Lメモ・vsジン・ジャザム 「ジャッキング! ”クイーン・ザ・リズエル”(前編)」  投稿者:YOSSYFLAME


「エルクゥ同盟?」



ここは格闘部部室。
経験のある人間ならご存知だろうが、練習後、窓を全開にして、道場の板に寝そべって
夜風を体一杯に浴びると言う行為。
実に気持ちのいいものである。
「よっしー、知らなかったの?」
「いや、前に聞いたことがあったような。」
「…はあ。」
やや呆れたような声を上げる来栖川綾香。
「えとですね、よっしー先輩。エルクゥ同盟っていうのは――」
.
.
.
「…ふーん。そういうもんなんだ。」
葵の説明に納得したんだかしてないんだか、微妙な表情を浮かべるYOSSY。
「クイーン・ザ・リズエル、ジン・ジャザム……ね。」
.
.
.
「つまりは、あの柏木4姉妹を守護する運命の戦士達って触れ込みか…」
正確には日吉かおりも守護の対象に入っているのだが、今回の話には関係ないので省いておこう。
誰もいない夜の校舎の屋上。
施錠されているにもかかわらず、一人屋上に忍び込んで、珍しく物思いにふけっているYOSSY。
脇には、すでに飲み干してあるビール缶などが2、3本転がっていたりする。
「綺麗なお月さまだなあ…」
ふと空を見上げると、綺麗な満月が目に映る。
酒が入っているのも原因の一つなのかもしれない。今日の月は妙にぼやけて見える。
(千鶴さん。)
ふと思いふける。
1年前。
こんな妙な能力を身につける前。彼女に出会い、能力に目覚め、そして一つの別れを経験し、
かけがえのない親友を殺され、復讐への道を歩み、自分の目から輝きが失せはじめた頃、



「楽しく生きようよ。」



すっかり闇の匂いが体中に染み付き、ほとんどの学友が自分を避けはじめたあの頃、
再会した彼女はそういって笑ってくれた。

そして、ある黒衣の男の誘いで、この学園に来た。
まさか、あの人がここの教師をやっていたとは思わなかったけど。

ごきゅ…

4本目か5本目か、缶ビールを飲み干して、思う。
運命の守護者。
血の紋章。
『姫護』の任。
柏木千鶴の『守護者』
…………。
「…気にいらねえな。」
次の瞬間。
風に乗って、消えた。







Lメモ・vsジン・ジャザム 「ジャッキング!  ”クイーン・ザ・リズエル”(前編)」







――科学部前。

「れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ、さくりふぁーーーーーーーーーーーいすっ!!」
「オラオラさっさと実験台になりな!」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
…いつもの光景が繰り広げられている。

「ううっ、僕にもっと力があれば…」
落胆した様子で帰宅する科学部1年、来栖川空。



「復讐してやる気はないか?」



そんな空の前に現れたYOSSY。
「ジン・ジャザムを倒すために、君の力を借りたい。科学、化学に精通している君の力がね。」
そういって笑いかけながら手を差し出すYOSSY。
「挨拶が遅れましたね。俺は2年のYOSSYFLAME…ってもまあ知ってるか、悪い噂立ってるし。」
苦笑いを浮かべるYOSSY。
「あ、1年の来栖川空です。…あの、ジン先輩を倒すって…」
「そ。あの人からどうしても奪いたいものがあってね。」
「奪いたいもの…?」
「エルクゥ同盟、クイーン・ザ・リズエルの立場。」
さらっと言ったYOSSYの言葉の重さに気づいて、きびすを返して逃げようとする空。
彼の行動は正解である。
エルクゥ同盟といったら、普段こそメンバーが5人しかいないぐーたら兼ギャグメーカーの色合いが強く思われているが、
実質上、正義系組織の中ではトップクラスの戦闘力を誇る。
それこそ、そのへんの武装集団なんざ相手にもされないくらいの。
そして、知ってる人は知ってるが、彼らの存在意義の大きさも。
そのエルクゥ同盟のリーダーの座を奪おうというのだ。
こいつ気が違ってる。
誰でもそういう判断を下す。
関わり合いになりたくないと、きびすを返して逃げ出す空。
「逃げるのはいいんだけどさあ、また明日から生贄三昧の生活に戻る?」
「ジン先輩を倒すだなんて、そんな恐ろしいことできるわけないじゃないですかっ!!?」
背中に投げかけられたYOSSYの揶揄に、絶叫で答える空。
「自分で動かない以上は、自分を取り巻く環境は変わらない。違うか?
…君が協力してくれることを祈ってるよ。お互いのためにな。」
そういって空の下を去るYOSSY。
大丈夫。
コイツは必ずこっちに寝返る。
そんな確信みたいなものがYOSSYにはあった。



