Lメモ自伝風紀動乱編その1「疾く見えざる風」 投稿者:YOSSYFLAME


各校舎の掲示板にA3サイズの壁新聞が張り出された。
発行者はしかし、情報特捜部ではない。

『Der Angriff』

 ドイツ語で『攻撃』と名づけられたその壁新聞は生徒指導部発行と記載されており、主な記事内容は
広瀬がかつてのように生徒指導部の直接補佐を受ける事になったことと、
これにより事実上風紀委員会の実権を掌握したディルクセンの演説要旨であった。



「(…って、どういう意味だ?)」
壁新聞の前でしばし黙考しているYOSSYFLAME。
「(そもそも、生徒指導部って何なんだ?  まあ名前からしてあまり有り難くなさそうな組織とは思うが。)」
二年生になってしばらく経ってから転校してきたYOSSYには
生徒指導部にまつわる逸話に関しては全く知らないといってよかった。
ただ、この男が「叩き潰す相手」と公言して憚らない、風紀委員長の広瀬ゆかり。
彼女絡みでそのような名前は何度か聞いたことはあった。
しかしながら、所詮名前を知っている程度。
そこに至るまでに何があったのか、別に興味はなかったし、特に知る必要もなかったから。
「(…しかし、あのディルクセン先輩が広瀬の補佐ねぇ…)」
それについても深くは考えなかった。
ディルクセンといえば、YOSSYにとって口うるさい先輩以外の何者でもない。
確かに広瀬とはウマが合わなそうだと、なんとなく思うのではあるが、
「(まあ、こういうことは好き嫌いの問題じゃないしな。)」
所詮部外者。
この一言でケリをつけてしまうところが大雑把と言うかなんというか。
それに、ディルクセンの演説要旨からいって、えらく難しい文面であって
無学の上面倒くさがりやのこの男が、ご丁寧に目を通すわけがなかった。
「まあでも、最近風紀委に顔出してないしな、久々に広瀬でもからかいにいくかな…」



「用の無い者は通すわけにはいかん、帰ってもらおう。」
「はぁ?」
呆然とするYOSSY。
門前払い。
こんなことは今まで無かった。
いくら自分が学園札付きの軽犯罪犯とは言っても、
別に何もしてないときに入るのはやぶさかじゃなかった筈だが。
「用ならあるが、広瀬に会いに来たんだ。」
不本意ながらも取り次ぎを頼むYOSSY。
「(何考えてんだ広瀬のヤツ。なんか見られて困るようなことでもしてんのかアイツ?)」
例えば学内での自――
「(…アホらし。)」
我ながらオチもないことを考えるものだ。
「(…ん?)」
この扱い、もし、広瀬の指示でなかったとしたら。
「(考えられるのは…)」

「広瀬委員長は今日は欠席だ、お引き取り願おう。」
その言葉を聞いてもそれほど驚きはしなかった。だいたい予想は出来たからだ。
間髪入れず、取り次ぎに頼んだ。
「じゃあ、生徒指導部長のディルクセン先輩に会いたいんだけど。」



「君がわざわざここに来るのは珍しいな。」
「いえ、行きがかり上そうなっただけですから、お気になさらず。」
今度はすんなり”お目通り”が叶った。
おそらく生徒指導部なのだろう風紀委員に連れられて案内されるYOSSY。
「(やりずれえこと。前だったらフリーパスだったのに。)」
ちなみに前にしても、ただ黙認されていただけという事実にYOSSYは気づいているのかどうか。
とりあえず、ある一室でディルクセンと会うことには成功した。
「で、用は何だ。」
「(ホントにガチガチの先輩だなあ、しっかし。)」
思わず苦笑するYOSSY。
これが広瀬だったら、『わざわざ自首しに来たの?』だの『さ、盗った下着を出しなさい。』だの
ずいぶんひどい皮肉を言われたものだが(皮肉ですまないことも多々あったが)
「用が無いのに来たわけではあるまい。」
ディルクセンの一言で我に返る。
「ああそうそう、いやね、随分風変わりしたもんだと思いましてね、風紀委。」
とりあえずのほほんと話を切り出すYOSSY。
「だからどうだと言うんだ?  君になんの関係があると?」
「これは先輩の指示でこうなったんですか?  現在の風紀委は。」
「答える必要はない。」
「ふーん、ま、いいですけど。」
「用が済んだのなら帰ってもらおう。」
すげない言い方。
腹の内をカケラも見せない突き放した態度。
「(そうだった。確かこーゆー人だったよなこの人。)」
思わず苦笑するYOSSY。

