Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第6章 「Why you enjoy?」  投稿者:YOSSYFLAME

「楽しそうですね。」
第2ブロック一回戦第1試合に出場予定のシッポに、のどやかに話しかける女の子。
「まあ、な。」
やや照れくさいように答える男、シッポ。
「頑張ってくださいね。」
「何言ってるんだか。比較的楽なブロックに入ったとはいえ、それでも強敵はいる。
…今の対戦相手とか、な。」
そう。彼らの緒戦の相手は、
急造チームとはいえ、卓越した運動能力を持つディアルトと、
十分以上に参謀がつとまる脳を持ったDマルチのペアなのである。
「別に本気で勝利を狙ってはいない。出場することがこの大会での私の目的だからな。」
本当に楽しそうだ。
「夢…でしたものね。」
感慨にふけるようにそっと呟く女の子、シャロン。
「…ああ。」
遠くを見るような目で頷くシッポ。
そんな二人を涼しげな春風がそよぐ。
「さて、そろそろ美咲先生を呼んでくるわ。」
そう言ってその場を離れるシッポ。
「…思いっきり楽しんできてください。」
そんな彼の背中に、そっと呟いた。






――Cコート、6ブロック一回戦第1試合。

「ゲーム!  OLH、斎藤組、3−1!」
「くっ!」
悔しげに吐き捨てる昂河。
「(ったく、これが優勝候補の実力だってのか…)」
自分とパートナー・吉田由紀の息も決して悪いものではない。それは自信を持って言える。
が、
まるで二人が一人のような凄まじいコンビネーションを繰り出してくるOLH達。
周囲が優勝候補だと話題にする彼ら二人の実力が、まさかこれほどのものだとは思わなかったのである。
「(力量的には決して劣ってない。むしろこっちの方が…)」
そう思うのだが、”何故か”、
「きゃっ!」
由紀の横を抜く勇希のリターン!
「ちっ!  せっ!」
素早く由紀のフォローに回り、リターンを撃ち返…
「!」
何でOLHがこんなところに詰めている!?

すぱぁぁぁぁぁぁん!


「ゲーム!  OLH、斎藤組、4−1!」
なんてことだ。
ここまで翻弄されるとは。
やはり、力の差ってのは歴然と…、?
「吉田さん…」
「はい?」
「全然くじけてないね。」
「そりゃあもう!」
…わからない娘だ。

「ゲーム! 昂河、吉田組、2−4!」 

「ね?  まだまだわからないよ!」
確かにポイントは取り返した。
しかし、テニスにおいての実力差がこれほどあるというのに、
何故、彼女は笑える?

「ゲーム!  OLH、斎藤組、5−2!」

「…ふう、やばいですねえ。」
「やばいってあんた…」
どこまでも楽観的な由紀の態度にさすがに慌てる昂河。
「どうしてそこまで笑える?  どうしてそこまで楽しめる?」
何故だ?この絶対的劣勢でどうして?

「だって、昂河くんが私と組んでくれたから。」

え…?
「私、楽しんでるよ、だって、やっと主役の一人としてプレイできるんだもの。」
迷いのない笑顔。
そうだ。
引込み思案でなかなか前に出ることが出来なかった彼女。
例え試合に勝とうが負けようが、今こうしていられることが楽しくて仕方がないんだ、と。
だって、今、彼女はまぎれもない主役の一人なのであるから。

くしゃ…

「昂河くん?」
ふっきれた笑顔で由紀の頭をつかむ昂河。
「ありがとう。」
もう迷いはない。
相手が誰だろうと、勝ち負けがどうだろうと。
ただ、僕は、この強いパートナーと全力で戦うのみ!