――暗躍生徒会会長室。

「と、いうわけで、ご助力願いたいんですが――月島先輩。」
「助力自体は別に構わないが、こちらのメリットは?」
この薄暗い空間に3人。
月島拓也と太田香奈子。そして、依頼人のYOSSY。
「めったに見られない出し物をお見せしますよ。」
邪悪に唇を歪ませるYOSSY。
「で、君は僕らに何をして欲しいんだ?」
「アジテート(扇動)をお願いしたいんです。
特に、ジャッジ、来栖川警備保障、校内巡回班、…そして、風紀委員会。」
「妙だな。わざわざあれだけの団体を一斉に敵に回そうと言うのか?
ジン君一人でも、はっきりいって君の手にはあまるだろうに。」
「ええ、確かに僕一人じゃ、あの人に勝つのは至難でしょう。…それで、”彼ら”の力が必要なんです。」

「会長、彼の言ってること、あまり真に受けない方がいいのでは…」
YOSSYが去った後、香奈子が側で忠告する。
「確かに、彼がジンを倒す期待はしないほうがいい。しかし。」
「しかし?」
聞き返す香奈子に、いつもと変わらぬ柔和な笑みを浮かべ、
「彼もなかなか面白いことを考える。これならあのジンも多少は怯むかもな。」



――ダーク13使徒本拠・第2茶道部。

「構成員でもない貴様のために貸す兵隊があるほど、うちも人材は余ってはいない。」
すげないハイドラント。
しかしながら、全く動じた様子すら見せなく、
「別にあんたの大切な兵隊を借りる気はないさ。あんたら首領・幹部クラス自ら動いてくれれば。」
さらっと理解不能なことを言ってのけるYOSSY。
”兵隊を貸す気はない”って言ってる首領がどうして自ら動くのか。
「どうせ見物には来るでしょ?  俺としてはそれで十分。」
あんたらが苦戦している、”あの”ジン・ジャザムを、俺が倒してやるからさ。

「フン…」
何を考えているか知らないが、一介の猟犬如きに、あのジンを倒せるものか。
嘲笑を浮かべるハイドラント。
「だが、面白い見世物にはなるかもしれんな。」









――数日後の昼休み。

『さあ、志保ちゃんのDJもいよいよラスト!  最後の曲は――』
がちゃ。
「ん?  何よよっしー、今オンエア中だから入ってこないでよ…って、アンタ何してんの?」
何の躊躇もせず、切り替えスイッチをマイクに向け、マイクを手に取るYOSSY。
「あー、テステス、マイクテス。」
ざわざわざわ…
校内中がざわついている。
突如の不審人物の乱入で、やや喧しい放送が中断しているのだから、当然といえよう。
「えー、放送中誠に申し訳ありません。僕は2年のYOSSYFLAMEっていいますが、
これから、みなさまに聞いてもらいたいお話がありますので、どうか聞いてください――」
ざわつきが一層激しくなる。
知る人ぞ知る、あのスケベ四天王の一人、YOSSYFLAMEが一体何の話があるのだろうと。
ちなみに四天王残り3人はご想像にお任せします(笑)。
「えー――」
すぅーっと深呼吸した後、



「――聞こえっか、ジン先輩!  俺と勝負してもらおうか!  クイーン・ザ・リズエルの座を賭けてなあ!」



「な!?」
1年教室、風見ひなたと赤十字美加香、ゆきが、さすがに驚きを隠せないでいる。
その横で、「へー…」と、面白そうな声を上げているのは、EDGE。

「な、な、何を身の程知らずなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
藤田浩之、神岸あかりと一緒に昼食をとっていた四季が絶叫をあげる。
「春の陽気で頭やられたのか、あいつ?」
さすがの浩之も呆れ口調で呟いた。

