Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第34章 「綾香倒れる!」 投稿者:YOSSYFLAME




第6ブロック2回戦第2試合が開始されるちょっと前。
控室で思案にふける悠朔の姿があった。
彼は、今更ながらこの大会への参加の意義を考えていた。
「(どうして私がこのような大会に出る羽目になったのだろうか…)」
全く本人に覚えのないまま、大会参加と言う風になってしまっていたり。
しかし、辞退しようと思えば出来たはず。
何故自分は辞退をしなかったのであろうか。
こういう皆で騒ぐことが好きだから?
確かにそれもある。
自分としても、こういう盛り上がり、皆で繰り広げられる楽しい雰囲気は嫌いではない。
しかし、だからといって自分自身が御輿になるには、理由がいまいち弱い。
パートナーが来栖川綾香だったから?
否定は出来ない。むしろ積極肯定をしたい。
しかしながら、優勝商品の内容たるや、『鶴来屋温泉二泊三日の旅』ときたもので、
自分の性格柄、やはり敬遠してしまうものがないでもない。
だとすれば一体…

「ゆーさく?」
「…綾香、か?」
何時の間に側にいたのだろうか。綾香が疑問符を浮かべて自分の顔を覗き込んでいた。
「なあ、綾香…」
「ん、何?」
「前にも聞いたような気もするが、どうして俺と出る気になった?」
「…特に理由はないわよ。ただ、辞退する理由もなかったから…」
「…そうか。」
再び黙り込んでしまう二人。
どうもこういう雰囲気は苦手だ。
と思って、話を切り出そうと思ったその時、
「…でも、私はやるからには勝つわよ。勝って優勝するわ!
後のことはそれから考えればいいじゃない、ね?」
目の前に飛び込んできた綾香のいつもの気さくな微笑み。
「ああ、全くだ。」
悠も、笑いながら頷いた。

「それで、緒戦の相手のことなんだけど…」
「ああ、確か、阿部先生とセバスゥナガセとの対戦だったな。…………凄く嫌なんだが。」
「私だって嫌よ。」
すみませんギャラさん。
「それで、彼らの1回戦の試合を長瀬さんにビデオで撮ってもらったんだけど…」
「あまり見たくないような気もするが、どういう試合をしたのだろうな?」
「それが…………、開始直後の観客巻き込んでの大乱闘で、月島拓也らの乱入で相手の反則負け。
はっきり言って、おぞましい乱闘ばっかりで、試合なんか全然撮れてないらしいの。」
らしい、と言うのは、綾香も実際にはビデオは見ていないから。
ちなみにセバスチャンこと長瀬源四郎は、ビデオの内容を報告した後、熱を出して寝込んでいるらしい。
「まあともかく、そのおかげで対戦相手のデータが全くないまま試合することになるけど…」
最近はどんなものであれ、情報戦である。
レベルが高くなればなるほど。
綾香とて、己が目で見た対戦相手のデータを脳裏で分析し、効率的な闘い方で勝利をもぎ取ることが多い。
ましてや情報戦のエキスパートの悠に関して、情報戦の重要さを説く事など、釈迦に説法以外の何者でもない。
だからこそ、彼女らは、得られる情報は貪欲に収集し、分析し、活用する。
実際、この試合で勝てば対戦する事になるOLH、斎藤勇希組の試合も、しっかり目を通してある。
余談になるが、誤解しないで欲しいのは、彼女らは来栖川の力を当てにしてデータを収集しているわけではない。
あくまで己の目で確かめることを、自分自身の信念として己に課している。
ただ、1回戦の場合は、相手が相手であるからして…

「何の問題もない。情報がなければ試合中に得ればいい。」

表情一つ変えることなく悠が呟く。
あくまで情報を操るのであって、情報に操られる愚は犯さない。
そもそもデータがなければ闘えないなどという脆弱なことは、思った事すらない。
すべきことが高度になればなるほど、情報が得られないなど当たり前。
真の情報戦とは、ノーデータの土俵でどう闘うかということなのだから。
「お前だってそうだろ、綾香。」
ふっと緩めた悠の表情に合わせて、綾香も口元を緩めた。





