、彼女に
引っ張られているHi-waitの二人。
(正直嫌なんだよなー。多分ものすごい殺気立ってるだろ、あの二人)
 露骨に嫌な顔をしながらも、それでも瑠香が行くのだから仕方がない。
 引っ張られてるのもあるが、万が一瑠香に何かがあれば、そのときは……と
いうのもないわけでもないし。
「あ! いましたいました! EDGEさーん!」
 屋外の眩しさが暗い廊下に入ってくる。逆光で二人の姿は見えない。
「え? ああ! 瑠香ちゃん!」 
 逆光の中から駆けてくるストレートヘアをポニーにまとめている少女。
「はぁ、はぁ……間に合ってよかったぁ……」 
 息切らせ激励に来た少女もポニーテール。デコイがこの場にいればさぞかし
狂喜乱舞してただろう、黒と水色のポニー二人のツーショット。
「もしかして……激励に来てくれたとか?」
「はい! あの……電芹さんにも言ったんですけど……でも……」
 二股と呼ばれてもしかたない行為ではあるが、それでも。 
「EDGEさんにも頑張って欲しくて……頑張ってください!」
「ありがとう、瑠香ちゃん!
 この試合勝って、次の準決勝、絶対カタキとってあげるからね!」
 カタキとかは別にいいんだけどなぁと苦笑する瑠香の頭をポンと叩き、
「じゃ、行ってくる! 瑠香ちゃん、ありがとう!
 でもってぇ、Hi-waitくんもねぇ!」
 瑠香に、Hi-waitにはやや意地悪そうな、いずれにしても笑顔を投げかけ、
EDGEはハイドラントが待つ入場口へ駆けていった。

「激励できてよかったか?」
「はい! 二人ともとっても喜んでくれて嬉しかったです! よね?」
「……なんで僕に聞くかそれを」
 薄暗い中、誰もいないのをいいことに腕を組みにいっちゃう瑠香。
 照れながらもその腕を振り払わず、二人、歩いていく。
 そんな中、Hi-waitには、ひとつの疑問があった。
(準々決勝だってのに、なんであいつらに殺気の一つも見受けられない……?)



 それは、観衆の誰もが思ったことであった。
 TaSvsハイドラント。アフロ同盟vs神威のSS。
 何があっても対処しているいつもの学園治安維持メンバーも、実況の長岡志
保も、思わずあっけにとられたというか、気勢が殺がれたというか。
 なんのことなく、普通に入場してきたハイドラントとEDGEの二人。
 そしてそれは、相手側もそうであった。
 どんな奇天烈な入場をしてくるかと期待と不安に包まれていた会場が一気に
毒気を抜かれたような、なんでもない普通の入場。
 人外決戦とまで冠せられた両チームの入場にしては、あまりにもおとなしす
ぎる。
 観客の中にも気付くものはいる。そしてそれはあっという間に会場全体に伝
播してゆく。
 そして、大方の人間が予想する。
“どちらが勝つにせよ、この試合、絶対タダでは終わらない”

 臨時審判はもちろん柏木耕一。両組に握手を促す。
 縁浅からぬ電芹とハイドラント、電芹とEDGEはフレンドリーに握手を交
わす。
 TaSとハイドラントも、無難に握手を交わしていくのだが。
 
 手を離さない。TaS、いや、EDGEのほうが。
「あ……ゴメン……」
「家々、お気にナサラズニ」
“いつも通りにやる”そう言っていたEDGEだったが、いざその顔を見ると。
 やはり心中ずっと抑えていたのか。
 兄であり敵対流派SS不敗流宗主の西山英志を倒した男、TaS。
 やはりEDGEにとって、それは振り切れない業なのか。
 もし、だとしたら……

「ふぅ……」
「EDGEサン?」
「緊張っていうんだろうね、こういうの。やっぱりキミが強いからかな」
 握手は離されている。
 コートをはさんで、互いを見合うEDGEとTaS。
「兄様のカタキとか、不敗流に対する優位性の証明とか……
 多分キミは、そんなことを考えていて勝てる相手じゃないと思う。
 握手をしただけで、わかっちゃったから」
「Oh。買イカブリカモシレマセンヨ? 
 ソレニ、ワタシヒトリで上ガッテキタワケジャナイデスカラ」
「うん。……わかってる」
 そして、TaSに笑いかけて、もう振り返らずに定位置につく。。
「ゴメンねハイドくん。でも、もう大丈夫」
 傍らのハイドラントが、少しだけ笑ったようにEDGEには見えた。
 それが少し照れくさくて。試合終わったら鳳凰落だなとか思いつつ。

「それでは準々決勝第4試合!
 TaS、セリオ@電柱組 vs ハイドラント、EDGE組 プレイッ!」

 兄様……ハイドくん……
 私、いつも通りにやるよ。――本気でね!












                         ――To be continued!