「ゲーム! 健やか、太田組、3−3!」 第5ブロック一回戦第1試合、健やか×太田香奈子組vs猫町櫂×雛山理緒組。 まさに一進一退の攻防が繰り返されている。 「しゃあ!」 すぱーーーーん! サーブを放つ。 リターンが返される。 ボレーを撃つ。 ボレーで返される。 再びボレーで応戦。 抜けた、決まったか――? 『おおっとっ、またも雛山選手。このボールにも追いついたーーーーーっ!』 「たあぁぁっ!」 理緒のリターン! 勢いこそないものの、確実に敵方のコートに飛んで行くボール。 「いいかげん…しつこいのよっ!」 すぱあんっ! 香奈子の痛烈なボレー! 「しゃっ!」 「え!?」 すぱんっ! 猫町の得意技、バックハンドボレー! トンファーを模倣した、あくまで攻撃的な技。そのまま決まるか―― すぱあんっ! 「ナイスっ、先輩!」 「(なんでアレに追いつくかなあ…)」 後衛の健やかの見事なフォローに歓声を上げる香奈子に、ただ呆れるばかりの猫町。 「うりゃあぁぁぁぁっ!」 ぱーんっ! それを再び理緒が返す。まさに一進一退の攻防。 「ゲーム! 猫町、雛山組、4−3!」 「ふう。」 「………。」 「強いなあ、彼ら。」 「…それはいいんですけど、どうするんですか? 私たちの立場上、一回戦で負けるわけにはいかないんですよ?」 香奈子の表情に、わずかに焦りの色がうかがえる。 彼ら暗躍生徒会は、大会スポンサーである柏木千鶴との賭けのため、 そんなに簡単には負けられないのであるが、 「…なんで先輩はこんなに余裕なんですか?」 「…どうしてだろうねえ。」 「…はあ。」 「ゲーム! 健やか、太田組、4−4!」 「ほら、なんとかなった。」 「そうですねえ、なんとかなりましたねえ。」 半分投げやりに答える香奈子。 「(なんでこんな人が暗躍生徒会なんてやってるんだろう?)」 正直、そう考えたのは今が初めてではない。 どこからどう見ても悪人には見えない、この先輩。 だからと言って、自分達の方針になんら反対したことがない。 いや、むしろ楽しんでる気配すらある。 ある意味一番わからない先輩。 でも―― 「いたっ…!」 「大丈夫? 雛山さんっ。」 「う、うん…、大丈夫、うん。大丈夫だよ。…いたっ!」 「これは…悪い方に捻っちゃったみたいだ…」 猫町が深刻な表情で理緒を診る。 そんな彼に心配かけさせないためか、努めて笑顔を見せる理緒。 ただ、やはり少しは辛いようだ。 「(15分はあれば治療はできる。ただ、彼らが…)」 規定治療時間は10分と、ルールでは定められている。 5分の超過時間を彼ら暗躍生徒会チームが認めてくれるかどうか―― 「あの〜、ごゆっくりどうぞ〜。僕達、昨日から徹夜で眠いんで、少し休んでますんで。」 「(先輩!?)」 思わず袖を引いてしまう。 この試合、確実に勝てる千載一遇のチャンスなのに。 ――第3ブロック、一回戦第1試合。 「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ずぱしゅっ! XY−MENの強烈なサーブ! 「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 螺旋反衝撃っ!」 すぱあぁぁぁぁぁん! トリプルGの得意技。 魔力レーザーをラケットに纏わせてボールを跳ね返す荒業。 ブーストされたボールが敵のコートへ飛んで行く。 ふわっ… そこまで威力のこもったボールを、まるで綿毛のように打ち返す女性。 篠塚や……もとい、謎の美女テニスプレーヤー、レディー・Yである。 的確なボールがトリプルGの陣地へ飛んで行くが、 すぱんっ。 これまた優しくボールを運ぶように打ち返す、トリプルGのパートナー、来栖川芹香。 「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 しかし、返ってきたボールにXY−MENの魂のこもった打撃が炸裂! 「ゲーム! XY−MEN、レディー・Y組、5−4!」 「しゃあ!」 マッチポイントをつかみ吠えるXY−MEN。 