「…そういうわけで、是非あなたの力を借りたいの。」 「……。」 「どう?恋ちゃん?」 「……。」 試立リーフ学園テニスコート。 テニス大会があるということで、普段は閑古鳥が鳴いているこのコートが 日も落ちようとしている時に、なおも歓声は止む気配を見せない。 それでもさすがに人が減ってきたところに、軽く汗を流しにコートに現れた東雲恋であるが、 タイミングが悪いことに、たまたま大会出場のため練習していた柏木千鶴と鉢合わせしてしまったのである。 「…私は…。」 逡巡する恋。 しかし、彼女のテニスの腕は半端ではなく、 もし参加したならば、誰と組んでも間違いなく優勝候補にあげられる実力を持っている。 「私には組むパートナーがいないし…。」 何か思いつめたような表情の恋。 彼女の普段は明るくて、やや素行不良の気もあるが、人懐っこいために、友達も決して少なくない。 しかし、本当に心を開ける人、と言ったら… 目の前にいる千鶴もその数少ない一人である。そしてもう一人、 「忍君と組んだらいいじゃない。」 そんな恋に優しく微笑みかける千鶴。 「!…、…あ、兄貴と!?」 思いっきり動揺する恋。 「そう、忍君にも同じこと言ったんだけど、パートナーがいなくて困ってるみたいなの。 彼くらいなら誘えば組んでくれる女の子はなんぼでもいるのにねえ〜…」 千鶴の軽口など聞いてはいない。 恋にとって兄の忍は、決して素直に対話ができる対象ではないのだが、 心の奥底では何者にもかえがたい想いを抱いていて、 その兄と、所詮はお遊びだとしてもパートナーを組むと言う千鶴の提案は、 恋の心に波風を立たせるに十分な内容であった。 「今回はちょっと暗躍生徒会と賭けをしていてね。負けるわけにはいかないのよ。 ジン君達も頑張ってくれてるんだけど、ここはダメを押しておくってことで…どう?」 戸惑う恋の瞳をじっと見つめる千鶴。 そんな千鶴の願い(=今回は強制じゃなくて本当にお願い(笑))に、 「…わかりました、私でよければ、兄貴と組んで力になります。」 滅多に見ることのできない”素直な恋”に普段とのギャップを感じてわずかに頬を緩める千鶴。 「な、何がおかしいんですか!?」 「あ、ごめんごめん。 それじゃ、エントリーはしておくからお願いね♪」 「…はいっ。」 心を見透かされたのかと思ったのだろう。 テレを隠せない表情のまま早足でその場を立ち去る恋に、 「優勝したら温泉旅行だからね〜〜〜!」 いらんことを吹き込む千鶴。 夕陽のせいかそれとも… 横顔を真っ赤に染めて、恋は走り去っていってしまった。 翌日、”東雲忍&東雲恋”のペアが正式にエントリーされ、 参加選手達は、突如現れた”隠れた強豪”の研究と対策に突如追われることとなった。 ――暗躍生徒会会議室。 「とゆー訳で。」 「何が”とゆー訳”よ。」 「我が暗躍生徒会からは、すこちゃんと太田委員。そして、自称正義の味方と新人女。 以上の4人に刺客となって労働して貰う。」 「自称ってなんだよ。」 「新人女って名前じゃないです…」 横でぶーたれるHi−Waitと月島瑠香をとりあえず棚上げして、 「そーゆーことで―― 「ちょっと。」 「あ?」 偉そうに熱弁をかましているRuneに水を差したのは、同じくご機嫌斜めっぽい香奈子である。 「どうして月島会長とのペアじゃない訳? おまけにその会長はこの大詰めに何処かへ消えていっちゃうしっ。」 「あー、会長ね…。」 ため息を吐いてお手上げのポーズを取るRune。 「はじめはそのつもりだったんだがな、電波妹が参戦してからすっかり戦意喪失してしまってなあ… 今だってコートに行って妹を見守ってるんじゃないか?」 「…ふう。」 しれっとした悪びれ0%のRuneの物言いに諦めのため息を吐く香奈子。 そんな彼女の肩をポン、と叩き、優しげな笑みを向ける健やか。 