Lメモ・学園男女混合テニス大会! 第33章 「恐怖のアイスバーンデスマッチ!」 投稿者:YOSSYFLAME



「さて、いよいよねジンくん。」
「ええ…、待ちくたびれましたよ。」
「ジンくん。今回の目的はわかってるわよね。」
「もちろんですよ。倒すべき相手は――」

「「――暗躍生徒会!」」



『さあ!  お待たせしました第4ブロック2回戦第2試合!
既に、八塚崇乃、観月マナ組は入場して準備万端!
さあ、入場してもらいましょう!  ジン・ジャザム、柏木千鶴組の入場です!』

「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
何十発もの空砲を撃ち、王者の咆哮さながら入場してきたのは、誰あろう、ジン・ジャザム!
そして、彼の肩に乗って、にこやかに手を振りながら登場したのは、そう!
ガーティアンとしての護るべき人、そして、リーフ学園の女帝、柏木千鶴!
『バーニングサイボーグエルクゥ、ジン選手と、未来永劫不敗の女帝、千鶴選手!
入場から選手、そして観客をも魅了する、凄まじい入場です!』

「しっかし、千鶴姉のヤツ、ノリノリったらありゃしない…」
「まあ、面白いからいいんじゃないのか?」
この試合の勝者と3回戦でぶつかる、菅生誠治、柏木梓組も、苦笑しながら見つめている。

「…あーったく!  うるさいわね!  入場くらい静かに入場してくればいいのにさ!」
ネットの向こう側でプンスカしてるのは、対戦相手の観月マナ。
「そう思わない、八塚くん!」
「我慢したほうがいいよ。どうせ試合が終わればもっとざわつくんだから。」
「まったく、いくら人気者だからって…!」

「さぞかし終われば盛り上がるだろうさ。そう、大番狂わせ、って形でね。」

「…八塚くん?」
パートナーの、ちょっと変な態度にやや驚くマナ。



「それでは2回戦第2試合、ジン、柏木組  対  八塚、観月組、プレイッ!」



「我は滑る銀の雪道っ(われはすべるしろがねのせつどう)!」

試合開始の合図と共に八塚が吼えた!
その瞬間!
「…な、なにこれっ!」
「…なんだこりゃあ!」
ジンと千鶴側のコートだけ′ゥる見るうちに凍り付き、氷のコートと化してしまったのである。
「どうですかジン先輩、俺の属性付加音声魔術の力は。」
「音声魔術だと……反則じゃねえかテメェ!」
「反則?」
得意げな八塚に食って掛かるジンであるが、当の八塚は涼しい顔。
「じゃあ、魔力探知器に反応はありますか?
俺はルール内で認められた魔術の使用法を行使しているだけ。反則などといわれる覚えはないですね。」
「……この野郎…!」
「審判!  反則じゃないんですか!?  例え反応がなくたって!」
観戦していたゆきも審判に抗議するが、
「残念。魔力に関しての反則事項は、魔力探知器にかかったものであるもの≠セけ。それ以外は立派な合法魔術よ!」
この大会の運営者であり、ルール総括者の香奈子にそう言われては返す言葉もない。
結局八塚の魔術は合法のまま、試合は開始された。



すぱあんっ!
「よっしゃ!  …うおわあっ!」
ずでえんっ!
ぱぁぁぁぁんっ!
「まかせてジンく…きゃあぁっ!」
すべしゃっ!

「ゲーム!  八塚、観月組、4−0!」
翻弄。
まさにその一文字で表わせられる試合。
なにせ一方的に足元が滑るのだから、ゲームになんぞなりやしない。
なんてことのない八塚とマナのストロークに、ことごとくポイントを許す始末。
ここまで書いていて、気がついた人もいるかと思うが、
テニスって、2ゲームごとにコートチェンジがあるのに、どうしてこうも一方的なのか≠ニ。
それも考えてみれば簡単なことで、コートチェンジの度に、八塚は魔術を解いているのである。
そして、さっきまで自分のいたコートに魔術を行使する。
ともあれ、試合は完璧なワンサイドゲーム。
なにせ今まで1ポイントたりとも許していないのだから。
俄かにざわつく観衆。
八塚の予言が、だんだん現実のものになってきた。

