『おーーーーーーーーーっとお! 開幕試合Aコートでは早くも流血だぁ!!」 そう。まるで大戦時のベルリンのように真っ赤な血の雨がコートに降りそそいだ。 『鮮血の貴公子・陸奥選手の得意技が早くも炸裂だーーーーーーーーーーーーーーっ!』 「いいからとっとと担架呼べよ志保!」 『何よ。私は実況よ? 他の人にたのめばいいじゃない。』 そんなこんなしているうちに、試合開始早々担架で運ばれて行く陸奥。 なんのことはない。 ただ、風でまくれたセリオのアンダースコートを見て、興奮のあまり鼻血を噴射させて倒れただけの話である。 「なんなんだあいつは?」 「さあ…」 Aコート試合中断の間のDコート――7ブロック一回戦第1試合。 すぱあんっ! 「ゲーム! 氷室、ティーナ組、1−0!」 「へっへっへ、まあこんなもんだな!」 「ふーん、まあそこそこやるじゃない。」 氷室京介、ティーナ組が今のところ、笛音、てぃーくん組を押していた。 「笛音〜〜〜〜、がんばれぇぇぇぇ!」 「笛音ちゃんしっかり! てぃーくん、笛音ちゃんをフォローしてあげて!」 「…む(複雑な表情)」 「がんばって、てぃーくん、ふえねちゃん!」 「ふえねちゃん、ふぁいとだぞ!」 6ブロックで待機中のOLH、勇希、きたみち静、雛山良太が懸命に笛音達を励ましている。 その声援になんとか応えるも疲労困杯の笛音、なんとか打開策を考えているてぃーくん。 「(なんでボクに応援がないの?)」 ふくれるティーナ。 まあ、今のところ勝ってるからねえ。応援がないのも今は無理ないかも。 余裕しゃくしゃくの氷室。 しかし、彼は知らなかった。 得意の絶頂時こそ、一番危ない時期ということを。 それは第2ゲーム。 調子に乗った氷室のボレーが笛音の顔面に当たってしまった。たまたま軽かったものの。 「いやあ、悪い悪い、気にすんな。」 その軽い一言が、彼にとって命取りだった。 コオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!! 「!!!」 恐怖に全身を凍り付かせる氷室。 今まで見たことも、想像したことすらない闇。真の漆黒。輝ける闇の圧縮。 その、彼の心を包んだ巨大な闇が一斉に彼の精神を蝕んだ、 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 そして、彼は倒れた。 「えー、氷室選手試合続行不能のため、笛音、てぃーくん組の勝利といたします!」 何が起こったかすらわからずにきょとんとしている笛音達。 それ以上にきょとんとしているティーナ。 「何が起こったのかしら…ねえ、OLH君?」 「…さあな。」 「?」 「何やってんだあいつは。」 Aコートから双眼鏡で覗いていた榊宗一が呆れたように呟いた。 笛音×てぃーくん組…2回戦進出! 氷室京介×ティーナ組…1回戦敗退。 ――ところ変わって保健室。 「――大丈夫ですか? 陸奥さん。」 「あ、ああ、もう大丈夫。ごめんね、セリオさん。」 一見無表情で心配するセリオに照れたように笑いかける陸奥。 ちなみに今のセリオの格好は、実に色気を抑えているジャージ姿である。 いちいち鼻血を出された日には試合が終わる前に日が暮れてしまうとの運営委員の判断である。 「――陸奥さん。」 無表情のセリオの顔がかすかに曇った――かのように陸奥には見えた。 「――この試合、私に預けてはいただけないでしょうか?」 「? う、うん。」 何のことだかわからずに頷く陸奥。 預けるも何も、一緒に戦って行くんだから当然じゃないか。と、思いながら。 「セリオ…」 いつものような抜けた顔じゃない。 どこか緊張が走った面持ちの男、長瀬源五郎がAコートでひそかに、自分の”娘”を見守っていた。 「長瀬さん、どうしました? そんな顔で。」 セリオの応援をしにAコートに来たFENNEKが軽く笑いかけ話しかけた。 「ゲーム! 皇、エリア組、4−0!」 ざわめく観衆。 あまりにも予想外の展開。 個人的な実力を見れば、皇と陸奥のテニスの実力はほぼ互角。 光ったのは、予想外のエリアの健闘。 サーブを撃つ時はおっかなびっくりなのだが、それ以外の時は鋭いボールをばんばん叩き入れてくる。 でも実際、それほど意外なことではない。 異世界で幾つもの修羅場を潜ってきた彼女にとっては、ティリア、サラには及ばぬものの、 それなりの運動能力だって備え付けていて当然なのであるから。 とにもかくにも、エリアの嬉しい誤算が一つ。 そして、もう一つ―― 「一体どうしたんですか? なんで彼女はサテライトシステムを使わないんですか?」 観客席で、真剣な眼で試合を見つめている長瀬に問い詰めるFENNEK。 「…。」 「長瀬さん!?」 「……マルチのように笑いたいから、と言っていたよ。」 