「吹っ切れたようね。」
ネットの向こうから声をかけてくる斎藤先生。
「ええ、悪いですけど、ここからは全力で行きます!」
「おっけーおっけー!  でも、私も負けられないの、OLHくん、”アレ”いくわよ!」
「へーへー。」
「気合がこもってない!」



      OLH×斎藤勇希組…2回戦進出!
      昂河晶×吉田由紀組…1回戦敗退。






――2ブロック一回戦第1試合。

「そりゃあ!」
「くうっ!」
「――右30度です!」
「えいっ!」

「なかなかやるじゃねえか!  そらぁ!!」
シッポのサーブが吠える!
「ま、こんなもんですよ!」
負けじとディアルトも強烈なリターンを返す!
「えいっ!」
美咲が頼りなげな動きながらも、なんとか返すが――
「――ここです。」
すぱんっ!
Dマルチの試合予測能力に押え込まれる。

「シッポくん、ごめんね。」
「気にしないでください。それよりも、どんどん行ってください、ボールに向かって。」
「でも、また足ひっぱっちゃう…」
「そんなことは気にしてませんよ。頑張ってください。私が出来る限りフォローしますから。」



「良かったですね…」
Aコート観客席から、自分のことのように嬉しそうな顔をして、試合を見ているシャロン。
「あなたの願いが、また一つ。小さいですけど…」
人並みの楽しみを満喫したい。小さいけれど大きな願い。

極めて普通の試合だった。
普通だったが、この試合にかけるシッポの意気込みはすごいものがあった。
”勝つための意気込み”ではなく、”楽しむための意気込み”。
それは、パートナーの澤倉美咲を見ただけでわかるというもの。
汗びっしょりで、それでいてとても眩しい笑顔。
彼は、”二人で”楽しんだ。
その結果、勝利をも犠牲にすることになろうとも。



「ゲーム!  アンド、マッチ・ウォン・バイ、ディアルト、Dマルチ組!  ゲームポイント、6−3!」



「――彼らがもう少し勝利に執着していたら、どうなっていたかはわかりませんね。」
「そうですね。でも、…」
「――でも?」
「…少しばかり、うらやましいです。彼らが。」



「ごめんね、シッポくん。」
美咲が申し分けなさそうにシッポに詫びる。
「いえいえ、そんな、私もですねえ…」
そんな美咲の態度につい恐縮してしまうシッポ。
もしくは、勝ちを狙っていけばもしかしたら…ってのは確かにあった。
でも。
「楽しかったから、これでよしとしましょうか。」
「…うんっ。」
美咲の笑顔を見て、やっぱりこれでよかったのだろう、とも思う。

ふぁさ…

「わわっ!?」
突然シッポにかぶさるタオル。
「お疲れさまでした〜」
「シ、シャロン…貴様なあ…」
苦笑いを浮かべているうちにも、美咲にもタオルを渡しているシャロン。
「楽しそうでしたよねっ。」
不意に響いたシャロンの言葉。
耳元に囁かれた彼女の言葉が妙に温かく感じる。
その時、珍しく素直に頷いたことは、今もよく覚えていない。
そして、いつもとは違う笑顔を浮かべていたことも。



      ディアルト×Dマルチ組…2回戦進出!
      シッポ×澤倉美咲組…1回戦敗退。



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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!  さっそく今回の見所をば…
よっし:慣れてきたなお前、まあいいけど。で、今作のコンセプトは、
        『楽しさへの追求』かな?
ゆかり:何よ、その自信のない言い回しは。
よっし:問題は、それをどこまで表現出来たかってことなんだよな。
ゆかり:うーん…
よっし:力及ばない部分は本当に申し訳ありません。(深々)
ゆかり:で、このコンセプトは2試合共通?
よっし:そ。由紀ちゃんとシッポさん達にスポットを当てて書いてみました。
ゆかり:コイツの駄作に付き合ってくれてありがとうございます。(深々)
        で、次回予告は?
よっし:佐藤ポチ組vs幻八組。でもって、TaS×電芹組vs神無月×葛田組です!
ゆかり:期待しないで待ってやってくださいね!



シッポさん、ディアルトさん、へーのきさん、昂河さん、OLHさん、宇治さん、
今大会へのご参加、本当にありがとうございました。m(_)m