「くう〜〜〜っ!」 トリプルGの悔しそうなうめき声がコートに響いたそんな時。 「………あ。」 芹香の呟きと共に、 ポタ。 ポタ。ポタ。 ――――――――! 「通り雨ですね…。」 ――雛山理緒治療中のCコート、5ブロック第一試合。 わからない。 どうしてあそこで敵に塩を送る必要があったの? 別に冷酷に試合続行を宣言する必要もない。 誰もが認めた”治療ロスタイム10分”ルール。 黙ってさえいれば、必然的に勝てたはず。 わからない。 どうして? なぜ…? ………。 ……。 通り雨――? ――雨。 ――そうだ。 いつだったか。 私が生徒会関係の仕事で遅くなった時、 急に土砂降りになった時、 無言で傘を差し出してくれた人。 普通だったら、そんな恩着せがましい行為は受け取らないはずなのに。 何時の間にか、共に傘を差して帰っている私がいる。 自然体。 いつだってそう。この人は。 優しすぎるくらい優しいんだ。 人が皆、その優しさに気づかないくらいに―― 「…たさん。」 「…んんっ?」 「おーたさん、そろそろ試合が始まるよ。」 「ん…試合…? …き、…きゃあっ!」 「どしたの?」 「だ、だって、私、いきなり…」 どうやら理緒の治療中寝ていてしまったらしい香奈子。 今まで健やかの肩にもたれかかって寝ていたのだが、 目が覚めて、そういうことで驚くとは、案外純情な娘なのかもしれない。 「私、何分寝てました?」 「20分くらいかな。」 あわてる香奈子に微笑む健やか。 「あちらさんはもう準備は出来てるよ。」 健やかの目線を追う。 猫町櫂、それに、治療を追え復活した理緒の姿が。 「行こうか、太田さん。」 そう言って、いつもの調子で飄々とコートに向かう。 「…まったく。」 苦笑いせずにはいられない。 何も変わっていない。この人の、南風のような何気ない優しさは。 ………………………………。 ……………………。 …………。 「ゲーム! アンド、マッチ・ウォン・バイ、猫町、雛山組! ゲームポイント、7−5!」 「ありがとうございました!」 「いえいえ、こっちも休ませてもらったし。」 感謝の言葉を投げかける猫町に相変わらずの健やか。 「ごめんね。本当は、あの時点でわたしたちの負けだったのに。」 やっぱり悪いことをしたと思ってでもいるのか、理緒の声にも元気がない。 「ううん、私達も楽しかったしね。」 我ながらガラにもないセリフ。 私達は、負けられないはずだったのに。 でも、伝染されたんだろうか、この人に。 通り雨上がりの南風に映える虹がヤケに綺麗に見えた。 猫町櫂×雛山理緒組…2回戦進出! 健やか×太田香奈子組…1回戦敗退。 ============================================== どおもお、YOSSYです。 ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです! よっし:さて、第4章も終わりまして、みなさんどうだったでしょうか? ゆかり:今作のコンセプトは? よっし:暗躍生徒会の名(迷?)デュオ、 健やかさんと太田香奈子ちゃんをちょっとばかり別の視点から書いてみたかった。です。 ゆかり:暗躍生徒会って、ああいう悪の組織に見えて、結構魅力的な人達が集まってるからねえ。 よっし:そゆことです。 ゆかり:風紀委員会も頑張らなくちゃ!さ!この入会ポスター貼ってきて。 よっし:何で俺が。 ゆかり:ケチねえ、女の子にモテないわよ。 よっし:大きなお世話だ、お前はさっさと自分の仕事しろ。 ゆかり:はいはい。…で、次回予告は? よっし:トリプルG、芹香組vsXY−MEN、レディー・Y組、決着編! と、今度は2,4,6,8ブロックの一回戦第1試合を開始するとして、 まずは昂河晶、吉田由紀vsOLH、斎藤勇希戦をいこうかと。 ゆかり:今度は試合の様子も書いてよ。心理描写書くのも悪くはないけどさ。 よっし:わかった。(ぴー)してくれたらな。 ぐしゃっ! 健やかさん、猫町櫂さん、今大会の出演、本当にありがとうございました。m(_)m