ずしゃあ… 隅に撃たれたボールを返そうと、バランスを崩して倒れるセリオ。 「セリオさん! 大丈夫?」 彼女を助け起こす陸奥。 セリオの全身は今やかなり埃で薄汚れてしまっている。 サテライトシステムを使わないセリオの運動能力は、普通の女生徒とほぼ同等。 特殊能力者が大挙して参加しているこの大会では、力不足の感は否めない。 「――すみません、陸奥さん。」 「何を言ってるんだか。いいんだよ、セリオさん。」 今になって、ようやくセリオの言葉の意図を理解できた陸奥。 しかし、何かを模索しようとしているセリオの邪魔はする気は毛頭なかった。 例え、勝利を犠牲にしてでも。 「セリオは言ってたよ、昨日――」 ―― 「――主任、どうしてマルチさんは、あのように笑えるんですか?」 唐突なセリオの質問にやや戸惑う長瀬。 「――明るく、楽しく、回りの人たちをも暖かく包み込むような微笑みが…」 「うーん…、僕にはわからないな。」 半分嘘である。 セリオを即決実務型にして、それに対してマルチを多感情学習型にしたのは まぎれもない彼らなのであるから。 その代わり、彼女の肩に、優しく両手を置いて、優しげな眼で見つめ、 「探してごらん、いくら時間をかけてもいいから。 ただ、マルチじゃない、”君の”最高の笑顔を探しに――」 ―― 「きっと、サテライトシステムを使わないのは、不器用な彼女らしい選択なんだろうな。」 普段ニヤつきがちの長瀬の口元が締まっている。 何も言わず、コートに目を移すFENNEK。 「ゲーム! 皇、エリア組、5−0!」 無表情ながらも悲痛さはFENNEKにも伝わってくる。 自分の我が侭で、今にも敗れ去りそうな試合。それもある。 しかし何より、彼女の結論の全てを受け入れた陸奥の優しさが、セリオには痛かった。 「…くっ!」 「フェネック君!?」 「コートチェンジ!」 ぐいっ。 コートをチェンジしようとしている陸奥の腕を強引に掴み、 「せめて1ゲーム取ってみせろ、彼女の願いを叶えるためにも!」 これだけで全てが通じる。 同じ女の事を想う男同士。 「ああ!」 FENNEKの腕を掴み、力強く答える陸奥。 「しゃあ!」 「せいっ!」 「えいっ!」 「――ヤアッ!」 確かに、平凡な試合だったかもしれない。 だけど、陸奥、FENNEKにとっても、セリオにとっても、この試合は―― 「ゲーム!アンド、マッチ・ウォン・バイ 皇日輪×エリア・ノース! ゲームポイント、6−”1”!」 確かに、数字だけ見れば完敗である。 しかし、そんなことは問題じゃない。 「――すみませ…んんっ!?」 何度目かのセリオの謝罪の言葉を手のひらで塞ぐ陸奥。 「俺は楽しかったよ、セリオさん。…わあっ!」 「――キャ!?」 サテライトシステムなしで戦いきったセリオ。 満身創痍の彼女を支えていた陸奥が、バランスを崩してセリオと共に倒れかける。 「――あっ。」 そんな彼女を支えたのは。 「フェネックさん…。」 「良かったよ。ナイスゲーム!」 「へへ、どーも!」 「――あの…」 「ん?」 「なんだい? セリオさん。」 「――私も、楽しかったです…」 そこには、陸奥とFENNEKのそれぞれの肩に支えられてるセリオの眩しい笑顔があった。 皇日輪×エリア・ノース組:2回戦進出! 陸奥崇×HMX−13セリオ組:1回戦敗退。 ============================================== どおもお、YOSSYです。 ゆかり:みなさんこんにちは! さて、開幕戦は終わったわね。開幕戦のテーマは? よっし:”サテライトシステムを使わないセリオを書いてみたかった”かな? ゆかり:その意図は? よっし:別に意図って程のものでもないんだけど、 俺は彼女結構好きなんだわ。微妙な中の優しさって言うか… ゆかり:女の子としてのセリオを書いてみたかったと。 よっし:女の子としてのセリオだったら、久々野さんをはじめとして、FENNEKさん、陸奥さんとか 他にもたくさんの人が、俺よりうまくて気持ちがこもっているSSを書いてるんだけど。 …あーわかんなくなった! ゆかり:言いたいことはきちんとまとめなさいよね。 よっし:くそう。 ゆかり:テニスでこういう彼女を表現したかったんでしょう? よっし:…そうです。うまく言えないんですけど、僕なりに書いてみました。 みなさまの意見など本当にお待ちいたしております。 ゆかり:そうだ、次回の予告は? よっし:健やか×香奈子組vs猫町×理緒組です。 トリプルG×芹香組vsXY−MEN×レディー・Y組戦もちょっと入るかも。 ゆかり:相変わらずいい加減ね。 よっし:(無視)頑張りますんで、見放さないどいてください〜m(_)m ゆかり:…む。 皇日輪さん、陸奥崇さん、氷室京介さん、今大会の参加本当にありがとうございました。m(_)m