「しっかし大変でしょう。こんな人に憎まれるお仕事というのは。」
軽い世間話でもするような調子で話しかけるYOSSY。
「どうもあちこちお怪我をなさってるようですしねぇ…」
何の気なしに口に出したその一言に反応するディルクセン。
「それがどうした?正義を履行するからには、この程度のことは覚悟の上だ。」
一片の迷いもなく答えるディルクセン。
「なるほど、たいしたものですね。」
特に皮肉を混ぜるまでもなく呟く。
「じゃ、俺はこのへんで帰りますわ。どうもお忙しいとこ失礼しました。」
といってみるものの、返事すら返さないディルクセン。
「ああ、そうそう。」
ふと振り返るYOSSY。
「広瀬にちょっかいかけるのもいいですけど、ほどほどにお願いしますね。
まあ、あの女が多少ちょっかいかけられたくらいでどうにかなるタマじゃないとは思いますけどね。」
「…何故貴様にそんなことを言われなければならん。
そもそも前から気になっていたことだが、SS使いとはいえ特別どこかの組織に属しているわけでもない
立場的にはただの一般生徒の貴様が、何故風紀委員長たる広瀬とそこまで関係を持つ?」
「いや、そんなこと言われても。」
むぅ、と考え込んでしまうYOSSY。だが当然ながら全然深く考えてはいなかったり。
「そもそも貴様は広瀬の何なんだ?」
冷静な口調のまま、しかしながらやや強い口調で詰問と言っていいくらいに問いただしてくる。
そんな彼にいつもの調子で、
「俺にとってアイツは打倒すべき対象。ただそれだけですよ。
さっき言ったことだって、せっかく目をつけた獲物を横取りされたくないだけのお話で。」
普段ののんべんだらりな目つきが僅かに鋭くなった…風にディルクセンには見えた。
この台詞を吐いたときのこの男のそれは。
「でもま、断っておきますけど、何をやったところで多分あなた達じゃ広瀬を倒せませんよ。
だって…

アイツを倒すのはこの俺、YOSSYFLAMEですからね。」




「しっかし、ちょっと喋りすぎたかなあ…」
夕方の商店街外れ。そろそろ人気も少なくなってくるだろう公園通り。
ちょっと買い物を済ませてから寮に帰宅する途中、ふとそんなことを呟いてみたり。
「アイツを倒すのはこの俺、ねえ…」
自分で言っていても馬鹿馬鹿しい台詞だ。
そんなことをして何の意味がある。
ディルクセンにしても、理解できないといった風情でこっちを見つめていたのだから。
最も、『あなた達じゃ広瀬を倒せない』のくだりでは少しばかり反応はしてくれたようだが。
まあそれはともかく。
そもそもなんで自分はあの女、広瀬ゆかりをそこまで敵視するのか。
別に反吐が吐くほど嫌いな相手ではない。煩く喧しい女ではあるが。
「…じゃあ、なんで…」

【おい、テメェ…】

「……………」
YOSSYの足がピタリと止まる。
どこから声がするのか、ガラの悪い男のダミ声が通りに響いた。
ふと気づくといつのまに包囲していたのか、覆面の男が5人ほど。
しかし、ガラの悪い声は、その5人のなかの誰からでもないことは、響き具合から見てわかる。
【俺は気が短いんでな、くだらねえ前置きは抜きだ。
…テメェ、俺らの仲間に入る気はネェか?】
「…仲間?  何処の誰かもわからない怪しい覆面集団の仲間に?  本気で言ってんのか?」
【チ、察しのワリィ奴だゼ。俺達はリーフ学園に属してる者だ。】
「(リーフ学園…
こんな怪しさ100%の集団ったらダーク13使徒くらいしかいないはずだが。
奴等が仮に俺を仲間に入れるとしても、今更こんな手段は取らんわな。
と、すると、どこかの新興勢力ってところ…)」
【そして、テメェの敵、広瀬ゆかりが反吐が出るほど嫌いってのが共通項だな。】
ここまで聞いて、思い当たる節があった。
「(広瀬を目の仇にする…現有勢力に限定して…、とすれば、あいつらの系統しかない、な。)」
そんなYOSSYの思考をよそに、声が尚も響き渡る。
そしてその内容たるや、YOSSYにしてもいくらか驚くほどの。