「…どうしてアイツはこうも仕事を増やしてくれるかな。」
こめかみを押さえて表情を歪める広瀬ゆかり。
「委員長、どうします?」
「はぁ、仕方ないわ。とーるくん、後でちょっと様子見てきてくれる?」
「了解!」

「あっきーあっきー!  よっしーさんがジンさんとケンカするんだってねすごいねすごいね血が降るね〜♪」
「たけるさん…」
あどけない顔で凄まじく物騒なことを言ってのける川越たけるに、そんな彼女を、困ったような目で見つめる電芹。
「くっくっく…はっはっはぁ!  面白い!  面白いぞ!」
その巨躯に似合った豪快な笑いを浮かべるのは、エルクゥ同盟、ジャック・イン・アズエル、秋山登。



「いいか!  勝負は今日の放課後、学園中庭の噴水がある公園でだ!
まあ、まさかとは思うが?  逃げたりはしないよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」



このセリフも、ない知恵絞って考えたYOSSY流の作戦である。
あーみえてジンは結構忙しい。決闘の申し込みを却下する危険性もある。逃げるんじゃなく、相手にしないという意味で。
だが、このように学園全体を巻き込んでしまえば、元々少ないキャンセルの可能性が――



「逃げるだと、この俺様が…?
上等だぁ!  てめぇこそ遺書の準備はしとけよコラァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



広い、とにかく広い、この学園全体にさえ響き渡るような凄まじい咆哮が轟きわたった!
「(おっけおっけ♪)」
ほくそ笑むYOSSY。
これで、相手にされないという惨めな可能性は0になった。
ついでに言えば、こうすることで決闘場の指定がこちらからできる。
自分の有利な場所で否応なく対決が出来るのである。
これで地の利は確保した。
そして、もう一つ、学園中に宣伝した理由があるのだが、それは――



この日の午後の授業は、普段とは違う緊迫した空気に包まれていた。
そして、岩下信、セリスをはじめとするジャッジ軍団。
へーのき=つかさやOLHなどの姿も、授業中の教室には見られない。
普段真面目で定評のある、きたみちもどるの姿すら見かけない。
風紀委員長広瀬ゆかりは、真面目に授業を受けていたが、何人の人間が気づいていただろうか。
彼女の右腕・貞本夏樹をはじめ、幾人の生徒が授業をボイコットしていることに。
彼らの異変には理由がある。
数日前から、ダーク13使徒のテロ活動があるだの、
暗躍生徒会の巨大な陰謀が始まるだの、
薔薇部が本格的に部員獲得に動くとか、そういった不穏な噂が彼らの間で流れていた。
最もそれは、YOSSYに依頼された暗躍生徒会の巧妙なガセネタなのであるし、
セリスやきたみち達にしたって、陳腐なガセネタに躍らされるほど軽率ではない。
だが、
普段の素行はともかく、実力的にそれほどたいしたことのないYOSSYが
学園最強と名高いジン・ジャザムに喧嘩を売ったという事実。
”なんらかの後盾がついている”
彼らがそう考えるのも、ごく当たり前の話である。
とにもかくにも、彼らは厳重警戒態勢に入った。



そして放課後――



「どもども、本日はようこそお越しくださいました、…ジン先輩。」
丁寧な礼とは裏腹に、殺意丸出しの表情で凄絶な笑みを浮かべるYOSSY。
「御託はいい。とっとと終わらせる。」
いかにも面白くもなさそうな渋面で、しかしながらこちらは殺気を抑えるようにして吐き捨てるジン。
この2人の対決には、数え切れないほどの生徒が見物に来ていた。
裏の方ではトトカルチョまで繰り広げられる始末だ。
ただ、”何秒でジンが勝つか”ってのが賭けの対象にされているってのを、YOSSYが聞いたら、さぞ面白くないだろう。
「まーまー、そういきり立たないで。
で、俺が勝ったら、エルクゥ同盟、クイーン・ザ・リズエルは俺のものってことでいいすか?」
ざわめきがより一層大きくなる。
「てめぇが負けたら、何するんだ?」
底意地の悪いジンの笑み。
それも当然の話で、片一方のみが賭けるというのは、賭けとは呼ばない。
「ふふん、俺が負けた日には――