『さあ!  第6ブロック2回戦第2試合、
悠朔、来栖川綾香組vsセバスゥナガセ、阿部貴之組の試合が間もなく始まろうとしています!
両者すでに準備完了!  さあ、この異色対決、果たして制するのはどちらか!?』
実況の緒方理奈も心なしか白熱している。
観客席には、緊張で手に汗握る松原葵に、ティーの姿も見える。
また別の場所には、ハイドラント、EDGEの姿が。
「(綾香さん…、絶対決勝トーナメントまで上がって来てね。あなたは私が倒すんだから。)」
コート上の綾香を鋭い目で見つめるEDGE。
他にも、シッポやシャロンなど情報特捜部の面々が応援に。
当然、この試合の勝者と対決するOLHと斎藤勇希の二人も、偵察のため陣取っている。
他にも、綾香の緒戦と言うことで、観戦、偵察、さまざまな目的で観客席にいる選手が多い。
対して、セバスゥ組側にも、薔薇部のアレイと、彼女を囲むようにルミラ達雀鬼組も観戦している。
ついでに矢島を始めとする薔薇部の連中もいることを付け加えておく。
今大会ですっかり増長しやがって応援にも来ない橋本は後で薔薇の制裁が待ってることだろう。関係ないけど。
とまあ、そういうわけで、割合多い観衆の中――

「第6ブロック2回戦第2試合、――プレイッ!」



「逝きますぞ!  必殺、マッスルボージングッ!」
きらーん。
脂てっかてーか、禿げてぴっかぴーかならではの禁に首、もとい筋肉美が悠と綾香の視界に侵食した。
いや、あれを美≠ニ読んでいいものかどうかは、幾日がかりの激論を要することであるからとりあえず置いといて、
ついでに、脂ではなくワセリンであり、更に言えば禿げてなどいないことを彼らの名誉のために断っておく。
まあ、焼け石に水だと思うが。

ともあれ、まるまる1ゲーム魂を抜かれた悠と綾香は、成す術もなく1ゲーム先取された。



が、
「漢の必殺ギャランドゥ!」
「汗と涕のソウルヒート!」
「哀愁のアンダーウッ…」
げしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
なにかズボンまで脱ぎ去ろうとした貴之の顔面に綾香のボレーがめりこむ。
「………もういや、もうこんな試合早く終わらせる……」
心底嫌といわんばかりに顔を歪める綾香。
あれからもセバスゥと貴之は暑さ抜群のスペシャルホールドを炸裂させ続けていたが、
頭を抱えながらも見てみない振りを徹底し続けた悠と綾香の前に、もう数々の必殺技は効を奏すことはなかった。

「ゲーム!  悠、来栖川組、5−1!」

あの必殺技さえ気にしなければ、セバスゥと貴之のショット自体にはなんら驚異に感じるところはなかった。
散々ペースを狂わされながらも、順当にポイントを奪ってゆき、なんとかマッチゲームまでこぎつけた。
「…あと1ゲーム…」
心底憔悴した綾香が悠に呟く。
同じく精神的に疲れ果てた悠が、綾香の肩をぽんと叩いた。
とにもかくにもあと1ゲーム。とっとと終わらせて一刻も早く休みたかった。
しかし、彼らはこの二人をあまりに軽く見過ぎていたのではないだろうか。
その時、セバスゥの目が鈍く光ったことに、悠も綾香も気がつかなかったのだから。



ごんっ。

鈍器が頭に直撃したような音が会場中に響き渡り、
ラケットがコートに落ち、軽い音を立てる。
「あ…」
そして、その綺麗な肢体が音もなく倒れ伏した。




「綾香さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」



葵の絶叫を皮切りに観衆の金縛りは解け、一挙にざわついてきた。

「綾香、おい綾香、しっかりしろ!!」
普段冷静な悠が取り乱すように綾香を抱える。
こめかみに思いがけないボールの一撃をくらった綾香は、完全に失神している。
何故?
普段の綾香なら、テニスボールくらい軽く躱すことが、いや、撃ち返すことすらできただろうに。

「………私たちの道化芝居が見事に功を奏した、そういうことでございます。」
セバスゥが冷徹な目で倒れた綾香と、彼女を抱きかかえてる悠を見据える。
「ここまでの6ゲームは全て伏線。
我々の実力を限界まで見くびったところを、この一撃で我々が勝利を掴む。
そう、阿部様の、薬物で筋肉、運動能力を増強させて、鉛のような球を食らわせる必殺技
ステロイドクラッシュ≠ナです。
普段でしたらかわされていたでしょうけど、
これほど我々を見くびっている今の貴方がたになら、通用するんですよ。この起死回生の一撃が。
見事に筋書きにはまってくれましたね。綾香様に悠様。」
表情を変えず述懐するセバスゥ。
その佇まいは彼女ではなく、彼女の中にいる本来の人格≠彷彿とさせる。

