Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第29章 「禍福は糾える縄の如し」 投稿者:YOSSYFLAME


きーんがしゃがしゃ。
きーんがしゃがしゃ。
赤十字美加香が汗みどろになって右へ左へと走りまわっている。

ここは工作部部室。
美加香が走りまわっているその中央には、一人の少女が横たわっていた。
「お姉ちゃん、ごめんね…」
普段のぶっ飛んだ性格はどこへやら。
滅多に見せない、いや、美加香にだからこそ見せられる表情なのかもしれない、
そんな表情を浮かべながら、ただ横たわっているのは、HM三姉妹の末っ子ティーナ。
その姿には1回戦で見せたような少女体型ではなく、7歳相当の幼児体型に戻っている。
理由は単純、魔法エネルギーの不足である。
魔法エネルギーによって彩られた17歳相当のボディを駆使し
1回戦では、幻八、ティリア組を接戦の末撃破した彼女と佐藤昌斗、もとい佐藤ポチであるが、
しかしながら2回戦の相手は
もともとの実力に加え万全の対策を練ってきてある、優勝候補の一角、菅生誠治、柏木梓のペア。
はっきりいって幼児体型の今では、まず勝てない相手と思われる。
だからこそ、愛娘の窮地を救うため、美加香が動いた。
「まかせておいて!  どうあっても治してみせるから!」



「…心配ですか?」
部室からは出て、ただ結果を待ち続けている佐藤昌斗。
そんな彼に声をかける風見ひなた。
ちなみに昌斗の今の状態は、媒介のティーナに魔力がないので、本来の姿に戻っていたりする。
「まあな…」
ぽつりと呟く昌斗。
紆余曲折あって参加することにした彼らであるが、ここまで来たら何としても勝ちたい。
自分だけでなく、ティーナもそう思っているだろう。だからこそ。
「多分なんとかなると思いますよ。あいつは普段はあーですが、この方面にかけては信用していいですよ。」
そういって僅かに笑ってみせる風見。
「ああ、そうだな…」
その笑いにつられるように、昌斗もまた笑顔を見せた。





「さて、そろそろいくかな。」
機は熟したといわんばかりの様子で、傍らの柏木梓に声をかける菅生誠治。
「とりあえず緒戦の相手は、マジカルティーナとその従者か。
普通にやれば、まず取りこぼすことはないだろうがな。」
「そうだね、でも油断は禁物だよ。
どんな実力を秘めているのかは、まだわからないんだから。」
「ああ、そうだな。」
梓の言葉に、誠治は頷いた。

「部長、ちょっといいですか?」
そんな二人に声をかけたのは、同じ工作部の昂河晶。
「なんだい、昂河君?」
「実は、副部長が部室でなにやら忙しそうに走り回ってるんですが…」



「はあ!  はあ!  はあ!  はあ!」
美加香の作業は更にハイペースになっていた。
しかし、まだ魔力復活の目処は立たない。
魔力工学と電子工学の融合体、HM三姉妹。
ともかくも複雑すぎて、2回戦開始までの短い時間までに間に合わせることは、かなり絶望的になってきた。
「(せめてもう一人、手が空いてる人がいれば…!)」

「手伝おうか?」
そう言いつつもすでに処置体勢に入りだした誠治。
「せ、誠治さんっ?」
「いや、どうも大変そうだからな。でもまあ、2回戦までにはなんとかなりそうだ。
…2人でやればな。」
そう言って美加香に笑いかける誠治。
美加香にしてみれば渡りに船である。
例え彼がティーナの対戦相手であろうとも、ここは背に腹を変えられない。
誠治の好意に素直に甘えることにしたのである。
「…はいっ!」



「美加香ちゃんがあれだけ一生懸命頑張ってくれてるんだ。
確かに敵から塩をもらうのは潔いことじゃないかもしれないけれど、ティーナちゃんのためだからな。」
誠治が、手伝わせてくれ、と来たときは、昌斗も面食らったが、
見た感じ、美加香もかなり苦戦している様子。
昌斗にも、敵の助けを借りることに関して少々の抵抗はあったが、しかし、
「お願いします。」
そういって、誠治の助力を受けることにしたのである。




どうにか、2回戦ギリギリにティーナのメンテナンスも終わり、
「菅生先輩。」
「ん?」
「どうもありがとうございます。しかし…、試合では手を抜きませんよ。」
「望むところさ。」
かくして試合は始まった。

「佐藤式、飛天御剣流龍巻閃!」
昌斗の強烈なトルネードショットが誠治のラケットを弾き飛ばす。
「誠治っ!」
「…なるほど、万が一つけといてよかった。素の俺じゃ、アレは止められないからな…」
そういってパワーアシストグローブを見つめる誠治。
このグローブは、敵のボールの威力を計算し、その威力と同等の力をプレイヤーにつけさせる優れもの。
故に、
「うりゃぁぁぁぁぁ!  龍巻閃!」
強烈なストロークが来たとしても、
「せりゃぁぁぁぁ!」
バキイッ!
ほぼ同等の力で返せるようになったのである。
そうなると後は技術次第。
技術においては完璧にアドバンテージを取っている誠治と梓。
その地力で、あっという間にティーナ、昌斗ペアを追いつめるが、

「…さすがやりますね、先輩方。しかし!」
昌斗が抜刀術の構えに入る!

