Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第12章 「光と闇の贈り物」  投稿者:YOSSYFLAME


――第3ブロック一回戦第2試合、Yin×エビル組vs八希望×保科智子組。

「………。」
シュパッ!    ザシュッ!

ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜    ぽとんっ。


「ゲーム!  Yin、エビル組、5−5!」
凄まじい乱打戦。
互いが互いの必殺球に手も足も出ないまま、試合も終局に近づいてきた。
「あらあら、まだ終わってなかったの?」
「あれ、ルミラさま?  確か試合の準備のはずじゃ?」
「準備ったってすぐに終わるわよ。
それに私のパートナーがちゃんと試合状況を見ていてくれるから、時間になったら呼びに来るでしょ。」
アレイの問いを事も無げに返すルミラ。
「それよりも、ずいぶん苦戦してるわねえ…
エビルの実力からしてあっさり勝っちゃうかと思ったんだけど。」
意外な顔で戦況を見る。

「超飛球!  神戸ランドマークタワーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
またしても八希の究極ロブが炸裂。
ただのロブではない。ボールの回転を限りなく0に抑えた、野球で言えばナックルの類。
回転0故に落下時に空気抵抗をモロに食らって、
「な、またかよこれ〜〜〜〜」
「…………ち。」
…ボールが派手に揺れて、どこに落ちるか想像もつかない。

ぽーーーーーーーん。

これが、保科智子原案、八希望実行の魔球。”神戸ランドマークタワー”である。

それに対抗するは、
「…………シッ!」
シュパァァン!
エビル愛用の死神の鎌で首を掻っ切るかのごとくストロークを放つ。
その人智を超えたスイングスピードから生み出される超速ボール。

ゲームも終盤に近づいてきてるこの時になっても、未だ八希達は攻略の糸口さえ掴めていなかった。
…かに見えたが、

「ゲーム!  八希、保科組、6−5!」
処理不能の魔球の撃ち合いは、このゲームでは智子達がかろうじてとることができた。
しかし、全く互いの魔球を破ることができない以上、今後も全く予断は許されない状況であることは変わらない。のだが、
「(よっしゃ!  この勝負いただきや!)」
何故か心中勝利宣言の智子。

「う〜ん、このゲームをとれなかったのは痛いわね…」
「ええ?  まだまだこれからですよ、ルミラ様!」
イビルの心配無用と言う発言にも、心配の色を隠せないルミラ。

「このゲーム。エビル選手達がとれなかったのは、ある意味致命的かもしれません。」
「え?  だってまだ互角じゃあ?  篠塚…じゃない、レディーY。」
「見てみればわかります。この後を。」
「はあ…」
二回戦の対戦相手の偵察のために、選手専用席に座っているXY−MENとレディーY。
その彼女も、勝負の決着を示唆した発言を。



その危惧の理由は、次のゲームで明らかにされることになる。



『おっとお!?  保科選手、エビル選手の超速球にラケットを当てることに成功した!?』
実際返せたわけではない。
しかし、当てたという事実そのものが、とてつもなく大きいものだったのである。
「八希君。」
にっこり笑顔を浮かべている智子が何事かをアドバイスしている。
「…なるほど。」
次いで不敵な笑みを浮かべる八希。



「ゲーム!  Yin、エビル組、6−6、タイブレーク突入!」
タイブレーク。
一本ごとにサーブを交代してゆき、
先に7ポイント以上、かつ2ポイント以上の差をつけた方が勝ちと言うルール。
ささいなミスが命取りになる短期決戦。
しかし、

「八希、保科組、5−0!」

既にエビルの超速球は八希達には通用しなかった。



「ルミラさまっ、どうしてエビルさんのボールが全く通用しなくなっちゃったんですか?」
慌てるアレイ。そんな彼女を諭すように、
「エビルのアレは、打つときの癖が丸分かりなのよ。
私達がエビル達と練習試合をやって勝てたのはそのおかげ。癖を直すよう言おうとしたんだけどね…」
複雑な表情のルミラに
「治すように言えば良かったじゃないかっ!  何で言わなかったんですかルミラ様!」
イビルが激昂する。
そんな彼女を怒るでもなくじっと見つめるルミラ。
「…何百年もの間、ずっと染み付いた癖をそう簡単に取ることができると思う?
それに、そのおかげで本業の勘が狂ってしまったら?」
「う…」
「だから、癖自体は仕方がないと思ってた。気づく前に終わらせればいいと思っていたから。」



「しかし、保科さんはずっと調べていた。彼女の欠点を。
最初のゲームで彼女の超速球にまるで歯が立たないと悟った途端、今度はその癖を捜しはじめた。」
「そうか…」
「Yinさん達は、一刻も早くゲームを終わらせるべきだった。
しかし、相手の予想外の攻撃で、癖を見抜かれる時間を与えてしまった。」
「じゃあ、アイツらが勝つ可能性は…」
「もはや皆無に近いでしょう。ただ…」
「ただ…?」
わずかの間を置いて答えるレディーY。
「彼、Yin選手次第でしょうね。」



ぽーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん…

またしてもあげられる超飛球。
「くっ…」
心底歯噛みするYin。
隣のエビルに目をやる。
表面上は無表情だが、悔しい気持ちでいっぱいなのが、近くにいる故によくわかる。
再び歯噛みする。
この試合で自分がやったことと言えば、八希の超飛球にオロオロしてただけではないか。
超飛球が落ちてくる。
絶対にとれないふわふわの超飛球が。
「ますたぁーーーーー!  ボールが飛んできてますってーーーーーーーーーーーっ!」
「Yin!  どうした!?」
アイラナとレッドが応援してくれている。
しかし、だからといってどうなるもんじゃない。
悔しい。
悔しいがどうにもできない。
三度目の歯噛み――


アイラナ――!?


――
「ますたぁ、最近なんか羽がパサついちゃってるんですよ〜」
「何?  どれどれ?」
「ほらぁ、ほらほら。」
「わぷっ、羽を動かすなっ!」
「あはははははっ!」
「…お前なあ、見ろ、こんなに羽がふわふわと。また部屋を綺麗にしなくちゃならないだろうが。」



――そうだ、アレはアイラナの羽と同じ――



まだ落ちてこない超飛球。
「(そうだ!  原理はそれと同じ!  あとは俺のバトミントンの技術で――)」
瞬時に築き上げられるYinの集中力の城塞。
そこから流れ出される、打倒超飛球の指令。
「(Yin!)」
声に出さねど祈るようなエビル。
魔族が祈るというのも変だが、とにかく――

「(まかせといて!  絶対に決める!)
    俺を――
    エンジェル・マスターの俺を甘く見るなぁぁ!!」



シュパァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……



「…まさか、打ち返されるなんて…」
呆然とする八希。
「そんなアホな…」
智子もまさかという表情。



「Yin、エビル組、5−1!」

「やったぁぁぁぁぁぁ!  ますたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「でかしたYinっ!」
「Yinさん、すごいです〜〜〜!」
「やるじゃねえかYin!」
「へー、なかなかやるじゃない…」
アイラナ、レッドを始め、アレイ、イビル、メイフィアまでもが賛辞の言葉を送る。
まるで勝ちを決めたかのようだった。
「(やった。俺だってやればできるんだ…)」
充実感に満ち溢れるYinを、エビルはただじっと見つめていた。



その後、ゲームはYin組のペースで進み、
Yinのポイント奪取、エビルもポイントを決め、押しに押しまくった。
しかし、最初の5点差ハンデはやはり大きく、結果、八希、智子組に逃げ切られてしまった。

「みなさん、お疲れさまでした〜」
「惜しかったな!」
「ますたぁ、かっこよかったよ。」
アイラナ、アレイ達に出迎えられ、ほくほく顔のYin。
「まー、勝てなかったのは残念だったけど――よくやったわ、あんたたち。」
「ルミラさん…」
「…ルミラ様」
いつもの調子のルミラ。
「さあ!  次はあたしたちの出番!
絶対に温泉旅行を獲得してみせるわ!  あんたたち、気合入れて応援しなさいよ!」
『はいっ!』
「さ!行くわよ!  まずは第2ブロック、あたしたちが取らせてもらうわ!」
意気揚々とコートに向かうルミラ。
乗りかかった船とルミラの応援をしに行くYin。

ぎゅ…

「!  …エビルさん?」
そんなYinの手を握り、彼女は言った。ただ一言。
「…ありがとう」
と。
滅多に見せない笑顔と共に。



      八希望×保科智子組…2回戦進出!
      Yin×エビル組…1回戦敗退。



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どおもお、某富士の樹海から死ぬ思いで復活してきましたYOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
        ふむ、今回はテニスになってるわね。
よっし:お前ね、俺を何だと思ってる訳?
ゆかり:イロモノSS使い。(どきっぱり)
よっし:(ががーん)
ゆかり:(全く気にせず)で、今作のコンセプトは?
よっし:特に意識してなかったが…今回の4人の心境をとらえてくだされば幸いです。
ゆかり:なるほど…エビルさんが可愛く書けてればいいかなあ〜ってわけ?
よっし:ま、そゆことかな。
ゆかり:じゃ、次回は?
よっし:次はもう、2ブロック第2試合、神凪遼刃×ルミラ組vs川越たける×長瀬祐介組でしょ?
ゆかり:この勢いを駆ってね。
よっし:そゆこと。で、他の第2試合をあてる可能性もありますので…
ゆかり:待っててあげてください。(深々)