「しかし誤算がありましたな。阿部様。」
その視線をパートナーの貴之に向ける。
「本来狙うべきは悠様だったはず。予定変更はどういうおつもりでございますか。」
やや鋭い視線を貴之にぶつけるセバスゥ。
口篭もりながらもごまかして、あらぬ方向に視線を投げかける貴之。
「ふう…」
その視線の方向を見て、諦めたようにため息をつくセバスゥ。
「(仕方ないですか…、阿部様にとってあの方は絶対。
しかし、こうなると後のフォローがきついですな………いやはや。)」



治療指定時間が刻々と過ぎてゆくと言うのに、綾香が目覚める様子はない。
相田響子教諭やNTTT教諭の診断によると、命に別状はないらしい。
しかしながら、肉体的なショックはもとより、精神的なものもあり、
喝を入れたくらいでは目を覚まさなかった。
病院に運べば問題はないということだが、試合はもはや…

悠は決断した。
「……何より綾香の体が大事だ。この試合、私達は棄権――」



「はっはっはっは!  相変わらず綾香への愛が足らんようだな、悠よ!」
TPOを全く無視したバカ笑いをしながら登場したのは、言うまでもなくハイドラント。
「……何しに来たんだ貴様。」
ジト目で睨み付ける悠に向かい、びしっと指をさし、
「いいか悠よ。こう言うときはだな、愛する王子様のキスで姫は目覚めるものと相場は決まっているのだよ!」
「……王子様……?」
悪の魔王の間違いなんじゃないのか、というセリフを言う暇もなく、
「論より証拠、実践してみせよう!  じゅてぃ〜〜〜〜〜む!」
その時、奇跡は起こった!



「何すんのよ変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」



ぐしゃべきゃどかばきゃぐしゃべきゃばきゃごきゃべしゃあっ!
カウンターで拳を顔面に入れられた後、疾風コンボで滅多撃ち。
「あ、あれ……、私……?」
過程はどうあれ目が覚めた綾香。
「ゆーさく?  それにみんな……どうしたの…?」
まだ寝ぼけてるかのような様子だが、とにもかくにも、
「あ……、そういえば試合は……?」
「その件だが、無理はしないほうが……」
実際棄権することまで考えていた悠。目が覚めたとは言え、無理はさせられない。
しかし、
「何いってんのよ、やるに決まってるでしょ!  あと1ゲームで勝ちなのに、棄権なんかしないわよ。」
「綾香…」
「さ、いくわよゆーさく!」
いつもの笑みを浮かべながら悠をコートに引きずっていく綾香。
そう、来栖川綾香の強さの片鱗は、こういうところからも見え隠れしているもの。

「…とはいってもゆーさく。」
誰にもばれないように、悠にのみ聞こえるように囁く綾香。
「実際ちょっとキツイんだ。棄権はする気ないし、立ってはいられるんだけど。
だから、少しだけ甘えていいかな…?」
この場合の甘えるとは、試合の比重を悠に背負ってもらうことを指す。
当然悠に異存があろうはずがない。
「任せとけ。あの程度の奴等、俺一人で倒してやる。」



「さて。……いい度胸だな、貴様。」
綾香にどつかれたハイドラントはEDGEのところへは帰らず、ある男のところへ足を運んだ。
「フン。何のことだかわからんな。」
男とは、皮肉にも次の3回戦で対決する柳川裕也。
その柳川、嘲笑するように口元を歪めている。
「…俺は何も言わん。奴等は悠が始末するだろうしな。だが――

――次の試合、無事で済むとは思うなよ。」

ハイドラントのその言葉にも、柳川は眉一つ動かさなかった。



「貴様等………覚悟はできているのだろうな!!」
試合が再開された途端、その荒れ狂う怒りを剥き出しにし、二人を殺さんばかりに睨み付ける悠。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
実行犯の貴之は、生きた心地もしないかごとく震えている。
が、その彼の前に立ちはだかり、小馬鹿にするような視線で悠を見据えるセバスゥ。
「はぁ……何をお怒りになられてるのか、わたくしには到底理解が出来かねますが。」
「……この状況を作り上げた分際で、まだシラを切る気か貴様……」
「事故でございましょう?  わたくしは知らぬことでございますな。」

「………ククククッ………ハハハハッ…………」
先程までセバスゥを睨みつけていた悠が、突如笑いはじめた。
「そうか。まあ、言われてみれば事故だよな。言い掛かりをつけて悪かった。」
殺気を沈め、軽く頭を下げて詫びる悠。
しかし、セバスゥにはわかっていた。これからどんなことが起こるかを。



グシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

「うげっ…ぐはっ…」
ドシャアッ!