「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
周囲すら震わすようなジンの咆哮。
しかし、完全に足元が空回りのジンと千鶴。
飛べば、という話もあるが、元々そんなにジンは器用ではない。
自分の足元のみ浮かして自由に飛べるなんてことはできない。
「(この俺が、このジン・ジャザムが……こんなものに敗れるというのか!?)
畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ジンの空気をも裂く咆哮も、今は虚しく響くだけ。



「ゲーム!  八塚、観月組、5−0!」
観客のざわめきはもう止まらない。
よもや、まさか、
あの、ジン・ジャザムが、あの、柏木千鶴が、よもや緒戦で散るなんて。
そんな観客のざわめきが次の瞬間、

「崇乃ぉ!  あと1ゲームだ、あと1ゲームでパーフェクトだぜ!」
「八塚さん、あと1ゲームですよ!」
「八塚くん、頑張れ!  勝利まであと一歩だ!」
剣道部の東西、そして巡回班の九条和馬ときたみちもどるが八塚の応援に来てくれた。
それがきっかけとなり、一気に観客は八塚側についた。
「八塚!  八塚!  八塚!  八塚!」
「マーナ!  マーナ!  マーナ!  マーナ!」
観客の割れるような応援。
「…まったく、人を気安くよぶんじゃないってばっ…」
そういいながらも、マナの顔からは笑みが隠せない。



「確かにすごいけど、ちょっと闘い方が卑怯よね…」
試合寸前、ちょっと顔を出していた来栖川綾香が釈然としないような様子で話す。
「そうかな?」
そのパートナー、悠朔が横槍を入れる。
「魔力探知器にも引っかからずに、あそこまでに自分に優位な状況を作り上げる。
はっきり言って、尋常ならぬ精神力と発想、そして勝利への執念がなければ到底できないことだ。
卑怯者呼ばわりするだけなら誰でもできる。その内側の努力も考えずにな。」
「ゆーさく…」
「(さて、このまま終わるのか?  ジン・ジャザム…)」



「イン!  15−0!」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
歓声がより一層大きくなる。
「イン!  30−0!」
わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
歓声の色が完全勝利への確信に染まる。
「イン!  40−0!  マッチポイント!」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

「あと一球!  あと一球!  あと一球!  あと一球!  あと一球!  あと一球!
      あと一球!  あと一球!  あと一球!  あと一球!  あと一球!  あと一球!」
観客総立ち、割れるような大歓声。
ほぼ全員が、奇跡の成就≠期待していた。
あの、ジン・ジャザムを、あの、柏木千鶴を、テニスとはいえ、これほどまでに一方的に叩きのめすチームがあったとは。
観客も、剣道部員も、巡回班も、
「八塚くん、最後、決めよう!」
ぽんと肩を叩くパートナーのマナ。
そう、マナももちろん、八塚本人でさえも。

そして、八塚のラストサーブが放たれた――



面白え。
今のジンの気持ちを一言で表わすならば、まさにこの一言に尽きよう。
自分をここまで追いつめる奴がいることに。
自分でも想像すらつかなかった緒戦での敗退が、現実のものとして大口を開けて待っていることに。
あれほど歓声を向けていた観衆が、手のひらを返したように敵側についたことに。
そう、本来はそうではなかったか。
学園で王者として認知され、尊敬と敬意に包まれた毎日。
しかし、

ジン・ジャザムは、逆境でこそ真の力を発揮する男ではなかったか。

声が聞こえる。
この割れんばかりの大歓声の中でも、はっきりと聞こえる声がある。
たまらなく心地よく、安心でき、そして、奮い立たせられる声。
それは――

ジンくん、勝つよ!

――まごうことなき、千鶴の響き。



ジンの口元に、未だ勝利への確信に揺るがない笑みが浮かんでいたことに、八塚は気づいていただろうか。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジンの気迫と共に、コートのアイスバーンが一瞬にして蒸発した!
時同じくしてその瞬間、ボールが八塚陣内に叩き付けられた。



「イン!  15−40!」

一瞬静まり返る観客。
そして、次の瞬間、

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

さっきまでとは、毛色の違う歓声が巻き起こった。



「…ば、馬鹿なっ!?」
対照的に動揺を表に出してしまう八塚。
「いくらなんでも、気合のみで氷を溶かすなんて……無茶苦茶だっ!!」
「無茶苦茶だろうとなんだろうと、これが事実で、そしてこれが俺だ。」
そう言い放ち、傍らでウインクしている千鶴に向かってはにかむ。