【俺らの仲間に入るんなら、広瀬をくれてやってもいいゼ?】

「…は?」
いや、だって、そう返事するしかないでしょうよ、この場合。
【信じられねえってツラしてんなぁ、まあ驚くのも無理はねえが。】
さすがに鳩が豆鉄砲くらったような表情を浮かべているYOSSYを見て、優位に立ったとでも思っているのか
ケラケラと笑いながらご丁寧に説明をしてくれたり。
【つまりサ。俺の下で戦う報酬として広瀬ゆかりをくれてやるって言ってるワケよ。
あのアマを倒した後、テメェにくれてやるから、何してもいいゼ?  例えば…
素っ裸にひん剥いて徹底的に嬲り泣かしてやるってのもな、ケヒャヒャヒャヒャ…】

男の下品な笑い声が響く中、何故かYOSSYは口元を歪め、ニヤついているように見えた。
「……へえ、悪くない話じゃねえの。」
その歪んだ笑いのまま、姿の見えぬ男に話しかけるYOSSY。
【ダロォ?  テメェには俺と同じ雰囲気があンのよ。女を嬲れる下衆者の血がな…
血沸き肉踊るだろ?  あの女が悔しさと辱めの中で流す涙なんか見たいだろうヨ!】
「なるほどね…」
その薄笑いを崩すことなく聞き耳を立てているYOSSY。
今、この男の中の広瀬ゆかりは、どのような姿をしているのだろうか。
【さあ、俺の下に入る決心がついただろぉ。】
「そうだな…」
YOSSYは一歩前に踏み出し、そしてはっきりと口にした。



「――絶・烈風乱舞。」



その瞬間、包囲網5人のうち一人が声もなく吹き飛んだ。

【テ、テ、テメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!?】
男の絶叫が響く。
「拒否理由その1、一緒に闘おうってもちかけている奴が顔も姿も現さず、
あまつさえ殺気混じりの威圧までかけてくる。そんな野郎が信用できるか!」
得意の超機動を使い、輪の中から脱出する。
もし相手がYOSSYの推測通りの奴等≠セったら、その精密かつ息の合ったコンビネーション。
1対1なら差はあれど、4人でかかられたら返り討ちに遭いかねない。
――ならば!
【殺せ、殺せ、コロセェェェェェェェェェェェェェェェェ!!】
男の声に鋭敏に反応し、輪の外に脱出したYOSSYを倒さんと猛追をかける覆面達。
「(そう、一人ずつ丁寧にぶっ倒してやればいいのさ!)」
この場合のYOSSYの考えは少々甘きに失した。
何故なら相手だって馬鹿ではない。この程度のことなどとっくに折り込み済みである。
「(……な!)」
逃げるYOSSYを追う覆面達。しかしながらそのフォーメーションは崩れることはない。
これでは一人だけ狙い撃ちというわけにはいかない。
それならば。
YOSSYの口が開いた。
「拒否理由その2、まあ気持ちはわからんでもないが…
俺をテメェごとき女を物としか見ないような偏執狂と一緒にするなよ!」
一気にフォーメーションの脇をフルスピードで回ってよけるYOSSY。
なんぼ鍛えてるかは知らないが、自分の脚に勝てる奴など、そうはいない。
一気にフォーメーションの裏をかく。そうすると当然――
「人の好意を無駄にした重罪人には死んでもらうしかネェなあぁぁぁぁ!」
音もなく出現する男!即座にYOSSYの脇につき、

ブシャァッ!

脇を刃物で貫き刺した――かに見えた。
「…拒否理由その3、俺の上につくには、テメェはあまりに威圧感に欠ける。
――畑間違ってんじゃないのか?」
脇腹を経由して心臓を貫かんとする男の刃物は、脇腹に刺さってはいたものの、致命傷と言えるようなものじゃ――
「(そう、姿を消して敵を篭絡する腕ならば、あの男、葛田さんのほうがずっと――)」

「チイィィィィィ!」

姿を見せてしまった上に仕留めそこなった男との間合いを一気に縮めるYOSSY!
「そして拒否理由その4!  広瀬は俺自らの手で倒さなきゃ意味がねえ!  それが最後にして最大の理由だ!」
完璧に間合いに捉えた!  
「絶・烈風――



「悪いんですけど、ここは一旦引いていただけませんか?」



「(……何ぃっ!)」
一体何時の間に背後につかれていたのか。
そう思った瞬間。
ザキュッ!
右肩に鈍い衝撃。
衝撃を受けてバランスを崩し転倒するYOSSY。そして――

