「楽しそうですね。」 第2ブロック一回戦第1試合に出場予定のシッポに、のどやかに話しかける女の子。 「まあ、な。」 やや照れくさいように答える男、シッポ。 「頑張ってくださいね。」 「何言ってるんだか。比較的楽なブロックに入ったとはいえ、それでも強敵はいる。 …今の対戦相手とか、な。」 そう。彼らの緒戦の相手は、 急造チームとはいえ、卓越した運動能力を持つディアルトと、 十分以上に参謀がつとまる脳を持ったDマルチのペアなのである。 「別に本気で勝利を狙ってはいない。出場することがこの大会での私の目的だからな。」 本当に楽しそうだ。 「夢…でしたものね。」 感慨にふけるようにそっと呟く女の子、シャロン。 「…ああ。」 遠くを見るような目で頷くシッポ。 そんな二人を涼しげな春風がそよぐ。 「さて、そろそろ美咲先生を呼んでくるわ。」 そう言ってその場を離れるシッポ。 「…思いっきり楽しんできてください。」 そんな彼の背中に、そっと呟いた。 ――Cコート、6ブロック一回戦第1試合。 「ゲーム! OLH、斎藤組、3−1!」 「くっ!」 悔しげに吐き捨てる昂河。 「(ったく、これが優勝候補の実力だってのか…)」 自分とパートナー・吉田由紀の息も決して悪いものではない。それは自信を持って言える。 が、 まるで二人が一人のような凄まじいコンビネーションを繰り出してくるOLH達。 周囲が優勝候補だと話題にする彼ら二人の実力が、まさかこれほどのものだとは思わなかったのである。 「(力量的には決して劣ってない。むしろこっちの方が…)」 そう思うのだが、”何故か”、 「きゃっ!」 由紀の横を抜く勇希のリターン! 「ちっ! せっ!」 素早く由紀のフォローに回り、リターンを撃ち返… 「!」 何でOLHがこんなところに詰めている!? すぱぁぁぁぁぁぁん! 「ゲーム! OLH、斎藤組、4−1!」 なんてことだ。 ここまで翻弄されるとは。 やはり、力の差ってのは歴然と…、? 「吉田さん…」 「はい?」 「全然くじけてないね。」 「そりゃあもう!」 …わからない娘だ。 「ゲーム! 昂河、吉田組、2−4!」 「ね? まだまだわからないよ!」 確かにポイントは取り返した。 しかし、テニスにおいての実力差がこれほどあるというのに、 何故、彼女は笑える? 「ゲーム! OLH、斎藤組、5−2!」 「…ふう、やばいですねえ。」 「やばいってあんた…」 どこまでも楽観的な由紀の態度にさすがに慌てる昂河。 「どうしてそこまで笑える? どうしてそこまで楽しめる?」 何故だ?この絶対的劣勢でどうして? 「だって、昂河くんが私と組んでくれたから。」 え…? 「私、楽しんでるよ、だって、やっと主役の一人としてプレイできるんだもの。」 迷いのない笑顔。 そうだ。 引込み思案でなかなか前に出ることが出来なかった彼女。 例え試合に勝とうが負けようが、今こうしていられることが楽しくて仕方がないんだ、と。 だって、今、彼女はまぎれもない主役の一人なのであるから。 くしゃ… 「昂河くん?」 ふっきれた笑顔で由紀の頭をつかむ昂河。 「ありがとう。」 もう迷いはない。 相手が誰だろうと、勝ち負けがどうだろうと。 ただ、僕は、この強いパートナーと全力で戦うのみ! 「吹っ切れたようね。」 ネットの向こうから声をかけてくる斎藤先生。 「ええ、悪いですけど、ここからは全力で行きます!」 「おっけーおっけー! でも、私も負けられないの、OLHくん、”アレ”いくわよ!」 「へーへー。」 「気合がこもってない!」 OLH×斎藤勇希組…2回戦進出! 昂河晶×吉田由紀組…1回戦敗退。 ――2ブロック一回戦第1試合。 「そりゃあ!」 「くうっ!」 「――右30度です!」 