「食らいやがれ!」
ばきゃっ!
梓の強烈な止めのストロークが昌斗に襲いかかる!
「お兄ちゃんっ!」
思わずティーナが声をあげる。
しかし、昌斗は全く動ぜず、いや、むしろ笑っているようにさえ見えた。
――そして!



「佐藤式飛天御剣流最終奥義、天翔命閃(あまかけるいのちのひらめき)!」



「しまっ…!」
その一瞬で、”鬼”の力を発動させる暇すらなく、梓のラケットは吹き飛ばされた。

「梓!  大丈夫か!?」
「…ああ、でも…、右腕は当分使えないかも…。痺れちゃって…」
梓の言う通り、彼女の利き腕である右腕は、ぶらりと垂れ下がってしまっている。
直撃してもいないのにこの威力、まさに最終奥義の名にふさわしい威力である。
「くっ…」
思わず声をあげる誠治。
左腕でテニスができるほど、梓は技術的に優れているわけではない。
しかし、自分一人で昌斗、ティーナを相手にできるかといえば、かなり不安が残る。



「痺れが取れるまで待ちますよ。」
そんな誠治達にあっさり告げる昌斗。
「さっきの借りは、これで返させてもらいます。…って、本当は俺もかなり辛いんですけどね。」
苦笑いを誠治と梓に向ける昌斗。
最終奥義というからには、並々ならぬ肉体と精神が消費されているはずだから、それも当然と言えよう。
いや、本当はもう既に試合ができる状態ではないくらいなのかもしれない。
なんで自分がそれを使ったのか。それは昌斗自身にもわからなかった。

「じゃあ、借りを返してもらうことにするよ。」
誠治もそういって休憩に入る。
貸し借り云々ではないが、そのほうがさっぱりしていていいと思ったからなのだろう。

時間にして13分。
時間こそオーバーしたが、梓の腕の痺れはだいぶよくなっていた。
そしてそれを迎え撃つ昌斗とティーナ。
しかし、昌斗のほうは13分程度で回復できるような状態ではなかったのである。
結局、試合はそのまま誠治、梓ペアが押し切って勝利をつかんだ。
どさっ…
決着を告げられたと同時に倒れ伏す昌斗。
「お兄ちゃん!」
「昌斗君!」
「昌斗!」
ティーナはもちろん、誠治や梓も向こうのコートの昌斗のほうに向かって行く。
「……………」
「お兄ちゃんっ!」
「昌斗君、しっかりしろ!」
元に戻っているティーナの心配そうな声と誠治の叱咤が意識朦朧の昌斗に飛ぶ。
「……梓…先輩……」
「!…何だ!?」
昌斗に名前を呼ばれた梓が彼の顔を覗き込む。
「もう…大丈夫ですか…右腕…」
「ああ、もうなんともない!  それよりお前のほうこそ…!」
「よかった…」
その言葉を最後に、昌斗はフッと意識が途絶えた。

と、そんな彼を肩に担ぐ人影が。
「ひづき…」
「まったく昌兄ったら、いっつも後先全く考えない試合をするんだからっ。梓先輩、ご心配をおかけしましたっ。」
ぺこりと梓にお辞儀するひづき。
「おい、一人で大丈夫か?」
「あ、大丈夫です、いつものことですから。」
そういって昌斗の腕を肩に回す。ちょうど肩を貸すような形で、彼を連れて行くひづき。
「…梓先輩。」
「………なんだ?」
唐突に振り返るひづき。
「優勝目指して頑張ってください。昌兄もきっとそう望んでるはずですから。」
そういってにっこり笑うひづき。そんな彼女に梓は、
「ああっ!」
ニッと笑いかけ、ガッツポーズを取ってみせた。





      菅生誠治×柏木梓組…3回戦進出!
      マジカルティーナ×佐藤ポチ(佐藤昌斗)組…2回戦敗退。





「おいおい、第8ブロック、とんでもないことになってやがるぞ!」
「何!?」
「見に行こうぜ、なんか只事じゃねえ!」
俄かにざわつく観衆。
「おい、一体何がどうなってるんだ?」
「大変なんですよ!  TaS組vs西山組の試合が…!」
「西山…」
その名前を聞くと同時に、梓はDコートに向かって走っていた。
そして、Dコートに着いた瞬間、愕然とした。