「気で圧されたな。」
ハイドラントが一人呟く。
「あの男、ジンの咆哮に完全に気圧されし、自分で自分の技の効力を打ち消してしまいやがった。
音声魔術は、所詮気の持ちよう。
気迫で圧されてしまっては、どんな凄まじいものも無力化する。」



「な、なんのぉ!  我は滑る銀の雪道≠チ!」
必死で唱えるも、うんともすんとも言わないコート。
「我は滑る銀の雪道っ!」
ピクリとも動かないコート。
「我は滑る銀の雪道ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

ピピピピピッ!
八塚が絶叫した瞬間、魔力感知器がけたたましく鳴り響いた。
「八塚、観月組、特異能力反則行為!  ペナルティーゲーム!  ジン組1ゲーム!  1−5!」
愕然の八塚。
ここで彼の魔術がなぜ今まで魔力感知器にかからなかったのかを説明すると、なんのことはない。
魔力感知器は、地中の魔力は感知することができないのである。
よって、八塚は、自分の足元から魔力を放出し、
敵側のコートの地表面ギリギリのところの温度を急激に低下させたのである。
そうすることによって、コートがアイスバーンのように凍り付く。というわけなのである。
しかしながら、ジンの熱血による温度上昇で計算が狂ってしまい、
地表面の上に魔力を放出する失敗をしてしまったのである。
ともあれ、ゲーム差はともかく、彼我の気迫の差は完全に逆転した。

「さて、これからは私たちの見せ場ねジンくん。
この、ちーちゃん☆  の、華麗な技をとくとお見せしなくちゃねっ♪」
「さてと、テメェら覚悟はいいな?」

どんっ!
どんっっ!
どんっっっ!
どんっっっっっ!

「ゲーム!  ジン、柏木組、2−5!」
「3−5!」
「4−5!」
「5−5!」
「6−5!」

観客というのは、いつでも手前勝手なものである。
さっきまで八塚の完全勝利を期待していたのかと思えば、今度はジンの大逆転勝利を熱望し、歓声を送っているのだから。
「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ジンの咆哮に王者の貫録が完全に甦った。
隣でうんうん頷いている千鶴も、とりあえずは一安心といったところか。

対照的に、すでにサンドバック状態の八塚。
もはやボールを拾うのもままならないくらい憔悴している。
げしっ!
「ったっ!」
そんな八塚のスネに激痛が走った。
「まったく、さっきまでの勢いはどうしたのよ!
男ならいつでも背筋をしゃんと!  そして俯かないでしっかり私の顔を見る!」
「マナちゃん…」
八塚の眼に映った彼女は、気丈で、たくましく、そして眩しかった。
「魔術の1つや2つ、ましてや試合で負けたからって、なにがどうなるわけでもないでしょ!  さ!」
げしっ!
「ったいって…」
「行くわよ!  ここからの逆転勝利を目指して!」

マナちゃん…
八塚は彼女の後ろ姿を見て思った。
本当に、この子とペアを組んでよかったと。
ふと気づけば、九条や東西、きたみちなどが、まだ応援してくれている。
そうだ。
俺にはいつでも仲間がいる。ハッパをかけてくれる仲間が。
「よし!」
たとえ全てを失っても、最後の最後まで粘ってやる。
今の八塚には、一点の迷いもなかった。



「ゲーム!  アンド、マッチウォンバイ、ジン、柏木組!  ゲームポイント7−6!  タイブレークポイント7−1!」





      ジン・ジャザム×柏木千鶴組…3回戦進出!
      八塚崇乃×観月マナ組…2回戦敗退。



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どおもお、YOSSYです。

ゆかり:こんにちは、広瀬ゆかりです!
よっし:さて、結構白熱しませんでした?この試合。そう思ってくれれば幸いなのですが。
ゆかり:こればっかりは自分じゃわからないからね。
よっし:そゆこと、さて次回は、
        セバスゥナガセ、阿部貴之組vs悠朔、来栖川綾香組です!  
ゆかり:(あてつけがましく無言でラケットを振っている)
よっし:「(しょうがねーだろ…、俺だって2回戦のこんな後ろに組まれるなんて思ってもいなかったんだから…)」



ジン・ジャザムさん、今大会への参加、誠にありがとうございました。