「えいっ!」 「なかなかやるじゃねえか! そらぁ!!」 シッポのサーブが吠える! 「ま、こんなもんですよ!」 負けじとディアルトも強烈なリターンを返す! 「えいっ!」 美咲が頼りなげな動きながらも、なんとか返すが―― 「――ここです。」 すぱんっ! Dマルチの試合予測能力に押え込まれる。 「シッポくん、ごめんね。」 「気にしないでください。それよりも、どんどん行ってください、ボールに向かって。」 「でも、また足ひっぱっちゃう…」 「そんなことは気にしてませんよ。頑張ってください。私が出来る限りフォローしますから。」 「良かったですね…」 Aコート観客席から、自分のことのように嬉しそうな顔をして、試合を見ているシャロン。 「あなたの願いが、また一つ。小さいですけど…」 人並みの楽しみを満喫したい。小さいけれど大きな願い。 極めて普通の試合だった。 普通だったが、この試合にかけるシッポの意気込みはすごいものがあった。 ”勝つための意気込み”ではなく、”楽しむための意気込み”。 それは、パートナーの澤倉美咲を見ただけでわかるというもの。 汗びっしょりで、それでいてとても眩しい笑顔。 彼は、”二人で”楽しんだ。 その結果、勝利をも犠牲にすることになろうとも。 「ゲーム! アンド、マッチ・ウォン・バイ、ディアルト、Dマルチ組! ゲームポイント、6−3!」 「――彼らがもう少し勝利に執着していたら、どうなっていたかはわかりませんね。」 「そうですね。でも、…」 「――でも?」 「…少しばかり、うらやましいです。彼らが。」 「ごめんね、シッポくん。」 美咲が申し分けなさそうにシッポに詫びる。 「いえいえ、そんな、私もですねえ…」 そんな美咲の態度につい恐縮してしまうシッポ。 もしくは、勝ちを狙っていけばもしかしたら…ってのは確かにあった。 でも。 「楽しかったから、これでよしとしましょうか。」 「…うんっ。」 美咲の笑顔を見て、やっぱりこれでよかったのだろう、とも思う。 ふぁさ… 「わわっ!?」 突然シッポにかぶさるタオル。 「お疲れさまでした〜」 「シ、シャロン…貴様なあ…」 苦笑いを浮かべているうちにも、美咲にもタオルを渡しているシャロン。 「楽しそうでしたよねっ。」 不意に響いたシャロンの言葉。 耳元に囁かれた彼女の言葉が妙に温かく感じる。 その時、珍しく素直に頷いたことは、今もよく覚えていない。 そして、いつもとは違う笑顔を浮かべていたことも。 ディアルト×Dマルチ組…2回戦進出! シッポ×澤倉美咲組…1回戦敗退。 ============================================== どおもお、YOSSYです。 ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです! さっそく今回の見所をば… よっし:慣れてきたなお前、まあいいけど。で、今作のコンセプトは、 『楽しさへの追求』かな? ゆかり:何よ、その自信のない言い回しは。 よっし:問題は、それをどこまで表現出来たかってことなんだよな。 ゆかり:うーん… よっし:力及ばない部分は本当に申し訳ありません。(深々) ゆかり:で、このコンセプトは2試合共通? よっし:そ。由紀ちゃんとシッポさん達にスポットを当てて書いてみました。 ゆかり:コイツの駄作に付き合ってくれてありがとうございます。(深々) で、次回予告は? よっし:佐藤ポチ組vs幻八組。でもって、TaS×電芹組vs神無月×葛田組です! ゆかり:期待しないで待ってやってくださいね! シッポさん、ディアルトさん、へーのきさん、昂河さん、OLHさん、宇治さん、 今大会へのご参加、本当にありがとうございました。m(_)m