ゲーム再開直後、綾香の放つ軽いストローク。
やはり傷は軽くなく、ストロークにも威力はない。
その攻防で惨事が起こった。
「(柳川さん……俺、やるよ!  あんたからもらった勝利の方程式で!)」
再びネットに向かって突進!  彼最大の必殺技・ステロイドクラッシュの体勢!
狙いは当然、思うままに動けない綾香!

「これで終わりだ!  ステロイドクラーーーーーーーーーーーーーーーーーーッシュ!!!」

「――まずは貴様だ。」
刹那、ステロイドクラッシュの軌道に立ちはだかる悠!
「どけぇっ!!」
貴之の重弾が炸裂した!
強力無比のステロイドクラッシュ。
悠のラケットは、その弾道に吸い寄せられるように振り切られる。
そして――貴之の顔面にカウンターショットを叩き入れた。



「悪いな、パートナーを破壊してしまって。……ああ、でも事故だからな。よくあることだ。」
どうやら口、顎に球が直撃したらしく、口を押さえて悠の足元でのたうちまわっている貴之には見向きもせず、
皮肉屋特有の笑みを浮かべ、ネットの向こうのセバスゥを見据える。
「案ずることはない。少しばかり顎にダメージはあるが、試合続行に問題はない。
10分の治療でコートには立てるだろう。ロクにプレイできるかどうかは知らんが。」
口から多量の出血をしているこの状態が本当にその通りなのか疑問が残るが。
「今貴様等にリタイアしてもらっては、せっかくのもてなしが無駄になるからな。
だから阿部先生は軽い怪我で済ませておいた。



なにせ今回の主賓は貴様だからな、セバスゥナガセ。……………いや、ギャラ=v



セバスゥの表情が一瞬で強張る。
「貴様の道化芝居など、俺にはとっくにお見通しだ。
さあ、正体を現して俺と闘え。その上で綾香の仇、討たせてもらう。」

「……クッ、ククククク……」
「…何が可笑しい。」
「……いやはや、先刻お見通しでしたか、悠様。
いかにも私はセバスゥナガセではなく、薔薇部のギャラでございます。
大会当日に限って変身が出来なくてですね。前もって第二購買部から購入しておいた肉襦袢を着込んでいたのですが、いやはや……」
ビリビリビリィ!
肉襦袢が音を立てて引き裂かれてゆく。
その中から、本来のギャラが姿を現す。
「…………貴様…………」
意識せず呟く悠。
手の平に汗が滲んでいることなど、おそらく彼は認識していまい。
しかしながら悠の反応も無理のないこと。
なにせ、引き裂かれた肉襦袢の中にいる彼の笑顔から、信じがたいほどの殺気が迸っていたのだから。

「しかしですね……。
道化師として、幻術師として、タネをあかされるということ≠ェどういうことなのか……
お覚悟を召していただきますよ、悠様。」



闘いは、まだ、終わらない。




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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さあ、悠、綾香組vsセバスゥ、貴之組の対決、いかがでしたでしょうか!
ゆかり:…………
よっし:何?
ゆかり:…………風紀動乱?
よっし:いや、確かテニスLを書いたと思ってたんだけど……
ゆかり:なんで一体この緊迫した雰囲気はなんなのよ!!
よっし:緊迫した試合はいつものことだろ!  数試合の例外は除いて……
ゆかり:ダーク色に染まってるのよ!  このテニスL!
よっし:ダークじゃないとは思うんだけどねえ……
ゆかり:それに!  ギャラ先輩がまるで別人じゃないの!!
よっし:そう?  あの人の本質って、目の当たりにした人が果たしてどれくらいいる?
        あの人は幻術師で道化師。本質は容易につかめやしない…… 
ゆかり:それはそうかもしれないけれど……
よっし:というわけで、ギャラ先輩は雲のようにイメージが不定な人だと思うんですよね。
        今回のギャラ先輩だって、果たして真実かブラフかいかに……
ゆかり:とにかく、完結編ね。
よっし:はい。完結編も見てくだされば幸いです。
        さてもちろん次回はこの試合の完結編!
ゆかり:みなさま、よろしくお願いいたします!



悠朔さん、今大会への参加、誠にありがとうございました。