――次の話では、アフロで登場してやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

そこまでの大歓声は大袈裟としても、とにかくYOSSYの宣言に、会場が震撼したのは事実。
「なめとんのかお前。」
すっかり呆れ返っているジン。
「まーでも、倍率からしたら順当な条件だとは思うが?
どうせ負けるわけないって思ってるだろうから、深く考える必要はないんじゃないの?」
「ふん、どーでもいーけどな。勝つのは俺だから?」

条件は成立した。
静まり返る中庭。
噴水の音だけが、やけにさらさらと響く。
ふと、観客の山の中で、YOSSYは一人の女性を見つけた。
(千鶴さん。)
待っていてください。きっと、あなたの守護者の座を勝ち取ってみせます――



『それでは!  エクストラマッチ、ジン・ジャザムvsYOSSYFLAME、始め!』



「いっくぜえぇぇぇぇぇぇぇ!  ロケットパァァァァン――」
「はいゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 」



シュウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!



「「「何!?」」」
剣道部部室のあたりから、凄まじい勢いの球体がジンに向かって襲いかかった!!

びちゃっ!

「ぐはぁっ!」
さすがに怯むジン。
しかし、YOSSYに攻撃の素振りは見られない。
『おーーーーーーーーーっとお!  よっしー選手、外からの援護射撃をジン選手に食らわせたーーーーー!』
「ふざけるな!」
「正々堂々と闘えコラァ!」
「この腰抜けがぁ!」
観客から、ものすごい野次が飛ぶが、YOSSYにはどこ吹く風。
「…てめぇ、俺を舐めてんじゃねえぞコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ジン、怒りに任せ、ナイトメア・オブ・ソロモンの態勢――
「はいすとーーーーーーーっぷ!」

???????????

よく通る声でジンに警告するYOSSY。
「あのさあ、自分が今何を浴びせられたかぐらい、ちゃんと把握しなよね。」
「あぁ!?  …!!」
いぶかしむジン。だが、次の瞬間、しまったという表情を見せる。
「気づきましたね。まあ、匂いでわかるっちゃわかるんだけど。
今アンタに書けたのはガソリン。まあレギュラーだけど。
俺の有能な助手が、この日のために投石器を作ってくれてね。
それで、ガソリンをカプセルに入れて、アンタにぶちまけたわけだが、
さて、ガソリンをぶちまけられたアンタは一体どうなるでしょうか?」
「………貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
怒髪天をつくジン。
「ごめーとー♪
”人間爆薬庫”のアンタがこの状態で火器兵器を使用したらどうなるか、だな。」
当然。
ジンの全身は炎に包まれ、爆薬なども誘爆して、ジン自体ただではすまないことうけあいである。
「……くくくくく」
「ん?」
「…知ったことかよ。おもしれえじゃねえか!  俺とてめえ、どっちが火炎地獄で生き延びられるかだ!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「ふーん、千鶴さんを炎で焼き尽くしてもいいんだアンタ?」
「!!!!!」
今度こそ。
今度こそ、ジンの相貌に焦りの色が浮かんだ。
「千鶴さんだけじゃないさ、梓先輩や楓さん、初音さんがどうなってもいいの?
他の人だっているんだよ?  
いっとくけど、アンタに内在してる火薬の量、
全部誘爆させたら、この中庭ぐらいなら軽く吹き飛ばすぐらいの威力はあるって聞いたけど?」
そう。
わざわざ放送室までジャックして全校放送で全生徒に通達した真の理由は、これである。
「く、狂ってやがる…」
顔面蒼白で、かろうじで呟いたのは、あわよくばジンの醜態を笑ってやろうかと陣取ってた橋本である。
「こいつは、こいつは…、ジンに勝つ。ただそれだけのために………



俺達全員を人質にとりやがったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

その言葉をきっかけに、生徒の絶叫が轟きわたった。
「俺はまだ死にたくねえ!」
「あたしだってそうよ!」
「誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
もはや収拾のつかない大パニックである。
「みんな、落ち着いて!  ここで慌てたら――」
「みなさん!  落ち着いてください!」
綾香や葵など、有志が懸命に状況整理に取り掛かるが、状況は芳しくない。それどころか、