――そのまま全速力でこの場から逃げ出した。





「まったく、貴方ともいう人が、感情的になって行動するなんてどうかしてますよ。
情報特捜部との一戦でも確かそうでしたよね?」
「ウルセェ!」
「所詮僕らは影≠ネんですよ。そのあたりを弁えないと…」
「うるせえって言ってんだろうが!
それにしてもザマア見やがれあの野郎!  偏執狂だの器じゃねえだの好き放題抜かしやがって!
俺様のドスに仕込んだ猛毒でとっととくたばりやがれ!
テメェの霊前で広瀬を嬲り尽くしてやるからな、ケヒャヒャヒャヒャ!」
「…あー、そのことなんですが。」
「なんだよ!」
「…いえ、なんでも。
(実は貴方の猛毒ドスは事前にすり替えておいたんですよ――なんていったら殺されかねませんからね。いくらなんでも。)」
のほほんとした調子で男が続ける。
「(でもまあ、永井さんが『侵略する火』なら、僕は『疾く見えざる風』ですからね。
しっかし永井さんも、早いところ己を取り戻さないと…
ドスのすり替えにすら気がつかないんじゃ…、はあ、心配です。)」
「オイ鈴木、今なんか言ったか?」
「あ、いえいえなんにも?」

「(そう、あの人にはまだまだ退場してもらうわけにはいかないんですよね。
広瀬さんともども、まだまだ楽しませてもらわないと。)」
仮に目の前で見たとして気がつくであろうか。
特に外見上なんの特徴もないこの男の笑みは、先程のガラの悪い男の笑みに増して偏執性を持っていたことに。





「あだだだだだだだ!  はぁぅっ…」
「ほらほら、男の子ならガマンする!」
第二保健室。
柏木千鶴教師の極上の笑みの元、優しい介護を受けているYOSSY。
ただし、治療自体は不器用極まりなかったりするが。
「どうもありがとうございました。」
「はい、気をつけてね。」
千鶴に素直に礼を言うYOSSY。
そのまま出て行こうとするが。
「あ、よっしーくん。」
千鶴に呼び止められる。
「…無理は絶対に駄目よ。」
千鶴の言葉に、苦笑しながらも頷いた。

「くっ…」
千鶴と別れた後、悔しげにうめくYOSSY。
「(完全に反応できなかった…。もしあれが右肩でなく頭だったら…)」
それを思うと余計悔しさが募る。
逃げたのはあの場合、もっとも賢明な判断だとは自分でも思っていた。
あの状況で未知の敵と戦い続ける度胸もなければ、そこまでする戦いでもない。
しかし。
何度か闘いを経験してきて、この学園でも手合わせみたいなものはしたことはある。
無論敗れたことも数ある。
しかし、こんな喉につかえるような闘いは始めてだった。
「あの男……、何者なんだ一体……」

そして危惧すべき事項がもう一つ。
あの刺客は十中八九生徒指導部の回し者であることは間違いない。
ということは、
「広瀬の奴、あんな奴等とやりあっているのか…」
思わず冷や汗がこぼれる。
今まで相対してきた相手とは全く異質。
いや、むしろ懐かしい雰囲気を漂わせた相手、ともとれる。
そのような奴等を目の当たりにして、一歩も引かないってのは驚嘆に値する。
しかし、これからも今までのように無事にいられるのか……
「さて、どうしたものかねえ…」
既に日が落ちた空、YOSSYは一人呟いた。




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こんばんは、YOSSYFLAMEです。

というわけで、風紀動乱YOSSY編序章を書いてみましたです。
今回は生徒指導部の強さを書いてみることにしたのですが、どうでしたでしょうか?
彼らとて馬鹿ではない。成敗しようと思っても、そんなにあっさりやられてくれるわけはない。
そもそも大義名分すら握られる恐れがある。政治的能力、舌戦にしても侮れない。
それが彼らだと思っています。
ま、今回は鈴木君を書いてみたのですが、誰か永井君の能力を補完してあげましょう(笑)
でもま、やっぱりダーク13使徒四大使徒あたりと比べると見劣りするんでしょうか?(笑)
でも、個人的には「弱いもの苛めしか能がない組織」とは思えないので。
政治的、暗躍的にも、ダーク13使徒とはまた違った魅力があると思ってますので。
あと、広瀬ゆかりに対するYOSSYのスタンスも若干書いたつもりでいます。
ということで、風紀動乱編、盛り上がってますが、盛り上げていきましょう(^^)

(書くものが他に山ほどありますが^^;)



では、失礼いたします。