「…そうね、こうなったら思いっきりがんばりましょう! 先輩!」 そんな彼に香奈子も極上の笑みでそれに応える。 「でも、2チームだけってのは心もとないわね、 それに、ジャッジや風紀委員会の目もうるさいし…。」 ふと不安を漏らす香奈子。 「あー、気にするな。あんたらの他にも数チーム、隠れ暗躍サイドを大会に潜り込ませているから。 例えば、バレー部の城下と風紀代表のレミィな。」 「それよ。城下君はともかく、レミィはきっと広瀬さんの差し金よ、どうする?」 「どーもしないさ。レミィには普通に試合をしてもらうだけだ。 その時になってからゆっくりと考えよう?」 眠そうな目をしながらものぐさそうに答えるRune。 しかし、彼がこういう態度をとる時は、必ず腹案があったりするのだが。 「ま、とにかくゆっくりイベントを楽しむことにするか?」 暗躍生徒会代表チーム:健やか&太田香奈子、Hi−Wait&月島瑠香、プラス…? そして、大会前日、テニス大会前夜祭ならびに抽選会会場――学園グラウンド特設会場―― 「そういうわけでお願いね。」 「わかった。この大会、なんとしても無事に終わらせてみせるよ。」 大勢の参加者や観客、野次馬たちが一挙に集結して、思い思いの夜を満喫していた。 ディアルトや猫町櫂、XY−MENなどの屋台組は、自分達が出場するにもかかわらず 今が稼ぎ時とばかりにせっせと営業に励んでいた。 その横では、長岡志保がどういうわけか予想屋まがいのことをやっていて とーるに尋問を受けているところであった。 …まあ、興味本位で金銭はもらってはいないらしいが。 そして何より、こういうイベントを最大限に利用するのは―― 「さーさーいらっしゃい! 枝豆に柿ピーはいらんかねーーーーーーー!」 ――第二購買部である。 しかも今大会ノンエントリーの坂下好恵が 今イベント最大の見せ場とばかりに大声を張り上げて菓子などを売っていたりする。 枝豆に柿ピーっていうところがなんとなく気にはかかるが。 やはり今大会ノンエントリーのbeakerの姿が見えないが、 どうせ裏で賭け好きの生徒をつかまえて、トトカルチョでもやっているのであろう。 それと、今回の主催は確かに暗躍生徒会だが、彼ら単独でここまで盛り上げるのは不可能に近く、 第二購買部や情報特捜部、放送部など、大会運営のためにいくつかの団体と提携を結んでいる。 その中のやや静かなところで、 風紀委員長広瀬ゆかりと、来栖川警備保障の実質ナンバー2・へーのき=つかさが立ち話などをしていた。 「俺も今大会はエントリーしてないしね。ま、ゆっくり見させてもらうさ。」 「Dセリオと参加すればよかったのに。」 「うーん、話は持ち掛けたんだけど、『そんな恥ずかしい格好で出るスポーツなんて絶対嫌ですっ』 …とね。」 すっかり忘れられてるかもしれないが、実はDセリオは極度の恥ずかしがりやなのである。 で、当のDセリオは今、いつもと変わらず、ジン・ジャザムと熾烈な空中戦を繰り広げている。 「………。」 「………。」 「…頼むから試合中にだけは、あれ、止めてね。」 「…善処します。」 「………。」 へーのきと別れた後、どこともなく設営された一般席に腰掛けるゆかり。 今、彼女以外の風紀委員は会場内外の警備で、皆ちりぢりになっている。 風紀委の主力、とーる&宮内レミィは大会参加のため選手席に座っているはずで、 主な指揮は、自分の親友にして右腕、貞本夏樹に一任している。 そこそこ大きな揉め事があれば、手持ちの携帯に連絡が来ることになっている。 漠然と歓声渦巻く会場にいながら、ふと、腑に落ちないことがあることに気づいた。 「(あいつは一体何をしてるのだろう?)」 YOSSYFLAME。 ゆかりの記憶に間違いがなければ、このようなイベントには一も二もなく参加表明しているはずの男である。 