「プアヌークの邪剣よ!」

「ひいーーーーーーーーーーーーーーっ!」
最後尾にいて、楽に逃げられると安堵のため息をついていた男子生徒の鼻先をかすめて飛んで行く熱魔術。
へたりこむ男子生徒。
「せっかくの命賭けのゲームを見ない手はないぞ。チケットは己の命だ、安いもんだろう。」
冷徹な笑みを浮かべて生徒達に告げるのは――
「「ハイドラント!!」」
綾香や悠、セリスやきたみちらが一斉に呼んだ、その悪名高い名前。
「よっしーよ!  失望させてくれるなよ、なかなかの面白い趣向をな!」
そう死の激をかますハイドラント。彼の横には葛田がいて、超ペンギソで生徒の逃げ道を塞いでいる。
向こう側で聞こえる絶望の叫びの原因は、向こうで張っているT−Starや神凪が原因だろう。
「ま、退屈はさせねえさ、ゆっくり見てな!」
そう、ハイドラントに呼びかけるYOSSY。



「試合は中止よ!  今すぐ二人とも引きなさい!」
広瀬ゆかりの声が響く。
「止める気がないのなら、実力行使だ!」
岩下信が戦闘準備にかかるが、
「…岩下先輩、そんなに誘爆させたいわけ?
実力じゃアンタに及ばなくても、アンタを操って誘爆させられる自信はあるつもりだけど?」
のほほんとした口調で、しかし冷徹に告げるYOSSY。
「あと広瀬。お前に言われたくらいでやめるんだったら、最初からこんな危険な橋渡らないって。」
「なんですって!   っ…!?」
嘲笑さえ浮かべ吐き捨てるYOSSYのセリフに激昂し、睨み付けるゆかり。
が、睨み付けているYOSSYの目の奥が、普段のそれとは全く違っていた。
「あなた…何にそんなに固執してるの…?」
「さあ?」
ゆかりの問いに答えをはぐらかすYOSSY。



「……………。」
「ん?  ジン先輩?」
さっきから不気味な沈黙を守ってるジン。
「…ここまで舐められたのは、多分生まれてはじめてだろうな。」

ぞくっ――

回りの温度が確実に1度は下がった。今のセリフだけで。
「…貴様はやってはいけないことをやりやがった。」
「…ほお?」
と、やんわりと返すYOSSYではあるが、内心かなりの冷や汗ものである。



「――殺す。」



ぐしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「…かはあ…っ!」
いきなり吹き飛ぶYOSSY。
ジンの繰り出す”ただの”パンチがYOSSYを捉えた!
「――死ね。」
がしゃっ!
吹き飛んだYOSSYを中庭のコンクリートに叩きつける!
どかあっ!
「すぅー…」
YOSSYに馬乗りになって、深呼吸――、一刹那。

「おらおらおらおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

超絶的な拳の弾幕!
「ジンくんっ!」
千鶴が悲痛な声を上げる。
殺す気だ。
長いことジンを見てきた千鶴にはよくわかる。
ジンはまぎれもなくYOSSYを殺す気だと。
「ジンくん、やめな――



「ぐっ…!」



うめき声とともにマウントポジションから離れてしまったジン。
「…貴様ぁ…」
「…てえ〜、なんかかなり集中してないとぶっ倒れるなこれ。」
よろよろと立ち上がったYOSSYの顔は、切れまくって腫れまくって、とても見られたものじゃない。
が、ジンの方も…
「ジンっ!  お前、指…!」
「ああ…」
悲痛な声をあげる梓に苦笑いさえ浮かべながら肯定表現をするジン。
「なかなか苦労したわな。ジン先輩の隙を突いて指ヘシ折るのは。…てて。」
腫れまくった顔で、それでも笑みを浮かべるYOSSY。
「アンタの弱点その2、…アンタ強すぎるんだわ。
が、それが仇になって、格下とやりあうときに、ついつい無意識にでも舐めてかかるところがある。
まさか俺が指なんてところをヘシ折りに来るとは思わなかったろ?
――弱者の喧嘩の論理・細かく目に付きにくいところこそ攻撃するのさ、――こうやって!」
ぐぎゃっ!
「…ぐっ!」
押し殺したような声を上げるジン。
YOSSYによって踏まれた足の指は、よく見れば数本折れているのがわかる。

「ふざけるなこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「正々堂々と闘えねえのかコラア!」
「ぶっ殺すぞ野郎!」

誘爆に脅えていた観客達も、あまりのYOSSYのやりようについに堪忍袋の緒が切れたらしい。
しかし、そんな状況に置かれて尚平然としながら、ジンに攻撃を加えるYOSSY。
ぶっちゃけた話、これほどやってのけてもジンの総合攻撃力はまだYOSSYを上回る。
手の指足の指を折られながらも攻撃を繰り出すジンに、ヒットアンドアウェイで応戦するYOSSY。
ジンの装甲は予想以上に固い。
喧嘩刀を振り回して攻撃しても、非力なYOSSYではさしたるダメージを与えられない。
しかし、YOSSYは待っていた。
確実に自分が勝つことが出来るその瞬間を。
必ずその瞬間が来ることを信じて。



しゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………



!!!!!!!!

突然ジンの体から吹き出す煙!
「「どうなってんだ?」」
観客がざわめく。この異変に。しかし――
「やっときたぜこの瞬間!  千載一遇の勝機がなあぁ!!」
これまで忍耐に忍耐を重ねてきたYOSSYがついに動いた!

すぱぁん!

喧嘩刀で思いっきりジンの足を払い、袖と奥襟をがっちり掴む!、
「とくと味わえ、俺の究極の”崩し”、”パラノイア・マックス”!!!
………うりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そして凄まじいリズムに乗って、縦横無尽に振り回し、ジンの態勢を崩しにかかる!
「柳川先生!  ジンちゃんどうしちゃったんですか!?  あの煙は一体なんなんですか!?」
泣きそうな顔で柳川に詰め寄る四季。
「…過負荷によるオーバーヒートだ。」
「過負荷って!?  どういうことなんですか!?」
内心はどうあれ、表面は冷徹そのものの柳川の弁に、かえって混乱する四季。
「…例えば、スポーツカーを150km/hで走らせつづけるのと、20km/hで走らせつづけるのと。」
「兄貴!?」
鶴来屋とも関係の深い、東雲忍が詳しく説明をはじめる。
「どちらがオーバーヒートしやすいかっていったら、20キロのほうがそうなりやすいんだ、実は。」
「ってことは…?」
「この試合、ジンはあまりに自分のペースで闘えなさすぎた。
火器を全部封じられ、指すら折られた状態での肉弾戦。
負荷がかかりすぎて、オーバーヒートしてしまったのさ。ジンとてそのエネルギーは無限ではないからな。」



「そういうことさ!」



柳川の説明を聞いていたのか、反応するYOSSY。
「徹底的に自分のペースで闘い、オーバーヒートさせるのが俺の目的!」
「くそがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「そして!  これだけ安定性を欠いてしまっては、ジン先輩とて防ぎようがない!
うりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
吠えながらジンをエアプレーンスピンの形にとって!
「しゃあ!」
その勢いでジンを空中に投げつける!
普段ならロケットで逃げようがあるが、誘爆で生徒を巻き添えにする危険性のため使えない!
「これが最後だ!  ハイスピンドライバーーーーーーーーーーーー!」
自身の加速回転でもって思いっきりジンを深き噴水の底に叩き付ける!



その瞬間、噴水から爆音が轟き、凄まじい水柱があがった!



そして、水柱から弾かれて出てきた男の影は――



「カーッカカカカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」



いかにも悪役然な咆哮を上げ、右腕を高く突き上げ、そして立ったのは、YOSSYFLAME。
しかし、誰もその勝者に祝福の声をあげるものはいなかった。
みな、噴水の底に沈んだジンの安否を気遣う。
卑劣な勝者に構うものなど、誰もいなかったのである。



(…………これが俺の望んだものだったのか!?)



                                                   To Be Continued…

==============================================

どおもお、YOSSYです。

はっきりいって、”いーのかこれ”これが感想です(^^;
前後編になってるのは、これで終わっちゃうと、
Q.T.リズエルが僕のものになったままになってしまうのです。
はっきりいって荷が重すぎるので、後編はジンさん復讐編です。

ううっ、すみません〜〜〜m(_)m

詳しいことは後編で。では、失礼いたします。