「イン!  TaS、電芹組、40−15、マッチポイント!」



「なんで…?」
スコアボードを覗き込む梓。
スコアボートには、見紛おうなき【5−3】のスコアが。
「理由はすぐわかりますよ…」
横には厳しい表情の風見がいた。
「まさか師匠がこれほどまでに…」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!  SS不敗流奥義、虎牙弾撃翔!」
西山の強烈無比のサーブが唸りを上げて襲いかかる。
「HAHAHAHAHAHAHA!  ムダムダムダネエッ!」
そのサーブがTaSをえぐらんと襲いかかった瞬間、TaSの身体が奇妙な動きを見せた。
アフロダンスの新譜かと見紛うその動きから、ラケットがボールに伸び、

すぱぁーん!

綺麗な音を立てて、虎牙弾撃翔が返されたのである。
「TaSのあのアフロダンス…、あれによって虎牙弾撃翔の威力は完全に殺されてしまった。
あのアフロダンスの前には、どんな剛球すらも通用しない…!」
「…はいっ!」
超機動力を活かし、楓がすぐさまボールに追いつき、そして電芹の横にボールを叩き込む。
「イン!  西山、柏木組、30−40!」

「でも、ポイントを奪ったじゃないかっ!」
「それしかポイントは奪えないんです。
楓さんの機動力からTaSと電芹さんのバランスが崩れたところに叩き込む、その手順しか…」
風見の顔色も若干悪い。
3回戦での師弟対決を誰よりも望んでいただけに、敗色濃厚な師の試合はある意味ショックではある。
「何言ってんだ!」
そんな風見に梓が叱咤する。
「お前は西山の弟子だろ!  師の勝ちをお前が信じないで誰が信じるんだ!」
はっとする風見。そんな彼を真摯な目で見つめる梓。
「(梓先輩の言う通りなのかもしれない。例え今は配色濃厚でも…)」
そうしてコートに目を移す。

「虎牙弾撃翔!」
西山とてそう何発も連続しては打てないSS不敗流庭球術奥義。
しかし、勝ちへの執念が、西山に奥義を撃たせるのか。
「あうううっ…!  りゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
パワー負けしながらも、へろへろになりながらもボールを返す電芹。
彼女の根性は、今の優勢状態にかなり貢献していたりする。
しかし、このへろへろの絶好球を、黙って見過ごす楓でもない。
間髪入れずにボールを敵陣に打ち込んだ。
「よし!  いいぞ楓!」

「(そうだ…、僕が信じないで誰が信じる?  僕は師匠の…!)」
試合を見る目つきが一変した風見。

しかし、彼は忘れていた。
この苦戦のそもそもの主因は、アフロダンスでもなければ、電芹のド根性でもなかった。
それは――



『おーーーーっと!  TaS選手、またしても予測していたかのように真正面に立ちふさがっていたぁーーーーっ!』



――それは、TaSの”試合展開の読み”であったことに。
「ハヴァナイスディ!」
最後のとどめとなるTaSのアフロボレーが、西山陣内に叩き込まれ、勝負は決した。

「ゲーーーーーム!  アンド、マッチウォンバイ、TaS、電芹組!  ゲームポイント、6−3!」





      TaS×セリオ@電柱組…3回戦進出!
      西山英志×柏木楓組…2回戦敗退。




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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:ふう。
ゆかり:ん?
よっし:ようやく2回戦も半分終わったな。

ゆかり:(無言で素振りなど)
よっし:…なにやってんだお前?
ゆかり:ウォーミングアップ。
よっし:あのな、もちっと経ってからだ、俺らの試合は。
ゆかり:えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?
よっし:えーじゃない、えーじゃ。も少し待ってろ。
ゆかり:…じゃあ、次の試合は?
よっし:多分、橋本×芹香組vsEDGE×ハイドラント組だと思う。
ゆかり:思うって何よ…
よっし:状況次第によっては、3,5,7組の第2試合のいずれかを先にやるかもしれないしな。
        それに、TaS組vs西山組その後が多分入って来るし。
ゆかり:とまあ、そういうことなんで、みなさまこれからもよろしくお願いいたします。
よっし:あ、そだ。
ゆかり:何よ?
よっし:昌斗さんがポチ形態にならなかったのは、単純にティーナのほうに
        魔力の残量が残っていなかったからというわけです。それを説明するのを忘れてました(^^;



菅生誠治さん、今大会へのご参加、誠にありがとうございました。