しかし、実際はあの男が誰かと組んだと言う話は一切聞こえてきていない。 そう、エントリーの受付がとっくに終了した今この期に及んで未だに。 松原葵がT−Star−Reverseと組み、 雛山理緒が猫町櫂と組み、 宮内レミィがとーると組み、 東雲恋が兄の東雲忍と、続々と彼に縁深い女の子がエントリーされているというのに。 そうだ。 それどころか、暗躍によるエントリー募集が始まってから、あの男を見かけた記憶がない。 暗躍生徒会の野望の阻止のために色々な手を打っていて、今の今まですっかり忘れていたが。 「(また何かを企んでいるのか?)」 女好きでスケベという他に、トラブルメーカーという彼の顔も、嫌というほど記憶に刷り込まれているゆかり。 実際にやってることは底の浅い、低レベルなトラブルなのだが、 深い考え一切なしでやっている分、暗躍生徒会やダーク13使徒の犯行よりも”ある意味”性質が悪い。 「(でもまあ、あいつの考えてることなんて、どうせスケベ関連でしょう。 テニスコート周辺の他に、女子更衣室やシャワー室などの警戒を強めとけば問題はないよね。)」 そう結論づけ、それっきり彼に関して考えるのをやめた。 深く考えるレベルの相手でもないし。 『お待たせしたわねーーーーーーーーーーーーーーー! これより”男女混合テニス大会”の抽選会を開催するわよーーーーーーーーーーーーーーー!!!』 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 凄まじい歓声。 もちろん司会は、この時のために生きていると言っても決して過言ではない女・長岡志保。 『さーーーーーーーーーーーーーーーーーって! その前にーーーーー、エントリーはもう既に締め切っちゃってるわけだけど、 飛び入りで一組! 一組だけこの夜に誓って飛び入り参加させてあげるわーーーーーーー! 早い者勝ち! 早い者勝ちよーーーーーーーー!』 ざわざわざわざわ……。 会場がわずかに揺れる。 耳をそば立てると、お前出てみろとか、あなたあの人と組んで出たらどう? などの声がちらほらと聞こえてくる。 出てくるわけがない。 ゆかりはそう確信していた。 こんな時に飛び入りで出てくるような人ならば、とっくにエントリーを済ませているに決まっている。 無駄な募集などとっとと打ち切って抽選に入ってくれないかと思って椅子に深く腰掛けようとしたその時、 「きゃ!?」 『なーーーーーーーにーーーーーーーーーーー? この志保ちゃんがせっかくビックなチャンスをやったのに誰も無し〜〜〜〜〜?』 ある意味あんたが司会なのも原因の一つのような気もするが。 『はいはい、わかったわよ、 じゃ、飛び入りはゼロってことで――』 「ちょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと 待ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」 一陣の蒼い疾風が会場を包んだ。 「よお志保、相変わらずお疲れさんっ♪」 『あれー? アンタまだエントリーしてなかったの?』 「そ。そーゆーわけで、俺、コイツと組むわ。」 と言って、両腕に抱きかかえた女性、広瀬ゆかりをゆっくりと降ろしながらあっけらと嘯く男。 ぐいっ! すたすたすたすた……! 会場の舞台に降ろされたゆかり、ぼーぜんとした顔が次の瞬間、みるみるうちに真っ赤になって 男を舞台袖に引きずって行く。 『なーにー? 承諾得てないのーーーーー? しょうがないわねー、まあせっかく出てきたことだし 10分だけ待ってあげるから、優しく説得しなさ〜い♪』 完璧に状況を楽しんでいる志保。観客からも野次や冷やかしが飛ぶ。 「どういうことなのよ!」 「どうって、飛び入りだが?」 「そんなことはわかってるわよ! 私が問題としてるのは、なんで私とあなたが組まなきゃいけないのかってコトなの!!」 「組めそうなのがお前しかいなかったから。」 悪びれもなくあっさりと答える男、YOSSYFLAME。 パァン! 「ふざけないで! 私を何だと思ってるのよ!! あなたの都合だけで振り回されてたまるもんですか!」 平手打ちを食らわせた後、怒りをこめた瞳をぶつけるようにYOSSYを睨み付けるゆかり。 「どいて! 残念だったわね、思った通りにいかなくて! 十分時間はあったのに、何の相談も無しに飛び入りなんて虫が好すぎるわ!!」 会場の外に聞こえているかもしれない。 そんな配慮さえも今のゆかりにはなかった。 ただ、目の前の男のあまりにも身勝手な態度にただ怒りをぶつけるしか、頭の中にはなかった。 ぐ…。 「…離しなさいよ。」 怒りのまま立ち去ろうとするゆかりの右腕をがっちりと握って離さない。 「離してって言ってるでしょう! ちょっと凄めは私が言うこと聞くとでも思ってるの!? 正直見損なった――? ゆかりをがっちりと捕らえて離さないその左腕。 「――あなた、どうしたの、その腕――。」 「…頼む。」 「え?」 「頼む広瀬、俺と出てくれ。俺はどうしてもこの大会に出たいんだ。」 「…出るって、あなたその腕で…!?」 「腕くらいどってことない。それよりも――頼む広瀬! 俺と組んで出てくれっ!」 両腕でゆかりの肩に食いつかせるようにがっちり掴んで、 「………。」 今までゆかりが見たこともない悲痛な表情。 「…手を離して。」 「あ、わ、悪い…。」 『は〜〜〜い♪ お二人さん、結論は出たかな〜〜〜?』 人の話を聞いていたのかと思うくらい緊張感のない声の志保。 「もうちっと、あと5分35秒くらい――」 「待つ必要はないわよ。」 YOSSYの時間延長の願いをあっさり却下させるゆかり。 「ほ〜〜〜、ナンパ師大観衆の前でフラレるか…、特捜部の三面記事になるわね〜♪」 真面目にその口ふさいだろうかと思ったYOSSYだが―― 「そうね、マイク貸して。」 「はいは〜〜〜い♪」 決定的瞬間を楽しみにしている志保に、極上の笑みを浮かべて、ゆかりは宣言した。 『広瀬ゆかり&YOSSYFLAME組、飛び入りエントリーしますっ!』 周囲の喧騒の中、YOSSYの耳元によせて、そっと呟いた言葉。 「とりあえずは組んであげる。でも、”報酬”は払ってもらうわよ♪」 そんな彼女にいつもの笑みで、 「はいはい、…お前が気に入ればいいんだけどね。」 ============================================== YOSSYFLAMEです。 みなさま、このたびのホントに個人的な都合100%の大会に 本当に多くの方々が参加していただきまして、嬉しいとしか言いようがありません (正直に言えば、ちょっとだけ書くのが大変かなとも思ったんですが(笑)) 参加してくれたみなさま、サポートしてくれたみなさま、読んでくれたみなさま。 本当にありがとうございます。 正直、予想外の参加者の数のため、みなさまに納得してもらえる量の 書き物が書けるかどうかと聞かれて、書けると絶対の自信を持って言えないのが 僕の腕の未熟さのところですが、 できる限り、みなさまが少しでも喜んでくれるような物が書けるよう頑張りますので、 期待しないで、まあ見てやろか、へっ。ぐらいで読んでいただけると幸いです。 というわけで、 東雲忍&東雲恋 健やか&太田香奈子 Hi−Wait&月島瑠香(以上他薦、敬称略) YOSSYFLAME&広瀬ゆかり(自薦) の4チームの参加を表明します。 僕は書き手ですけど、参加者としての立場で言えば、 このチームで優勝を狙って行く所存です(できるわけないけど(笑)) 出来るだけ早くに組み合わせ抽選Lを書きたいと思いますので、 まあ見てやってください(笑) では、失礼いたします。